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「有志翻訳を合法的に進めるヒントは著作権者の許諾をもらいに行くことに尽きます」―著作権法の専門家・小倉秀夫弁護士インタビュー【有志日本語化の現場から】

今回は著作権法に詳しい弁護士に有志日本語化の法的な位置づけについて話を訊きました。有志翻訳者同士が法律論議を行うこともありますが、専門家は有志日本語化をどう見るのでしょうか。

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海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回は著作権法に詳しい弁護士に有志日本語化の法的な位置づけについて話を訊きました。

日本語化とは海外のゲームを日本語で遊べるようにすることです。その中でも、デベロッパーやパブリッシャーによる公式の日本語化ではない、ユーザーによる非公式な日本語化を有志日本語化(有志翻訳)と呼びます。一般的にボランティアで行われ、成果物は無償で配布されます。

有志日本語化には、デベロッパーやパブリッシャーが許可する範囲内で行われるものと、無許可のものがあります。最近はインディーゲームを中心に有志日本語化が公式日本語版として採用される例も出てきています。


連載第14回は、有志日本語化の法的な位置づけに関する内容です。先ごろは著作権法の改正などもあり、有志日本語化と法律の関係について有志翻訳者同士が議論を行う光景も見られました。しかし、専門家でなければ法律を正しく解釈することは困難です。そこで今回は、著作権法に詳しい小倉秀夫弁護士に話を訊きました。

小倉秀夫弁護士 プロフィール
早稲田大学法学部卒業。弁護士歴27年。2009年より明治大学法学部兼任講師。

有志翻訳に必要な許諾とは?

有志翻訳は翻訳すること自体について著作権者の許諾が必要です

――最初に、先生の法律事務所を簡単にご紹介ください。

小倉氏(以下、敬称略)東京平河法律事務所と申します。基本的に、地方自治体や企業の側の案件を得意とする事務所です。その中で、私は自由に知的財産権法やIT法などを得意分野にしています。

――法律の専門家の間でゲームの有志翻訳あるいはMod(ユーザーによる改造)という文化は認知されていますか?

小倉認知されておらず、議論もなされていません。Modと言いますか、ゲームの改変については、『ときめきメモリアル』事件、『デッド オア アライブ2』事件で同一性保持権侵害とされる流れになってからは、裁判例をなぞる議論しかなされていません。

『ときめきメモリアル』事件、『デッド オア アライブ2』事件
ともにゲームの改変データ販売をめぐる訴訟。改変が著作権の一部である同一性保持権を侵害するとされた。
『ときめきメモリアル』事件 最高裁判所判決。『デッド オア アライブ2』事件 東京高等裁判所判決。

――有志翻訳やModが日本国内で合法となるためには、どんな条件を満たす必要がありますか?

小倉有志翻訳については、翻訳すること自体について、著作権者の許諾が必要です。作成した有志翻訳をウェブ上で配布する場合には、そのことについても著作権者の許諾が必要です。

Modについては、ユーザー自身が改変する場合、私的使用目的の翻案として、著作権法47条の6第1項第1号により、著作権侵害とならない可能性があります。また、ユーザーが自分で所有する媒体に適法にインストールされたプログラムを、自ら当該プログラムをパソコン上で実行するために必要と認められる限度において改変する分には、著作権法47条の6第1項第6号により、著作権侵害とならない可能性があります。

ただし、改変することで当該ゲームとしてのストーリー性自体が変わってしまう場合には、『ときめきメモリアル』事件最高裁判決により、改変ツールを提供した人が同一性保持権侵害に問われるリスクを負います。

著作権法47条の6(概要)
私的使用のための複製に該当する場合には、著作物の利用のみならず、その翻案としての利用もできる。

――必要と認められる限度の改変とは、具体的にどのような改変ですか?

小倉著作権侵害とならない可能性があると申し上げたのは、その点については判例が固まっていないからです。

――デベロッパーがModの制作ツールや配布場所を提供している場合、Modを公式に許諾していると考えられます。その場合、有志翻訳も許諾されていると考えられますか?

小倉翻訳と改変は別物なので、それは無理です。

――では、有志翻訳を行うためには著作権者から次の許諾を得ればよいのですか?

