――――――――――――24――――――――――――
「なかなかいい質問だな」と藤田は言った。「おまえはいま、どっちなんだ?」
「は? どういう意味だ?」とあなたは答えた。
「すまない。これはおまえには答えようがない質問だったな。そうだな、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトという名に聞き覚えは?」
「クトゥルー神話の創造者だろう。おい、おれに質問させてくれるんじゃなかったのか?」
「がたがた喚くな。基本的に、おまえがいま読んでいるテキストは、おれによって書かれているんだ。だから選択権があるように見えても、じつのところ、おまえに選択権はない。おまえがおまえの人生という制限のうちにおいて限りなく自由であるように」
「だからこそ質問したんだ。この話の流れはあまりにも杜撰じゃないか?」
「これはひどく形容しにくいんだが」藤田は灰を床に落とした。「やってみよう。テキストの出力とは、基本的に、あるひとつの場――フランス語でエクリチュールと言うんだが――を形成する行為だ。これは人によっては物語世界だとか、虚構とか言う。そして、その場に押し出されたすべてのものは、あるひとつの極点に向かって進行する。極点とは、比喩的に言えば、最後の句点だ。書かれたものが消失していく、消失せざるを得ないような地点だ。句読点のマル印やピリオドの黒点はブラックホールに似ているだろう? そういう地点だ。おれはこの地点についての実践的研究を続けている者だ。そこにおいては死と創造が可能になる。そういうことにおれは希望を持ってやっている、いや、最近までやっていた」
「そのことについてはなんとなくわかっている」とあなたは答えた。「藤田祥平。それがおまえの名だな? どこかで見たはずなんだ。インターネットかな? なんかバタくさい文章を書くやつだろう?」
「さっきからおまえの身に起こっている超常現象やおまえの不幸は、本質的にはすべておれに責任がある。それについては悪かったと思っている。これからおまえの身に起こることについてもな」
「読者を突き放しすぎなんじゃないか?」
「それについてももう勘弁してほしいんだ」藤田は煙草を机に押しつけ、火種をもみ消した。「もう、疲れてしまってね。おれの指先は本来おれ自身のためのものだったはずなのに、いつのまにかあいつのものになっちまった。編集部のメールに答えたせいさ。わかるか?」
「わからない」
「そうだろうな。しかし、クトゥルー神話とは、いったい何なんだろうな? どれだけ考えてもわからない。ラヴクラフトはなぜ、あそこまで完全にほら話だとわかっているものを、精緻に書き上げることができたんだろう? 建造物の描写なんか、真に迫るものがある。とてもひとりの人間が正気を保ったままやれるとは思えない」
「おまえはラヴクラフトの作品を楽しんだことはあるのか?」
「正直言って、ない」
「にもかかわらず、なぜ仕事を引き受けた?」
藤田は紫煙を吹き、「スパ~」と言った。
「次の質問」
27. 意味がよくわからない。もっとわかるように説明してくれ