個人制作者の紡木イト氏は、シミュレーションRPG『ユレイシア英雄戦記 - Chronicle of Arstenia500 -(以下、ユレイシア英雄戦記)』を、Steamにて無料で配信中です。本作は、オーソドックスなシステムで、シミュレーションRPGの戦略性・戦術性の高さを楽しめるゲーム。
舞台となるのは、大地母神に祝福された「アステニア大陸」です。プレイヤーは、主人公「ファリス」となって、仲間達とともに広大な世界の一角に位置するユレイシア島で繰り広げられる戦乱に立ち向かいます。
ゲーム内では、30人以上の仲間キャラクターが登場。足止め、広範囲移動、攪乱、転移など、それぞれが明確な役割を持っています。戦闘中は「コマンドスキル」を任意で発動することが可能で、理不尽な展開を抑えることもできます。仲間たちの信念や価値観が交差する人間ドラマも魅力です。


Game*Sparkでは、そんな本作の開発者である紡木イト氏へのメールインタビューを実施。本作で表現したかったことや、ゲームの哲学などについてお聞きしました!
遊びやすく、考える楽しみがある『ユレイシア英雄戦記』
『ユレイシア英雄戦記』は、『SRPG Studio』で開発されたターン制のシミュレーションRPGで、多彩なステージが用意されています。まずはチュートリアルがあり、基本的な操作やシステムを学べます。
戦闘は、自軍のターンと敵のターンを交互に繰り返す方式。移動や攻撃範囲は視覚的に表示され、戦闘時は武器の変更なども可能です。攻撃時は敵ユニットから反撃されるので、与ダメージやHP残量には気をつけなければなりません。また、武器は消耗式なので、状況に応じた選択も必要になります。


最大の特徴となる「コマンドスキル」は、プレイヤーが任意のタイミングで使用可能。連続攻撃や敵にデバフを与えるものなど、効果はいずれも強力なもので、クールダウン後に再使用できます。基本的にステージは敵ユニットの方が数が多いので、あまり温存しすぎずにどんどん使っていくのも戦略のひとつです。
各ステージには2つのクリア目標があり、達成することで特別報酬も入手できます。クリア目標には少し難しいものもありますが、ターン開始時など多くのタイミングでセーブができる作品なので、様々な戦略を試してみましょう。また“条件で加入する仲間”がいないのも特徴で、キャラクター同士の支援要素も用意されています。



序盤から特別報酬を狙うのであればある程度の被害も覚悟する必要があり、手強い戦闘を楽しめます。マニュアルも充実しているので全般的に遊びやすく、ユニットを育てる楽しみもあり、改めて無料配信であることに驚かされるクオリティです。


『ユレイシア英雄戦記』開発・紡木イト氏インタビュー
――制作工程の多くを個人で担当した『ユレイシア英雄戦記』ですが、個人だからこそこだわれた部分、開発に苦労した部分などを教えてください。
紡木イト氏:現在、社会人3年目になります。仕事と並行しての個人制作でしたが、個人だからこそ、自分自身が「楽しい」「好きだ」と感じるものを、妥協せず追究できたことが一番大きかったと思います。
制作を始めた背景には「自分の人生に、何か形として残るものを作りたい」という思いもありました。そのため、途中で終わらせず、一本の作品として完成させることには強くこだわりました。
本作は、私にとって初めて完成させたゲーム作品です。シナリオ、キャラクター表現、イラストの依頼、レベルデザインなど、あらゆる工程が手探りからの出発でした。特にこだわったのは、各マップのコンセプトです。一つひとつに「どのような判断や体験をしてもらいたいか」という軸を設け、敵や味方の配置、地形、増援などを毎日のように組み直しました。
一番苦労したのは、意外にも広報です。作品を作ることに比べて、自分の考えや魅力を短い言葉で伝えることには慣れておらず、今でもSNSで何を発信するか悩みます(笑)
――『ユレイシア英雄戦記』は無料配信のゲームです。無料で配信することの理由や狙いについて教えてください。
紡木イト氏:勤務先の規定上、個人制作物を収益化することが難しかったことが、直接的なきっかけです。
そこで、有料化できないことを単なる制約と捉えるのではなく、多くの方に気軽に触れていただける無料作品として公開しようと考えました。
まずは作品を遊んでいただき、私がどのようなゲームやキャラクター、マップを作る人間なのかを知ってもらいたい。そのための一本として、できる限り内容を充実させて送り出しました。
――7月3日のリリースからこれまで、プレイヤーの方からどのような感想や意見が届いていますか?
紡木イト氏:特に多くいただいているのは、ゲームバランスやマップ構造、キャラクターごとの性能に関する感想です。
それぞれのキャラクターに明確な役割を持たせ、マップにも複数の攻略手段を用意したため、その部分を楽しんでいただけていることは非常に嬉しいです。こちらが想定していなかった戦術や運用を教えていただくこともあります。
その一方で、「難しい」という声も多くいただいています。制作中に自分自身が攻略へ熱中しすぎた結果、想定以上の判断量や緊張感を求める作品になってしまった点は、反省しています(笑)。

