伝統的な歴史を持ち、いまも何かと話題をさらうアドベンチャーゲーム。どこか温かみのあるドット絵のクオリティ、猟奇的なホラーテイストで名作となった作品も多いですが、やはり何といっても心に訴えるストーリーがアドベンチャーの醍醐味です。
というわけで今回は、2023年10月10日に配信されたホラー農業ADV『ハーベストアイランド:収穫島(Harvest Island)』の気になる内容を紹介します。
『ハーベストアイランド:収穫島』とは!?
本作は、Yobobが開発した農業ありホラーありのアドベンチャーゲーム。島に住む三人家族が畑や家畜の世話をしながら、日々の恵みを与えてくれる神に感謝して平和な暮らしを……と思いきや、唐突に動物たちの惨殺体が現れたりと、明らかに異質な島の真相に幼い兄妹が立ち向かいます。
また、本作は完成度の高い翻訳による日本語をはじめとした複数言語に対応。部分的サポートながらコントローラー操作も可能です。
本作の主要な登場人物をワンポイントで解説!
◆ウィル
ナウな刈り上げヘアが特徴の主人公。歳相応に繊細で反抗的な態度が目立つものの、家族を大切に想い、なんだかんだと妹の面倒を見る立派なお兄ちゃんです。その一方で父親から長男としての義務を強いられることに苦悩し、突然、何かを悟ったかのように雨乞いの舞を踊り出すなど、笑って泣ける理想の主人公を熱演します。
◆サマンサ
純粋で献身的なウィルの妹。あどけなさが残る幼女であり、兄のウィルについてまわっては迷惑をかける小動物的な魅力があります。割と押しは強い方で泣きながら怒るタイプ。さらには“見えないものが見える”能力を仄めかし、物語の先導役としてウィルを支える本作のキーキャラクターです。
◆グレイソン
人里離れた離島で幼い息子と娘を育てるビッグダディ。島の農園をひとりで運営し、特徴的な赤毛を受け継ぐ娘には寛大ながら、跡継ぎのウィルには厳しく指導します。明らかに蝕まれている島の状況に動じず、遠回しに事実を隠蔽するような言動から、この島にまつわる秘密と神の御業について何か知っているのかもしれません。
涙あり笑いあり農業あり!贅沢フルコースなADV
まず本作のジャンルは“ホラー農業シミュレーター”となっており、複数の要素を同時に楽しめる欲張りセットな内容の作品。ベースとしては、いわゆるツクール系のアドベンチャーゲームで、2Dのドット絵による表現が織り成す濃密なストーリーが展開されます。
農業部分は、主人公・ウィルが父親の農園を手伝うという形で発展していき、牛やニワトリの王道ラインナップによる畜産、種植えから始まる畑仕事など、育てる喜びから毎日の労苦まで再現された本格的な仕様です。
ただ、これらはあくまでストーリーの進行に必要なキーシステムとしての位置づけで、ツクールならではのシンプルな感覚で物語を楽しみたいプレイヤー向けに、ストーリーと農業を区別したモードも存在。
この島でたった三人きりの家族が幸せに生きるため、そして物語の核心と思われる“神”が求めるものを捧げるために、ひたすら働き続けるのが当面の目標となります。
その神というのは、島の至るところに祭壇を模した像を設置し、それぞれ違う貢ぎ物を毎日のように要求してきます。しかも日が経つごとに要求が難しくなり、かといって何かしら罰があるわけでもないのですが、主人公の父親がものすごく怒るらしいので、まだ幼い子供たちが児童労働に赴く理由としては十分すぎるでしょう。
そういう意味でも神様周りがどうも怪しいのは主人公たちも察していますが、当の父親はのらりくらりと話を逸らし、ウィルが報告するたびに証拠が消されているような気がして、島の秘密を巡る冒険は一筋縄ではいきません。
日課である農作業の後は島を巡って新しい道の発見、クラフト材料を集めるための採取や釣りを根気よく続けることになりますが、時間帯や天候、潮の満ち引きによって島の状況が大きく変化することもあり、ストーリーやイベントの進行にも影響を及ぼします。
また、歩くだけでもスタミナが消費されて最後は作業ができなくなるので、ヒマを見て家で昼寝をしたり、料理をして回復アイテムをストックしておくと攻略が安定します。基本的には、クラフトや農作業は冒険を支援する機能なので、ストーリーが行き詰まったときは農園の充実も試してみましょう。
シカさんウサギさん逝く……残酷極まる“収穫”島と妹の想い
劇中、ウィルが成り行きでアライグマさんの殺害を企んだ時点で、なんだか不穏な空気がプンプンと漂っていた本作。はじめのうちは農業もできるアドベンチャーとして手堅い路線を進んでいましたが、ある日それは唐突に、本作が紛れもないホラー物であることを思い知らされました。
いつものように新たな発見を求めて森へ出かけたウィル少年は、何者かによる襲撃の痕跡を目の当たりにします。森の奥へ続く大量の血痕。それまでの平和でほのぼのとした雰囲気が一気に消し飛んでしまいましたが、どちらかというと、この仕組まれたホラー演出こそが本命なのかもしれません。
こうしてある程度ストーリーが進むと唐突に残酷描写が挟まれるようになり、シカさんやウサギさんが半身をもぎ取られたり、頭部だけがちょこんと血溜まりに浸かって佇むなど、やや刺激の強いシーンが連続するので要注意です。
これも例の父親の説明によれば、クマの仕業ということで片付けられますが、動物たちの変死体が発見されるのと同時に他の人間の気配が漂いはじめ、どう見ても異国から持ち込まれたと思われる高度な技術を発見します。島に隠された秘密が少しずつ主人公たちによって掘り起こされ、もはや事態は推理アドベンチャーの領域に。
そうした謎が謎を呼ぶ興味深いストーリーも然ることながら、本作ではウィルとサマンサの兄妹コンビを軸に、絶海の孤島で生きる家族の等身大の物語も平行して進行します。いまは亡き母親への未練が妹との関係を難しくしているウィルの心情は、プレイヤーの心理にも訴えるものが大いにあるのではないでしょうか。
おそらくはまだ物語中盤にも辿り着いていないと思われますが、ここまで本作のシステムに変な意味で慣れてしまった筆者としては、幼い兄妹のやり取りさえも伏線のような気がしてなりません。
あとで真相が明らかになると思いますが、そもそもどうして母親が死んだのか、父親が母親の死を偽装したのか、妹が母親は帰ってくると言い張る根拠があるのか。現時点では泥沼のごとく謎が深まるばかりで、これも全て思考のミスリードを誘う開発者の筋書き通りだとしたら、もはやあっぱれ脱帽です。
スパくんのひとこと
感情のオンオフまで使い分ける日本語翻訳のセンスも相まって、ただひたすらに切ない……目から塩水がこぼれるお話が泣けるスパ!定期的に投げ込まれる死体もちょうどいい感情リセットになってるし、ママがラスボスとして出てくるハッピーエンドがあったら熱いスパね!
タイトル:ハーベストアイランド:収穫島
メーカー:Yobob/Yobob Games
対応機種:PC
筆者がプレイした機種:PC(Steam)
発売日:2023年10月10日
記事執筆時の著者プレイ時間:5時間
価格:2,500円