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「困りますねえ」戸が開いてべつの男が入ってきた。「あなたがここで藤田さんを殺してくれないと困るんですが。藤田さん、どうして彼は藤田さんを殺さないんです?」
「ゲームブックだって言ったじゃねえか。こういう重大なことは、プレイヤーに選択肢を与えるべきだ。だから選ばせてやってるんだ」
「それにしたってあなたが設置した選択肢には違いないじゃないですか。べつのところに置けばいいでしょ。困るなあ、打ち合わせと違うことされちゃあ!」
「熱くなるなよ。ヤニでもかまし行く?」
「あ、いいっすね。行きます?」
「あのう」とあなたは言った。「どちらさまですか」
新しく入ってきた男はあなたに名刺を差し出した。「ゲームスパークの宮崎です。藤田さんの編集を担当してます」
「それはそれは。どうぞよろしく」とあなたは言った。
「くっせえ」と宮崎は言った。「藤田さん、なんでこの人刺身まみれなんですか?」
「何もかもおれのせいにするんじゃない。作者がすべてを意のままに作れるとでも思ってんのか」
「え、そうじゃないんですか?」
「おまえは本当に馬鹿だな。だからおれにゲームブックを作れなんて依頼を出すんだ。狙う的も知らないで、的に当てられると思ってるのか? だからおまえんとこのアクセス数は伸び悩むんだよ」
「でも引き受けたのは藤田さんでしょ」
「おまえがそこまでの馬鹿だとは思わなかったんだよ」
「編集部にそんなこと言って、うちが怒って切ったらどうするんです?」
「知らねえよ。あのな、おれだって本当にこんなことが喋りたいわけじゃないかもしれないと、どうして推察できんのだ。いまだに構造を理解していないのか。無頼派ふうの味付けなんだよこのキャラは。
もうおまえいい加減黙れよ。もういいよ。おい。こいつ殺してくれ」
あなたは立ち上がった。
31.宮崎を殺す