
ホラーゲーム『しずかなおそうじ』が先日、8月8日にSteamにて配信開始されました。
本作の開発はストアページに「Kao Home Care Business」と堂々と表示されている通り、日用品や掃除用品でおなじみの、あの“花王”です。
ゲーム、それもホラーゲームとは一見関係の薄そうな花王が放つ“お掃除ホラー”とは何なのか。本記事では、『しずかなおそうじ』のプレイレポートをお届けします。
ホラーの緊張と、掃除による緩和
プレイヤーは父から受け継いだ古い別荘を業者に引き取ってもらうため、1日がかりの清掃を始めます。まずはキッチン周りの油汚れを「キッチンマジックリン」で落としていきます。

油汚れに覆われたコンロに右クリックでキッチンマジックリンを噴射し、左クリックでふき取っていきます。年季の入ったものであることが伺える、作りこまれた油汚れがひと手間で消えていく様に、お掃除ゲームの醍醐味を強く感じます。

最初の部屋をおなじみの商品でお掃除しながら探索を進めていくと、何やら家の中に怪物のような存在が徘徊していることが分かります。怪物は音に敏感な代わりに視覚がないのか、目の前にいても襲ってくることはありません。しっかりと距離を取りながら、「しずかに」掃除をすることが求められます。
また家の中にはテレビや電話、キッチンタイマーなど音を発するギミックが用意されており、これらを駆使して怪物を避けながら掃除を進めていきます。

汚れを落としていく中で、ときには謎の文字が出現することがあります。
手に入れた情報を活用できるギミックがどこにあるのか、掃除や怪物以外にも家の隅々まで目を光らせる必要があります。

探索中には新たな掃除用品を手に入れることもあり、対処できる汚れの種類も随時増えていきます。最初は落とせなかった汚れがいとも簡単に消えていくのはホラーゲームには似つかわしくない爽快感すら覚えます。

またゲーム内のアイテムは実際の商品であるため、汚れにアイテムを使うたびに「この種類の汚れはこの商品で落とせたのか」 「そもそも落とせる汚れだったのか」という現実世界での学びがあり、このゲームがプロモーションとしてまんまと機能していることを実感します。
そんなこんなで様々な汚れを落とし、追いかけて来る怪物に対処しながらゲームを進めていくと、その先にはプレイヤーのゲームプレイが「査定価格」という形で評価されます。

1周目では取りこぼしてしまった要素を回収するついでに、査定価格の最高記録の更新を狙う、という周回プレイへの目配せもあり、無料作品として十分に楽しむことができました。
一方で、移動中にフレームが不安定になり、自分や怪物が移動方向に急にワープしてしまう場面があったこと(※)や、セーブ機能が用意されていないため一度ゲームを終えてしまうと途中からプレイできない点が不満点として残りました。
※8/22リリースのv1.1.1にて一部の不具合は解消済み

しかし、一本の短編作品としてホラーと掃除という緊張と緩和のユニークな組み合わせは、新鮮なゲームプレイを実現しており一見の価値ある作品として成り立っています。
Steamを選んだ理由、ホラーに挑む理由、いろいろ訊いてみた!
ここからは、花王の担当者である佐々木貴悠氏と、企画・開発で協力したWhateverの飯田氏にお話を伺いました。
――まずは、花王という会社やホームケア事業についてご説明をお願いします。
佐々木:花王は1887年創業で、当初は固形石鹸の製造から始まりました。そこから時代を経て、現在は掃除用品や化粧品のほか、産業用ケミカル製品の分野でも幅広く展開しています。私たちが所属するホームケア事業は「住まいの清潔を守る」ことを使命としており、「マジックリン」「ハイター」「クイックル」などのブランドを展開しています。
――花王といえば日用品メーカーのイメージが強いですが、なぜ「ゲーム」、しかも「ホラー」を選んだのでしょうか。
佐々木:背景には若年層への認知の課題があります。従来のテレビCMだけでは十分にリーチできていないと感じており、新しいアプローチを模索していました。そんな中、ゲームはエンターテインメントを通じて楽しみながら商品を知っていただける場になると考えつきました。
ホラーを選んだ理由は二つあります。ひとつは、私たちの事業が扱う「汚れ」とホラーという世界観の親和性。もうひとつは、実況配信が盛んで、ホラーであれば配信映えし、自然に盛り上がりを作れると考えたからです。
――これまでの反響はいかがですか。
佐々木:予想以上の反響をいただいています。YouTubeでは関連動画が累計約500万回以上再生され、SNS上では「ゲームが面白い」という声に加えて「商品の新しい使い方を知った」「実際に買ってみた」というコメントも多く見られます。商品への反響も大きく、非常に嬉しく思っています。
――ゲームに登場するお掃除アイテムはどのような基準で選定されたのでしょうか。
佐々木:遊んだ後に「思わず試してみたくなる掃除知識」を自然に得られるようにするという基準です。そのため、裏ワザ的な使い方ができる商品を選びました。
具体例として「クイックルワイパー」は、床だけでなく天井を拭けるほか、折りたたんで短くすれば網戸にも使えることを紹介しました。また新商品の「EXパワー水アカ用スプレー」も登場します。水垢は落とし方が分かりにくい汚れなので、「知りたかった」と思ってもらえるよう意識しました。

