3,072冊もの魔導書を、すべて本来あるべき棚へ戻す――。
ArtRisingが手がける『司書のお仕事:魔導図書館を片付けろ!』は、いたずら好きな妖精によって荒らされた魔導図書館を舞台とする、一人称視点の図書館整理シミュレーションです。
プレイヤーは、本のタイトルや装丁を手がかりに蔵書を分類して正しい本棚へと収めていきます。途方もない量の本を前に、地道に一冊ずつ片付けるだけでなく、本を呼び寄せる魔法などを習得して徐々に作業を効率化できる点も本作の特徴です。
単純な「片付け」をどのように一本のゲームとして成立させたのでしょうか。また3,000冊を超える本と魔導図書館の世界はいかにして作り上げられたのでしょうか。今回、開発元のArtRisingに本作が生まれたきっかけや制作の舞台裏について伺いました。
3,072冊の本が並ぶ魔導図書館は、いかにして生まれたのか
──まずは自己紹介をお願いします。あわせて、これまで遊んできたゲームの中で特に好きな1本と、その理由についても教えてください。
ArtRising:はじめまして。2人でインディーゲームを開発しているArtRisingです。
私たちは、プレイヤーの皆さんに「新しい体験」を届けることを目標に、ゲーム制作に取り組んでいます。
好きなゲームは本当にたくさんあるので、1本だけ挙げるのは難しいですね。特に『スカイリム』、『ダークソウル』、『オーバーウォッチ』、『バイオハザード2』(オリジナル版)などは思い入れの強い作品です。
どの作品も、それぞれ異なる魅力や体験を与えてくれました。そして、これらのゲームに出会ったことが、私たちがゲーム制作を目指そうと決意する大きなきっかけになりました。
──本作は「魔導図書館で本を整理する」という、非常に明快でありながら、ありそうでなかった題材の作品です。まず、このアイデアはどのようなきっかけから生まれたのでしょうか?
ArtRising:本作のアイデアの原点は、『スカイリム』にあります。『スカイリム』では集めた本を本棚に並べることができますが、その片付けていく過程や、きれいに並んだ本棚を眺める瞬間に、私は大きな満足感を覚えていました。「この体験そのものをゲームの中心にしたら面白いのではないか」と考えたことが、本作を制作するきっかけになりました。

──「本を正しい場所に戻す」という行為は、現実では少し面倒な作業でもあります。一方で、本作ではそれが不思議と気持ちよく、つい続けたくなる遊びになっています。現実の作業をゲームとして楽しいものに変えるうえで、特に意識したことはありますか?
ArtRising:個人的にも、家にある本をきれいに棚へ並べることには大きな満足感があります。ただ、現実で面倒に感じる一番の理由は、やはり体力を使うことだと思っています。ゲームでは実際に体を動かす必要がないので、その「面倒さ」は自然と減ります。
また、現実では本の高さや大きさがバラバラなので、きれいに並べてもどこかスッキリしないことがあります。そこでゲームでは、そういったストレスになる部分をできるだけ取り除くようにしました。
さらに、現実でもそうですが、人は環境が良いほど片付けや整理をしたくなるものだと思っています。そのため、本を整理した先に「もっと見たくなる景色」があるように、現実にはない幻想的な図書館を舞台にしました。整理が進むほど背景や空間の変化を楽しめるようにしたことで、「きれいにしたい」という気持ちを自然に引き出せたのではないかと思います。
こうした工夫が、現実では少し面倒に感じる作業を、ゲームならではの気持ちよさや楽しさへと変えられた理由だと考えています。

