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『Clair Obscur: Expedition 33』洗練された美は時代を超えて―モダンへと繋がる「アール・デコ」【ゲームで世界を観る#102】

Exposition Internationale des Arts Décoratifs et Industriels Modernesから100年の節目。

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『Clair Obscur: Expedition 33』のデザインはベル・エポック期のアール・ヌーヴォーではなく、少し時代が先の「アール・デコ」を基調にしています。パリが崩壊して半世紀以上経過しているためか、ギュスターヴが動く義手を開発するなど、ややオーバーテクノロジー気味な世界においてレトロフューチャー的な意味合いがあるようです。


鋭い直線と角、流線形で構成された幾何学模様、古代ギリシャやエジプトなどのエキゾチックなモチーフなど、レトロフューチャーにもよく用いられる意匠です。ゲーム的にはなんとなくラスボスあたりが住んでいそうな雰囲気もあって、意外と目にする機会は多いのではないでしょうか。

自動車や蓄音機、ラジオ、ステンレスの普及、ジャズの流行、映画ではチャップリンの登場など、現代的文化のライフスタイルがスタートした時期がこの1920年代でした。アメリカの小説家・フィッツジェラルドの「華麗なるギャツビー」(The Great Gatsby)にはその全てが詰まっていると言っても過言ではないでしょう。一財産を築いた「成金」が幅をきかせ、夜な夜な社交パーティに明け暮れる、まさしく「狂騒」の時代。大恐慌までの儚い夢、そんな風に評されるほど、誰もが高度経済成長の熱に浮かされているようなムーブメントです。

第一次世界大戦で良くも悪くも工業化が一気に推進されると、手工芸中心のアールヌーヴォーに代わって、工業的なデザインのアール・デコ様式が登場しました。従来の欧州的クラシックから脱却を図るモダニズムなどと連動した流行です。アール・ヌーヴォーからの切り替わりは20世紀に入って間もない頃から始まっており、対極と言うよりはアール・ヌーヴォーの装飾性がモダニズムを取り入れて発展したと言えるでしょう。「アール・デコ」という言葉が初めて登場したのが、1925年の「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」(パリ万国博覧会。いわゆるパリ万博)の略称「装飾芸術(アール・デコラティフ)展」で、この展覧会は既存のクラシックな様式は一切使わないという条件の下、斬新なデザインを生み出すことを目指しました。

資本家の台頭や欧州の主要な帝国が解体されていく中で、伝統と格式的なものから、産業やテクノロジー的なデザインに転換が図られます。人間社会におけるあらゆるモノ・コトのスピードと高さが飛躍的に増加しはじめた時期でもあるので、それらを感じさせる直線や流線形に注目が集まりました。「モダン」な現在のラグジュアリーデザインの基盤を形成するど、文化史の大きなターニングポイントとなったのがアール・デコです。

アール・デコは選挙権の獲得などで社会進出する女性達とも共鳴し、短髪やショートドレス、派手なジュエリーを身につける彼女たちは「フラッパー」と呼ばれ、保守層からの批判はあれど、自分らしく開放的に生きる姿は時代の変わり目を反映しました。

アール・デコ様式で最も印象的なのは、眩しいくらいの金ピカメタリックです。ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルのロビーは、足を踏み入れるのも恐れ多いまさしくセレブのための空間です。摩天楼の建設ラッシュに沸くニューヨークは労働者が多く集まり、こうした高層建築は命綱無しのとび職の活躍なくしては成立しませんでした。

アール・デコを代表する工芸家としては、ルネ・ラリックが挙げられます。アール・ヌーヴォー期にジュエリーで活躍していたラリックは、アール・デコ期になると洗煉されたガラス工芸が中心となり、車のボンネットに付けるマスコットが特に有名です。

マイアミにはその名も「アール・デコ地区」という歴史建造物の保存区域があり、こちらは少し遅れた1930年代から40年代にかけての建築です。日差しの強い海岸ならではの華やかな彩りが加わり、映画のロケ地としてもよく利用されています。

日本国内にも当時のアール・デコ様式の建造物はいくつか残っており、その中でも雰囲気をそのまま保存しているのが東京都庭園美術館の本館です。1933年に朝香宮家の邸宅として、前述のラリックなど欧州から招いたデザイナーと、天皇家の建築に携わる宮内省の協力によって建築されました。正面玄関にあるラリックのガラス戸は必見です。

関西圏ではウィリアム・メレル・ヴォーリズ(一柳米来留)の手による建築群が有名です。大丸心斎橋店はアール・デコをベースにゴシックやアラベスクなど様々なデザインを織り交ぜた折衷様式がユニークです。2015年に建て替え工事を行ない、オリジナルのままではないものの多くの装飾を立て替え後も再利用しました。リフレッシュされて輝きに充ちた空間は、アール・デコならではの高級感を浴びることができるでしょう。

今年は1925年のアール・デコ展から100年にあたるアニバーサリーイヤー。過剰な華美さで低く見られることもありましたが、激動の時代を突き動かしたファッションの魅力は時代を超えて参照され続けています。

※UPDATE:見出しの一部を修正しました。


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ライター:Skollfang,編集:宮崎 紘輔

ライター/好奇心と探究心 Skollfang

ゲームの世界をもっと好きになる「おいしい一粒」をお届けします。

編集/タンクトップおじさん 宮崎 紘輔

Game*Spark、インサイドを運営するイードのゲームメディア及びアニメメディアの事業責任者でもあるただのニンゲン。 日本の新卒一括採用システムに反旗を翻すべく、一日18時間くらいゲームをしてアニメを見るというささやかな抵抗を6年続けていたが、親には勘当されそうになるし、バイト先の社長は逮捕されるしでインサイド編集部に無気力バイトとして転がり込む。 偶然も重なって2017年にゲームメディアの統括となり、ポジションが空位になっていたGame*Sparkの編集長的ポジションに就くも、ちょっとしたハプニングもあって2022年7月をもって編集長の席を譲る。 夢はイードのゲームメディア群を日本のゲーム業界で一目置かれる存在にすること、ゲームやアニメを自分達で出すこと(ウィザードリィでちょっと実現)、日本武道館でライブすること、グラストンベリーのヘッドライナーになること……など。

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  • スパくんのお友達 2025-06-01 20:05:16
    クリアしたら神ゲー!俺のGOTY!とまで思えたけど途中でダレて一回やめたしそんなもん
    足りない要素を特大加点要素で埋めてる神ゲー

    何より思うのはフランス文学すぎて日本人ゲーマーがこれを満場一致レベルで高評価できるわけないってこと
    1 Good
    返信
    2件の返信を表示 返信を非表示
  • スパくんのお友達 2025-06-01 13:57:58
    自分は戦闘システムもストーリーももちろん楽しめたけど、ビジュアル面やBGMにドハマリしたな。
    学生時代にアールヌーヴォーとかアールデコの企画展によく行ってたのでまた行きたくなった。
    7 Good
    返信
  • スパくんのお友達 2025-06-01 11:24:34
    このゲーム、序盤のボスで70%しか達成してないし
    自分自身やってみても評判ほど面白くなかった
    数字が全てだね
    持ち上げられ過ぎた
    2 Good
    返信
    3件の返信を表示 返信を非表示
  • スパくんのお友達 2025-06-01 10:53:08
    パリィゲーはもういいよ
    1 Good
    返信

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