
ゲームを買うとき、私たちはジャケットを見るのが普通だと思います。
箱の絵、説明書、帯、チラシ、ハガキ、パッケージの状態。中古ショップでソフトを手に取るときも、ネットで昔のゲームを調べるときも、まず目に入るのは外側のビジュアルです。ゲームの思い出を語るときも、パッケージアートやタイトルロゴが話題になることは少なくありません。
しかし、ケースを開けたその奥にも、もうひとつのデザインがあります。「ディスク盤面」です。
PS1やPS2など、90年代~00年代のゲームには、独特のセンスが詰まった、目を見張るべきディスクが存在するのです。
そんなディスク盤面の魅力を蒐集・紹介しているのが、アーティスト/ゲームクリエイターのBaiyon氏によるInstagramアカウント「Gamedisc Beauty」です。本稿ではBaiyon氏に、「ディスク盤面」という物理メディアでしか味わえない媒体に宿る魅力について訊きました。
盤面デザインは“クリエイターの秘め事”
――自己紹介をお願いします。
Baiyon:マルチメディアアーティストのBaiyonです。長年、音楽やアート、グラフィックなどの表現活動を続けながら、ゲーム制作にも取り組んでいて、昨年に最新ディレクションタイトルの『Dreams of Another』(Q-Games)をPS5/PSVR2/Steam向けにリリースしました。
――Gamedisc Beautyの活動内容を教えてください。
Baiyon:ゲームコレクターの方は様々なやり方でコレクションを共有しているのですが、このアカウントはその中でも、「ゲームのディスク」部分だけにフォーカスしています。自分のコレクションを通じて、自分から見えているゲームの捉え方を人に共有できないかなと思い、始めました。
――投稿するディスクはどんな基準で選んでいますか。拝見する限り、初代PS作品が多いですよね。
Baiyon:まず一番大きいのは、思春期に直撃した世代ということもあり、やっぱりPS1が好きだということだと思います。
ただ、もともと資料として集めようとか、コレクションしようと思っていたわけではなくて、あくまでプレーするために買っていました。 最初のコレクションは、たしかファミコンやスーパーファミコンの裸のカセットあたりから始まっていて、気づけば、そこからいろいろ集めるようになっていました。
その中でプレイステーションのソフトもいろいろ集めているんですけど、やっぱりPS1やPS2って、変なものがすごく多いんですよ。掘っても掘っても、まだ変なものが出てくる。そういう面白さがあって、結果的にPS1のものが多くなっていった、という感じですね。
――コレクター的な側面もあるのですね。ゲーム集めへの情熱はどういったところにありますか。
Baiyon:もともとゲームが好きという大前提はあるんですけど、自分はDJでもありますし、レコードも自然と集まっていきます。自分自身でもレーベルを運営してレコードやCDを作ってきましたし、他のレーベルからもリリースしてきました。そのほかにも服など、いろいろなものを作ってきました。もちろん、自分が関わったゲームも、物として残る形でいろいろ世に出ています。だから、レコードもそうですし、本なんかも含めて、そもそも“物を集める”こと自体が好きなんです。情報だけじゃなくて、デザインや素材、細かなディテールも含めた、物としての存在に惹かれるところがあるんですよね。
このコレクションについてひとつ補足すると、実はディスクだけを買っているわけでは全然ないんです。ジャケットなども含めて、ちゃんと一式で買った上で、その中からディスクだけを見せる形にしています。
とはいえ、帯やハガキが付いている完品かどうかまで、ものすごく細かくこだわっているわけではありません。ただ、それなりに状態のいいものがあれば欲しいな、くらいの感覚で集めていった結果、コレクションがどんどん膨れ上がっていった、という感じですね。
――かなり綺麗に写っていますが、どういった機材や環境で撮影しているのですか。
Baiyon:撮影は、特別な機材を使っていたわけではなくて、本当に普通の安い撮影ボックスを使っています。通販の商品撮影などで使う、白い背景布と照明がセットになった簡単なものですね。撮影はiPhoneを使っています。
ディスクの画像については、スキャナーで取り込むこともできたと思うんですけど、今思い返すと、それはあまりやりたくなかったんです。理由はいくつかあって、まずスキャンだと“物”としての存在感が薄れてしまう気がしたんです。ディスクがガラス面にぴったりくっつくので、空間や立体感がなくなってしまう。
それに、スキャナーだと印刷の粒子や網点のようなものが見えすぎてしまうのではないか、という懸念もありました。なので、ディスクからある程度距離を取って撮影しています。
ディスクを固定するスタンドは自作しました。金属のL字型のブックエンドに、CDケースに付いているディスクを固定する中央の丸いパーツを取り付けて作りました。自分は運営する音楽レーベルでCDも作っていたので、CDケースのディスク固定用パーツだけが単体で売られていることを知っていて、それを流用しました。
――ゲーム紹介やコレクションの発信では、内容そのものやジャケットの絵に注目することが多いと思います。あえてディスク盤面のデザインに注目した理由は何だったのでしょうか。
Baiyon:ゲームコレクターとして何か発信したいという気持ちはあったんです。ただ、ゲームコレクションをしている人は本当にたくさんいるので、みんなと同じことをしても仕方がない。また、どれだけ持っているかという数の勝負になると、上には上がいます。だからこそ、自分なりの方向性を出せないかな、という思いがまずありました。
