Game*Sparkレビュー:『Fallout 76』【年末年始特集】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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Game*Sparkレビュー:『Fallout 76』【年末年始特集】

Game*Sparkオリジナルレビュー。2018年11月14日(水)にリリースされた『Fallout 76』の1カ月後の“今”をレビュー。筆者のプレイ時間は114時間、機種はPC版となっております。

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ゲーム業界も大賑わいとなった2018年。皆さんはこの年に、何本のAAAゲームや注目のインディー作品などをプレイしてきたでしょうか。今年からオリジナルレビューを掲載し始めたGame*Sparkでは、「2018年の話題作」を振り返るゲームレビューを集中連載として年末までお届けします。第2本目は、オープンワールドオンラインRPG『Fallout 76』です。




「Vault76」の扉が開いてから約1カ月が経った本稿執筆時点(2018年12月12日)で、舞台であるアパラチアの様々な場所を冒険し、時に1人でPKプレイヤーと戦い、時に友とモンスターを狩ったり、くつろぎ笑いながら協力して家を作ったり、たまたま出会ったプレイヤーと共にイベントをクリアしたりと100時間以上を満喫した私は、奇妙な感覚に襲われています。

楽しいのに、それを口にするのがはばかれるような気分に陥っているのです。前提として、本作はおもしろい、しかし悔しいような、複雑な気持ちがこみ上げます。これまでのプレイ体験に対してある程度の満足があっても(その上まだプレイするつもりでいても)やればやるほど、運営方針とサービスのあり方に不満を抱いてしまい、手放しで「みんな一緒に遊ぼうよ」とはいえない歯がゆさが募るのです。


本作はまだ成熟しておらず、これからも継続して完成度を高めていくと思われますので、評価すべき点は2つに分けられるのです。ゲームとしての善し悪しと運営(サービス)の善し悪しです。後者は本作がオンラインゲームであることに由来します。パッケージングされたシングルプレイヤーのみでは成立しない、オンラインゲーム特有の評価があります。

オンラインゲームは体験であり、その体験をおもしろくするための思慮が測られますし、今後の発展が見込めるからこそ現状の未成熟さに不満を抱きます。ローンチの段階で完成度が高い作品があることも知っている上で、本稿ではPC版における『Fallout 76』の「今」をレビューします。

『Fallout』らしさと関わり合うゲームプレイ


本作は“Fallout 4.3オンライン”とさえ言えてしまえそうな危ういタイトルと(部分的に)見なせます。キャラクターや装備品のモデル、インターフェイスなど、それらはほとんど『Fallout 4』からの流用だからです。改善できる点もあるはずなのに、そのまま引き継いでいるものもあります。

今作ではインベントリ画面にあたる「Pip-Boy」インターフェイスが2種類用意されていますが可読性が低いなど、文字情報が増えた『Fallout 4』で顕在化した問題が一例で、それはユーザーメイドのModが支持されたくらいにはプレイヤーの改善要望ともいえるはずです。しかし、いつも次作ではModで提示された要素を取り入れるBethesdaも今作ではその姿勢が見られません。

Pip-Boyの別UI“Quick-Boy”というモードもあるが直感的ではなく目的のアイテムを探しづらい

改良の余地があるインターフェイスは“Pip-Boyを介するという『Fallout』らしさ”と繋がっていて、世界観と密接な関係にあります。それゆえ大幅な改修がしづらいというのは理解できる反面、快適なゲームプレイを妨げる問題にもなっています。また“アイテムのクラフト画面”という、ほとんど文字情報で占められた、いわゆる“ロアフレンドリー(世界観との親密さ)”とは無縁なUIに対して、直感的に使いやすいよう手を入れられるはずです。


