
皆さん、ゲームのキャラクターに煽られたことはありますか?
対戦で負けた直後の挑発に、思わず「もう一回!」とコントローラーを握り直した――そんな経験がある方も多いのではないでしょうか。悔しさは、ときに最高のモチベーションになります。
そんな“煽られる悔しさ”を、全身を使って遊ぶリズムゲームに落とし込んだのが、やぶから堂の新作『がんばれ!チアリズム』です。
本作は、プレイヤーが「せんせい」となり、プライドの高い女子高生・肉倉色羽(ししくら いろは/CV:陽向葵ゅか)にチアダンスを指導する全年齢向けフィットネスリズムアクション。Joy-Conを両手に持ち、チアのポンポンのように振ってリズムを刻んでいきます。ところが色羽は、どれだけ正確に決めても600種以上の小生意気なボイスで煽ってくる。キャラクターデザインは朝凪先生、さらに菊田裕樹氏や金田充弘氏といった名作ゲームの作曲家陣が楽曲を手がけることでも話題を集めています。
TGS2026のインディーゲームコーナーにも出展され、筆者も試遊させていただいた本作。本記事では、本作を手がけるやぶから堂の代表であるやぶ氏へのインタビューの内容をお届けします。
ポンポンを振る遊びは、技術検証の“壁”から生まれた

――まずは『がんばれ!チアリズム』の企画が、どのようなアイデアから生まれたのかを教えてください。
やぶ氏:インディーゲームや同人ゲームを見ていて、スイッチのJoy-Conのように体を使って遊ぶゲームがほとんどないな、と思ったのがきっかけです。
昔、Wiiで『斬撃のレギンレイヴ』というゲームがありましたよね。『地球防衛軍』シリーズと同じサンドロットさんの作品で、北欧の世界観の中、Wiiリモコンを武器として振ると、振った方向に斬撃が走って敵を倒していく。『地球防衛軍』の系譜なので、とにかく大量の敵が出てくるゲームでした。当時いた会社で、休憩時間にみんなでわいわい遊んでいたんです。
今でいうと『Beat Saber』などもその類いだと思いますが、体を動かしながらゲームを遊ぶのは、体感としてやっぱりとても楽しい。それを結構前から思っていたんです。
そんな中、PCでもBluetoothでスイッチのコントローラーをつなげられることがわかったんです。
スイッチならすでに多くのご家庭に普及していますから、今ならインディーでもそういう遊びを作れるんじゃないか、と思ったのがスタート地点ですね。
――そこから、生意気な女の子に煽られながら体を動かすという今の形になったわけですが、その形は最初から決まっていたのでしょうか。
やぶ氏:最初はちょっと違う形で考えていて、ボクシングがベースだったんです。
Joy-Conでストレート、フック、アッパーといったジェスチャーをうまく判定できないかと。それができれば、今回のゲームに限らず、アクションゲームなどにも応用が利く技術になると思ったので、まずはその技術検証から始めました。
ところが、これが結構難しかったんです。参考として『Fit Boxing』などを改めて遊び直してみたんですが、どうやらパンチの種類を厳密に判定しているわけではなさそうだと。画面に流れてくる指示に合わせて体を動かすことで運動になる、という作りなんですね。既に出ているタイトルでも難しいことなんだと認識して、そこで方向転換しました。
腕のジェスチャーを正しく取るのは難しい。でも、Joy-Conを動かしたときの加速度で判定すれば、4方向の出し分けくらいならいけるんじゃないかと。これでまた検証をして、なんとかいけそうだと分かりました。
そうなると、今度はボクシングや普通のフィットネスゲームとしては逆に難しい。そこで『サンバDEアミーゴ』や『Beat Saber』のような遊びの体験に落とし込めないか、というところからゲームの形を決めていきました。
――ポンポンを振る操作になったのは、ある意味、技術的な制約があったからこその形なんですね。
やぶ氏:そうですね。それに加えて、どういう動きなら気持ちいいかという検証を重ねた結果です。
そうして動きが取れるようになったうえで、リズムゲームにするならどんなモチーフがいいか、と考えていきました。それまでは自分で描いたキャラクターで考えていたんですが、リズムゲームにすると決まってから、ちゃんとかわいいキャラクターにしようということで、朝凪先生にお願いしました。
褒めるのではなく“煽る”。その理由

