
近年、インディーホラーゲームの映画化が世界的・国内的にも非常に活発です。
たとえば、二宮和也主演の「8番出口」や大ヒットした殺人マスコット・ホラー続編「ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ2」など、特に2025年から2026年にかけては、話題作の公開やプロジェクトの進行が相次いでいます。
そして2026年2月20日、人気制作チーム「Chilla's Art(チラズアート)」の代表作を実写化した映画「夜勤事件 (The Convenience Store)」が公開中。ということで、今回はそれを記念して、今や名実ともに“インディーホラーの象徴”であるチラズアートの魅力を改めて振り返ってみたいと思います。
◆『赤マント』から最新作『ウミガリ』まで…進化し続けるスタジオの魅力と変遷

では始めに、チラズアートが手がけてきた作品を年代順にそれぞれピックアップして、チラズアートの特徴とその魅力、スタイルの変化を追っていきましょう。
まず「チラズアート」とは、アメリカ育ちの日本人兄弟で構成されるインディーゲーム制作チームであり、長男のYasuka氏が主に3Dモデリングを、弟たちがプログラミングを担当しています。また、2023年4月より三男を加えた3人体制へ移行しており、人気作『夜間警備』は彼が主導して開発されたとのことです。
主にPC(Steam)向けに多くの短編ホラーゲームを開発しており、独特のレトロなグラフィックや、日常に潜むリアルな恐怖を描いた作風で知られ、多くのフォロワーを生み出しています。
★【2018年~2019年】活動初期・スタイル模索期
2018年から2019年頃の初期作品に見られる主な特徴をまとめると、現在の「仕事シミュレーター」的な日常ホラーとは異なり、作品ごとに異なるビジュアルスタイルを模索していることや、高難度でサバイバル/アクション要素が強いゲームプレイが大きな特徴です。また、日本の有名な都市伝説や怪談などフォークロアへのフォーカスが顕著に見られます。
デビュー作である『Evie』は、2018年2月にリリースされた一人称視点の短編ホラーゲームで、不気味な森の中を舞台にしたフォトリアルなダークファンタジー調の作風が特徴です。

プレイヤーは、かつてその家に住んでいた女性「Evie」が残した日記を読み進めることで、彼女の身に起きた悲劇的な出来事と、彼女が絶望へと堕ちていった過程を追体験していきます。廃屋や周囲の環境を探索し、日記やアイテムを見つけて謎を解き明かす「ウォーキングシミュレーター」に近いアドベンチャーゲームです。
続いて2019年にリリースされた『赤マント』の頃から、意図的に画質を落としたローポリゴン調とVHS風のノイズフィルターを組み合わせた不気味なビジュアルスタイルの確立は、チラズアート独自の美学としてホラーファンを魅了しました。

また同作は、セーブ機能がなく、一度でも赤マントに捕まってゲームオーバーになる「パーマデス」の採用と、限られたアイテムスロットを管理しながら、廃校を探索してパズルを解くサバイバルシステム、怪人赤マントの執拗な追跡によるステルスの緊張感が味わえる、スタジオ初期のヒット作でもあります。
★【2020年~2021年】ヒット作連発・黄金期の始まり
こうして徐々に知名度を獲得していったチラズアートですが、2020年から2021年にかけてさらに飛躍します。その要因は、とくに2020年にリリースされ大ヒットした『夜勤事件』にあるでしょう。また、『行方不明』、『終焉介護』、『例外配達』などヒット作を連発し、まさに“スタジオ黄金期の始まり”というべき活躍ぶりでした。
この時期の特徴は、『赤マント』や『雪女』のような都市伝説・妖怪テーマから、コンビニ、介護現場、深夜の配達といった、誰もが身近に感じるシチェーションを舞台にした作風にシフトし、「日常の延長線にある恐怖」を確立したことが非常に大きいと思います。