ジャケットを見せるだけなら、もうみんな知っていますし、検索すれば当然出てきますよね。そんな中で、実際にゲームを遊んでディスクを出し入れしていると、「このゲームのディスクって面白いな」とか、「意外と想像と違うデザインなんだな」と思うことが結構あったんです。
そのときに、ディスク盤面だけを見せるということが、もしかしたら成立するかもしれないと思いました。しかも、それはゲームの内容そのものではないじゃないですか。だからこそ、デザインという要素を切り離して見ることができる。そこから「どんなゲームなんだろう」と内容を想像する楽しさもあると思ったんです。そういう余白があること自体が、自分の考えるゲームの魅力にもつながっている気がしました。
ディスクは買うときには基本的に見えないものなんですよね。つまり、購入するかどうかの判断には、ほとんど影響しない。だからこそ、そこにはある種の“クリエイターの秘め事”のような良さがあるなと思いました。
作る側からすると、ディスク盤面は、パッケージの中に残された余白のような部分だったのではないかと思うんです。本当に好きな人が開けたときに喜んでもらうためのものかもしれないし、あるいはもっと内向きに、自分なりの何かを閉じ込めようとしたものかもしれない。そう考えると、ゲームというパッケージの中でも、少し特殊な場所なのかなと感じます。結果論ではありますが、売上に直接影響しない場所に目を向けたというのは、すごく自分らしい視点だなと思っています。
ビジネスの中にも、実はそういう余白が眠っている。そのことを暗に示せる部分もあるのかなと。一方で、ディスクは量産物であり、製品でもあります。だから当然、印刷コストや技術的な制約もあるわけです。その制約の中で生まれているデザインだからこそ、面白さがいろいろとない交ぜになっているんです。
――広告やパッケージとは、また違う魅力があるということですね。
Baiyon:そうですね。さっき“秘め事”と言いましたけど、本当にそんな気がするんです。
もし自分がディスク盤面をデザインする側だったら、やっぱり手に取った人に喜んでもらいたいし、驚いてもらいたいと思うはずなんですよね。ケースを開けた瞬間に、「おっ」と思ってもらえるような、購入した人だけが味わえる小さなワクワクを仕込んでおきたい。自分はCDのデザインもやっていたので、もともとディスク盤面を“遊ぶ場所”として捉えていたところがあります。
パッケージゲームを構成する要素の中で、そういう役割を担える場所って、あまりないと思うんです。 たとえばマニュアルには、最低限の機能が求められますよね。ゲームの説明や、世界観を伝える役割もある。一方でディスク盤面は――当時の現場にいたわけではないので断言はできませんが――比較的自由度のある場所だったのではないかと想像しています。
そうやって、このディスク盤面が生まれた背景に思いを巡らせながら眺めるだけでも、すごく楽しめるんです。
盤面も内容も奇妙なPS1のゲームたち
――ちなみに、一番最初に投稿したディスクは何だったのでしょうか。
Baiyon:一番最初は、『イズ ~インターナル・セクション~』ですね。アイコンにもしている、ピンク色のディスクです。
『イズ ~インターナル・セクション~』はスクウェア・エニックス……当時でいうスクウェアのシューティングゲームで、少しテクノっぽい雰囲気のある作品です。ゲーム自体は、そこまで広く知られているタイトルではないかもしれません。
ただ、ディスクは色がかなりパキッとしていて、綺麗で気持ちいいんですよね。いいなと思って最初に投稿しました。
特に好きなのが、不透明な赤と、透明感のあるピンクの組み合わせです。CDの盤面印刷は、白を下地にすることで色をしっかり発色させることもできますし、あえて白を敷かずにディスクの反射を透かして見せることもできます。このディスクは、その透明・不透明のコントラストが綺麗なんです。
しかも絵柄自体も、ベクターグラフィックのようなシャープなデザインになっていて、そのフラットな質感とシルクスクリーン印刷の相性がすごくいい。盤面というメディアだからこそ成立している美しさだと思います。
――投稿した中で、特に完成度が高いと感じるものはありますか。
Baiyon:“完成度”という言葉はなかなか難しいんですけど、ディスクには本当にいろいろなタイプがあって、それぞれ違うアプローチを見せてくれるんです。
ゲーム中のビジュアルを生かしたものもあれば、盤面のために新たにデザインされたものもある。テーマカラーを軸にしたものもあれば、ディスクの反射や、円形という形を生かしたものもあって、本当にアプローチが幅広いんです。
ただ、今でもかなり記憶に残っているものを挙げるなら、『serial experiments lain』です。あのディスクは、投稿したときの反応も結構大きかったんですよね。タイトル自体の人気もありますし、カルト的な存在でもあります。
でも、そもそもディスク盤面のデザインだけにフォーカスされる機会って、あまりなかったと思うんです。なので、あのディスクを初めて見た人も多かったんじゃないかな、という気がしています。
――ゲームが紹介されるときは、やはりジャケットが中心になることが多いですよね。
Baiyon:そうですね。店頭で見えるのは基本的にジャケットなので、当然そうなると思います。ただ、だからこそディスク盤面に注目するという、この「Gamedisc Beauty」の視点の面白さがあるんじゃないかなと。
――『serial experiments lain』のディスクは、どのようなところが印象的なのでしょうか。
