2022年2月の本格開戦以来、未だ一切の終息の兆候が見られない今回のロシアのウクライナ侵攻。先日はクリミア半島とロシア側を繋ぐ大橋での、何らかの攻撃とみられる爆発などもあり、事態は最終的に2014年にロシアにより占領されたクリミア半島の争奪まで広がりを見せる可能性もあります。
一方で、国際社会の大半からは一連の行動は征服目的での戦争行為として見られているにも関わらず、ロシアは依然として侵攻を「特別軍事作戦」として位置付けています。しかしながら、事実上は一般人を含む本格的な徴兵令である「部分的動員令」を発令し、軍の大幅な立て直しを図っています。
弊誌では以前より、古くよりPCゲームなどで存在感を持っていた両国の開発者の現状を伝えるべく、本戦争に際しインタビューを実施していました。
緊急連載「戦時下のゲームデベロッパーたち」今回は、ウクライナだけでなくロシアでも一般人の生活に大きく影を落とすようになった今回の戦争の情勢の変化を鑑み、過去にインタビューを実施したロシア側の開発者に、ただ「現状を訊く」という形で、彼らの今をお伝えします。
KishMish Games - Mikhail氏
代表作:『Metro Simulator』(前回のインタビュー記事)
回答日:9/29(日本時間)
Mikhail現在の状況はとても悲しいものです。しかし政治の状況や人々の心的状態についてのコメントはしたくありません。
今年は支払いの問題、政治の状況、世界の金融危機などといった理由から、私たちが仕事をするのはとても難しかったです。
しかしどんなことが起きても、私たちは仕事を続けました。私たちの世界的な目標は、私たちのゲームを通して世界中の人たちをより幸せにすることです。そして今、私たちは新たな大型タイトルである『Bus World』をリリースします!
このゲームが世界中で起こっている暗い状況から少しでも目を逸らす助けになると嬉しいです。
人々には強く健康でいてもらうため、精神的な健康を保持して欲しいのです。
DarkDes Labs - Stanislav Filippov氏
代表作:『Drawngeon』(前回のインタビュー)
回答日:10/2 (日本時間)
Stanislav男性たちの一部は(時に家族を連れて)徴兵を逃れるため、急いで国外に脱出しようとしています。しかし国外に出たいと思っても、すべての人ができるわけではないのです。隣国への航空券や電車の切符はほとんどもう手に入りません。それに値段も桁違いな上がり方をしているのです。すべて需要が急騰しているためです。
前回のインタビュー以後、友人たちの一部はロシアを離れました。この瞬間も、知り合いのインディー開発者たちは国を離れたり、離れようとしています。しかしその全員がそうできるとは限らないでしょう。
正直言って、なんと具体的に言えばいいのかわかりません。ロシア国内には政府の行動に賛同しない人々がたくさんいます。しかしどうすることもできないのです。
テレビでは多くの国民が現在の政府を支持しており、反体派は少数だと報道しています。しかしそう言っているのは政府なのです。人々は自分達の発言が自分達や家族に与える影響を恐れ、本当に思っていることを言えていないようなのです。例えば、政府の行動に反対する平和的なデモでも、多くの人が警察に逮捕され、デモは解散されてしまうのです。
9 Eyes Game Studio - Maksim氏
代表作:『Mask of Mists』(前回のインタビュー)
回答日:10/2(日本時間)
Maksim今、国内の状況は徐々に元に戻ろうとしています。今回の徴兵は終わろうとしています。本当に人口のほんの少し(最大30万人)に過ぎないのです。その多くが戦闘経験がある人や、軍事向けの技能を持った人たちです。徴兵された人の多くは正しい目的のために戦いに行くと信じています。また、多くの人が徴兵されるのを恐れたり、国境が閉鎖されることを恐れ、国外に脱出しました。これまで、公式の発表によると、国境を閉鎖する計画はないそうです。私の知り合いの1人が今日自由に国外に出ました。今現在、私はロシアにおり、仕事を続けています。戦争ができるだけ早く終わることを祈っています。
