「AIがなければ生まれなかった体験」とは?210万本突破『MIMESIS』開発陣が明かす、試作を重ねるゲーム作り | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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「AIがなければ生まれなかった体験」とは?210万本突破『MIMESIS』開発陣が明かす、試作を重ねるゲーム作り

AIそのものではなく、物語を紡ぐ力が必要

連載・特集 イベントレポート
「AIがなければ生まれなかった体験」とは?210万本突破『MIMESIS』開発陣が明かす、試作を重ねるゲーム作り
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自分たちのなかにAIが紛れ込む協力型ホラーゲーム『MIMESIS』。いつの間にか友達でない何かが潜んでいるゲーム性が、多くのユーザーに愛された作品です。

今回は、開発のReLU Gamesと、パブリッシャーのKRAFTONによるトークイベントが行われました。

面白いゲームを作るためにどうAIを活かすのか、その知見が語られました。

AIはゲーム開発を効率化するだけではない――210万本突破『MIMESIS』を生んだReLU Gamesの試作文化

KRAFTONとReLU Gamesによる日本初の開発トークセッションが開催されました。登壇したのは、ReLU GamesでAI Creative Team Leaderを務めるイ・ギムン氏と、大ヒット作『MIMESIS』のディレクターを務めるアン・ジェホン氏です。

ReLU Gamesは、AI技術を活用したゲーム制作を専門とするKRAFTON傘下の独立スタジオとして、2023年6月に設立されました。2026年7月時点では51人が所属し、ゲーム制作チーム、ディープラーニングエンジニアチーム、事業組織が開発初期から一体となってプロジェクトを進めています。

イ氏はまず、インターネットがオンラインゲームやマルチプレイという新たなジャンルを生み、スマートフォンなどのデバイスがモバイルゲームの体験を拡張したように、AIもゲームへ「新しい文法」をもたらす可能性があると説明しました。

ただし、AI技術を使うだけで面白いゲームになるわけではありません。イ氏が強調したのは、「AIならではの面白さは、AIそのものではなくゲームから生まれる」という点です。優れた映画に必要なのはカメラのレンズではなく、物語を紡ぐ力であるように、AIもあくまで体験を成立させる手段でなければなりません。

たとえば、会話型AIを搭載したRPGでは、AIの進歩によってNPCとの会話が自然になり、没入感が高まるかもしれません。しかし、AIを取り除いたとしても、戦闘や探索、キャラクターの成長といったゲームの根幹は残ります。これは既存の体験を改善する「AI Enhanced」です。

一方で、彼らの作った『MIMESIS』では、AIの学習能力が向上するほど、プレイヤーを模倣するNPCの行動が巧妙になり、仲間を疑う心理戦そのものが変化します。AIを取り除けばゲームのコア体験が失われるため、同作は新しい体験を作る「AI Native」に位置づけられています。

開発の根底にあるのは「Seed」という実験用プロジェクトです。これは完成した企画書ではなく、AIとゲームを組み合わせることで何が起きるのかを確認するためのものです。基本的に1人のチームが5日以内で制作し、プログラマーでなくてもAIエージェントを活用して参加できます

検証手段にも制限を設けていません。高性能GPUを使う、既存ゲームのModを作る、さらにはAIが完成していない場合に人間が裏側でAIの代役を務めることも認められています。目的は技術を完成させることではなく、そのアイデアに「面白さの根拠」があるかを最短で確かめることです。面白さが確認できたものだけを本格的なプロダクションへ進めます。

大量の試作を可能にしているのが、ReLU Gamesの共有システム「Nolan」です。

開発者がゲームのZIPファイルをアップロードすると、AIがビルドとデプロイを行い、ほかのスタッフがすぐにブラウザ上で遊べる状態にします。さらに、ソースコードをダウンロードしてAIエージェントで修正し、派生バージョンを再び公開することも可能です。

実際に、アート職のスタッフが登録したゲームから、Mac対応版、経験値のリバランス版、エンドコンテンツ追加版などが派生し、たくさんのコメントが寄せられた事例も紹介されました。

企画者が完成度を高めてから公開するのではなく、粗い段階で全社へ共有することで、ほかのスタッフが改善やデバッグへ参加します。個々の試作が孤立せず、改善案のネットワークとして蓄積されていくわけです。

AIによって人間を置き換えるというよりも、部署や職種の間に生じる待ち時間を減らし、全員が面白さの検証へ参加できる環境を作ることが狙いです。

『MIMESIS』はいかにして生まれたか――対戦では見えてこなかった面白さ

後半では、アン・ジェホン氏が『MIMESIS』誕生までの過程を紹介しました。

同作の出発点となったのは「プロジェクト・ドッペルゲンガー」と呼ばれる3対3の脱出(エクストラクション)要素のあるアクションゲームでした。敵がプレイヤーの戦闘スタイルを学習し、模倣することが特徴です。しかし、実際に作ってみると大きな問題が判明します。