他方、プレイアブルキャラクターの育成は進歩的といえます。PERKという特殊能力がカードに見立てられており、レベルが上がるごとに1枚ピックでき、それを思い通りに組み合わせてビルドを築くことが可能となっています。到達レベルによって種類も増加するためレベルを上げるのが楽しく感じられますし、取得したPERKカードは入れ替えが自由なので、その場の状況や次に行う物事に合わせて柔軟に組み合わせを楽しめます。この点は『Fallout』らしさを損なうこともなく、むしろPERKビルドで独自のキャラクターを作り上げる自由度は存分に『Fallout』であることを活用しているといえるでしょう。


Bethesdaのディレクターであるトッド・ハワード氏が本作を形容するにあたって唱えた「ソフトコア・サバイバル」は、各種アイテムのクラフト要素、飢えと渇きに病気など体調管理の概念があり、気をつけなければ死にうる戦闘バランスによって実現できています。デスペナルティはアイテムの素材を落とすだけ、しかも死んだ地点に戻れば拾い直せる(その間に他のプレイヤーに取得される可能性もあり)といった具合で、長時間プレイしても疲れない抑制の効いた緊張感があるといえるでしょう。

ソロとマルチ、プレイヤーに委ねられた世界


本作はソロでプレイすることも“可能である”だけで、それが“楽しい”とは限りません。たとえばクエストですが、オンラインゲームにおけるストーリーテリングは課題の多い、成功が難しい分野です。本作もまた上手く機能しているとはいえません。

特定の場所に置かれている音声ホロテープを聞くことがクエストを進める条件である場合が多いのですが、聞きながら別のことをしていては話が頭に入りません。よってクエストの内容を掴むためには「ホロテープをただ聞いているだけ」の時間が生じます。それが本作のストーリーの大半を占めるのです。ゆえに1人で遊ぶことはかなりストイックな体験になるため人を選びます。

ターミナルなどの文章を読む必要も多い

PvPに関してはトッド・ハワード氏が「QuakeCon 2018」で唱えた「“ろくでなし”をおもしろいコンテンツに変える」(we turn the asshole into interesting content)という試みは今のところ失敗しています。なぜなら、そもそも他者を不快にさせる迷惑プレイヤーが少ないからです。人と出会うほとんどの場合、挨拶のエモートで交流を図ることが多いし、プレイヤー同士で対立することによって得られるメリットも少なく、いたずら心で他のプレイヤーを害する者ぐらいが関の山で「潜在的な迷惑プレイヤー」はいても、それが行為として現れることは少ないのです。

「Hunter/Hunted」という4人制のデスマッチもあるがほとんどマッチングしない

『Fallout』シリーズには“レイダー”という暴徒、乱暴を働く輩が付きものです。本作はどの『Fallout』よりも古い時代(2102年)を舞台にしていますが、本作はシリーズ前史をプレイヤーによって築かせようとしているように感じられます。人間はすべてプレイヤーというデザインからレイダーを発生させよう、あるいは同じく馴染み深い道行くトレーダーを、小さな集落を……私たちが時に争い時に協力して前史を作り上げるよう意図しているように思えるのです。なぜならプレイヤーに対する具体的な目標、指示をゲームが強いてこない、多くの部分をプレイヤーの自主性に任せているからです。


見かけ上は限りなくこれまでと同じ『Fallout』でありながら、精神は形骸化しており、ゴア描写は健在だとか、ブラックジョークや核があったりするだけで、本質的な『Fallout』とはかけ離れています。かつて私たちは「Vault 13」を出た“Vaultの住人”にその孫の“選ばれし者”、そして“Vault101のアイツ”に“モハビの運び屋”、あるいは“唯一の生存者”でした。今の私たちは、まだ「名無しの人物」といえます。そういった意味で、孤高で唯一の「物語を楽しみたい」人には向いていないのが今作です。むしろパーティゲームという側面すらあります。


本来であれば『Fallout』とは善と悪の基準が極めて曖昧で、倫理の秤をプレイヤーとNPCに委ねている作品です。主人公にボイスが付いてもなくならない、たとえ19歳という設定があっても変わらない、人物(NPC)との対話で選ぶ選択肢、それが発言となり、主人公としての自分自身が浮かび上がる物語体験こそ本質です。