  • 翻訳するための許諾(翻訳)
  • 改変するための許諾(同一性保持)
  • 配布するための許諾(公衆送信)

小倉翻訳の過程で有志内でデータをやりとりすること(公衆送信)、翻訳物を媒体に記録すること(複製)、翻訳物を配布するためにウェブサーバー等の媒体に蔵置すること(複製)についても、著作権者の許諾が必要です。また、著作者の意に反するおそれがある改変を行う場合には、著作者の同意を得ておく必要があります。

有志翻訳を合法的に行うには?

著作権者の許諾をもらいに行くことに尽きます

――海外のデベロッパーが日本国内での有志翻訳を望む場合、どのような意思表示をすれば法律的な問題をクリアできますか?

小倉理論的には、有志翻訳をしてくれる人にやって欲しいことをウェブ等で明記すればよいです。具体的には、翻訳して欲しい部分を明記し、翻訳した成果物をどうするのかを明記します。有志翻訳する側で代表者を立てられるのであれば、代表者とデベロッパーが契約を結んでしまうのが一番確実です。

――翻訳した成果物に関しては具体的になにを明記すればよいのですか?

小倉成果物の著作権をどちらに帰属させるか、成果物をどちらがどのように利用するか、その際のライセンス料等はどうするか、クレジット表示はどうするか等々です。

――デベロッパーから許諾を得るタイミングを教えてください。翻訳を開始する前には翻訳が実現可能か判断がつかないこともあります。

小倉どの作品について翻訳をしていくのかを有志内部で検討する過程で、翻訳可能性を討議するためにある程度試しで翻訳する程度であれば著作権法30条の3で行ける可能性がありますが、上記討議に必要な限度を超えて翻訳を先にやってしまうと苦しそうです。

著作権法30条の3(概要)
著作権者の許諾を得て著作物を利用しようとする者は検討の過程において必要な限度で著作物を利用できる。

――無許諾でゲームの有志翻訳を行う場合、どのような条件が揃うと著作権侵害になりますか?

小倉利用の許諾を得るかどうかを検討する過程で必要な限度を超えた翻訳をした時点で著作権侵害となりますし、翻訳物を頒布した場合もそれはそれで著作権侵害となります。

――著作権侵害に問われた場合、どのような結果を招くと考えられますか?

小倉著作権侵害については、刑事罰の対象となるとともに、損害の賠償を求められることになります。有志内部で翻訳しているだけだとたいした損害額とはならないと思いますが、無許諾で頒布すると、相当な損害額になると思います。

――著作権侵害は親告罪だと思いますが、実際に処罰されるのは著作権者が告訴した場合に限られますか?

親告罪
被害者からの告訴がなければ検察官が公訴を提起(起訴)できない罪。

小倉119条4項及び5項の罪や120条の罪、120条の2第1号ないし第2号の罪は非親告罪です。

――それらの罪は著作権侵害が親告罪でない場合があることを示す例ですか、それとも有志翻訳に直接関係する罪ですか?

小倉著作権侵害罪にも親告罪でない場合があるという例として言及しました。

――単なる個人利用者として著作権侵害を伴う有志翻訳やModをダウンロードしたり使用した場合でも、罪に問われることはありますか?

小倉

  1. 私的使用の目的をもつて、
  2. 著作物であつて有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権を侵害しないものに限る。)の
  3. 著作権(翻訳の方法により創作された二次的著作物に係るものを含む。)を侵害する自動公衆送信
  4. を受信して行うデジタル方式の複製を
  5. そのようなものであることを知りながら
  6. 継続的にまたは反復的に行うことは、
  7. 当該著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものであるなどの特段の事情がない限り、

刑事罰の対象となります。

権利者からの許諾を受けていないことを知って有志翻訳をダウンロードする場合、上記要件を満たすことはままありうるのかとは思います。

――有志翻訳を合法的に進めるためのヒントを教えてください。

小倉本格的に有志翻訳を行おうと決める段階で、何をするのかを具体的に言語化した上で、著作権者の許諾をもらいに行くことに尽きます。

有志翻訳のトラブルを防ぐには?

成果物の帰属及び利用について条件を明記しておけばトラブルは防げます

――有志翻訳はしばしばリーダーと不特定多数の匿名翻訳者によって行われます。この場合、翻訳物の著作権(二次著作権)は誰のものになりますか?

