2026年3月20日~21日の2日間、高円寺にて「TOKYO INDIE GAMES SUMMIT 2026」が開催されました。数多くのインディーゲームの試遊はもちろんイベントステージやTOKYO INDIE GAMES SUMMIT AWARD 2026の発表など大盛り上がりの二日間でした!
本記事では、PHOSEPOが開発する『病能探偵 Psycho-Sleuth』を現地で遊ばせていただいたプレイレポート、及びプロデューサーのAlex Lu氏にお答えいただいたインタビューをお届けいたします。
見えているのに信じられない?病能に支配される謎解き体験

本作はその名の通り、自らの「病」を「能力」として駆使しながら真犯人を暴いていくミステリーADVです。
舞台は、ある日突如として台頭した宗教「理教」が支配する世界。主人公たちは神の候補者として、理教本部で行われる「選抜」と呼ばれるデスゲームに参加させられることになります。


主人公のライルが持つ病能は「共感覚」です。音に色が見えたり、匂いに形を感じたりするなど、現実に極めて近い幻を生み出してしまいます。
この能力は他者にだけ影響するものではなく、ライル自身もまた、現実と区別のつかない幻に苦しむことになります。
そんなライルと対をなす存在が、妹のレナです。彼女は「嘘がつけない」という病能を持ち、二人はこのデスゲームで生き残るために奮闘していきます。

選抜の方法は、いわゆる「人狼ゲーム」をベースとしたものです。参加者にはそれぞれ役職がランダムに割り振られ、その役割に応じた行動や立ち回りが求められます。
プレイヤーは互いに疑い合いながら、限られた情報をもとに推理と駆け引きを繰り返していくことになります。
このゲームにおいて最も重要なのは「役職を見破られずに生き残ること」です。人狼はバレることなく村人を襲い、市民は人狼の魔の手から生き残らなければなりません。そして、13人の中で最後まで生き残った者は神として認められ、どんな願いでも叶えられるとされています。


探索パートでは、閉じ込められた室内を調べながら、不審な点や証拠を調査していきます。ただし、目に見えているものが必ずしも真実を映し出しているとは限りません。
本作は認知を歪める能力を持つ者たちによるデスゲームであるため、得られる情報そのものが信用できない可能性もあります。そうした点も踏まえ、違和感を手がかりに推理を組み立てていくことが求められます。