――『ユレイシア英雄戦記』が目指したシミュレーションRPGとしての面白さを教えてください。
紡木イト氏:目指したのは、キャラクターの個性を理解し、自分なりの作戦へ組み込む面白さです。本作のキャラクターには、それぞれ明確な得意分野や役割があります。また、設定や人物像と、ゲーム上の性能や遊び方が一致することも大切にしました。
物語の中で強者として描かれる人物なら、操作した時にもその強さを感じられる。誰かを守る人物なら、味方を支える能力を持つ。そうしたキャラクターごとのコンセプトを、最後まで一貫させています。
誰をどこに配置するのか。どの能力を、どの敵や局面にぶつけるのか。強力なスキルや武器を、今使うのか温存するのか。そうした判断が組み合わさり、作戦全体が形になっていく感覚を大切にしました。
また、一つの正解だけを探すゲームにはしたくありませんでした。自分の手札とキャラクターの強みを理解するほど、攻略の選択肢が広がっていく。その過程そのものが、本作で表現したかった面白さです。
――ゲーム内マニュアルにて「会話で仲間になる敵キャラはおらず、加入漏れはない」という説明があります。この説明をあえて入れた理由はどのようなものでしょうか?
紡木イト氏:最初にお伝えしておくと、私は「敵として登場した人物を、会話によって仲間にする」という展開が大好きです。
一方で、初見では誰が仲間になるのか判断しづらく、仲間を取り逃がさないために攻略方法が縛られる場合もあります。
本作では、加入漏れを心配せず、目の前のマップ攻略や、今いる仲間たちの運用に集中してもらいたいと考えました。そのため、あえてゲーム内で明言しています。

――任意発動のコマンドスキルは、Steamでの説明通りに“切り札”として使いやすく、戦略性の高いバトルを実現しています。ゲームとしての遊びやすさの狙いや哲学を教えてください。
紡木イト氏:任意発動型スキルの最大の利点は、作戦全体へ組み込みやすいことだと考えています。
確率発動とは異なり、「この場面では必ずこの効果を使える」という信頼性があります。暴発や計算の狂いが起こりにくく、強い一手を作戦の前提として扱えます。
温存していた切り札を、ここぞという場面で繰り出す感覚は、カードゲームにも近いと思います。また、必要な場面で必ず能力を発揮できることは、キャラクター自身への信頼にもつながります。
「この局面なら、このキャラクターに任せられる」そう思える性能を、ひとりひとりに持たせることを意識しました。
――各キャラクターたちの会話などシナリオ面も魅力的です。ストーリー面で表現したかったこと、工夫したものなどはありますか?
紡木イト氏:キャラクターたちの人生や、生き方を描きたいと考えていました。彼らが何を考え、何に迷い、誰に救われ、最後に何を選び取るのか。その結論だけではなく、そこへ至る過程を大切にしています。
人はそう簡単には変わらないと思っています。それでも、人との出会いや関係によって、物事の見方や選び取る行動は変えられる。その先には、必ず希望を残したいと考えました。作品全体の物語とキャラクターごとのシナリオは、可能な限り逆算して配置しています。序盤の何気ない会話が、後半の選択や結末へつながるように意識しました。
また、キャラクターを使って戦うゲームである以上、「性能は面白いけれど、その人物を好きになれない」という状態は、できるだけ避けたいと考えました。そのため、欠点や未熟さを描きつつ、どこで誠実さや優しさを見せるのか、どの場面で印象を変えるのかといった好感度設計も細かく管理しています。
実は、自分なりに体系化した好感度管理の制作資料もあります(笑)。

――リリースから修正や調整のアップデートを精力的に配信されていますよね。『ユレイシア英雄戦記』で現在取り組んでいることを教えてください。
紡木イト氏:現在は、プレイヤーの皆さんからいただいた報告をもとに、軽微な不具合や表記の修正、遊びやすさに関する調整を進めています。
また、マップやキャラクターをどのように設計したのか、制作中に得た知見や反省点などを、記事として残す準備もしています。
自分が考えてきたことを言葉にして整理し、ゲームを遊んでくださった方や、同じように個人制作へ取り組む方にも届けられればと思っています。
――「特別報酬が取れない」「ゲームが難しい」という方へのアドバイスがあればお願いします!
紡木イト氏:一度ですべてを完璧にこなそうとせず、ぜひトライ&エラーを重ねてみてください。
本作でセーブやロードを行いやすくしているのは、戦術上の小さな失敗を、その章の最初からやり直さずに修正できるようにするためです。思うように進めない場合は、敵の能力だけでなく、味方キャラクターのスキルや所持品も改めて確認してみてください。
「この能力は、どのような場面で使うために用意されているのか」と考えながら試すことで、それまで難しく見えていた局面を崩せることがあります。
特別報酬は、すべて獲得しなくても本編の攻略に問題はありません。まずは自分なりの方法で突破し、余裕が出てから挑戦していただく形でも大丈夫です。
――今後の予定があれば教えてください。新プロジェクトなどは考えているのでしょうか?
紡木イト氏:実は、すでに次のプロジェクトへ向けた企画や制作を進めています。
『ユレイシア英雄戦記』を完成させたことで、ゲームデザイン、レベルデザイン、シナリオ、キャラクター表現など、非常に多くの知見を得ることができました。同時に、完成させて初めて見えた課題や、次はもっと良くできると感じた部分もあります。
一作目で得た経験を生かし、ゲームとしての遊びも、キャラクターやシナリオの表現も、さらに磨いた作品をお届けしたいと考えています。
――最後に読者の方とプレイヤーの方へのメッセージをお願いします!
紡木イト氏:『ユレイシア英雄戦記』は、シミュレーションRPGというジャンルに対して、私自身が感じてきた面白さを徹底的に追究して制作した作品です。
マップを攻略する楽しさ。
キャラクターの能力を使いこなす楽しさ。
仲間たちの関係や物語を見届ける楽しさ。
その中のどれか一つでも、遊んでくださった方の心に残るものがあれば、作者としてこれ以上嬉しいことはありません。本作を通じて、皆さんにとって忘れられない体験や思い出を作っていただければ幸いです。
『ユレイシア英雄戦記 - Chronicle of Arstenia500 -』は、PC(Steam)向けに無料で公開中です。