もちろん、チラズらしいローポリ路線は継続されており、シュールで不気味な怖さに磨きがかかっていました。とくに『夜勤事件』で登場する店員は、写真を無理に貼り付けたような無機質な造形が奇妙で、当時強烈な違和感をおぼえましたね。
もうひとつの特徴として、単なる幽霊や怪物ではなく、ストーカー、クレーマー、孤独死、過酷な労働環境といった、「現代社会の闇や人間の抱える狂気の恐怖」を描き出している点にあります。

たとえば、2021年の『終焉介護』では、プレイヤーは訪問介護士として、反応の薄い老人や奇妙な行動をとる家族の世話しますが、その日常と隣り合わせのシチュエーションが超自然的な現象と組み合わさることで独特の空気感を生み出しています。
★【2022年~2023年】さらなる「恐怖」への没入感
2022年から2023年にかけてのチラズアート(Chilla's Art)は、従来の「短編・低価格・PS1風」というスタイルを維持しつつ、「日常業務×異常事態」の恐怖演出とグラフィックの進化が顕著になった時期です。
人気作の『閉店事件』は、スターバックス風のカフェを舞台に、閉店作業中の女子大学生を襲う「ストーカーの恐怖」を描いたサイコホラーで、単なるホラーではなく実際にドリンクを作る業務がゲームの大きな比重を占めていることも特徴です。
同じく、2023年にリリースされた『夜間警備 (Night Security)』は、チラズアートの中でも「最も恐い」と話題になった一作で、これまでの作品の集大成的な特徴を備えています。

たとえば、一定のタイミングで出現する幽霊に追われる視覚的な恐怖、静寂の中での異音や、エレベーターの不自然な動作など、視覚以外からも神経を削ってくる演出など、従来のチラズアート作品に比べてジャンプスケア(ビックリ要素)の質と量が強化されているのが特徴で、そのことが実況者やプレイヤーの間でも「シリーズ屈指の怖さ」と評されている所以です。

それだけでなく、深夜のオフィスビルを舞台に、警備員として各フロアを巡回し「日常業務」を行う環境そのものが、そのまま恐怖を誘導する設定となっていることも秀逸でした。
このように、この時期には初期作品に見られたサバイバルアクション要素は鳴りを潜め、“チラズアートといえばウォーキングシミュレーター的な探索ホラーゲーム”だと完全に認知されていました。
★【2024年~2026年】新機軸の導入と「インディーホラー」からの脱却
チラズアートは確かに数多くの優れたインディーホラーを手がけてきましたが、リリースを重ねるにつれ、良くも悪くも作品がフォーマット化されつつあり、語弊を恐れず言うならば、近年は「既視感を覚えるマンネリな作品」が増えていたのは否めない事実です。
先に紹介した、「日常業務をこなす中で怪異に遭遇する」シチュエーションも、リリースを重ねるごとに展開が予想されやすくなっていたし、チラズアートらしさの核となるローポリゴンやVHS風フィルタといったスタイルも時間が経つに連れて新鮮さは失われていきました。

そんな状況を打破するように、2025年1月リリースの『Cursed Digicam | 呪われたデジカメ』より、開発エンジンを従来のUnityからUnreal Engine 5 (UE5)へと移行。従来のローポリゴン・VHS風の質感は残しつつ、ライティングや質感が劇的にリアルになったことでグラフィックが大幅に向上し、ゲームへの没入感が圧倒的に増しました。

また、同作は「特殊なカメラで霊を写す」といった、新しいゲームメカニクスが導入されており、ただ歩き回るだけではなく、プレイヤーがより能動的にゲームに干渉しながら進めていくという、新機軸を打ち出しました。
他にも、2024年リリースの『新幹線0号』は、すでに話題となっていた『8番出口』ライクな異変を探すループ型ホラーで、従来の作風にとらわれない多彩なジャンルへの挑戦が見て取れます。

最新作である2026年リリースの『UMIGARI | ウミガリ』は、これまでの作品とは一線を画す「海洋探索×銛(もり)漁」をベースとした一人称視点ホラーゲームです。