――本作ではプレイヤーの操作に応じて、色羽がLive2Dでリアルタイムに反応します。リズムゲームとしてのゲーム性と、キャラクターがそこにいる感覚を、どのように両立させようとしているのでしょうか。
やぶ氏:ここは、リズムゲームのコアユーザーとは少し違う考え方から入っています。
リズムゲームにキャラクターが出てくる、踊っている、というものはこれまでもそれなりにあったと思います。ただ、キャラクターと実際に一緒にゲームをしている、インタラクションしているという感覚まであるものは少なかったと思うんです。
ゲームデザインのヒントになったのは『スペースチャンネル5』です。あれも曲の最中に、主人公のうららがこちらに向かってしゃべりますよね。ニュースのレポートという体ですが、画面を見ている自分がテレビの視聴者のような立ち位置で、そこにインタラクションがある。キャラクターが声を掛けてくれるのはとても楽しい、というのがヒントになっています。
――私もTGSで試遊させていただきましたが、うまくプレイしても色羽はかなり煽ってきますよね。褒められるのではなく“煽られる”体験にしたのはなぜでしょうか。
やぶ氏:単純に、まずは私の好みですね(笑)。
ああいうキャラクター性が個人的に大変好みで、作りたいと思っていたところに、ちょうどいい題材が来たんです。リズムゲームならインタラクションがあるので、「ざぁこ」と言われる体験をすごく素直に受け入れられるじゃないですか。
失敗したら当然煽られて、イラッとして、ちょっと見返してやろうという気になる。うまくいっても煽られたら煽られたで、もっと進めて“わからせて”やろうと思える。わからせると言っても、本作は一般向けのゲームなので成人向けのニュアンスではありません。ちゃんと認めさせる、と言ったほうが近いですね。
そういう体験にすることで、遊んでいる人のゲームへの没入感が高まると考えています。
――ボイスは600種類以上とのことですが、条件によって使い分けられているのでしょうか。
やぶ氏:はい。成功時と失敗時はもちろん、コンボの継続数が多いときに失敗すると「ああ、もったいない」という感じの煽られ方をしますし、コンボが少ないときの失敗なら普通に「ざぁこ」と言われる。よりプレイヤーの心理をえぐるようなセリフ選びで、バリエーションを増やしています。
それから、本作にはストーリーモードがあって、演技中の達成度がストーリーモードの間ずっと蓄積していく設計になっています。ストーリーが進むにつれて、それまでの成績の良し悪しで分岐していく形ですね。
信頼度のようなものがゼロからスタートして、うまくいけばプラス側に、失敗し続けるとマイナス側に傾いていく。マイナス側だと、最初のセリフよりも辛辣なセリフになるバリエーションもあります。ただ、さすがにそれはちょっと……という方もいると思うので、信頼度がマイナスに行くかどうかを設定で切り替えられるようにすることも検討しています。
縁が重なって生まれた色羽、演技で宿った命

――キャラクターデザインに朝凪先生、CVに陽向葵ゅかさんを起用されています。お二人にお願いした経緯や、色羽というキャラクターを作るうえでこだわった部分を教えてください。
やぶ氏:実は色羽は、朝凪先生がもともと描かれていたキャラクターをお借りしているんです。このゲーム用のかわいい女の子のデザインをお願いしたときに、「このキャラクターはどうですか?」とご提案いただいて、「いいですね」とお借りする形になりました。
朝凪先生はほかにもチアガールのキャラクターを描かれていて、同じ学校に通っているという設定だそうなんです。今回のゲームの動きと、チアのポンポンという見立てもすごくマッチしている。何かを狙って作ったというより、いろいろな縁が重なってできたキャラクター、そしてゲームなんですよね。
性格については、先生のほうでもそこまで細かく決まっていなかったので、こちらで考えました。もともと生意気な感じではあったんですが、その特徴をより強めています。ここはちょっと自分好みが出ているところですね。
そのうえで、このビジュアルとこの性格に一番合っていて、ファンの期待としても一番なのはどなたか、という観点でCVのオファーをさせていただきました。もともと一般向けで出す予定だったので、一般向けの作品にも出演されている同人声優さんとなると、だいぶ絞られてきまして。
――実際の収録で、想像以上に“色羽らしく”なったと感じた部分はありましたか?