小倉翻訳物についての著作権をリーダーに譲渡する旨の合意がなければ、実際に翻訳した人に帰属します。著作権法は、無名又は変名の著作者の存在を前提とした規定を置いているので、翻訳者が匿名であっても特に問題は生じません。

――有志翻訳の成果物がデベロッパーによって公式の翻訳となる場合、どのような法律上の問題が発生すると考えられますか?

小倉翻訳物の著作権をデベロッパーに戻すのか、あくまで翻訳者の元に置いておいてデベロッパーに利用許諾するのかによって変わってきます。

デベロッパーの側で、有志翻訳を許諾する際に、成果物の帰属及び利用について条件を明記しておけば、トラブルは防げます。そのような事前の条件明示がない場合、デベロッパーが、翻訳を担当した人全員に対して、著作権の譲渡または利用許諾の申し込みをすることになります。有志翻訳グループでリーダーを決めておけば、その交渉をデベロッパーとリーダーとの1対1で行うことも可能です。

著作権の譲渡または利用許諾の申し込みと受諾の意思表示は、電子メールなどで行えるので、匿名にしておきたければ匿名にしておくことができます。

――有志翻訳ではリバースエンジニアリング(ソフトウェアの解析)が必要になる場合もありますが、多くのゲームはソフトウェア利用許諾契約でそれを禁じています。海外のデベロッパーが有志翻訳に限定してリバースエンジニアリングを許可する場合、どのように意思表示すればよいですか?

小倉どの限度でのリバースエンジニアリングを許すか、リバースエンジニアリングの成果物の利用をどの範囲で認めるか、リバースエンジニアリングによって得た情報について守秘義務を負わせるかどうかをデベロッパー側で決めて、有志翻訳グループに示せば足ります。

リバースエンジニアリングまでやる場合には、有志翻訳グループもある程度組織化される必要があるでしょうから、リーダーを決めて、デベロッパー側と覚書等を含む契約書を取り交わす必要が生ずるでしょう。

――令和2年の著作権法改正によってリーチサイトが違法になりました。この法改正は有志翻訳にどう影響すると考えられますか。例えば、有志翻訳の成果を配布するサイト、それをゲームに適用する方法を掲載するサイトが違法とされる可能性はありますか?

リーチサイト
インターネット上の違法コンテンツへのリンクを集めたサイト。著作権法改正により違法となった。

小倉有志翻訳が無許諾でなされた場合、その成果物をウェブ上にアップロードする行為は、リーチサイト規制以前に、単純に送信可能化権を含む公衆送信権侵害になります。

ゲームに適用する方法を掲載するサイトから、上記成果物がアップロードされているページにリンクを貼るなどした場合には、その利用を促す文言が表示されていたり、当該URL等やリンク元部分が強調されている等、公衆を当該成果物に殊更に誘導するものであると認められるものだったりした場合には、リーチサイト規制の対象になります。

また、その説明サイトが、違法に作成された成果物の割合が高いなどの事情により、主として公衆による違法成果物の利用のために用いられるものであると認められる場合にも、リーチサイト規制の対象になります。

――著作権者が有志翻訳に必要なすべての行為を許諾している場合は問題が生じないと考えてよいですか?

小倉著作権等を侵害せずに自動公衆送信がなされているものにリンクを貼っても問題はありません。

――ここからは逆に、海外の有志翻訳者が日本のゲームを外国語に翻訳する場合についてお尋ねします。海外の有志翻訳者による翻訳を、日本のデベロッパーが事前に許諾するにはどうすればよいですか?

小倉どなたかがひな形を用意しておくと楽だと思います。

――海外の有志翻訳者が日本のゲームを外国語に翻訳する場合、適用されるのは日本の法律ですか、海外の法律ですか?

小倉不法行為地の国の法律が適用されます。翻訳については、翻訳作業を行った国の法律です。頒布(自動公衆送信)については、サーバー所在国のほか、想定受信者所在国の法律が適用されます。

――海外の有志翻訳者が無許諾で日本のゲームを翻訳した場合、その翻訳物をデベロッパーが翻訳者側の許諾なしに自らのゲームに取り入れることは可能ですか?

小倉有志翻訳者側に翻訳を許諾する際の条件として組み入れていなければ、翻訳者側の許諾が必要です。

――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。


なお、本記事で示された翻訳行為によって、実際に実刑や執行猶予、罰金などが発生するかについては、記事執筆時点ではあくまで一法曹関係者の見解です。

《FUN》

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