Baiyon:デザイン自体は、すごくシンプルなんですよ。ただ、ディスクを何か別のものに見立てるというよりも、ディスクという物体そのものが持っている性質を、デザインに取り入れている感じがあるんです。
具体的には、ディスク面を触ってしまったときにつく指紋のようなものがデザインとして入っているんですよね。さらにディスク2では、その指紋の部分に少し血が滲んでいる。あれが、すごく『lain』らしいなと思います。
人の記憶や気配、言葉にしづらい何かを、ああいう地味な形でディスクデザインの中に入れているのが面白いんです。パッと見ただけでは、何も思わないかもしれない。下手をすると、ディスクだけがワゴンセールに入っていたら、知らない人は見過ごしてしまうくらい地味なデザインだと思います。
でも、知っている人が見たら「うわっ」となる。そのくらい渋いデザインなんですよね。そういう意味でも、かなり好きなディスクです。
――作品自体については、どのように感じていますか。
Baiyon:『lain』は、アニメ作品、そしてこのゲーム作品もとても好きですね。あの空気感が、思春期の頃の世界の見え方にすごく近いんですよね。
自分という存在と、それ以外の世界とのあいだに、同じ現実を共有していないような感覚がある。 世界の中にいるはずなのに、どこか一人だけ遠くから眺めているような感覚があるんです。現実は目の前にあるのに、 自分だけがそこに属していないような感覚がある。そして、その世界は自分のことなんか気にも留めていないように感じるんです。そういうものを、ずっと感じさせる作品だと思います。
ディスクの話からは少し離れてしまいますが、そういう部分も含めてすごく好きなんです。「これはゲームなのか」と言われてしまうような内容であるところも、また好きですね。
あれはある意味、“呪いのディスク”のようなものを意図的に作っている作品だと思います。そういう感覚は、今ではなかなか難しいかもしれません。しかも、ディスクという物理メディアだからこそ成立していた部分も大きいと思うんです。『lain』という存在自体が、当時はひとつのディスクの中に閉じ込められていたような感覚があるんですよね。そしてその同じ存在がいくつも複製され、ウイルスやネットワークのように広がっていく。今考えると、作品の内容とも重なっていて、少し気味の悪さすら感じます。
そして面白いのは、今ではその存在のあり方自体が進化しているところですよね。
今の『lain』は権利を開放する取り組みなどもあり、二次創作のような方向にも広がっていますよね。かつてディスクの中に閉じ込められていた存在が、今はネットワークの中で別の形に広がっている。その広がり方自体が、ある意味『lain』らしいなと思うんです。そういう存在のあり方まで含めて、『lain』という作品なんだなと思います。
――完成度や話題性は抜きにして、ご自身が特に好きなディスクはありますか。
Baiyon:どうなんでしょうね。好きなものはたくさんありますけど……逆に、どれが好きですか?
――私は『UFO -A day in the life-』が好きです。
Baiyon:いいですよね。『UFO』は、ディスクのデザインが映画のフィルムケースみたいになっているんですよね。ラブデリックや、その周辺の作品は、結構好きで投稿していますね。 PSではないですけど、『L.O.L.: Lack of Love』のディスクも渋くて好きですね。
『L.O.L.』は、坂本龍一さんが音楽を手がけているので、ゲームのディスク面にその名前が書かれているのも、個人的にはぐっときます。デザイン的にもすごくクリーンな感じで、かなりいいなと思います。
他に今までに投稿したもので、目に入ったものを挙げていくなら……『眠ル繭』も結構好きですね。かなりマニアックな作品だと思うんですけど、ディスクは緑と黒を基調にした、梵字のような文字が使われたデザインで、独特の雰囲気があるんです。
ゲーム自体は、ダンジョンRPGのような作品ですね。写真家の所幸則さんがビジュアルやゲームデザインに関わっているそうなのですが、内容はかなりサイケデリックで、何が起きているのか全然わからない(笑)。もう、うわーっとやられる感じがあるんです。ゲーム自体は極彩色という印象なので、ディスクの渋さとのギャップも面白いですね。
それから、『ルシファード』も好きです。これはティー・イー・エヌ研究所という、パチンコゲームを多く作っていた会社の作品です。僕も会社の実情まではわからないんですけど、この会社はたくさんのパチンコゲーム以外にも、かなり変わったゲームをいくつか出しているんですよ。そのひとつが『ルシファード』です。
内容としては、アドベンチャー風の雰囲気を持った作品で、5つの異なる話が用意されていて、その中から自由に選んで遊ぶ形式なんです。選択によって展開が変わっていくゲームですね。
たとえば宇宙船のような場所でパンデミックのようなことが起きる話では、自分は限られた数のワクチンを持っていて、 周りの人たちがみんな「助けてくれ」と言ってくる。でも、全員を助けることはできない。誰を助けるかは自分で決めなければならない。たとえば恋人のような人物が「助けて」と言ってきても、無視すればそのまま死んでしまう。
しかもこのゲームはかなり極端で、一度選んだら基本的に戻れないんです。だから、どうすればいいのか本当にわからなくなってくる。誰を助ければいいのか、自分でも判断できなくなるような、どうしようもない決断を迫られるゲームなんです。
僕はこのゲームが大好きなんですが、あまり知られていません。最近は値段も上がってきているので、評価されるのは嬉しいんですけど、ひっそり存在していた頃の感じも好きでしたね(笑)。PS1の中では、かなり好きな作品のひとつです。
