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「なかなかいい質問だな」と藤田は言った。「おれの解釈でよければ、おれとおまえという存在、それどころか、この場における新宿やら外房線やらが発生するための装置、といったところだ」
「レーモン・クノーの『百兆の詩篇』の物語バージョンみたいなものか?」
「ぜんぜん違う。しかしいまの発言で、この状況そのものに対するおまえの理解の深さが知れた。おまえの運命もこれでほとんど確定されたようなものだな。プロット通り行くしかないようだ。なあ、これは単純な興味から聞くんだが、おまえはインターネットにいまさら何を期待しているんだ?」
あなたは答えに詰まった。
「もうだめじゃないか、こんなものは。腐っちまったよ。理由はわからんが。誰でもないやつが、自分で確かめたわけでもないことを書いて、自分が撮ったわけでもない写真を載せて、誰でもない誰かから金をもらってる。なあ、そろそろあきらめたほうがいいんじゃないか。おまえもオールド・メディアに戻れよ。朝日や産経のほうが随分ましだぜ。取り扱うテーマに偏向はあるとはいえ、テーマ自体に対する取材の姿勢そのものはプロフェッショナルだ」
「インターネットから芸術は生まれると思うか?」
「思わないね。集団による祝祭的ムーブメントはあるかもしれないが、本質的には個々人の作品発表の場でしかない、残念なことにな。ヴァネヴァー・ブッシュが生きてたら卒倒してるだろうよ」
あなたは笑った/笑わなかった。笑ったほうのあなたは、ヴァネヴァー・ブッシュが誰なのか知っていた。ハイパーテキストの考案者だ。笑わなかったほうのあなたは黙っていた。
笑ったほうのあなたは言った。「つまりこれはおまえの実験なのか?」
「ただの仕事さ」と藤田は答えた。「べつのセクションで言っただろ。編集部のメールを受けた。それだけだ」
藤田は紫煙を吹き、「スパ~」と言った。
「次の質問」
24.この話の流れはあまりにも杜撰じゃないか?
26.どうして無人なんだ?