――ゲームに関係のない企業さんがゲームをプロモーションに使う際、スマホやWebの簡易的なゲームを展開される印象があります。しかし今回、Steamというプラットフォームで“ガチ”なゲームに仕上げた理由は何でしょうか。
佐々木:Steamはゲーム好きが集まるプラットフォームであり、そこで配信すること自体がメディア的な価値を持つと考えました。当初はスマホ向けも検討しましたが、実況配信や「汚れを落とす爽快感」をしっかり体験してもらうには、本格的なPCゲームが必要と判断し、Steamを選びました。
――無料配信にした理由は何ですか。
佐々木:ゲーム自体で収益化する考えはなく、より多くの方にプレイしてもらい、実況や配信を通じて拡散していただくことを優先しました。そのため無料配信という形を取りました。
――挑戦的な企画だったと思いますが、実現にあたっての苦労はありましたか。
佐々木:ゲーム制作の知見が社内にはほぼなく、完全に手探りでした。Whateverさんと密に議論を重ね、なんとかローンチまでこぎつけられました。
飯田: 印象的だったのは、花王さんと一緒に「人気ホラーゲームを実際にプレイして研究する会」を行ったことです。『青鬼』『8番出口』『夜勤事件』『PIEN』などを体験し、「何が面白いのか」を一緒に議論できました。花王さんが一枚岩で学んでくださったのが大きかったと思います。
――ホラーという題材はブランドイメージへのリスクもあったと思います。議論はありましたか。
佐々木:かなり議論しました。特にスプラッター的な表現は避けることを徹底したうえで、掃除後の「気持ちよさ」「爽快感」を描くことを重視しました。舞台を日本家屋にし、汚れをリアルに描きつつも、きれいになったときのコントラストで恐怖と爽快感を両立させました。
――恐怖演出についてはどう工夫しましたか。
佐々木:舞台である日本家屋の不気味さや汚れのリアルさ、追いかけられる恐怖感で演出しました。
――制作にあたり、こだわった点はどこでしょうか。
佐々木:ホラーとしての世界観と、商品プロモーションとしての役割、この両立に最も苦心しました。汚れの質感表現やリアルな疑似体験にこだわり、スプレー音や泡の音は実際の商品の音を録音して使用しました。
――ゲームという媒体の特徴はどのような点にあると思いますか。
佐々木:個人で遊ぶだけでなく、実況配信やSNSで二次的に広がる点です。配信者が面白いと感じればどんどん拡散してくださる。実際にガッチマンさんの配信では多くのコメントで「買いたい」「ブランドに好感を持った」といった声が寄せられ、ゲームの力を実感しました。
飯田:想定以上だったのは、配信者の方々が自発的に通販番組のように商品説明を読み上げ、盛り上げてくださったことです。ナレーションを付けない判断は正解でしたね……!ここはゲームならではの化学反応でした。
――ボツになったアイデアはありますか。
佐々木:シューティングジャンルの案もありましたが、掃除の疑似体験には探索型のほうが適していると判断し、没になりました。
またタイトル案も多数検討しました。「魔寺苦林(マジックリン)」といった当て字案もありましたが、最終的に『しずかなおそうじ』に決定しました。このタイトルロゴには「かおう(花王)」の文字が綺麗になっているという隠れた遊び心を仕込んだのですが、SNSでも気づかれる方が多く驚きました。

飯田:花王さんは柔軟で遊び心のある提案を次々に取り入れてくださったので、とても楽しいチームでした。
――ゲーマー向けのやり込み要素はどのように生まれたのですか。
佐々木:弊社には知見がなかったため、Whateverさんの提案です。実際に周回プレイやスコアアタックを楽しんでいる動画も多く見られ、早い方は10分台でクリアしていて驚きました。
飯田:弊社のクリエイティブディレクターが大のゲーム好きで、特にホラーに詳しかったため、収集要素やスコアシステムなどを提案しました。花王さんが理解し、取り入れてくださいました。
――今後も花王からゲームが登場する可能性はありますか。
佐々木:今回の振り返りを踏まえて、続編や別の形でゲームを活用する可能性もあると思います。
――最後に、まだ遊んでいない方へアピールをお願いします。
佐々木:掃除をしたことがない方でも楽しめる工夫を凝らしました。掃除の爽快感とホラーのスリル、両方を味わえる作品です。プレイするだけでなく配信でも楽しんでいただき、少しでも商品に興味を持って使っていただければ嬉しいです。
Kao Home Care Businessこと、花王の放つお掃除ホラーゲーム『しずかなおそうじ』は、PC(Steam)にて無料で配信中。2026年8月7日までの期間限定配信となっていますので、ぜひお早めにプレイしてみてください。