ただ、ジャンルで言うと、実はこれは性格診断ゲームなんです。プレイヤーが「誰を助けるか」「自分ならどうするか」といった選択をしていくと、最後に「あなたはこういうタイプです」という結果が出てくる。でも、性格診断ゲームだからこそ、普通のゲームではなかなかありえないような極端な選択ばかりを迫られるんです。恋人を助けるのか、それとも自分を助けるのか。そういう道徳観や倫理観を問われるような選択ばかりなんですよね。しかも、一度選んだらもう戻れない。
考えてみると、あれだけ極端で、正解のない選択ばかりを性格診断ゲームとして成立させたという発想自体が、本当に面白いんです。
正直、診断結果は何を言っているのかよくわからないので、そこはあまり気にしていません。それよりも、途中の選択肢でヒリヒリする感覚が楽しいんです。
このゲームは性格診断という形式だからこそ結末をひとつに収束させる必要がないんです。さらに、いくつかの短い話が独立しているので、普通のゲームみたいに主人公をストーリー上「生かしておく」必要がないんです。
だからこそ、普通のゲームではなかなか描けないような、誰かを犠牲にして自分だけが自由になる結末や、逆に自分が一生投獄されることで誰かを自由にするような、両極端な運命を同じ作品の中で描くことができる。そういう発想がすごく面白いんですよね。
そういう極端なゲーム内容を考えると、このディスクのデザインもすごく面白いんですよね。 よく見ると、インドの文字のような不思議なフォントに見えるんですが、実際には英語で「TRUST」や「DOUBT」、「JOY」といった、人間の感情や内面に関わるような単語がいくつも入っているんですよ。しかも、よく見ると右脳の部分にだけそうした言葉が配置されていて、左脳には文字がない。そのバランスも含めて、すごく意味深なデザインだなと思います。
同じティー・イー・エヌ研究所の作品でいうと、もう一つ投稿している『パチパチサーガ』もあります。これもかなりいかれているゲームです。
ゲーム内ではパチンコ玉が通貨のような扱いになっていて、各地にある大きなパチンコ場のような場所で玉を稼ぎながら旅をしていく、という内容です。ビジュアルもかなり独特で、バンド・デシネのような、わけのわからない世界観があります。
ぱっと見ただけでは、ディスク自体はそこまで強烈には見えないかもしれません。でも、ゲームを遊んだあとに見ると、『パチパチサーガ』という文字の中に入っているよくわからない模様などが、急にぐっと来るんです。そういう、遊んだあとで見え方が変わるタイプのディスクでもありますね。
このゲームは、舞台設定もかなり変わっています。劇場のような場所があって、その中のスクリーンでRPGの物語が進んでいくんです。さらに、そのスクリーンの手前の舞台に別のキャラクターが出てきて、もう一段メタな寸劇が始まる。ゲーム画面が流れている舞台の上で、さらに誰かが演じているような構造なんですよ。
本当に、どうやって作られたのか全然わからないので、かなり知りたいんですけど、情報がもうほとんどないんですよね。ここに限らず、PS1のゲームを掘っていくと、あまり知られていない変な会社や、変な作品がたくさん出てくるんですよね。
たとえば、“シナジー幾何学”ってわかります?
――いや、わからないです。
Baiyon:もう名前からしてすごいじゃないですか。シナジー幾何学って何? という(笑)。
僕の好きな会社というか、ここもすごく面白いところなんですよ。ゲームだけではなくて、CGや映像、出版物など、いろいろな形で作品を展開していた会社なんです。
『イエロー・ブリック・ロード』というゲームを出しているところでもあるんですけど、これもめちゃくちゃ好きなんですよ。ただ、ディスクとしてはそこまでぐっと来なかったので、まだ投稿していません。でも、ゲーム自体は本当に馬鹿馬鹿しくて面白いです。
ひとつ投稿しているのは『ガジェット パスト・アス・フューチャー』ですね。4枚組のディスクで、それぞれ青や赤など色が異なっていて、円形のディスクそのものを車輪に見立てたようなデザインになっています。しかも、1枚ごとに車輪の形状やデザインも違っていて、今でいうとちょっとサイバーパンク的というか、これもめちゃくちゃいいです。
『ガジェット』は庄野晴彦さんというCGアーティストの方が作ったゲームです。もともと『Alice』や『L-ZONE』など、PC系の作品も手がけていて、『GADGET』はPlayStationでも出ています。
建物のデザインなども、めちゃくちゃかっこいいんですよ。ゲーム自体もかなり独特で、ストーリーはもう説明できないですね。やってもらうしかない。ディスクも4枚あって、CGアーティストの作品ということもあって、映像を鑑賞するような感覚もありますし、インタラクティブアートのような雰囲気もあります。
掘っていくと、当時は書籍やDVDなども出ていたりして、ゲームだけではなく、いろいろな形で世界観を展開していた作品なんだなと感じます。そういう作品に出会うと、その会社やクリエイターが手がけた別の作品まで自然と気になってくるんです。ひとつの作品をきっかけに、その周辺の作品を後追いで探していくことは結構あります。音楽の掘り方に近い感じですね。
ひとつひとつ突っ込んでいくと本当にきりがないんですけど、たとえば『くりクリミックス』とかも、フロム・ソフトウェアの作品とは思えなくないですか?
カラフルなディスクに、『くりクリミックス』と書かれているんですけど、今のフロム・ソフトウェアのイメージで見ると、全然ぽくないですよね。そういうところも面白いんです。
話し出すときりがないんですけどね……あと、『ナイトストライカー』って知ってます?
――はい、知ってます!