Steppe Hare Studio - Zarif Kurochkin氏
代表作:『Palmyra Orphanage』(前回のインタビュー)
回答日:10/2(日本時間)
Zarif現在、私たちはロシアにいません。私たちチームは安全を確保するため、国を出なくてはなりませんでした。私たちは車に乗り込む、2つの国(カザフスタンとウズベキスタン)の国境を越えたのです。ロシアとカザフスタンの間の国境では15kmに及ぶ車の列ができており、そのほとんどが国外に脱出するのが目的でした。並んでいた車のほとんどが人でぎゅうぎゅうづめでした。私たちはこの列でふた晩を明かしました。これはもう私たちの国の大惨事です。数万、数十万の人々が命を守るために逃げているのです。これらの移民は主に専門知識がある人やお金を持っている人たちです。私たちの車で脱出した人の中には、クリミアのホテルのオーナーとその息子、モスクワのチニコフフ銀行のアプリ開発マネージャーでした。私たちは途中で多くの避難民に出会いました。彼らはモスクワから、サンクトペテルブルクから、そしてヴィルゴグラードなどから逃げてきていました。彼ら全員がその道のプロフェッショナルで、国外に脱出するための能力とその先見の明を持っていたのです。これだけ多くのプロフェッショナルを失ったのです。ロシアは壊滅するでしょう。
友人のうち数人はロシアに残っています。その多くは国を出る力がありませんが、戦争にも行きたくありません。人を殺したくないのです。彼らはこの戦争を支持していないのに、今危険に晒されているのです。ロシアにおいて、プロパガンダは強力です。私の友人の母親は、ウクライナ人を殺すのを拒むとは母なる国の裏切り者だと私の友人に言っています。どうやって彼を助ければいいのか、私にはわかりません。私は自分のお金を使って弟を国外に脱出させました。友人にあげられるものがないというのが、私を苦しめるのです。私の知り合いの一部は既に徴兵されました。彼らは自分達の制服、靴下、ズボン、救急キット、そして防弾服まで自分で買わされているのです。私たちの軍隊は、彼らに何も渡すものがないのです。この調整は貧しい人や一般の人たちに対する、死の税なのです。
現在、私たち開発チームはウズベキスタンにいます。この一週間にわたった、恐ろしく眠れない日々から、普通の生活を再建しなくてはいけません。ウズベキスタンとこの国の人々には感謝しています。私たちに住む場所を提供してくれたのですから。
他の国の人々に伝えたいのは、どうか、自分達の国の政府にコンタクトし、ロシアの避難民に道を開けて欲しいと伝えてください。国境を通れなかった人は、この不当な戦争で殺人者となるか、殺されてしまうのです。私たちはあなた方からお金が欲しいのではありません。家が欲しいのでもありません。より良い場所で暮らしたいと思って国を出ているわけではないのです。ただ、生きるために国を出ているのです。私たちの多くはプロフェッショナルですので、既に仕事はありますし、新しく仕事を作ることもできます。あなたたちは私たちが「ロシアの世界」を持ち込もうとしているのだと思っているかもしれませんが、ご安心ください。この狂気は私たちの生活と国を破壊しました。私が道中であった避難民の全員が、心からこれを憎んでいたのです。
私たちと一緒に国を脱出した1人が残した言葉をお伝えします。ロシア国境を越えた時、彼は私たちの方を振り向き言ったのです。「ついに逮捕されることなく言えるぞ」そして彼はロシアに向かって叫びました「ファック・プーチン!」
Konfa Games - Nikolai Kuznetsov氏
代表作:『Despot's Game: Dystopian Army Builder』(前回のインタビュー)
回答日:10/5(日本時間)
Nikolai今、私と開発チームはベオグラード(セルビア)にいます。私たちはtinyBuild(私たちのパブリッシャー)の一部となることができました。結構良い契約内容で、私たちチームはすべてが順調です。
