井戸の底へと落下し、錆びたスプーンを手に、正体不明の存在が潜む地下施設を探索する一人称視点ホラー『THE WELL IS NOT EMPTY』。
PS1時代を思わせるローポリゴン表現と、光を恐れる怪物、閉塞感に満ちた地下空間を特徴とする一方で、開発者は本作について「『ゼルダの伝説』のような壮大な冒険と、計り知れない恐怖の融合」を目指していると語ります。

Game*Sparkでは、本作の開発を手がけるtweakEraにインタビューを実施。井戸や地下刑務所という舞台が生まれた背景、戦うことのできないホラーの魅力、プレイヤーを無意識に不安にさせるサウンドデザイン、そして物語の根底にある「人間性」というテーマについて訊きました。
『ゼルダの伝説』のような冒険と、計り知れない恐怖を融合する
――まず、自己紹介をお願いします。好きなゲームやホラー作品についても教えてください。
tweakEra:tweakEraのリードデベロッパーを務めています。本作『THE WELL IS NOT EMPTY』の開発には、約1年半取り組んでいます。本格的な長編ゲームを開発するのは、今回が初めてです。
ホラーゲームでは、『Amnesia』シリーズや『IMSCARED』『マニーズ』『Lost in Vivo』といった作品の大ファンです。

映画に関しては、最近だと1973年のオリジナル版「ウィッカーマン」や、2014年の「地下に潜む怪人(原題:As Above, So Below)」から大きなインスピレーションを受けています。
また、ダミアン・マッカーシー監督の作品にも注目しており、中でも「視える(現代:Oddity)」が一番のお気に入りです。
――『THE WELL IS NOT EMPTY』がどのようなゲームなのか、教えてください。
tweakEra:本作では、『ゼルダの伝説』のような壮大な冒険と、計り知れない恐怖との絶妙なバランスを目指しています。ある瞬間には、どこか気楽で軽快な雰囲気を感じつつ、別の瞬間には心の底から恐ろしいと感じる。そんな作品にしたいと思っています。
トンネルの奥深くへ進むにつれて、少しずつ何かが解き明かされていく、「熱にうなされながら見る悪夢」のような体験ができるゲームです。

――開発チームはどのようなメンバーで構成されていますか。
tweakEra:現在、tweakEraで直接手を動かして開発を行っているメンバーは、私1人だけです。しかし、フィードバックやアイデアを提供してくれる友人たちのクリエイティブな協力なしでは、この作品を作ることは到底できませんでした。
また、本プロジェクトは親友でありパートナーでもあるダニエルに大きく支えられています。彼はプロジェクト全体の進行を管理しながら、日本語ローカライズとマーケティングも担当してくれています。

さらに、Yaitso Demonaさん(X:@9blomir)からも多大なサポートを受けています。モンスターや背景環境をはじめとする、本当に素晴らしい3Dアセットを提供していただきました。
実は、ゲームのタイトル自体も私が考えたものではなく、親友のJunieが提案してくれたものなんです!
なぜ舞台は「井戸」だったのか
――「井戸」という題材を選んだ理由を教えてください。プレイヤーには、どのような感情を抱いてほしいと考えていますか。
tweakEra:正直なところ、いつゲームの舞台を「井戸」にしようと決めたのか、自分でもよく覚えていないんです。恐ろしい地下トンネルを舞台にした物語を描こうと考えたとき、最初に思いついたアイデアが井戸だった、という感じです。
面白いことに、最近は井戸のようなテーマを扱ったゲームが急増しているように感じます。もしかすると、人々の集合的無意識のようなものが、こうした題材へ惹きつけているのかもしれません。とても興味深い現象です。

自分のゲームを公開する前から、インディーゲーム界隈でそういった作品を目にするようになっていました。プレイヤーの皆さんには、もちろんめちゃくちゃ怖がってほしいです。しかし同時に、美しい冒険へ旅立つヒーローのような気分も味わってほしいと願っています。
――地下に存在する施設や世界観は、どのような発想から生まれましたか。
tweakEra:プレイヤーに「逃げ場がない」「閉じ込められている」という圧迫感を与えたいと考え、そこから真っ先に思い浮かんだのが刑務所でした。当初は、何らかの罪に対する罰として井戸へ投げ落とされた囚人を描くゲームになる予定でした。しかし、開発が進むにつれて徐々に現在の形へと変化していきました。
次第に、狂気に満ちたクリーチャーが登場する方向へシフトしていったのですが、その独特の雰囲気を掴むうえで大きな助けとなったのが、先ほども挙げた映画「地下に潜む怪人」です。
ゲーム序盤に登場するエリアの壁が石灰岩のテクスチャで作られているのは、同作の舞台となったパリのカタコンベが石灰岩でできていることに由来しています。

