本記事では『バイオハザード レクイエム』の物語の内容に言及しています。
クリア後にお読みください。

科学者ってやたらと神話や聖書が好きですよね。特に生命科学に携わる人にとっては、神の領域と長年信じられてきた生物の創造に足を踏み入れているわけですから、多かれ少なかれ畏れ多さを誰もが抱いているのだと思います。特に倫理面においては、現在の自然環境=神の設計を壊す可能性を孕むため、純粋に技術追求をして破滅に至らないためのブレーキとして「神」の存在を意識する研究者もいるでしょう。『バイオハザード レクイエム』では、科学倫理に関するいくつのモチーフが織り込まれ、これまでのシリーズ作以上に暗喩的な面を持っています。

蛇
『レクイエム』の悪役ヴィクター・ギデオンは蛇皮のジャケットに蛇の指輪を持ち、とても分かりやすい「蛇」モチーフのキャラクターです。蛇は脱皮を繰り返すことから再生、まやは「死」と「復活」象徴とされます。錬金術の究極目的である不死をもたらすという「賢者の石」は、尾を噛んで環状になった蛇「ウロボロス」で表わされることがあり、究極性や完全性と紐付きます。ヴィクターといえば「フランケンシュタイン:現代のプロメテウス」ですし、そのあたりの要素を織り交ぜた人物といえるでしょう。
キリスト教では旧約聖書に由来する負のイメージがついて回ります。神に造られたエデンの園で、蛇は無垢の人間に禁忌の知恵を食べさせ、神に背き原罪を背負う原因になりました。
そこで蛇は女に言った。「あなたがたは決して死にません。あなたがたがそれを食べるその時、あなたがたの目が開け、あなたがたが神のようになり、善悪を知るようになることを神は知っているのです。」(創世記 3:4~5)
神である主は蛇に仰せられた。「おまえが、こんな事をしたので、おまえは、あらゆる家畜、あらゆる野の獣よりものろわれる。おまえは、一生、腹ばいで歩き、ちりを食べなければならない。」(創世記 3:14)
医学において「蛇」は医術の神アスクレピオスと関連し、現代の医学界でシンボルに使われる「アスクレピオスの杖」「ヒュギエイアの杯」に描かれます。人間の自然状態に逆らって寿命を延ばす医術はある意味「禁断の果実」を扱っているのと同義で、倫理に関する議論は避けて通れません。
実のところ細胞レベルでは「不死」の人間は存在していて、「HeLa細胞」は倫理的問題を抱えながらも医学の発展に大きく寄与してきました。詳しくは長くなるので割愛しますが、バイオテクノロジーにおける重要な問題なので興味のある方は調べてみてください。

ARK
「Ark」という言葉自体は、ラテン語の箱や収蔵庫を表わす「Arca」から来ており、キリスト教文脈では主に聖遺物を収めた入れ物を意味します。「Ark」の単語一つだけでは何を意味するのか確定はできませんが、おおよそ示されるのは「Ark of the Covenant」「Noah's Ark」の2つです。どちらも旧約聖書の出来事に由来します。
「契約の箱」(Ark of the Covenant)はモーセが神から授かった十戒の石版を納めるために、神の指図に従って人間が作った箱です。
アカシヤ材の箱を作らなければならない。(中略)これに純金をかぶせる。それは、その内側と外側とにかぶせなければならない。(中略)四つの金の環を鋳造し、それをその四隅の基部に取り付ける。(中略)アカシヤ材で棒をつくり、それを金でかぶせる。その棒は、箱をかつぐために、箱の両側にある環に通す。(中略)わたしがあたえるさとしをその箱に納める。(出エジプト記 25:10~16)
この契約の箱は古代エルサレムの崩壊と共に行方不明となり、伝説の秘宝「The Lost Ark」として今も探し続けられています。もう一つの「ノアの方舟」(Noah's Ark)は日本でも有名な説話ですね。いずれ起きる大洪水に備え、動物のつがいを乗せて復活の時に備える大船です。現代でも同じ発想で保存施設がいくつも造られており、北極圏のスピッツベルゲン島にある有名なスヴァールバル世界種子貯蔵庫のほか、日本国内でも国立環境研究所がプロジェクトを進めています。ARKの「創造主」たるスペンサーは果たしてどちらの意味を意図していたのでしょうか?

パンドラの壺
あれ、箱じゃないの?と思ったそこのあなた。実はギリシャ語では「箱」じゃないんです。後世にラテン語で紹介されるときに間違えてしまったようで、本来は抱えられる程度の小さな壺のイメージです。「箱」と訳されたことで「ARK」と重なるようなイメージが広がりました。

パンドラの神話の前に、その原因になったプロメテウスの話をおさらいしましょう。ギリシャ神話において人間の起源は定かではありませんが、主神ゼウスは進歩していく人間族のことを嫌っており、あるとき人間から火の利用を取り上げてしまいました。それを哀れんだプロメテウスはゼウスから火を盗み人間へ届けます。すると人間の社会は驚くほど急速に発展していきました。
それを快く思わないゼウスはその仕返しとして、人間に混乱をもたらす「女性」を土から造らせて遣わしました(パンドラの名が無いバリエーションもあり)。神々から様々な才と美徳を与えられたパンドラは「決して開けるな」と念を押された壺(瓶)を手に人間界に行き、プロメテウスの弟エピメテウスと結婚しました。しかしパンドラはどうしても壺の中身が気になってしまい、禁を破って壺の中を覗いてしまいます。

すると、神々が仕掛けていた悪意の罠により、壺の中から様々な災厄が人間界へと飛び出していきました。パンドラは慌てて蓋を閉めましたが、最後に残っていたのは「エルピス」(希望、予兆)だけ。こうして人間は七難八苦に満ちた世界で生きなければならなくなったのです。それでもエルピスを手に強く生き抜くことができている。それが「パンドラ」の話の大筋です。注目したいのは、「壺」を開ける女性パンドラが神に造られた存在であること。『レクイエム』をクリアした人ならもうお分かりですよね?

物語の最後で投げかけられる問い、「創造主は何を望む?」。スペンサーは何を望むのか、それとも「神」は何を望むのか。あなたはどちらを選びましたか?