Baiyon:僕が調べた限りでは、衝撃的な話があって。どうもこのPS/SS版はオリジナルのアーケード版のソースコードを提供してもらえず、「目コピ」で作ったバージョンらしいんですよ。
そういう見方で見ていくと、この赤と黒の勢いのあるデザインが、なんだかすごいものに見えてくるんです。気合で移植したような勢いというか、そういう熱量を感じるところが、ちょっとぐっとくるんですよね。たぶん、ディスクの中を見たことがない人も多いんじゃないでしょうか。
それでいうと、『こみゅにてぃぽむ』とかもそうですね。名前を知っていたり、遊んだことがあったりしても、ディスクを見たことがない人は多いんじゃないかなという気がします。
『LATTICE』もいいですね。ちょっと渋いですけど、これ、音楽が細野晴臣さんなんですよ。細野さんが音楽をやっているわりに意外と知られていなくて、そういう意味でも面白いし、僕はかなりぐっときます。やっぱり、複合的な理由で集めている部分は大きいかもしれません。掘っていけば、作品自体にも面白いものがたくさんありますし。
『里見の謎』はやったことあります?
――やってないです。
Baiyon:もう、まともな精神では太刀打ちできないゲームですよ(笑)。本当にいかれまくっていて、わけがわからないです。『摩訶摩訶』や『イデアの日』ってあるじゃないですか。あれくらいだと思っていたら大間違いで、さらに上級という感じです。
――(笑)。
あと、面白いものでいうと『クリックメディック』もあります。これはPS1のゲームなんですけど、開発がゲームフリークなんですよ。これもものすごく変わったゲームで、医師となって患者を治療するゲームなんです。ただ、自分がミクロサイズになって、患者の体内に入っていくんですね。
患者の体内に入ると、文章がサウンドノベルのようにバーッと出てきます。「肺を通り、十二指腸へ向かう」みたいな説明が流れて、体内なので胃や小腸、十二指腸といったキーワードに色が付いているんです。そこで「十二指腸」を選ぶと、そこに移動していく。
体内の臓器を移動しまくって、最後に体内にいる病原体を探し出して倒し、治療して外に出てくる。そういう流れのゲームなんですけど、言葉で説明しても意味がわからないじゃないですか(笑)。
やっぱり変わっているんですよね。この時代のゲームって、今出たら「何それ?」と言われるようなものが、本当にたくさんあるんです。そこが面白いですね。
――インディーゲームとも、また少し違いますよね。
Baiyon:そうですね。性質が違うというか、この時代ならではの独自の感じがありますよね。
この時代ならではの表現
――Baiyonさん自身が好きなディスクデザインの傾向はありますか。色使いや情報量、ロゴの扱いなどで。
Baiyon:まず大前提として、シルクスクリーン印刷の話があると思います。
最近のディスクは、高精細なフルカラーデザインも多いですよね。一方で、当時のディスクはシルクスクリーン印刷で作られているものが多かったんです。
シルクスクリーンは、Tシャツに柄を刷るような印刷方法をイメージしてもらうとわかりやすいと思います。色を重ねていくこともできるんですが、写真のように細かく色を再現するというよりは、ひとつひとつの色をベタッと乗せるほうが得意なんです。
だからこそ、限られた色数でも、それぞれの色がすごくはっきり出たり、版画のようにインクの重なりが層として見えたり、インクが少し盛られているように感じる物質感が出たりする。その質感が今のディスクとは違って見えるんですよね。
たとえば『高機動幻想ガンパレード・マーチ』のディスクは、色がめちゃくちゃ綺麗なんですよ。あれはCMYKの4色を重ねて写真のようにフルカラーで再現するというより、オレンジと青をズバン、ズバンとディスクの上にプリントしている感じなんです。だから、インクが乗っているような物質感がある。白い下地を敷いて不透明にし、色をフラットに見せるのではなく、ディスクそのものの銀色が奥に少し透けて見える。その感じが、今のディスクにはあまり見られない、独特の魅力につながっているんですよね。
そのうえで、よくあるパターンとしては、ディスクを何かに見立てているものがあります。たとえばハンバーガーだったら、ハンバーガー自体が円形じゃないですか。ほかにも、タイヤになっていたり、空き缶を上から見た形になっていたり、『俺の料理』だとラーメン鉢になっていたりする。そういう“何かに模している”パターンは結構ありますね。見かけると、やっぱり「おっ」となります。
あと、僕の中で「血しぶき系」と呼んでいるものがあります。
――血しぶき系?