脅威を倒せないからこそ、自分の小ささを感じられる
――本作では敵に反撃するよりも、「見つからないこと」や「その場を切り抜けること」に重きが置かれています。ホラーゲームにおいて、戦えないことはどれくらい重要だと考えていますか。
tweakEra:非常に重要だと思っています。プレイヤーがゲーム内の脅威に対して「自分は無力で、ちっぽけな存在だ」と感じることで、ホラーゲーム特有の空気をしっかりと作り出せるからです。
本作において、プレイヤーは「必死に乗り越えようとしている状況そのもの」を除いて、何に対しても自分のほうが強いと感じるべきではないと考えています。

――本作はPS1時代を思わせるビジュアルを採用しています。単なる懐古ではなく、現代の作品としてどのような表現を目指しましたか。
tweakEra:懐古主義そのものというより、私個人にとって最も自然に表現できるスタイルだった、というのが正直なところです。私の場合、レトロな美学に寄せたほうが、一貫性のあるアートスタイルを構築しやすいのです。色調も合わせやすく、すべての要素が自然に画面へ溶け込んでくれます。
もし本作がもっと高精細なグラフィックだったとしたら、全体に統一感を持たせるのに相当苦労していたと思います。
ゲーム開発に限らず、これまでのあらゆる創作活動において、画像をデジタルノイズで加工したり、動画にフィルムグレインを加えたりと、全体を馴染ませるために「アナログな質感」を少し散りばめる手法を取ってきました。本作のビジュアルも、そのアプローチの延長線上にあります。
角の向こうに“誰か”がいると思わせるサウンド

――デモ版では、環境音や静寂の使い方が非常に印象的でした。サウンドデザインではどのようなことを意識しましたか。
tweakEra:音声にはビットクラッシュ処理を多用し、プレイヤーを無意識のうちに不安にさせるような、かすかなノイズを取り入れています。
また、ゲーム内のサウンドトラックには、すぐそこの角で「誰か」が待ち構えているのではないかと、プレイヤーに錯覚させるようなノイズをたくさん忍ばせています。
どのようなホラーゲームにおいても、サウンドデザインは非常に重要な要素です。本作でも徹底的にこだわって制作しました。
――ホラーゲームは数多くありますが、本作ならではの個性はどこにあると考えていますか。
tweakEra:設定の根本にある、ある意味では「ナンセンス」とさえ言えるほどの突飛さです。ぎりぎりのラインを狙っています。
主人公は井戸の底へ落下し、かなりの高さから落ちたにもかかわらず生き延び、たった一本の「錆びたスプーン」を使って悪夢の中を掘り進んでいきます。
物語自体は、難解で秘教的な要素やラヴクラフト的な恐怖を扱う、非常に興味深いスピリチュアルなストーリーです。しかし同時に、どこか軽妙でライトな雰囲気も持ち合わせています。
これこそが、私の求めていた「アドベンチャーとホラーの融合」です。このゲームに、しっかりとした個性を持たせたかったんです。