議論パートでは、これまでに集めた証拠を手がかりに、相手の発言に潜む矛盾を暴いていきます。体験版ではHPや制限時間に余裕があるため、じっくりと考えながら推理を進めることが可能です。ただし、骨太な謎解きも用意されているため、慎重に思考を巡らせる必要があります。
その後には、犯人に裁きが下されるシーンも用意されています。見応えのあるアニメーションは美しくも衝撃的で、強く印象に残る演出となっていました。
今回試遊した第1章は、現在デモ版としてSteamにて配布されています。気になった方は、ぜひ実際にプレイしてその魅力を体験してみてください。
認知の歪みとフェアな推理の両立を目指して
本作のプロデューサーであるAlex Lu氏(以下、Lu)に書面によるインタビューにお答えいただきました。
――今作の開発経緯を教えてください
Lu:『病能探偵』の出発点にあったのは、私たち自身がミステリーゲームというジャンルを心から愛している、ということでした。
ただその一方で、近年の推理ゲームは物語やキャラクターの魅力がますます強くなっている反面、「推理そのもの」と「ゲームシステム」が深く結びついた作品は、まだそれほど多くないとも感じていました。
そこで本作では、単に殺人事件を描くテキストアドベンチャーではなく、「認知そのものが真実を揺るがす」推理ゲームを目指しました。
『病能探偵』の核にあるのは、登場人物それぞれの異常な認知のあり方を、そのまま推理のルールに組み込んでしまう、という発想です。
この世界では、証言がそのまま信用できるとは限りません。目撃情報も、必ずしも客観的な真実ではありません。さらに言えば、画面上で「見えるもの」と「見えないもの」ですら、キャラクターの病能によって左右されます。
こうした構造によって、本作の事件は単なる犯人探しではなく、「その人物には、そもそも世界がどう見えていたのか」を考える推理へと変わっていきます。
開発過程では、物語・システム・演出のバランスを何度も見直してきました。ビジュアルノベルとしての没入感を保ちながら、本当に考える楽しさのある推理体験に仕上げることは小規模なインディーチームである私たちにとって、非常に大きな挑戦でした。それでも、その難しさこそが本作を形作っている大切な部分だと感じています。
――シナリオの注目ポイントはどこですか。
Lu:本作のストーリーにおける最大の特徴は、「特殊能力」を単なる派手な設定として扱っていない点にあると考えています。各キャラクターの認知の歪みそのものが、物語の進行や事件の構造に直接関わっていること。それが本作ならではの魅力です。
舞台となるのは、十三人の"神の種"が集められた、残酷な「成神選抜」の場。それぞれが異なる異常認知を抱えたまま、閉ざされた空間で疑い合い、追い詰められ、ときには命を奪い合います。
この設定自体にも強いドラマ性がありますが、私たちが本当に描きたかったのは、「全員が同じ世界を見ているわけではない状況で、真実はどう成立するのか」という問いでした。
だからこそ『病能探偵』の面白さは、どんでん返しや伏線回収だけにとどまりません。プレイヤーは少しずつ、登場人物たちが単に真実を隠しているのではなく、それぞれ本当に異なる世界の中で生きているのだと気づいていきます。
事件の解決とは、単なる論理の突破ではなく、その人物の過去や心のあり方やその人がどのように世界を理解していたのかに触れていくことでもあります。
最大の見どころをひとつ挙げるなら、「キャラクターの痛み」「世界観の残酷さ」「推理の快感」、この三つがひとつに結びついているところだと思います。プレイヤーは謎を解くだけでなく、なぜこの人たちが今ここにいるのか、その理由を少しずつ知っていくことになります。
――イベントにて試遊させていただきましたが、とても個性的なキャラの面々で思わずどのキャラにも感情移入してしまいました。キャラクターへのこだわりを教えていただきたいです。
Lu:そう感じていただけたこと、本当に嬉しく思います。
キャラクター設計において私たちが最も大切にしているのは、「ある症状や属性そのもの」をキャラクター化するのではなく、「もし本当にこのような認知で世界を見ていたら、その人はどう生き、どう他者と関わるのか」を考えることです。
つまり、最初に「こういう症状のキャラクターを作ろう」と決めて設定を貼り付けるのではなく、「この人には世界がどう見えているのか」というところから人物像を組み立てています。
顔を正しく認識できない人もいれば、視界の一部を見落としてしまう人もいる。秩序や真実、人との距離感を極端に歪んだ形で捉えている人もいます。しかしそれらは単なる能力設定ではなく、その人の性格や話し方、人との距離の取り方、極限状態での選択にまで深く影響しています。
また、私たちはキャラクターを「奇抜さ」だけで成立させたくありませんでした。人の心に残るのは、強烈な設定そのものよりも、その人物の孤独や執着、矛盾、願いに触れた瞬間だと思っています。
『病能探偵』の登場人物たちは一見すると極端で強い個性を持っていますが、プレイヤーに「この人たちは怪物ではなく、それぞれ理解されにくい現実を抱えて生きている人間なのだ」と感じてもらえたら、それに勝る喜びはありません。
――『精神疾患』というテーマを扱う上で注意した部分などありますか?
Lu:これは制作の中でも、特に慎重に向き合ってきたテーマのひとつです。
