そのTシャツのデザインにはフロム・ソフトウェアの死にゲーの厳しさが刻まれている―TORCH TORCH 原田隼氏インタビュー | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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そのTシャツのデザインにはフロム・ソフトウェアの死にゲーの厳しさが刻まれている―TORCH TORCH 原田隼氏インタビュー

禍々しい世界観と、プレイヤーの心を折るような厳しい難易度が特徴であるフロム・ソフトウェア作品。そんなフロム作品の厳しさをゲームグッズへと昇華させるクリエイター原田隼氏に、どんな思いでグッズを作っているかを迫った。

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そのTシャツのデザインにはフロム・ソフトウェアの死にゲーの厳しさが刻まれている―TORCH TORCH 原田隼氏インタビュー
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フロム・ソフトウェアという名前を聞いたら、どんなイメージが思い浮かぶだろうか? 『ダークソウル』シリーズをはじめ、『Bloodborne』や『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』(以下、SEKIRO)など、いずれも陰鬱な世界観と、簡単にプレイヤーの命を奪う厳しい状況を切り開くタイトルのイメージばかりだろう。

“厳しさ”を切り開いてきたプレイヤーにとって、フロム・ソフトウェアの世界とは挑戦への達成を感じさせるものだ。そんなフロム・ソフトウェア作品のイメージを、グッズへと仕上げるブランド「TORCH TORCH」がある。

TORCH TORCHは、Ampusによるブランドの1つだ。これまで『ダークソウル』シリーズや、『Bloodborne』のグッズを制作してきた。


今回Game*Sparkでは、日本のクリエイターへのドキュメンタリーを手掛けるArchipelと共同で、TORCH TORCHのキーマンである原田隼氏への取材を敢行した。本記事はドキュメンタリーとはちょっと違うお話をたくさん盛り込んでいる。現在公開されている映像とともにお読みいただければと思う。

「グッズをつくるのに、1年以上かかることもあります」原作の空気を生み出す作りこみ

原田氏とは高円寺のショップ「豆魚雷」でお話をうかがう約束をしていた。店内に足を踏み入れると、あたりには「デッドプール」などの有名なアメコミのフィギュアがいっぱいに並んでいる。

豆魚雷は1995年に開店した、いわゆるアメトイショップのひとつだった。90年代の当時、「スポーン」のブームもあって、同様のショップは日本のあちこちにあったそうだ。

そんななか、豆魚雷は今年で26年目を迎える。生き残られた理由には、他のアメトイショップにはないオリジナリティがあったおかげではないかという。単に商品を売るだけではない、独自の展開に力を入れていた。

そんな独自性を感じさせるように、店内の一角にはアメトイとは別の展開が広がっていた。フロム・ソフトウェアのグッズである。『ダークソウル』はもちろん、隠れたVRの傑作ADV『Déraciné(デラシネ)』のTシャツや指輪といったアイテムが揃っていた。これらのグッズは、すべて原田氏が手掛けたものだ。

「腰痛なんですよ(笑)。毎週、整体に行くんですけど、お客さんのなかで一番ひどいって」ちょっとした雑談の中で原田氏はそう語る。

普段、原田氏はAmpus本社にて椅子に座り、グッズの制作を進めている。筆者は取材する前、グッズ制作はだいたい1カ月から長くて3か月くらいなんじゃないか?と思っていた。ところが原田氏は、なんと「1年以上かかってしまうこともあります」と答えた。

フィギュアやアクセサリのような立体物にそれだけの時間をかけるのはもちろん、Tシャツのデザインにしても「ほとんどが描き下ろしのイラストなので、僕がイメージラフを作ってイラストレーターさんに仕上げてもらい、版下制作や色校の繰り返しまで含めると、半年から1年もかかってしまうことがあります」とこだわりを見せる。

もはやファンアイテムというよりも、作家によるアート作品みたいなこだわりで制作に挑んでいる。TORCH TORCHのアイテムをあらためて見てみると、オーラのある仕上がりにそこまでの時間がかけられていたことには納得させられる。原田氏は腰痛を軽いジョークみたいに話していたが、驚くべき作りこみを続けた結果だったのだ。

社内には原田氏と同じくらい、作品に入れ込んでグッズを作るメンバーが揃っている。たとえば『十三機兵防衛圏』全キャラクターのぬいぐるみが揃ったデスクを見かけた。「このぬいぐるみも、『十三機兵』を好きすぎて彼女が作ったものなんですよ」と原田氏はチームメンバーの女性を指して教えてくれた。

「ありきたりじゃない魅力があるんです」何故フロムグッズを作りこむのか?