しかし同時に、戦争は続いており、今はロシアに住むすべての人にその影響が及んでいます。以前は例えば、あらゆるものが10~20%値上がりしていましたが、世界と繋がった仕事をしていない人にとって、日々の生活は変わりありませんでした。しかし今はすべての人が戦争のことを考え、徴兵について心配し、私の多くの友人たちは国を出ようと考えています。彼らの多くにとって、国境を越えるのはこれが初めてになります。日本人の方にはご理解いただけるかと思いますが、多くのロシア人はパスポートさえ持っていないのです。
私が言いたいのは、確かにプロパガンダを信じ、プーチンを支持する人もいます。ロシアではこの力がとても強大なのです。しかし私の知り合いのほとんどはプーチンや戦争を憎んでいますし、彼に投票したことは一度もありません。それでも彼にはご存知のように強力な治安部隊がいます。私はトルコとセルビアでデモを見てきましたが、ロシアのものとは全く違いました。ロシアでデモが起こると、完全装備をした治安部隊が現れ、デモの参加者が暴力を振るうまでただ待ち続けるのです。(私たちは治安部隊をそのヘルメットから「宇宙飛行士」と呼んでいます)
そしてロシアに住んでいたら、インターネットでも自分が書きたいことを書くことはできません。もし戦争に反対することを書いてしまえば、刑務所行きなのです。ロシアの政治に反対する人たちは皆、刑務所の中か国外にいるのです。
私が言いたいのは、プーチンはロシア人が彼を支持しているというビジョンを作り出そうとしています。しかしそれは真実ではありません。ロシア人の半分以上は戦争とプーチンに反対しているのですから。
編集部より
記事の趣旨について
かつてGame*Sparkでもインタビューしたデベロッパーが現在の状況をどう思っているか、そのままの状態で記すことには意味があるものと判断し掲載しています。特定の政治的な意図を込めているわけではないことはご理解いただけると幸いです。あくまで本企画は、突然の戦火に巻き込まれてしまったデベロッパーがどのような状況に置かれてしまったかを、彼・彼女らの視座から語ってもらいそのまま伝えることを目的としており、今回であればロシアで作られた海外ゲームを嗜む読者の皆様が現状を把握する一助になればと思っています。
掲載内容について
冒頭にも記載しましたが、あらかじめ企画の趣旨や記事のアウトプットについては全てインタビュイーに伝えた上で掲載しています。
基本的にインタビューの内容についてはほぼ逐語訳であり、こちらから発言にないことを加筆したり、何かしらの発言を誘導したりすることはありません。一方で、そうしたスタンスが故に今後過度に政治的な内容になる、逆にプロパガンダ的な内容になるという可能性を秘めていることは編集部内でも事前に認識しており、掲載にあたっては編集部で慎重に議論したうえで公開しています。また、デベロッパーに対しては必ずしも政治的なスタンスを明かすことは求めておらず、無理矢理に態度を鮮明にすることを求めたり、回答の有無やその内容について善悪の判断をしたりしないということも伝えています。あくまで本記事の趣旨は前掲のとおり「当事者それぞれの視座から現状及び認識を語ってもらうこと」であり、回答の如何を含めてそれを残しておくことには意義があるものと考えています。
編集方針について
本記事のように毎回デベロッパーにインタビューで政治的な事柄についてスタンスを明示させるようなことは望んでいませんし、話の流れで可能性はあれ、通常のインタビューのスタンスを変えるということはないことも改めてお伝えします。
関連連載の初回からお伝えしているとおり、楽しいゲームニュースがかき消されるような、この最悪な状況が一日でも早く終わることを編集部一同願っています。同時に、突然戦火に見舞われ、もしくはその影響で、日常を奪われた多くの両国の市井の人々やゲーム業界関係者を思うとかける言葉もなく、一日も早く平穏が取り戻せることを祈るばかりです。そうした被害に遭われた人々を支援するゲーム業界の動きについても随時お伝えしていきますが、これまで通り日常の記事のボリュームを減らすことなく、ゲーム業界に関連する話題については記事の本数を増やしながら対応してまいります。