──本作では、魔法の能力が強くなるにつれて、手作業で1冊ずつ本を探す体験から、効率化や最適化を考えるゲームへと少しずつ変化していくように感じました。開発時点から、このようなプレイ感の変化は想定していたのでしょうか?
ArtRising:企画段階から、手作業で本を片付けることは最初こそ新鮮で楽しいけれど、プレイを続けるうちに面倒だと感じる人が増えてくるだろうと考えていました。
そのため、ゲーム前半では自分の手で一冊ずつ本を探して片付けること自体に満足感を持ってもらうことを目標にしました。一方で、後半は魔法の力を少しずつ強化することで、効率よく整理できる気持ちよさや、最適なやり方を考える楽しさへと満足感の軸が移っていくように設計しています。
プレイヤーの楽しさが「手作業による達成感」から「効率化や最適化の気持ちよさ」へ自然に変化していくことは、企画段階から意識していたポイントの一つです。
──魔法の能力は、便利になりすぎると「本を探す」楽しさが薄れてしまう一方で、成長を感じられる重要な要素でもあります。アビリティの強さや解放タイミングは、どのように調整しましたか?
ArtRising:私たちは実際に何度もプレイテストを重ねながら、アビリティの強さや解放タイミングを調整しました。
最初は「本を自分の手で探して片付ける楽しさ」をしっかり味わってもらいたかったため、チュートリアルを含め、アビリティを解放するまでに最低でも本棚を2列整理する必要があるように設計しました。当初は5列以上整理してから解放する案もありましたが、プレイ時間が長くなりすぎてしまい、テンポが悪くなるという課題がありました。そのため、最終的には2列というバランスに落ち着きました。
前半はできるだけ手動で本を探す楽しさを残しつつ、難しすぎて絶望感を感じないように調整しています。そして、ゲームに慣れてきたタイミングでアビリティを解放することで、「成長した」という実感と、その後のゲーム展開の変化を楽しめるようなバランスを目指しました。
また、アビリティのレベルアップもあまり時間がかからないように調整しています。これにより、「もう少し頑張って片付ければ、すぐにアビリティが強化されて効率よく片付けられるようになる」という期待感を持ってもらい、途中で挫折せずに遊び続けてもらえるよう工夫しました。

──本作に登場する本は、実際に手に取って読んでみたくなるようなタイトルや装丁が印象的です。本のカテゴリやタイトル、見た目はどのように考案されましたか?
ArtRising:本のタイトルについては、普段からインターネットを見て集めたネットミームやSNSで話題になった出来事、雑学などを参考にしています。その中でも、できるだけ国や文化を問わず、多くの人が「わかる」「面白い」と共感できるネタを選び、本のタイトルとして採用しました。
本の装丁については、私自身のデザイナーとしての経験を活かしながら、実際ネットから資料を参考にデザインしました。現実の本をそのまま再現するのではなく、あえて現実には存在しないような装丁や色使いを取り入れることで、「魔法世界の図書館」にいる雰囲気を感じてもらえるよう意識しています。
また、本を探している最中にタイトルや装丁を見て思わずクスッと笑ったり、「この本はどんな内容なんだろう」と想像したりしてもらえるよう、ゲームプレイの合間のちょっとした楽しさも大切にしました。
──大量の本を用意するうえで、特に大変だった部分はどこでしょうか?また、開発者として特に気に入っている本のタイトルやカテゴリがあれば教えてください。
ArtRising:特に大変だったのは、本のタイトルを見ただけで「この本はこのカテゴリに属していそうだ」と自然に伝わるようなタイトルを考えることです。また、大量の本を制作する中でも、本の装丁が一冊たりとも全く同じにならないよう、一つひとつ差別化することにもこだわりました。
特に気に入っているカテゴリは「社会学」です。現実世界にも魔法世界にも存在していそうなテーマを意識して考えました。現実との共通点を持たせることで親しみやすさや共感を感じてもらいつつ、「魔法の世界にもこんな出来事があるんだ」と想像を膨らませ、作品の世界観をより深く楽しんでもらえたら嬉しいです。
──本作は日本語、英語、中国語など、複数の言語に対応しています。多数の本のタイトルや、図書館らしい表現をローカライズするうえで、苦労した点や工夫した点はありますか?
ArtRising:一番苦労したのは、それぞれの言語で同じニュアンスが伝わるようにすることです。単純に直訳するだけでは、言語によって受ける印象や面白さが変わってしまうため、どの言語でもできるだけ同じ体験になるよう意識しました。
ローカライズには翻訳ツールも活用していますが、そのまま採用することはせず、AI文法チェック、修正した後に、一つひとつもう一度手作業で確認・調整しています。特に本のタイトルは言葉遊びやネタが多いため、「意味」だけでなく「面白さ」や「雰囲気」まで伝わるように、各言語で違和感のない表現になるまで調整しました。