Baiyon:血しぶきが飛んでいるディスクです。これがまたニッチなんですけど、結構多いんですよ。
たとえば『イルブリード』とか。あれはヤバいゲームとしても有名な作品ですけど、ディスクも血しぶき系です。そういう血が飛び散っているディスクは、また別の系譜としてあって、自分の中でずっとベストを探しているんです。血も奥が深いなと思いながら見ています。
さっきのシルクスクリーンの話に戻ると、写真のように色を再現する印刷とは違って、シルクスクリーンはインクの厚みや乗り方が感じられるので、血の質感もより出てくるんです。
そのうえで言うと、『serial experiments lain』のディスク2の血の使い方は、ほかの血しぶき系とは一線を画していると思います。あれは血が飛び散っているのではなく、滲んでいる血なんですよね。ああいう使い方はあまり見ないです。
他の人からしたらどうでもいいことかもしれないんですけど、自分にとってはかなり面白いポイントです。そうやって見ていくと、ディスクデザインはいくつかの傾向に分けられると思います。
あとは、ディスクのキラキラした質感を活かしている系もあります。
たとえば『ケロケロキング』は、写真だと少し伝わりづらいんですけど、ダイヤモンドのようになっている部分のインクが抜けているんです。そこに光が当たると、ディスク自体がキラキラ光るようになっている。そういう、ディスクの反射を活かしたデザインも結構あります。
『RULE of ROSE』もすごく好きです。ディスクに蝶が描かれているんですけど、背景はあえて何も印刷されていなくて、ディスクそのものの反射が出るんですよね。その光が、まるで蝶が起こしている現象のように見えるというか。それが作品の世界観と一体になっている感じがあって、意図的なのか偶然なのかわからないですけど、そういうところも含めてすごくいいんです。
ゲーム自体にも、秘め事というか、ちょっといけないことに踏み込んでいるような感覚があるじゃないですか。耽美というか、色気のようなものがある。その感じが、ディスクにも少し出ている気がします。
それから『プラネット・ドブ』も面白いです。あまり知られていない作品だと思うんですけど、音楽グループDate of Birthが関わった作品で、独特な世界観があるんですよね。
オブジェクトのデザインもかなり独特で、レトロフューチャー的な雰囲気がありながら、色彩は全体的にかなりサイケデリックで、今見てもすごく面白いんですよね。
ディスクに機械の模様のようなものがあるんですが、その細い線たちはベクターで作られたような、パキッとしたグラフィックデザインなんです。そして、その部分にはインクが乗っておらず、ディスクそのものが露出している。シルクスクリーン印刷された部分と、ディスク自体の反射が組み合わさっていて、ディスクを動かすとメカの線がギラギラ光って見える。めちゃくちゃ綺麗だなと思います。
――今の印刷の話を聞いていると、やはりこの時代ならではの表現だったのかなという気がします。今のディスクは、もっと綺麗に印刷されているものが多いですよね。
Baiyon:そうですね。ただ、綺麗というものにもいろいろな方向があると思うんですよね。もちろん高精細な表現など、今の印刷技術の方が自由度は高いと思うんですけど、昔のディスクには、当時の制約の中で生まれた、時代を超えた美しさがあると思います。
例えば、こういうパキッとした線のグラフィックや、シルクスクリーンのようなインクの質感って、Tシャツのデザインなんかでも魅力として残っていると思うんですよね。
あと、実はもうひとつ大きなことがあって、海外版のディスクって、日本版とはかなり違って、基本的にはあまり面白くないものが多いんですよ。
――そうなんですか。
Baiyon:たとえば、ゲーム画面やロゴ、グラフィックをそのまま1色で印刷しているようなものが多いんです。日本のディスクみたいに、盤面そのもののデザインが凝っているものがあまりないんですよね。
「Gamedisc Beauty」は海外の人も結構見てくれていて、もともと海外向けに始めたくらいの気持ちもあったんです。結果としてそこで浮き彫りになったのは、「日本版のディスクってすごいんだな」ということでした。海外の人からすると、こんなにディスクそのものがデザインされているんだ、という驚きがあるみたいなんですよね。
なぜ海外と日本でこうした違いが生まれたのかは、自分も完全に理解できているわけではありません。ただ、そういう違いがあるからこそ、海外の人からすると「何これ、すごい」と感じる部分があるみたいなんです。
日本版が欲しいと思われる理由には、そういう盤面デザインの面白さもあるのかもしれません。Gamedisc Beautyを続ける中で、海外の反応を通して、そういう日本のディスクの魅力があらためて見えてきました。
――こうして投稿し続けることで、アーカイブ的な意味も出てきそうですね。ジャケットなら検索すればすぐ出てきますが、ディスク盤面はなかなか出てこないですし。
Baiyon:そうですね。だから、やっぱり意味は大いにあるんじゃないかなと思っています。単純に、日本がこんなに変なものをたくさん作っていたんだぞ、という誇りもありますし、それを知ってほしいという思いもあります。
それに、ディスクにはデザインとしての側面もあるんですよね。絵として面白いものもあれば、ゲームの内容を表現していて面白いものもある。あるいは、もっと純粋にグラフィックデザインとしてめちゃくちゃかっこいいものもある。そういういろいろな側面を見せてくれるなと思います。
たとえば『WipEout』もそうです。あれはThe Designers Republic (TDR)という、イギリスのデザイン会社が関わっているんです。イアン・アンダーソンという人が立ち上げたデザインスタジオですね。
『WipEout』を作ったPsygnosisはリバプールを拠点にしていて、その後ソニー傘下となり、後のStudio Liverpoolへとつながっていきます。そのStudio Liverpoolも現在はなくなってしまいました。一方で、デザインを手がけたTDRはイギリス北部に位置するシェフィールドから生まれた存在で、デザインには、当時のテクノやレイヴカルチャーの世界観がバチバチに出ているんですよ。TDRは、Warp Recordsなどのエレクトロニックミュージックのアートワークでも知られていて、そういう音楽とグラフィックが一体になった時代の空気が、そのまま『WipEout』にも入っている感じがします。そういう時代の匂いがプンプンするところが、たまらないですね。
