Jホラーかと思ったら『バイオ』だった。ドリキャス版『リング』が「SFサバイバルホラー」になった理由を改めて考える【特集】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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Jホラーかと思ったら『バイオ』だった。ドリキャス版『リング』が「SFサバイバルホラー」になった理由を改めて考える【特集】

「呪いのビデオテープ」はどこへ?映画に縛られなかった異色のホラーゲームの魅力とは。

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Jホラーかと思ったら『バイオ』だった。ドリキャス版『リング』が「SFサバイバルホラー」になった理由を改めて考える【特集】
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1990年代後半から2000年代初頭にかけて、日本のホラーカルチャーは一つの頂点を迎えていました。その中心にいたのが、Jホラーの旗手・鈴木光司氏の小説を原作とし、中田秀夫監督がメガホンをとった映画「リング」(1998年)です。

“観たら1週間後に死ぬ呪いのビデオ”、”テレビ画面から這い出てくる貞子”など、Jホラーの代名詞となったこれらのアイコンは、当時の日本中を文字通り恐怖のどん底に突き落としました。また、「ビデオテープ」という“身近なメディアを媒介にした呪い”という斬新な発想は、観客に「自分の身にも起こるかもしれない」という圧倒的なリアリティを与えたのは間違いありません

映画版「リング」が大ヒットを記録し、Jホラーブームが巻き起こっている最中、2000年2月24日にドリームキャスト版『リング』が発売されました。開発はアスミック・エース エンタテインメント、パブリッシャーは角川書店(現KADOKAWA)という万全の体制です。

そしてもちろん、当時のプレイヤーたちが期待したものは、原作小説や映画で描かれた、じわりじわりと精神的に追い詰められるような湿り気のある「ジャパニーズホラー」の恐怖を、最新ハードの美しい3Dグラフィックで体験することでした。

しかし、ゲームを起動したプレイヤーを待っていたのは、予想を遥か斜め上に飛び越える、あまりにも衝撃的な光景でした。

そこに広がっていたのは、呪われた一軒家ではなく、無機質なウイルス研究所、そして主人公の手には「呪いのビデオテープ」ではなく、銃火器が握られていました。次世代機での濃厚なJホラーゲームを期待していたら、なんと『バイオ』風のサバイバルホラーゲームが始まったわけです。

というわけで今回は、「リング」というジャパニーズホラーの金字塔的作品が、なぜ『バイオ』ライクな「SFサバイバルホラー」へと変貌を遂げたのか、その世界観やストーリー、そして隠された野心を現代の視点から改めて考えていきます。

「呪いのビデオ」は「謎のプログラム」へ

早速ですが、本作がプレイヤーの頭の上に大量の「?」を浮かべさせた最大の要因は、その大胆に変更された世界観とストーリーにあります。まずは本作の概要を振り返ってみましょう。

メイン舞台の医療研究所

ドリームキャスト版『リング』の舞台は、原作の不気味な日本の田舎町や井戸とは異なり、近未来的なハイテク医療研究所と、そこから繋がる仮想現実空間の2つで構成されています。医療研究所は、かのアメリカ疾病予防管理センター(CDC)をモチーフにした、最先端の医療研究施設という設定です。

メグ・レインマン

主人公のメグ・レインマンは、CDCに新規採用された有能な女性研究員です。彼女はある日、同じく研究所に勤める恋人のロバートが、誰もいない自室で不可解な「突然死」を遂げたという報せを受けます。ロバートの死因は不明。しかし、彼の遺体のそばには、謎のパソコン用プログラム「Ring(リング)」が残されていました。

変死した恋人のロバート

メグは恋人の死の真相を突き止めるため、そして残された唯一の手がかりである「Ring」の謎を解き明かすため、危険を顧みずプログラムを起動します。それが、現実世界と仮想空間を股にかけた、長く奇妙な戦いの始まりでした。

プログラムを起動したメグは、意識を失い、気がつくと見知らぬ「仮想世界(レトロ世界)」へと転送されてしまいます。そこは、奇怪な形状をした異形のクリーチャーたちが徘徊し、現実の物理法則が通用しない悪夢のような空間でした。

ここの設定は原作通り
諸悪の根源である「Ring」プログラム

映画版における「呪いのビデオを観て、1週間後に貞子に殺される」というタイムリミットサスペンスは、本作において「Ringプログラムを起動し、仮想空間に閉じ込められ、制限時間内に脱出しなければ現実の肉体も死亡する」という、極めて現代的(当時としては近未来的)なサイバーサスペンスへと置き換わっていたのです。