AI技術が使われていることは伝わるものの、ゲーム自体が面白くありません。ゲーム部分を改善した場合でも、「その面白さはAIがなくても成立するのではないか」という疑問が残りました。戦闘を模倣するモンスターは技術的には新しくても、新しい遊びを生み出せなかったのです。

そこでチームは、「戦闘をどう模倣するか」ではなく「何を模倣すれば新しい面白さが生まれるのか」へ問いを変更しました。

2024年8月、限られた時間と人員の中で新しい可能性を探すため、Steam市場を分析します。そこで注目したのが協力型ゲームでした。セッションで示された調査によると、2023年にSteamで発売されたタイトルのうちCo-op作品は約6%でしたが、販売本数では36%を占めていたといいます。

こうして浮上した組み合わせが「ホラー×Co-op×コメディ」です。そして、模倣する対象を敵との戦い方から、一緒に遊んでいる「仲間」へ切り替えました。

新しいプロトタイプでは、プレイヤーを模倣するAI NPC「Mimesis」と通常のモンスターを1体ずつ配置し、ふたつの要素を検証。ひとつは、仲間を模倣する存在が本当に新しい面白さを生むのか。もうひとつは、AIによってNPCを人間らしく見せられるのかという点です。

その試作で得られたのが「2秒間の錯覚が長い不信を作る」という発見でした。

一瞬でもNPCを本物の仲間だと勘違いすれば、正体が明らかになった後も、プレイヤーは周囲の仲間を疑い続けます。声や動きが少し不自然に見えるだけで「今そばにいるのは本当に友人なのか」という疑念が生まれます。

『MIMESIS』の面白さは、AIが長時間にわたって人間を完璧に演じ続けることだけではありません。一度生まれた疑いによって、人間同士の何気ない行動まで怪しく見えてくる点にあります。

アーリーアクセスに向けたデモ版では、「プレイヤーは仲間を疑いながら笑えるのか」「その体験を収めた動画が自発的に拡散するのか」という2点を確認しました。

短時間でも『MIMESIS』の特徴が伝わるように、デモ版には1種類のマップと4種類のモンスターを収録。通常のゲームバランスよりも事件の密度を高め、一度遊んだだけでもAI NPCとの遭遇や混乱を体験できるよう調整しました。

その結果、プレイヤーが驚き、疑い、笑う様子を収めた動画が広がり、ゲームのコアとなる面白さと、自発的な拡散が起きる可能性の双方を確認できたといいます。

ただし、短く強烈なデモを作ることと、繰り返し遊べるアーリーアクセス作品を作ることは異なります。

製品版では、単純にMimesisの正体が明かされるまでの時間を延ばすのではなく、一緒に移動する、声をかける、目的があるように振る舞うなど、疑いが生まれる状況そのものを増やしていきました。

判断基準となったのは、技術的な先進性ではなく、プレイヤーがMimesisを本物の人間だと感じられるかどうかです。

開発チームはプレイ情報を収集し、どの行動や反応が違和感につながったのかを分析。結果をAI NPCへ反映して再びテストする作業を繰り返し、Mimesisが正体を隠す方法を増やしていきました。

『MIMESIS』の紹介資料では、目標とするAIを「人間より優れてはいないが、人間のように振る舞うAI」と説明しています。NPCは事前に決められた行動パターンを繰り返すのではなく、自らの視野から情報を認識し、状況を判断してプレイヤーへ反応します。

アン氏は、『MIMESIS』の開発には4つの大きな分岐点があったと振り返ります。

①「ドッペルゲンガー」という企画へ固執するか ②AI技術の完成を優先するか ③アーリーアクセスの準備に集中して先にプレイヤーに確認してもらうか ④技術的にチャレンジしてプレイヤーの実際の体験に集中するか……。

チームが判断する際、最後に立ち返ったのは「プレイヤーにとって面白いものか」という問いでした。

『MIMESIS』は最大4人で資源を集め、古びたトラムを修理しながら生存を目指す協力型ホラーゲームです。さらに資源を求めて危険な地域へ進むか、安全を優先して整備所へ向かうかをチームで判断します。しかし、その相談相手はすでに”何か”と入れ替わっているかもしれません。

AIを使って何が作れるのかではなく、AIによってプレイヤーへどのような感情を与えられるのか。大量の試作と失敗を重ね、その問いを追い続けた末に生まれたひとつの答えが『MIMESIS』です。AI技術を見せるためのゲームではなく、ゲームの面白さを生み出すためにAIを使う。その姿勢こそが、今回の開発トークを通じて一貫して示されていました。

