
ゲームで現実みたいなバイクの操作をしたいから「バイク型アーケード筐体」を作る。戦闘機で360度回転しながらの空中戦を体験させたいから「座席がグルグルと回り出す筐体を作る」。それらは、ビデオゲームが産業のなかで生み出した豪華な体験だと考えていました。
しかし冷静に考えてみれば「たとえフィクションでも、戦車・戦闘機・宇宙船の座席を模したコントローラーでゲームを全力で体験したいんだ」なんていうのは、少し間違えれば妄想狂ぎりぎりのものだったのではないでしょうか。
「東京ゲームショウ2025」関連記事はこちら!80年代や90年代に戦闘機や宇宙船を模したアーケードの大型筐体が見られたことを思い出すと、当時はまだゲームセンターがビデオゲーム技術の最前線であり、現実をシミュレーションしたゲームを作りたい思いの産物だったとも考えてしまいます。
あれから、時が過ぎました。「大型アーケード筐体を作ること」にビジネス的な興味が向けられなくなると、こうした「戦闘機や宇宙船を模した筐体」はあまり姿を見せなくなります。
かつての情熱的な欲求も、一緒に消えたのでしょうか? いいえ。そんなことはありません。人が生き続ける限り「フィクションの機械を現実でも展開したくてたまらない」という欲望は尽きません。

そして9月25日から9月28日まで開催される「東京ゲームショウ2025」で極大の誇大妄想狂のようなコントローラーを使うゲームが登場しました。それが『PVKK: 惑星防衛砲指揮官』(以下、PVKK)です。
このゲームは『Dome Keeper ドームキーパー』を生み出したドイツのBippinbitsによる新作。大企業ではなく、インディーゲームデベロッパーが採算度外視で作っただけに、インパクトも抜群。炸裂する妄想狂の力は来場者を引きよせ、周囲に人の塊が出来上がり、そのゲームプレイを一目見ようと蠢くほどになっていたのでした。
凝縮する計器類のフェティッシュ

『PVKK』のプレイヤーの目的は「バンカーから惑星防衛キャノンを操縦して、惑星外からの侵略を阻止する」というシンプルなものです。しかし、この「惑星防衛キャノンを操縦すること」に、異様なほどの作業量を要します。
それはまるで、誰でも簡単に操作できるインターフェースの機器で溢れかえるこの時代への反逆かのようです。マシンの起動から砲台の発射までのフローは複雑。現実の仕事でもこんなに複雑な作業を任されたら、まず間違いなく転職活動したくなるに決まっているのですが、ゲームであるからロマンになるのです。


『PVKK』の試遊展示は、ブースを覆う巨大なコントローラーが来場者を威圧します。あまりに大きすぎて隣のブースを圧迫さえしている。
ゲームに限らず、さまざまなコンテンツやアクティビティで「フィクションが現実になった瞬間」には独特の圧力を放つものですが、『PVKK』の場合は段違いです。膨大な計器類が密集するコントローラーはフェティッシュですらあって、なんだか見てるだけでクラクラしてくるほどでした。

ゲームをスタートして、コントローラー右側のモニターから上官からの指令が聴こえた瞬間も、フィクションが現実を侵略するような圧がありました。
上官の命令に従って計器類に触れていくのですが、これがスイッチやレバーの重みすら作りこんでいて驚かされます。なんでここまで作り込むのだろう、いったい何がここまでのコントローラーを作らせようとしたんだろうか?

ブース担当者にお話を伺うと、このコントローラーはBippinbitsが他の企業に開発してもらった特注品とのこと。どれくらいのコストなのかはブース担当者もわからないそうですが、相当な金額がかかったのは確かだそうです。
総重量は300kg。ドイツから日本まで空輸するときに、税関で「一体これは何を運んできたんだ……」と説明するのに苦労したそうです。そうでしょうね。メガロマニアの結晶ですから。僕の中では『鉄騎』が専用コントローラー界のチャンピオンの座に輝いていたのですが、2025年9月26日午後13時10分に王座が交代しました。

『PVKK: 惑星防衛砲指揮官』は2026第3四半期にSteamでのリリースを予定。TGS2025で見られたコントローラーは、本編ではすべてゲーム中のCGで格納されるとのこと。なので、このコントローラーに触れたのはかなり貴重な経験になったように思います。
とはいえ今後もゲームイベントで第2、第3の『PVKK: 惑星防衛砲指揮官』が現れるでしょう。人が生き続ける限りゲームが生まれるならば、同じように異様なコントローラーを作る情熱も燃え続けることでしょうから。
もし本作に興味を持ってTGS2025一般デーに訪れる方は、ぜひ9-11ホールのE-74に足を運んでみてください。一見の価値があります。
¥1,380
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