まず大前提として、私たちはメンタルヘルスや精神疾患を、単なるショッキングな演出や恐怖の装飾として扱いたくありませんでした。それらをそのまま「危険」「狂気」「悪」と短絡的に結びつける表現は、誤解や傷つきを生みやすいものだと考えています。
『病能探偵』が描こうとしているのは、診断名そのものというより、「他者と同じ世界を共有できないとき、人は何を抱えるのか」ということです。本作では、異常な認知のあり方が"病能"として可視化され、推理可能なルールとして現れます。しかしその根底にあるのは、理解されにくさ、すれ違い、誤認、孤独、そして他者と完全には分かり合えないという人間の根源的な問題です。
最も難しかったのは、強いドラマ性と敬意のバランスでした。ゲームである以上、鮮烈な設定や激しい対立は必要ですし、物語として成立させるためには一定の誇張も避けられません。その一方で、キャラクターが単なる機能的な記号になってしまわないよう、常に気を配ってきました。
だからこそ私たちは、それぞれのキャラクターに、病能だけでは説明しきれない感情の流れや人生の背景を持たせることを大切にしています。最終的にプレイヤーの心に届いてほしいのは、能力の奇抜さではなく、その人がどのように傷つき、どのように生きようとしていたか、という部分です。
――謎解きやシステムの面で苦労したところを教えてください。
Lu:最も苦労したのは、「認知の歪み」を推理システムの一部として本当に機能させながら、プレイヤーにとって納得感のあるフェアな体験にすることでした。
キャラクターの病能が証言や手がかり、さらには画面の見え方にまで影響を与える以上、一歩間違えると「都合よく情報が隠されていただけ」と受け取られかねません。そうなれば、推理ゲームとしての面白さは大きく損なわれてしまいます。
そのため私たちは、「ミスリードされたあとで振り返っても、すべてに筋が通っている」と感じられる構造づくりに力を注いできました。真相が後出しに見えるのではなく、最初から必要な情報はすでにそこにあったとプレイヤー自身がそう気づけるようにしたかったのです。ただし、その情報がどう見えていたか、どう解釈されたかは、視点や立場や認知の違いによって大きく変わる。このバランスを成立させるには、シナリオ上の伏線、演出のテンポ、UIの見せ方、病能のルール整合性まで含めた細かい調整が不可欠でした。
もうひとつの大きな挑戦は、「推理そのものに緊張感を持たせること」です。『病能探偵』では、ただ静かに答えを読むのではなく、重要な局面でまるで戦うように矛盾を突き、言葉をぶつけ合う感覚を目指しました。そのために攻防のあるディベートシステムを設計し、プレイヤーがプレッシャーの中で論点を見抜き、嘘や綻びを撃ち抜くような体験を実現しようとしています。
この「戦うような推理感」こそ、本作のシステム的な核のひとつだと考えています。
――今後の展開について教えてください。
Lu:現在、私たちにとって最も大切なのは、まず『病能探偵』を最後までしっかりと完成させることです。この作品は、メインストーリーを作り切ればよいというものではなく、物語の密度、推理の完成度、キャラクターの魅力、演出の説得力まで含めて、プレイヤーの心に深く残る一本にしたいと考えています。
今後は引き続き後半章の制作を進めながら、全体のクオリティアップにも力を入れていきます。とくに重要な場面での演出強化やアニメーション表現、キャラクターの見せ方の磨き込みなどを通して、正式版ではより深くこの世界に没入していただける形を目指しています。
『病能探偵』は物語が進むほど全体像が見えてくる作品でもあるので、後半に向かうにつれて、より強い驚きと感情の揺さぶりを届けられるようにしたいですね。
また、私たちは海外のプレイヤーの皆さま、とくに日本からいただいている反応をとても大切にしています。日本のプレイヤーさん、配信者さん、メディアの皆さまから多くの温かい声をいただき、それが大きな励みになってきました。今後もより多くの方に本作を届けられるよう、さまざまな形で挑戦を続けていきたいと考えています。
――最後にコメントやメッセージを頂戴したいです。
Lu:Game*Sparkの読者の皆さま、そして『病能探偵』に関心を寄せてくださっているすべての方に、心から感謝申し上げます。
インディーゲームの小さなチームにとって、ひとつひとつの試遊やご感想、そして少しでも作品に目を留めてくださることは、決して当たり前のことではありません。そうした出会いの積み重ねがあるからこそ、私たちはこの作品を作り続けることができています。
『病能探偵』は、嘘、認知、孤独、そして理解をめぐる物語です。表面上は過酷なデスゲーム型ミステリーでありながら、私たちが本当に描きたいのは、「人は完全には分かり合えないとしても、それでもなお相手に手を伸ばそうとする」という、人間の不器用さと切実さです。
もしこの作品を体験された方が、事件の真相だけでなく、あるキャラクターの痛みや、心に残る台詞、あるいはご自身の感情が揺さぶられた瞬間を覚えていてくださったならそれは私たちにとって、何よりの喜びです。
今後も『病能探偵』をより良い形でお届けできるよう、チーム一同、丁寧に開発を続けてまいります。これからも温かく見守っていただけましたら幸いです。
――ありがとうございました!
『病能探偵 Psycho-Sleuth』は、PC(Steam)2026年リリース予定です。