プレイヤーが敵をからかったことで追加されたQTE
――デモ版の公開後、プレイヤーから寄せられた反応で特に印象に残っているものはありますか。また、それを受けて変更した点はありますか。
tweakEra:公開デモ版への反応を受けて、というわけではないのですが、Game*Sparkさんにプレイしていただいたプライベートデモ版の時点から、いくつか大きな変更を加えています。
たとえば、閉ざされた牢屋の鉄格子の向こう側にいる敵「シャドウルーカー」を、一切のペナルティなしでからかって遊ぶプレイヤーが多いことに気づきました。そこで、鉄格子へ近づきすぎると彼に掴みかかられ、クイックタイムイベントが発生する仕様を追加しました。
また、プレイテストの中で、長いトンネルを歩いていると少し集中力が途切れてしまう人がいることにも気づきました。そこで、常に緊張感を持ってもらえるよう、かすかな効果音を追加しました。ある場面ではネズミの大群が突進してきて、それを例の「錆びたスプーン」で叩き落とせるような要素も加えています。
開発初期のバージョンを皆さんがプレイする姿を見て、ゲームの世界において「常にインタラクションが存在すること」がいかに重要なのか、本当に目を覚まされる思いでした。
暗闇の中に居続けると、人は人間性を失っていく
――本作をプレイする際、特に注目してほしいポイントがあれば教えてください。
tweakEra:ストーリーにおける「人間性」というテーマに、ぜひ注目していただきたいです。本作の根底にあるのは、「暗闇の中に長く居続けると、人は人間性を失っていく」ということを描いた物語だからです。
――日本語にも対応予定ですが、日本のプレイヤーをどのように意識していますか。
tweakEra:まず、日本のプレイヤーの皆さんにとって何が重要なのかを理解するうえで、大きな助けとなってくれた日本側のパートナー、ダニエルに感謝を伝えたいです。非アルファベット言語の翻訳において、あらゆる細部を可能な限り完璧に仕上げることがいかに重要なのか、私が深く理解できているのは彼のおかげです。
質の高いフォントを使用すること、ゲーム内の台詞のトーンやニュアンスを適切にすること、UIのボタンやダイアログボックスにテキストが綺麗に収まるようにすること。さらに、ゲーム内の看板を翻訳し、Steamストアページでもゲームの世界観や雰囲気を正確に伝えることなど、気を配るべき点は多岐にわたります。
たった2秒間映る看板の文字が違うという理由だけでも、Steamストアページ用に日本語版のトレイラーを別途制作しているほどです。日本のプレイヤーの皆さんには、「単なる追加の顧客層」としてではなく、私たちから心から歓迎され、大切にされていると感じていただきたいと思っています。
他の国のプレイヤーとまったく同じように、ゲーム本編はもちろん、そこに至るまでのすべての体験を存分に楽しんでいただけることを願っています。
――日本には、廃墟探索や都市伝説を題材としたホラー作品のファンも多くいます。本作は、そうしたプレイヤーにも楽しんでもらえる作品だと思いますか。
tweakEra:もちろんです!本作は、ただ恐ろしいクリーチャーに追いかけられるだけのゲームではありません。『THE WELL IS NOT EMPTY』の世界で起きている数々の惨劇の裏には、この世のものとは思えない「別の存在」が関わっています。
ゲームを進めていくにつれて、その真実が徐々に明らかになっていくはずです。
次回作はマルチプレイヤーホラーになる可能性も
――tweakEraとして、今後もこのような心理的ホラーを作り続けたいと考えていますか。それとも、次回作ではまったく異なる方向性にも挑戦したいですか。
tweakEra:いずれは他のジャンルのゲームにも挑戦してみたいという気持ちはあります。しかし、今は「怖いもの」を作ることが本当に好きなので、当面のtweakEraの焦点は、やはりホラーになると思います。
そうは言っても、次回作はマルチプレイヤーゲームになる可能性がかなり高いと考えています。友人同士のグループを同じような恐怖体験へ放り込み、みんなで協力してその恐怖を乗り越えなければならないような作品を、ぜひ作ってみたいですね!

――最後に、本作に興味を持ったプレイヤーへメッセージをお願いします。
tweakEra:このようなタイプのゲームにとって、プレイヤーの皆さんの存在がどれほど重要であるか、どうしてもお伝えしたいです。
ショート動画のような、手軽で一時的な刺激を得られるコンテンツであふれる現代において、誰かが心血を注いで作った物語をしっかりと受け止め、じっくり腰を据えてプレイしたり、動画や配信を見たりしてくれる方々が、まだこんなにもたくさんいるという事実を本当に素晴らしいと思っています。
インディーゲームの世界には、素晴らしいコンセプトを持った作品が数多く存在します。そして、私たちがこの活動を続けていくためには、プレイヤーの皆さんの力が絶対に必要不可欠です。
最後に、私たちのゲームに興味を持ち、好きになってくださって、本当にありがとうございます!

そんな『THE WELL IS NOT EMPTY』について、tweakEraよりGame*Sparkへの独占情報として、PC(Steam)向けに2026年9月7日に発売するという情報をいただきました。いますぐウィッシュリストに追加して、この井戸の世界の探索に期待しましょう。