やぶ氏:やはり演技していただいたことで、キャラクターに命が宿りましたね。
セリフは自分で書いていたので、「このセリフで大丈夫かな、いい感じになるかな」という不安もあったんです。
でも実際に演じていただいたら……いや、すごいですね。たとえば「ざぁこ」というセリフひとつにも、単にバカにするだけじゃなく、プレイヤーに対する優しさがこもっているんです。
聞いていて傷つくというより、心地よいと感じるような奥行きのある演技をしていただけて、本当に良かったと思います。
名作ゲームの作曲家たちに“ガチ”の一曲を

――楽曲面では、菊田裕樹氏、金田充弘氏、工藤吉三氏、ヒゲドライバー氏など、非常に豪華な作曲陣が発表されています。これだけ幅広いクリエイターが参加することになった経緯を教えてください。
やぶ氏:もともとつながりがあったわけではないんです。8月10日に本作を発表したとき、その反響がとても良くて。
音楽はできれば、自分が幼少の頃から遊んでいたゲームの曲を手がけられた方々に、可能な限りお願いしたいと元々考えていました。そこで反響を大きくいただけたので、プレスリリースを持って「こういうゲームを作っているのですが、もしご興味があれば」とオファーさせていただいたところ、興味を持っていただけた、という結果ですね。
連絡した際に「面白そうですね」とお返事をくださった方も結構いらっしゃって、本当にありがたいなと思っています。自分が面白いと思うゲームを信じて作ってきて良かったです。
――作曲家の皆さんには、何かオーダーはされているのでしょうか。
やぶ氏:すごく詳細な指定をしているわけではありません。リズムゲームなので、尺やテンポ感の幅はお伝えしつつ、ゲーム音楽の作曲家さんには、本当に得意とされている、当時みんなが熱狂したようなゲーム曲を、今の技術と今の解釈でもう一度再構築していただけないか、という形でお願いしています。
なので、このキャラクターに合わせた曲というより、本当に“ガチ”で作っていただいています。このキャラクターとこのゲーム性に、ガチの曲がぶつかるギャップがあったほうが、遊んでいて絶対に楽しいと思っているんです。キャラクターに合った、いわゆるキャラソング風の曲だけになってしまうと、やっぱり面白みがなくなってしまうので。
もちろん、今リズムゲームの楽曲で活躍されている方にもオファーはさせていただきます。ただ、そういった方々にはどのリズムゲームもオファーしていくと思うので、やはり差別化したかったんです。
それに、作曲家さんの名前を聞くと、代表曲が心の中に浮かんでくるじゃないですか。その期待に沿えるような曲、という感じですね。
TGS2026で見えた手応えと課題

――TGS2026では試遊台が出展されていました。開発側の想定と違った遊ばれ方や、意外だった反応はありましたか?
やぶ氏:思いのほか盛況で、用意していたノベルティなども3日目の前半でなくなってしまったんです。5日目は中止になってしまって残念でしたが、準備してきた分はそれまでに出し切っていて、配るものがない状態での出展になるところだったので、だいぶ大成功だったのではないかと思います。正確にはカウントしきれていないんですが、300名以上の方に遊んでいただけたと思います。
意外だったのは、家族連れの方ですね。お母さんが「やってごらんよ」と言って、お子さんが遊んでいるのを見たときに、これはすごいなと思いました。
大人はちょっと心が汚れてしまっているので、ゲームを見る前にキャラクターなどで判断してしまうところがあるんですけど、先入観なく純粋にゲームとして遊んでもらえて、楽しかったと言ってもらえた。ゲーム性としても間違いなくいけそうだ、という感触をつかみましたね。
――TGSでの反応を受けて、改善したいと感じた部分はありましたか?
やぶ氏:ありますね。TGSではスタッフが常についていて、身振り手振りを交えて遊び方を説明してから遊んでいただくと、ほぼ間違いなく楽しかったという感想をいただけるんです。ただ、もしスタッフがいなくて試遊台を置いているだけだったら、そこまで満足度は上がらなかったんじゃないかと、見ていて思いました。
ゲームの導入部分をもっとしっかり作り込まないと、遊びの面白いところに気付くところまで辿り着いてもらうのは難しそうだ、と今感じています。
今回は、キャラクターなどの話題性から試遊に来られた方も結構いらっしゃいました。つまり、リズムゲームをほとんどやったことがない方ですね。そういう方は、ノーツが流れてきてどうするのか、という部分を理解するのにまずコストがかかる。
スタッフは拍を「はい、はい!」と声で合図したり、実際に後ろで一緒に踊ったりしていたんですが、そうすることでより楽しく遊べるようになるのが見ていて分かったので、ガイドボイス機能のようなサポート機能は入れたいと思っています。『Fit Boxing』でトレーナーのボイスを選べるように、お好みのキャラクターボイスでガイドしてもらえる機能を入れられたらと考えています。