◆Jホラーはどこへ?突然始まる『バイオ』風サバイバルホラー

まんまシステムは『バイオ』だが、操作性はあまりよろしくない

本作のゲームデザインは、当時のホラーアドベンチャーゲームの主流であったカプコンの『バイオハザード』シリーズから強い影響を受けている……というか、ほぼそのままのシステムを踏襲しています。

主人公のメグ・レインマンは、映画版の浅川玲子(松嶋菜々子氏)のような「恐怖に怯えながらも我が子を守るために奔走する母親」ではありません。CDCの優秀な研究員であり、危機的状況下でも冷静さを失わない、知的でタフな女性です。その佇まいは、どこか『バイオハザード』のジル・バレンタインや、『ディノクライシス』のレジーナを彷彿とさせます。

ステータス画面。UIデザインもどことなく本家寄り

ゲームのシステムも、当時のプレイヤーなら説明書を読まずとも理解できるほど「サバイバルホラー」のテンプレに忠実でした。 画面は固定カメラワークで切り替わり、プレイヤーはキャラクターの視点方向を基準に前進・旋回を行う、いわゆる「ラジコン操作」でメグを動かします。

探索の道中では、ハンドガンやショットガンといった武器、そしてそれに対応する弾薬を拾い、インベントリの限られた枠数をやりくりしながら進まなければなりません。体力が減れば、「回復ゼリー」を使って体力を戻します。

回復ゼリー

敵として現れるクリーチャーたちは、貞子のような正体不明の幽霊ではなく、実体を持った肉体的な怪物たちです。不気味に変形した人型のモンスターがメグに襲いかかり、プレイヤーはモンスターを銃弾で撃ち倒しながら、研究所を探索していきます。

しかし、実際には本家『バイオ』に比べると操作性はあまりよくなかったり、探索パートもただのお使い移動が多いだけで楽しさを感じられないデザインだったり、クリーチャーの種類も少ない上に戦闘も歯応えがなかったり……ホラーゲームとしての完成度は、正直高いとは言えません。

この『バイオ』のガワを雑に被せたような設定とクオリティこそが、発売当時に「リングの名前を借りただけの別物」「求めていた恐怖と違う」と、プレイヤーの混乱を生んでしまった直接の原因でした。

しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。原作小説がありながらなぜこれほどまでに映画のイメージからかけ離れた作品に仕上がったのか?その答えの一端を筆者なりに考えてみたいと思います。

◆ドリームキャスト版『リング』が描こうとしたもの

ここからはあくまで筆者の考察であり、個人的なひとつの意見である旨をご了承ください。

まず、なぜ原作の持つ「じわじわと迫ってくる恐怖」ではなく、2002年公開のアメリカ版「ザ・リング」のように海外を舞台に設定し、『バイオ』のようなサバイバルホラーにしたのか。

たとえば『かまいたちの夜』(1994年)は、テキストを読み進め選択肢で分岐する「ビジュアルノベルホラー」のパイオニアとして大成功したホラーゲームの一ジャンルですが、原作映画が持つ「じっとりとした静かな恐怖」や「謎解きミステリーの緊張感」を表現する上でも、本来ならビジュアルノベルという形式は極めて親和性が高かったはずです

それにもかかわらず、開発チームがその「無難な正解」を選ばなかった理由とは……。おそらく最大の要因は、本作が1990年代末の「3Dグラフィック至上主義」の真っ只中に開発されたという時代背景にあるかもしれません。

ドリームキャストは、セガが総力を挙げて送り出した「本格的3D次世代機」でした。当時、ゲーム業界全体が「2Dから3Dへ」と急速に舵を切っており、「美麗な3Dポリゴンでリアルな立体空間を描写すること」こそが、最新ハードの性能を示すアイデンティティであったことは間違い無いと思われます。

この時代に、静止画とテキストを主体とするビジュアルノベル(2D表現)で勝負することは、ハードメーカーやパブリッシャーにとって「次世代機のポテンシャルを活かしていない、時代遅れなゲーム」とみなされるリスクが非常に高かったはずです。

開発チームとしては、まさに『バイオ』のような「最新の3D表現を使ったゲームを作らねばならない」という強力なバイアスが働いていてもおかしくはありません。

また一方で、後に和風ホラーゲームの金字塔となる『零』や『SIREN』が登場するのは2001年以降のことです。当時はまだ、薄暗い和室、畳の擦れる音、怨霊の生々しい気配といった、Jホラー的な「静寂と湿度の恐怖」を3Dグラフィックホラーとしてゲームに落とし込んだ前例がありませんでした