フロム・ソフトウェア作品が、その世界観を陰鬱かつ、偏執的な作りこみのアートによって生み出されていることは言うまでもないだろう。原田氏のグッズは、まるでフロム・ソフトウェアの情念に追いつこうするかのように、長期間に渡って作りこまれている。

原田氏がフロム・ソフトウェアのグッズをこだわって作る背景はいくつかある。まずゲームグッズ市場における、売り時の問題だ。大抵はゲームのリリースされたときのように、注目度が高い時期に合わせてすぐに制作・販売までこぎつけなければならないという。

「はっきり言って、大激戦だと思います」原田氏はゲームグッズ市場についてそう語る。「その時々に流行っているものをすぐに商品化しないといけない、という場合が多いと思うんです」

「僕らはそれが得意ではない。スピード感をもってグッズを作って売るということは、それはそれでかなりのテクニックがいるんです。僕たちはスピード感は苦手ですが、作りこんでクオリティで勝負することなら得意だと思っています」そこで原田氏のスタイルは、「流行っているものをすぐ商品化」というオーソドックスな方法を取らなかった。ファンの熱が高く、ゲームがリリースしたあとでも作りこんだものを待ってくれるタイトルを選んだ。それがフロム・ソフトウェアのゲームだった。

原田氏は「そういったファンの熱の高いタイトルが向いているんです」という。実際、原田氏自身もフロム・ソフトウェア作品に対して強い思いを持つひとりだ。

原田氏がフロム・ソフトウェア作品に触れたのは、1998年発売の『エコーナイト』からだそうだ。その当時、原田氏は教育系の大学の美術学科に入り、グラフィックデザインを学んでいた。

それからデザインの会社に就職。TV番組のCGアニメを制作していた。同じ会社の隣の席には、AC部の安達亨氏が座っていたという。TVアニメ「ポプテピピック」の一篇、「ボブネミミッミ」の異常なアニメや、「SUSHI食べたい」のMVで有名なクリエイターだ。

しかしクリエイティブ系の企業によくあるように、待ち受けていたのは激務だった。「そのころはものすごく忙しく、家に帰れない日が続いていました。本当に久々の休みだというときに、その日は絶対にゲームで最高の日にしてやるんだと決めていたんです。そして休みの朝、ゲームショップに行って。そこに当時の最新作として並んでいたのが『アーマード・コア2』でした」

激務から帰宅したあと、 “身体が闘争を求める”でお馴染みのシリーズに手を出していた。しかし「上手く動かせなくて泣いたんですよ(笑)」と、あのシリーズならではの難しさを振り返っていた。

原田氏は激務に加え、周囲のクリエイターとの実力の違いを痛感させられていった。「その仕事に就く前は、自分は少しはできるんじゃないかと思ったんですけど、まったく活躍できなくて……。周りの人はすごすぎるし、過酷な環境で肉体も精神も、ちょっとおかしくなってしまったんですね」退職を決断し、その後も別の企業で仕事をするも、「今はわかりませんが、とにかく当時のデザイナーは過酷でした。もう自分には、この業界はしんどいな」と感じてゆく。

「もう自分の好きなものしかしたくないと思って」そうして原田氏は昔から好きだった、映画やビデオゲームの趣味に関わる仕事ができればと思い、豆魚雷に入社した。

原田氏は2008年から2014年には店長を務めている。ただ原田氏は、お店を普通に運営するだけではなかった。「店頭に立ちながらメーカーとしてのフィギュア作りや、自宅では趣味のTシャツ制作もやっていたんですね」店長の合間に、そうしたもの作りをやっていたのだ。

これが思わぬ鉱脈を見つけることになる。「高円寺っていろんな方が見えるんですけど、その中に有名な映画プロデューサーがいらっしゃいまして。ある日、その方が『店長さぁ、僕の映画のTシャツを作ってよ』って仰ったんです」

原田氏は依頼を気軽に受けてTシャツを作ったところ、想像外の反響があった。「めちゃくちゃ売れたんですよ。何百枚って売れて」これが豆魚雷の社内でも高く評価され、現在のアパレルブランドTORCH TORCHが設立されるきっかけとなった。

ブランドが設立されると、原田氏はフロム・ソフトウェア作品のグッズ制作を本格的に始めることになる。豆魚雷の新展開となったTORCH TORCHにて、第一弾の商品となったのが『ダークソウル』である。

原田氏は、TORCH TORCHの「静かに眠る竜印の指輪」を今回の取材でも着けていた。

たとえば作中にでてくる「緑花の指輪」のように、ゲーム中に登場するアイテムを、実際に着用できるアクセサリとして商品化。ファンが作中のフレーバーテキストから世界観を想像することを補完するかのように、精微なものだ。

そしてフロム・ソフトウェアの作品で、原田氏が特に好きだと語るのが『Bloodborne』である。「初めてビジュアルを見たとき、これはすごいぞ……と思いました」原田氏はいまだにゲームプレイを重ねており、今回の取材の前日にもプレイしていたほどだという。

原田氏はフロム・ソフトウェア作品のどこに魅力を感じたのだろうか? たとえば公式のアートワークを見て、こう評している。「単なるゲームの本とは思えない、総合芸術に近い物のように感じてしまいます。画家の画集を眺めているような感覚があって。アカデミックでありながら、ユーモアがあって、ありきたりじゃない魅力があるんです」


《葛西 祝》

ジャンル複合ライティング 葛西 祝

ビデオゲームを中核に、映画やアニメーション、現代美術や格闘技などなどを横断したテキストをさまざまなメディアで企画・執筆。Game*SparkやInsideでは、シリアスなインタビューからIQを捨てたようなバカ企画まで横断した記事を制作している。

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