【クトゥルー神話ゲームブック】「このゲームブックを読む者に永遠の呪いあれ」(2) 20ページ目 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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【クトゥルー神話ゲームブック】「このゲームブックを読む者に永遠の呪いあれ」(2)

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あなたは藤田を殺すべくナイフの柄を握った。しかしその必要はなかった。すでに藤田は絶命していた。

藤田は半分口をあけて、虚空を見つめたまま、両手をだらんと下げて椅子に座っていた。ぴくりとも動かなかった。よく見ると、彼はものすごく疲れた顔をしていた。あなたは立ち上がり、彼の亡骸の右手の人差し指と中指のあいだに挟まったままの火のついた煙草を引き抜いた。あなたはしばらく煙の立ち上る喫いさしを眺めていたが、やがてフィルタのほうをくわえて、すこしだけ喫った。

「スパ~」とあなたは言った。

それからあなたはGame*Spark編集部の無人のオフィスに向かい、冷蔵庫からサントリーの「-196°Cストロングゼロ〈ダブルレモン〉」の500ml缶を取り出して、藤田の亡骸がある応接室に戻った。あなたはプルタブを引いて、すこし飲んだ。それから窓のそばに椅子を引いて、そこにもういちど座りなおし、ストロングゼロをもうすこし飲んだ。

それからあなたは藤田の亡骸のポケットから煙草とライターを取り出し、椅子に座り、一服つけて、煙を吹いた。

あなたは新宿の夜景を眺めながら、ストロングゼロを飲み、煙草を喫った。ふと思い至って、安物のスマホをポケットから取り出し、あなたがとくに気に入っているわけではないのだが、それでもなぜか日ごとに見てしまうSNSを閲覧した。そこにほんものの人間の声が、たとえば「私はほんとうは臆病で貧弱な人間だけれども、心から妻と子を愛しているし、彼らの幸福を守るためならなんだってする」といったような、なまの人間の声が書き込まれていることをぼんやりと期待して見るのだが、なにせ素人が書いているのでつねにその期待を十分に満たしてはくれないストリップ・ティーズのようなSNSを。

タイムラインには何にも表示されなかった。数十人はいたはずのフォローの数値も、すべてゼロを示していた。あなたは別会社が運営するスタティスティック・サーヴィスを閲覧し、そこであなたがいつも見てしまうSNSのアクティブ・ユーザー数を確認した。多いのか少ないのかわからなかった。更新ボタンをタップすると、数値が目に見えて低くなった。あなたは何度か繰り返し更新ボタンをタップした。そのたびに、数値はどんどん少なくなっていった。ゼロに近づいていった。

スマホから顔を上げて窓外に目をやると、遠くのほうから順番に、街の明かりが消えていくのが見えた。低いビルはいっぺんに、高層ビルは上のほうの階から順番に、明かりが消えていった。その消失がどんどんと近づいて、となりにある新宿都庁のビルの明かりが消えていくとき、あなたはやっと自分自身のことについて、まともに考えはじめた。あなたはストロングゼロをもうすこし飲み、煙草を喫った。とうとうあなたのいる応接室の明かりが消えた。数十秒もすると、窓外の明かりもすべて消えた。あなたは呆然と、月明かりすらない漆黒の街を見た。いや、見たというよりは考えた、街はたしかにそこにあったはずなのだが、いまではもう確かめようがないな、と。

なにせ、もうなにも見えないのだ。

あなたは煙草を喫い、口元のオレンジ色の光が強まるのを見て、しかし、これは非常にありがたい、という気分になった。

それから何度かオレンジ色の光が明滅した。

どこかから恐怖の触手がしゅるしゅると伸びてきて、あなたに触れた。

それで終わりだった。

ゲームオーバー

《Game*Spark》
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