魚を獲って売り、その資金で船の速度や燃料容量、銛の性能をアップグレードしていく強化要素・育成の楽しさと、船を強化することでより遠くの島や深い海域へと進めるようになる「海洋探索」の面白さが融合し、今までにないゲーム体験が可能になります。

それに加え、探索を進めるほど現実にはありえない「不気味な姿の魚」や、奇妙なクリーチャーに遭遇するようなり、舞台である霧に包まれた架空の日本海の静かな孤独感と、徐々に変化していく景色は、ジャンプスケア的な怖さとは違い、シュールかつ不条理な恐怖を味わえるのが新鮮なタイトルです。
さらに『夜勤事件』の映画化を始め、ZOZOTOWNとのアパレルコラボや、プライズ商品化など、ゲームの枠を超えたメディアミックス展開が顕著になっていることも注目すべき点です。
こうした技術基盤の刷新とメディアミックスの加速により、チラズアートは一介の「インディーホラースタジオ」から「総合ホラーブランド」へと、さらなる進化を続けていくのは間違いないでしょう。今後どんな作品が出てくるのか?ますます期待が高まります。
◆映画「夜勤事件」は“その先”を描いたJホラーの新たな傑作
こうして様々な角度からチラズアートの魅力に迫ってきましたが、最後はスタジオ史上初の映像化作品である「夜勤事件」について少し触れてみたいと思います。極力ネタバレは避けるのでご安心ください。
映画「夜勤事件 (The Convenience Store)」は、大ヒットホラーゲーム『夜勤事件』を原作にしたジャパニーズホラーです。2026年2月20日より全国公開され、配給はキャンター、年齢制限はPG-12、上映時間は83分となっています。
あらすじは、深夜のコンビニエンスストアを舞台に、アルバイトの女子大学生が日常の業務を淡々とこなす中、次第に得体のしれない「怪異」の恐怖に襲われる様を描いており、世界観や設定などは原作に準拠しています。

監督に「きさらぎ駅」「リゾートバイト」で知られるJホラーの旗手・永江二朗を起用し、主人公の田鶴結貴乃を今最も旬な若手女優・南琴奈が演じ、刑事役に実力派の竹財輝之助、ほか関哲汰(ONE N' ONLY)や五頭岳夫、櫻井淳子、加藤夏希など、豪華俳優陣が脇を固めています。

映画は、深夜のコンビニ勤務中に南琴奈がさまざまな「怪異」に遭遇する原作パートを忠実に再現しながらも、事件の解明に刑事たちが奔走する映画オリジナルパートも盛り込まれており、ゲーム版では体験出来なかったスリリングかつ緊張感のある「新たな物語」に再構築されていたのが印象深く、原作ファンはもちろん未プレイ者も満足できる重厚かつ本格的なジャパニーズホラーに仕上がっていました。

とくに、冒頭でアパートからコンビニまで出勤する様子を「一人称視点」にしていたり、謎の老婆や配達員、先輩店員など一癖ある登場人物たちは、ゲーム同様の「不気味さ」をそのまま再現している点も見どころです。
また、物語自体に仕掛けられた巧妙な展開や、事件の背景と全容が明らかになるアッと驚くような結末は、「夜勤事件」というホラーゲームを見事に映像化していたと思います。

ちなみに、筆者はKADOKAWAグループが運営する大手映画情報サイト「MOVIE WALKER」誌においても、映画「夜勤事件」やチラズアートの魅力についてコラムを執筆しています。そちらもぜひご覧になって頂けたら幸いです。
作品情報
タイトル:「夜勤事件」
公開日:2026年2月20日(金)監督:永江二朗
キャスト:南 琴奈、竹財輝之助、関哲汰、田中俊介、五頭岳夫、櫻井淳子、加藤夏希ほか
公式サイト:https://yakinjiken.com/