日本はSteamで最も高い比率を記録――ファミ通・林克彦氏が聞く『MIMESIS』の反響と今後

セッションの最後には、ファミ通グループ代表の林克彦氏を交え、ReLU Gamesのイ・ギムン氏、アン・ジェホン氏による鼎談が行われました。

『MIMESIS』が日本で受け入れられた理由や、数多くの失敗を前提とする「Seed」の開発手法、AI NPCにLLMを使用しなかった理由など、さまざまな角度から質問が投げかけられました。

『MIMESIS』発売後の反響はいかがでしたか?

ReLU Gamesホロライブの皆さんに遊んでいただいたことが嬉しかったです。Xにはファンアートも投稿されていました。自分たちが作ったキャラクターや世界を、日本のユーザーの皆さんが別の形で表現してくださったことも良かったですね。トラムに帰ってくるときに「ただいま」と言っていたのですが、それで「ただいま」という日本語を知りました(笑)。

日本では、怖がるというよりも、仲間とワイワイ楽しんでいるプレイヤーが多い印象があります。

ReLU Games日本のプレイヤーはリアクションがとても活発でした。配信から作られた切り抜き動画も多く、驚いたり疑ったりしながら遊ぶ様子が広がっていきました。

セッションでは、小規模な試作品である「Seed」の話がありました。これまでに作ったなかで、特に印象に残っている失敗作はありますか?

ReLU Games私たちは以前からAIゲームの可能性を模索し、数多くの失敗を経験してきました。単純に面白くないゲームへ、AIの機能を少し付け足しただけのものもありましたね。

たとえば、声で魔法の名前を叫ぶと、その魔法が発動するゲームを作ったことがあります。そこへAIを使い、プレイヤーがオリジナルの呪文を作れる機能を追加しました。アイデアだけを聞けば面白そうですが、実際にデプロイして遊んでみると、とても難しいゲームになりました。戦闘中に長い呪文を唱えている時間がなかったからです。

「オリジナルの呪文を使えます」という機能を付けるだけでは足りません。それによって、どのような遊びや感情が生まれるのかまで考えなければならないと学びました。

普通のゲームとして面白ければ、それだけでは駄目なのでしょうか。ReLU Gamesとしては、AIならではの面白さも必要だということでしょうか?

ReLU Gamesはい。私たちは小さなスタジオです。規模や開発力で、ほかの大きなスタジオよりも優れているわけではありません。そのなかで戦うための武器がAIです。

もちろん、ゲームとして面白いことが前提です。そのうえで、AIがなければ生まれなかった体験を作る必要があります。

なぜ、現在のように小規模な試作を繰り返す開発スタイルになったのでしょうか?

ReLU Gamesゲーム開発には、基本的に企画書が必要です。しかし、言葉だけでゲームを説明すると、説明しやすい部分や、企画書で魅力的に見える部分へ意識が向きやすくなります。「こういうゲームを作りたい」と文章で説明できても、実際にプレイしたときに面白いかどうかは分かりません。

Seedであれば、小さな規模で素早く作れます。企画を説明するより先に遊べる形にして、どこが面白く、どこが駄目なのかを確認できます。実際に触らなければ分からないことを、早い段階で発見するための手法です。

『MIMESIS』にはLLM(大規模言語モデル)を使用していませんよね。小規模なニューラルネットワークによって動いていると伺いました。なぜ、その方式を選んだのでしょうか?

ReLU Games大きく分けると、Mimesisの模倣は「行動」と「音声」に分かれます。

行動には、キャラクターの移動、現在地、次にどこへ向かうかといった大量の情報が関係します。ゲーム内では4,000個以上の情報を扱っていますが、それをすべてLLMに入力して処理する方法は効率的ではありません。そもそも、LLMが得意とする分野とも異なります。

音声についても、リアルタイムで新しい言葉を生成しているわけではありませんし、勝手にプレイヤーの声をいじっているわけでもなく、単に録音したものを再生しているだけです。個人情報の保護にも引っかかりますしね……(笑)。ただし、無作為に再生するのではなく、会話やゲーム内の文脈を読み取り、その場面に合った音声を選んでいます。だからこそ、プレイヤーは本物の仲間が話しているように勘違いします。

人間らしさを再現するうえで、特に難しかったのはどのような部分ですか?