開発チームにとっても、本作を「商業ゲーム」として成立させるためには、まだ手探りだった和風アドベンチャーの道を選ぶよりも、当時の主流である『バイオ』風のサバイバルホラーシステムを参照にする方が、圧倒的に現実的で堅実な選択だったのかもしれません

ちなみに、なぜ本作がハイテクな研究所の現実世界と仮想世界の2つの領域を行き来する、という妙に近未来SFチックな設定なのかというと、映画版もさることながら原作小説から大きな影響を受けている可能性があります

というのも、実は本作は原作小説が持っている「SFホラーとしての本質」を忠実に再現しようとしていたフシがあります。原作小説における「リング」シリーズの変遷を大まかに整理してみましょう。

  • 第1作「リング」:オカルトホラーとして始まりつつも、呪いの正体が「スモールポックス(天然痘ウイルス)に変異が起きた、一種の生物学的なウイルス」であることが明かされる。

  • 第2作:「らせん」:呪いのウイルスがDNAを書き換え、人間を遺伝子レベルで変貌させていく医療・科学サスペンスへと進化する。

  • 第3作:「ループ」(1998年発刊):前2作の舞台となっていた日本そのものが、実は巨大なスーパーコンピュータ内に構築された「仮想現実空間(プロジェクト・ループ)」であったという衝撃の事実が明かされる。そして呪いのウイルスは、現実世界にも侵食を始めるデジタルバグだった。

原作小説三部作の時系列は上記のようになりますが、鈴木光司氏の描いた「リング」という物語の本質は、呪いの幽霊譚ではなく、最終的に「仮想現実とデジタルウイルス」をテーマにした壮大なSF作品だったとも言えるわけです

だからこそ、ゲーム版の舞台は研究所(サイエンス)であり、呪いのビデオはプログラム(デジタル)であり、戦いの舞台は仮想空間(ループ)だったのではないかと、個人的には思いました

◆映画の「呪縛」を乗り越えようとした怪作

ドリームキャスト版『リング』が「SFサバイバルホラー」になった理由は、世間が求めた「Jホラー」という安易な路線ではなく、ドリームキャストという次世代機ならではのインタラクティブで全く新しい「リング像」を持ったホラーゲームを作る、という野心と挑戦の結果であったのかもしれません

しかし、さまざまな要因が重なった故か『バイオハザード』という偉大な先人には及ばない荒削りなクオリティだったのは否定できません。

とはいえ、発売から四半世紀以上が経過した現在、実際に「バーチャルリアリティ」や「メタバース」といった仮想空間を当たり前に生きるようになった現代において、本作の設定を振り返ると、SFホラーゲームとしての先見性は評価されるべきものだと思います。

映画が植え付けた「じっとりとした恐怖」の呪縛を脱ぎ捨て、あえて「SFサバイバルホラー」に舵を切ったドリームキャスト版『リング』は、世紀末のゲームカルチャーが遺した唯一無二の作品として、今なおゲームファンに語り継がれる存在です。ぜひこの機会に触れてみてはいかがでしょうか。

リング
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リング 「リング」シリーズ (角川ホラー文庫)
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ライター:DOOMKID,編集:みお


ライター/心霊系雑食ゲーマー DOOMKID

1986年1月、広島県生まれ。「怖いもの」の原体験は小学生の時に見ていた「あなたの知らない世界」や当時盛んに放映されていた心霊系番組。小学生時に「バイオハザード」「Dの食卓」、中学生時に「サイレントヒル」でホラーゲームの洗礼を受け、以後このジャンルの虜となる。京都の某大学に入学後、坂口安吾や中島らもにどっぷり影響を受け、無頼派作家を志し退廃的生活(ゲーム三昧)を送る。その後紆余曲折を経て地元にて就職し、積みゲーを崩したり映像制作、ビートメイクなど様々な活動を展開中。HIPHOPとローポリをこよなく愛する。

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編集/Game*Spark共同編集長 みお

ゲーム文化と70年代の日本語の音楽大好き。人生ベストは『街 ~運命の交差点~』。2025年ベストは『Earthion』。 2021年3月からフリーライターを始め、2025年4月にGame*Spark編集部入り。2026年1月に共同編集長になりました。

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