──速く整理すること、正確に整理すること、図書館の雰囲気を味わうこと。本作には、プレイヤーごとに異なる楽しみ方があるように感じます。開発者としては、プレイヤーにどのような遊び方をしてほしいと考えていますか?
ArtRising:どちらの遊び方も楽しんでいただければと思っています。
タイムを縮めることを目標に、アビリティの使い方や本を整理するルートを工夫しながら、効率よくプレイする楽しさがあります。一方で、本のタイトルや装丁をじっくり眺めたり、図書館や魔法世界の雰囲気に浸りながら、ゆったり遊ぶ楽しみ方もあります。
また、あえて魔法を使わずに最後まで手作業で整理することにこだわったり、逆に、あまり細かいことは気にせず、適当に本を棚へ入れながら気軽に遊ぶのも、一つの楽しみ方だと思っています。
プレイヤーによって楽しみ方はそれぞれ違うので、「こう遊んでほしい」と決めるのではなく、自分なりの遊び方を見つけてもらえるゲームになれば嬉しいです。
──現実の図書館や書店、蔵書整理、あるいは本棚を片付ける体験などから影響を受けた部分はありますか?
ArtRising:はい。雰囲気面では、スイスのザンクト・ガレン修道院図書館から影響を受けました。幻想的で美しい空間を持つ図書館なので、ゲーム内の図書館をデザインする際の参考にしています。
また、ゲームプレイの部分については、自宅の本棚を整理したり、本を片付けたりする実体験からも着想を得ました。本を並べ直していく作業そのものの面白さを、ゲームとして表現したいと考えました。
──本作の図書館には、単なる作業場ではなく、長い時間が積み重なった場所のような雰囲気があります。魔導図書館という舞台の世界観や空気感を作るうえで、意識したことはありますか?
ArtRising:できるだけプレイヤーの皆さんに「本当に魔法世界にいる」と感じてもらえるよう、ファンタジーらしい要素を随所に取り入れることを意識しました。
今回の図書館は「セレスホール大学」を舞台としているため、天文学をテーマにしたデザインを取り入れ、魔法世界ならではの世界観をより強く表現しています。また、ゲームプレイには直接影響しないものの、動く天秤や水晶などのオブジェクトを配置し、空間全体の雰囲気づくりにもこだわりました。
そうした細かな演出によって、プレイヤーがより深く魔法世界に没入し、現実を忘れてゆったりと過ごせるような、チルな空間を意識しました。

──発売後、プレイヤーの反応を見て驚いたことはありますか?特に、開発中には想定していなかった遊び方や反応があれば教えてください。
ArtRising:一番驚いたのは、魔法を使わずにプレイする方が想像以上に多かったことです。
開発中から、魔法を使わずに進めること自体は可能な設計にしていましたが、これほど多くのプレイヤーが自発的に縛りプレイとして楽しんでくださるとは思っていませんでした。それぞれのプレイヤーが自分なりの遊び方を見つけて楽しんでくださっているのを見て、開発者としてとても嬉しく感じています。
また、本のタイトルが予想以上に注目を受けたことも印象に残っています。タイトルは何度も試行錯誤を重ね、時間をかけて決めた部分だったので、多くの方に関心を持っていただけたことをとても嬉しく思っています。
──現時点で話せる範囲で、今後のアップデートや追加要素について教えてください。新しい本、能力、エリア、モードなどを追加する予定はありますか?
ArtRising:ユーザーの皆さんからいただいたフィードバックを参考にしながら、今後も継続的なアップデートを予定しています。
現在は、エキストラモードと新マップの開発を進めています。また、新しい能力や機能についても、プレイヤーの皆さんからいただいたご意見を踏まえながら、必要に応じて追加を検討しています。
これからもプレイヤーの皆さんの声を大切にしながら、本作をより長く楽しんでいただけるゲームへと育てていきたいと考えています。
──最後に、日本のプレイヤーや、これから本作を遊ぶユーザーに向けてメッセージをお願いします。
ArtRising:本作をプレイしてくださっている皆さん、本当にありがとうございます。
このゲームは、本を整理しながら、ゆったりと魔法世界の雰囲気を楽しんでいただける作品です。ぜひ自分のペースでリラックスしながら遊び、あなただけの心地よい時間を過ごしていただけたら嬉しいです。
現在は新しいマップの追加も予定していますので、これからも本作の世界を楽しみにしていただけると嬉しいです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
『司書のお仕事:魔導図書館を片付けろ!』はPC(Steam)向けに700円で発売中です。