ReLU Gamesそもそも「人間らしいとは何か」を考えることに、4か月ほどかかりました。

最初は、敵を前にしたときに逃げるか、戦うかといった単純な行動を再現すれば、人間らしく見えるのではないかと考えていました。しかし、実際の人間はそれほど単純ではありません。

同じ状況でも、敵へ近づく人もいれば、殴りかかる人も、逃げる人もいます。周囲の状況や仲間との関係によって、合理的な選択も変わります。

考えられるケースをすべて人間が定義することはできません。そのため、一定の文脈のなかで、どれだけ多様な対応をさせられるかが重要になりました。

プレイヤーごとの個性や、ときには妙な行動をする部分まで再現しようとしたわけですね。学習を重ねても、うまくできないことはありますか?

ReLU Games一見すると簡単なことでも、できない場合があります。たとえば、ドアの前で立ち止まり、じっと見続けてしまうMimesisがいました。

そのときには、学習が足りなかったのか、必要な情報を与えていなかったのかを調べなければなりません。ドアが存在することだけではなく、どれほどの幅があるのか、通過できるのか、そもそも目の前の物体をドアだと認識しているのかといった情報が必要になります。

Mimesisが何を見て、どのように判断しているのかを一つずつ確認しなければならない点が難しいところです。

与える情報次第では、最終的に何でもできるようになるのでしょうか?

ReLU Games理論上、人間とまったく同じように動くAIを作ろうとするなら、人間が受け取っているすべての情報を与える必要があります。

ただし、『MIMESIS』で使っているのは小規模なニューラルネットワークです。私たちの目的は、人間そのものを完全に再現することではありません。プレイヤーが楽しく遊べる範囲で、人間らしく見えるように最適化するだけです。

ゲームに必要な情報を選び、そのなかで体験を成立させることが重要です。こうした作り方のゲームや、AIとゲームを組み合わせる時代は、今後も長く続いていくのではないかと思います。

Seedを使った開発手法は、ストーリードリブンなゲームにも応用できるのでしょうか。AIゲームと物語を組み合わせる可能性について、どのように考えていますか?

ReLU Games日本から生まれたストーリードリブンなゲームには、独自の魅力と長い歴史があると感じています。ストーリーテリングは、一部の訓練された人間が持つ特別な才能です。

優れたカメラがあるだけでは、優れた映画は作れませんとさっきも申しましたが、LLMも同じで、AIはセリフや物語を自動的に作ってくれる魔法ではなく、ひとつのツールにすぎません。

私は子どもの頃からマジックが好きなのですが、優れたマジシャンは、人の感情が動く瞬間を理解しています。驚きや期待を積み重ね、最後に体験を花開かせます。

ゲームでも重要なのは、技術そのものではなく、プレイヤーの感情を刺激する瞬間を設計することです。AIがあったとしても、その体験を作るのは人間です。

『MIMESIS』は累計200万本以上を販売していますが、どの地域で特に売れているのでしょうか。ユーザー層についても教えてください。

ReLU GamesSteamの販売を国別の比率で比較すると、日本が最も高くなっています。続いてアメリカ、ロシア、韓国です。

販売本数そのものでは、日本とアメリカは同じくらいです。一方、配信や動画などのトラフィックでは、日本が圧倒的に高くなっています。

ReLU GamesのYouTubeチャンネルを見ている方は、10代から30代が中心です。日本では実況や切り抜きによって作品を知った方も多いのではないかと思います。

今後の展望を教えてください。

ReLU Games昨年の『MIMESIS』は、コンテンツが十分ではありませんでした。マップ、モンスター、装備など、繰り返し遊ぶための要素が不足していたと思います。

今年の課題は、何度遊んでも楽しめるゲームへ成長させることです。

家庭用ゲーム機版についても、開発チームの内部では話が出ています。ただし、まずはゲーム自体の面白さをさらに引き上げる必要があります。十分に面白くなったと判断してから、具体的なスケジュールを決めたいと考えています。

一般的な協力型ホラーゲームでは、仲間はプレイヤーにとって安心できる存在です。しかし、『MIMESIS』では、その仲間すら信用できません。この作品ならではの特徴を、今後さらに強化していきます。

10月にはアップデートを予定しています。「AIを使ったゲーム」という認識を超え、仲間たちと一緒に楽しく遊べるゲームとして発展させていきたいです。

AIを見せるためではなく、プレイヤーの感情を動かすためにAIを使う――それがReLU Gamesの開発姿勢です。

数多くの試作と失敗を重ねて生まれた『MIMESIS』は、その思想を形にした一本といえるでしょう。

「仲間を信用できない」という独自の面白さを、今後どこまで広げていくのかが注目です。

《各務都心》

各務都心

マーダーミステリー『探偵シド・アップダイク』シリーズを制作しているシナリオライター。思い出の一本は『風のクロノア door to phantomile』。

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