めちゃくちゃ細かい話をすると、盤面に小さく「THE FUTURE IS SANS SERIF」という言葉が入っているんです。サンセリフというのは、文字の端にある飾り(セリフ)がない、シンプルで機能的な書体のことですね。例えばHelveticaのような書体です。もともとは標識や案内表示など、情報をわかりやすく伝えるための場面で使われることが多く、昔はデザインの主役というよりは、ある意味では無機質で“つまらない”と思われがちなフォントだったんですよね。
面白いのは、そういう機能的なフォントを使って、「これが新しい美の形なんだ」と提示しているところなんです。それがTDRの面白さのコアの一つでもあると思うんですよね。本来は情報を伝えるために使われていたフォントを、グラフィック表現の中心に持ってくる。そういう発想が、90年代のテクノやエレクトロニックミュージックのビジュアル表現ともつながっていったんだと思います。
だから『WipEout』では、そういう文字が世界観の一部としてすごく効果的に使われているんですよね。しかも面白いのは、そういうメッセージをゲームのディスクそのものに入れているところなんです。
「THE FUTURE IS SANS SERIF」という言葉自体が、機能的で無機質なフォントを取り込んで、それを未来に向けてエモーショナルな体験に変えてしまうような、当時のテクノやデザインの空気をそのまま閉じ込めている感じがするんですよね。そして、そもそも初代PlayStation自体が、無機質に見えるデジタル技術を、人間の感情を動かす体験に変えていった存在だったと思います。
――フォロワーからの反応もありますか。
Baiyon:いろいろありますね。あまり知られていないものを投稿しているので「まったく知らなかった」という反応は多いです。このアカウントはいろいろな人が見てくれていて、アート系やグラフィック系の人もいれば、いわゆるゲーマーもいる。見ている人の幅が結構広いんです。
単純に「こんなゲームがあったんだ、やってみようと思った。ありがとう」というゲーマーからの反応がある一方で、デザインとして見ている人からは、デザインについての反応が返ってきたりもします。ゲームの中身に行く人もいれば、行かない人もいる。そこも、この切り口ならではなのかなと思います。
ゲームのデザインやアートについて語るときに、こうやってひとつのグラフィックデザインとして切り取って見ることって、なかなかないじゃないですか。それをある種、強制的にこういう形で切り取ることで、全然違う角度が見えてくるんです。
自分としては、ゲームは音楽や映画、アートなどに比べると歴史がまだ浅いので、批評のあり方もまだそこまで多様化していないと感じています。だからこそ、いろいろなアプローチで大好きなゲームを面白いと思ってもらいたいんです。
たとえば、ストリーミングでわっと盛り上がって笑う楽しみ方だけではなく、何ステージあるとか、どんなスペックなのかといった語り方だけでもない、もっと抽象的な何かを語れる場所として、こういう切り口があるんじゃないかと思っています。
そうやっていろいろな反応が返ってくるのは、本当に嬉しいですね。どこまで最初から想像していたかは自分でも覚えていませんが、なんとなく「これをやったら、いろいろな人が喜んでくれる気がする」という感覚はありました。
それに、単純に自分はコレクターなので、やっぱりコレクションを見てほしいという思いもあります。そういう気持ちが結びついているので、いろいろな反応があるのは嬉しいですね。
デジタル時代に、物理メディアの重要性
――こうした活動を通して、物理メディアの価値を改めて感じることはありますか。最近はデジタルが主流になっていますが。
Baiyon:僕ももちろんダウンロードは使いますが、物理メディアの重要性はめちゃくちゃ感じます。
レコードに置き換えるとわかりやすいかもしれません。Spotifyで音楽を聴くこともあるんですけど、本当にいいなと思ったものはレコードで買ったりするんです。アーティストがいろいろこだわって作っているものなので、より世界観を楽しめるというのもあります。
でも、格好つけずに正直に言うと、買わないと覚えられないんですよ(笑)。所有していないと、記憶からこぼれていくんです。あまりにも数が多いので。
だから、シンプルに覚えておきたいという気持ちがあります。物理メディアとして持っていると、少なくとも同じ空間を共にすることになるじゃないですか。家族とまで言うと大げさですけど、身近に感じられるし、記憶にも残りやすいんです。
それから、古いものを買うということは、基本的には中古が多いですよね。僕は、誰かが持っていたものだということも好きなんです。誰かのものだったという感じ。それは新品では絶対に得られないものなんですよね。もちろん逆もありますけど、そこも面白いなと思います。
昔のVHSなんかだと、レンタルビデオを借りたときに巻き戻されていなくて、途中で止まっていることがありましたよね。それを見て、「ここで見るのをやめたのかな」と想像したり、テープが劣化して映像が乱れているシーンを見て、「ここを何回も見ていたんだな」と思ったりする。そういう痕跡も、アナログならではだと思うんです。
デジタルデータって、基本的には物理的に老いることはないですよね。でも、物理メディアは丁寧に扱わないと傷がついたり、時間とともに色あせたり、経年変化していく。その“老いていく存在”であること自体が、人間にとって感情を引き起こす部分があるんじゃないかなと思います。
そういう方向で見ていくと、ゲームって実は結構面白い歴史をたどっています。ファミコンやスーパーファミコンのようにROMカセットだった頃は、セーブデータが中に入っているんですよね。でも、PlayStationのようにディスクメディアになると、セーブデータはメモリーカードに移る。つまり、ゲームそのものと、自分が遊んだ記録が別々の場所に存在するようになったんです。
そこから、もうひとつ大きく変わったタイミングがあると思っていて、それがPS3です。PS3以降は、ゲームにパッチを当てるようになりましたよね。