しかし今作はストーリーが希薄ゆえに、その判断をゲームが問うてくることはありません。そこでプレイヤーにその判断が委ねられるわけですが、「ソーシャルなゲーミング」よりも「パーソナルなゲーミング」を他プレイヤーが嗜好しているようにみえるので、他者によって罰せられることも褒め称えられることもほとんどありません。野良協力プレイや野良PvPがあまり発生していないように。

そもそもオンライン化は成功しているか


本作のゲームプレイは、おもしろい。友人と遊べば(当然ながら)もっと楽しめます。しかし、それを阻害するバグ、態度がのらりくらりとしているBethesdaの発言、安定しないサーバー(ネットワークの快適さ)によってゲームから切断され排除される、つまり字義通り“遊べないゲーム”になるときが多々あること……これらから発売日を少なくとも1カ月くらいずらすべきだった、もっとオープンなベータテストを経てからローンチすべきだったという印象を拭えません。この1カ月間でリリースされたパッチの内容は、たとえば保管庫の容量の不満など、あらかじめ予見することが可能だったものです。


本作はオンラインゲームであるため、“サービス”という形でコンテンツの追加や改変があり得るということは希望であるともいえます。ゲームプレイにおいて不快感を覚える箇所はバグであったり安定しないサーバーなど、品質面における箇所で、特定のプレイヤーに対して不愉快に思うことは非常に少ないです。繰り返しになりますが「端的に低品質であること」が問題といえます。少なくとも「今が一番楽しい」という保証はできません。


多く挙がっている批判の声は、そのまま期待の裏返しでもあります。こんなもんじゃないだろう、早く本気を、本調子になってくれという願いです。それは本稿を書いているいま現在、私自身も強く思っています。その願いを届けるため、Bethesda公式フォーラムで英語堪能でなくとも構わずに要望を出しています。そして、また1年後、もしくは大型のアップデートがリリースされた際にこのレビューを振り返って感慨にふけられるように、再評価、再レビューできるチャンスを望んでいます。

総評


ソフトコア・サバイバルというゲームプレイにおけるリソース管理のメカニクスは機能しており適度な緊張感を実現しています。プレイにあたって本作は『Fallout 5』ではないという本質的な理解が必要で、Bethesdaによる分野開拓の一手と思うべきでしょう。

継続性はあるはずですが数多のバグがそれを台無しにしている上に、運営による改善の動きも悪く映ります。ですので慌てて買う必要はありませんが、既に購入済みのプレイヤーも不満を抱えながらプレイしてしまう魅力はあります。

総合評価: ★☆☆

良い点
・現状において底は深くないがやり込む楽しみがある
・『Fallout』を誰かと一緒に遊べて体験を共有できる
・(PvEプレイヤーにとって)イメージよりも平和なゲーム


悪い点
・扱いづらいインターフェイス
・マップの広さを生かしきれていないイベントの密度
・世界規模でオンラインゲームを運営する力不足
・『Fallout』の精神が形骸化している
・(PvPプレイヤーにとって)イメージよりも平和なゲーム




「GameSparkレビュー」では、読者の皆さまのゲームの感想も募集しています。下記リンクにて質問にお答えください。回答期間は2018年12月30日から2019年1月6日まで。また、集計終了後には「GameSpark読者レビュー」として記事を公開し、回答やコメントを取り上げる場合があります。

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《SHINJI-coo-K(池田伸次)》

FPSとADVを偏愛しつつネトゲにも造詣のあるフリーライター SHINJI-coo-K(池田伸次)

「Game*Spark」誌に寄稿しつつも「IGN JAPAN」誌と「GAMERS ZONE」誌にも寄稿。「インサイド」誌にも寄稿歴あり。今はなき「Alienware Zone」誌や「週刊Steam」誌にも寄稿していたフリーライター。 そしてヒップホップビートメイカー業も営む音楽家兼ゲームライターの兼業家。通称シンジ。

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