遊びやすさと奥深さ、その線引き
――リズムゲームとして上達を目指す人もいれば、フィットネス目的で気軽に遊ぶ人もいると思います。求めるものはかなり違うと思うのですが、本作は音ゲーとしてどの程度の奥深さを持たせる予定でしょうか。
やぶ氏:前提として、導入はすごく遊びやすくしたいんです。音ゲーのコアユーザーではなく、これから音ゲーに興味を持って始めるような方にも遊んでいただけるような、取っつきやすさを優先したいと考えています。
そのうえで、慣れてきて序盤の難易度では物足りない、という方向けの高難易度譜面は当然用意します。ただ、ゲームモードとしてストーリーモードとフリーモードがあって、最高難易度はフリーモードでのみ遊べる形にするつもりです。つまり、超高難易度をクリアすることをエンディングの条件にはしない、ということですね。
もう一つ制約的な部分があって、Joy-Conで手を上下に動かすには腕を結構大きく動かさないといけないので、上下の切り替えの間隔をすごく短くすると、現実的にできなくなってしまうんです。なので、Joy-Conでの遊びには難易度の上限があります。
ノーツの種類は今のところ、連打、長押し、同時押しの3パターンです。技術的にできるかどうかも含めて、違う動きを入れられるかは検討していきたいですが、あまり増やすつもりはありません。増えれば増えるほど初心者向けではなくなってしまうので。
あとは、TGSで遊んでくださった方は分かると思いますが、実際に体を動かすと、画面で見ているより難しいんですよね。ゲーム画面だけだと「簡単じゃん」と思われがちなので、プロモーションでそこをどう伝えていくかは悩みどころです。
もう一点、本作はJoy-Conだけでなく、キーボードやパッドでも遊べるようにします。そして、パッドやキーボードで遊ぶとき専用の最上位譜面も作る予定です。こちらは腕を振る制約がないので、上下がすごい頻度でタカタカタカタカと入れ替わるような譜面も作れます。
出来上がったものが素晴らしければ、それが評価される世界に

――最後に、『がんばれ!チアリズム』をプレイヤーにどんなゲームとして受け取ってほしいか、そして最終的にどこまで進化した作品を見せていきたいかをお聞かせください。
やぶ氏:とてもかわいくて魅力的なキャラクターが応援してくれる素晴らしいゲームですので、できるだけ多くの方に遊んでいただきたいです。あまり先入観を持たずに遊んで、楽しんでいただけるようにしたいと思っています。
誰が描いているかで先入観を持たれたり、レッテルを貼られたりする風潮も、やはりあると思うんです。でも個人的には、誰がどんな表現をしてもいい、というふうにしたくて。そのほうが創作の上で新しい体験を作っていけるし、面白いことが起きると思っています。この組み合わせで、ちゃんと健全なゲームとして作って、しかもすごく面白い。まずはそれを届けられるように頑張りたいです。
そうすることで、自分たちも含めたインディーや同人の作り手たちの可能性が、世界で認められていくような流れを作れればいいな、というのが野望ですね。誰が何をしてもよくて、出来上がったものが素晴らしければ、それが評価される。そんな世界になってほしいと願っています。
それから、ゲームとしての展望ですが、先日スイッチの開発者登録を申請してきました。今は審査中なので、これが通ればスイッチ版を正式に進めていこうと考えています。
スイッチ版にあたっては、主人公の設定を変えた別のストーリーラインをもう一つ作ろうと考えています。今のモードを「独身モード」、スイッチ向けのものを「ファミリーモード」と名付けて、ファミリーモードでは主人公がヒロインと同年代くらいの設定にして、学園もののドタバタコメディのような話にする予定です。
――PC版とスイッチ版でストーリーが変わるということですね。
やぶ氏:そうですね。一粒で二度おいしいじゃないですけど、「せんせい」に対するヒロインの態度と、同年代、もしかしたらちょっと年下かもしれない相手に対する態度。その違いを楽しめる作品になるんじゃないかと考えています。
お話を伺って印象的だったのは、本作が何かを“狙って”作られたものではなく、いくつもの出来事が重なって形になったゲームだということでした。Joy-Conでのパンチ判定という壁がポンポンという見立てを生み、朝凪先生のキャラクターとの出会いがチアというモチーフにつながり、発表時の反響が名作ゲームの作曲家たちとの縁を結んだ。
そしてTGSの会場で、お母さんに背中を押されたお子さんが楽しそうに遊んでいたというエピソード。キャラクターの話題性だけでは語れない、このゲームの地力を何より物語っているのではないでしょうか。
煽られて、悔しくて、それでもまた腕を振りたくなる。色羽に「せんせい」の実力を認めさせる日が、今から楽しみです。
『がんばれ!チアリズム』はSteam向けに2027年発売予定です。
※画面は開発中のものです。