もちろん、ディスクのデザイン面でも変化はあります。初代PlayStationの頃から、ロゴや権利表記など一定のルールはありました。ただ、PS3、PS4、PS5あたりになると、入れる情報も増えて、盤面に求められる情報や制約が増えていったように感じます。ある意味、タバコの注意書きみたいに、決まった場所に決まった情報が入ってくる。そうなると、ディスク全体を例えばタイヤのような別のものに見立てるデザインは、かなりやりづらくなっていったように見えます。
でも、それ以上に大きいのは、PS1やPS2の頃は、あとから中身を修正することが出来なかったということです。
物理メディアとしてディスクを持っていても、今のゲームはあとから変わることがありますよね。パッチが当たって、発売時とは違う状態になる。極端に言えば、ディスクとして持っているにもかかわらず、それが完璧な状態ではないこともあり得るわけです。
PS3以降のゲームでは、パッチによって内容が大きく変わるものもあります。でも、PS2以前は基本的にそれがない。もう、それが答えなんです。それ以上でも以下でもない。その潔さにぐっとくるところがあります。
もちろん、クリエイターとしてゲームを作る立場で考えれば、パッチを当てられることや、あとから変更できることの利点は理解しています。モバイルゲームでもそうですし、それが悪いと言いたいわけでは全然ありません。
ただ同時に、一発で終了するという潔さには、やっぱり惹かれます。
今は不思議ですよね。ディスクというメディアとして出ているのに、あとから変えることができる。固定されているようで固定されていない。物なのに変わるってどういうことなんだろう、と思うんです。
僕はもともとアナログ寄りの人間だったので、パソコンを自分のものとして触り始めたのも少し後だったんです。だから、見た目は同じパソコンなのに、中身が変わると全然違うものになるということに驚いた記憶があります。次の日に起動したら変わっている、みたいなことが不思議だったんですよね。見た目は同じなのに、なぜ変わるんだろう。物なのに固定されていないんだな、という違和感があって。
そう考えると、PS1やPS2のゲームって、めちゃくちゃ潔いんです。もう、どうにもならない。その感じがすごくいい。その制約の中で勝負していたものに今触れると、ちょっとした気づきを与えてくれる気もします。
――ディスク盤面のデザインを通して、当時のクリエイターは何を伝えようとしていたと思いますか。
Baiyon:なんなんでしょうね。ゲームの美学やスタイル、プレゼンテーションのようなものは、ディスク盤面からも感じ取れると思います。インクの乗り方や発色からも、そういうものが伝わってくる部分はある。
その一方で、ディスク盤面は一種の“秘め事”的な場所でもあります。買うときの購買動線には、あまり関係がない場所だからこそ、ある種の聖域として存在していたのではないかと。かなりロマンチックな見方かもしれませんが。
もちろん制作費や印刷コストの問題はあったと思います。ただ、それでもジャケットやゲーム内のデザインより、一定の自由があったんじゃないかと想像しています。
だから自分としては、もしかするとジャケットよりも、ディスク盤面のほうがクリエイター、そして作品の“生の部分”に触れられるのではないかと思うことがあるんです。
――最後に、このアカウントを通して共有したい視点はありますか。フォロワーの方に「こう見るともっと面白い」と伝えたいことがあれば教えてください。
Baiyon:多様性そのものとして見てもらえたらいいなと思っています。笑いながら「なんだこれ」と見てもいいし、逆に真剣にデザインやグラフィックデザインとして考察してもいい。まだまだインスピレーションは眠っていると思うんです。
昔から続いているタイトルで、「昔はこんなディスクだったんだ」と楽しむ見方もあると思います。単純に「中身を見てみたかったからラッキー」でも全然いい。知らないゲームだったら、「面白そうだから買ってみようかな」と思ってもらうのもありです。
ただ、ひとつあるとすれば、ディスク盤面をひとつのカルチャーとして捉えてほしいという思いはあります。単なる商品ではない表現が、そこにはある気がするんです。
一度見て終わりではなく、ぼーっとでもいいので何回か見てみると、最初に引っかかったものとは違うものが引っかかるかもしれない。そういう見方もおすすめです。
実はこのアカウントは、最初は日本向けに始めたものではなかったんです。プロフィールも英語ですし、もともとは自分の英語の方のXアカウントでスレッドを作って、ディスクを紹介していたところから始まりました。
そのうち、「これを一か所で見られる場所を作って欲しい」とリアクションが結構来たので、それならInstagramかなと思って始めたんです。ですが、今後は日本語の情報ももう少し増やしていけたらとは思っています。
日本の人からすると、もしかしたら「よくわからない外国人がやっているアカウント」みたいに見えているかもしれないですね。「日本人っぽい視点に見えない」と言われることもあります。でもそれは、自分がゲームをゲームだけで見ていないからなのかなと思っています。ゲームをいろいろな側面から見ていることが、そう感じさせる要素になっているのかもしれません。
ゲームは、いろいろな見方ができる面白いメディアだと思います。だから、こうやってインターネット上でいろいろな見方を共有していくことで、ゲームの文化やコミュニティにも、また少し違った、エッジの効いた部分が生まれてくると楽しいじゃないですか。
その小さなきっかけのひとつになれたら嬉しいなと思って、この活動を続けています。楽しんでもらえたら嬉しいです。
――ありがとうございました。
華々しいジャケットが顔となったケースを開けた先も、「ディスク盤面」という作り手の遊び心や時代の空気がぎゅっと詰まっていることがわかりました。
血しぶき、指紋、ラーメン鉢……売り場では見えないその小さな円盤には、ゲーム本編やパッケージとはまた違う、“もうひとつのゲーム美術”が広がっているのです。
次にレトロゲームを手に取ったときは、ぜひディスク盤面にも注目してみてください。そこには、買う前には見えなかった“クリエイターの秘め事”が隠れているかもしれません。









