今回はイスラエルのゲーム市場、ゲームコミュニティ史に詳しい現地ライターの声をお届けします。レポーターは、イスラエル・テルアビブ在住の男性・Yotamさん。現地の量販店や個人商店、中古市場カルチャーから、イスラエルのゲーマーが築き上げたコミュニティについて探っていきます。
イスラエル……砂漠の真ん中にあるこの小さなイノベーション大国は、技術面においてはとても近代的。もちろんゲーム文化にも貢献していますし、時には新たな分野を開拓することもあります。大きなチェーン店や個人規模のお店、広いオンラインコミュニティー、そしてプロゲーミングチームや大会イベントもあるのです。
アメリカ、日本、ゲーム、ギークカルチャーとの「素晴らしき繋がり」がイスラエルで生まれたのは、1990年代のこと。インターネットが普及し始めたころ、イスラエルの人々はお互いにより密接な関係となり、小さなオンラインゲームコミュニティを形成していきました。活発なネットコミュニティー、フォーラムサイト、そして“オフ会”なども徐々に流行。誰もがみんなビッグタイトルを遊び、オンラインで繋がり、MMORPGのプライベートサーバーが立つ……ゲームニュースサイトやフォーラムも同時に進歩していきました。
ゲームボーイやPlayStation、PCゲームもそのころからイスラエルの一般的な家庭に普及しました。ヒットしたゲームシリーズやゲーム機がイスラエル市場に参入し始めたとき、私達イスラエル人は「常に新しく、より素晴らしいものが欲しい!」という気持ちで喜んで受け入れました。それ以降、『ポケモン』ブームの影響は至るところで目にしましたし、『鉄拳』が流行したこともありました。知人から「ゲームしようぜ!」と挑まれたゲーマーが対戦から逃げ出すことは、ほとんどありませんでした。
ゲーミングPCを使うゲーマーは多いものの、イスラエルでは家庭用ゲーム機が最もポピュラーです。一度購入すれば、(人によっては)面倒くさい設定もナシに遊べますからね。イスラエルでは「できるだけ簡単に扱えて、長持ちする製品」が求められていることも理由です。過去にはXbox 360とPlayStation 3が大人気でしたが、Xbox 360は少し過剰に展開し過ぎたような気もします。また、Wiiは今でも非常に人気があるコンソールです。特に子どものいる家庭に好評。子ども達は勝手にゲーム機の使い方を覚えますし、その家庭で英語を読めるようになっていくのです。
イスラエルの若年層は新たなテクノロジーを好みますし、親よりも技術的なことや英語を深く学べていることが多いです。そんな理由もあって、家庭用ゲーム機とゲーミングPCは真っ向勝負の様相。やはり、スペックや製品としての説得力、価格の面で競争しています。価格については他の地域や国と比べて大きな差はありませんが、新製品の値段は少し高かったりする印象です。
誰もが注目するような新作ゲームは、1本あたり平均375新シェケル。日本円にして約11,750円です。そうでなければ175新シェケル、だいたい5,500円といったところです。
Toys R Us(トイザらス)やBug Multisystemなどなどのビッグなチェーン店では、家庭用ゲーム機もPCもゲームもすべて販売されています。大きな量販店にネガティブなイメージを持っているわけではありませんが、ローカル規模な個人商店はひときわ「ピュアな存在」とも言えます。そういったお店では、ユーザーが欲しいモノを直接輸入したり、ハードウェア用のスキンの注文を受け付けたりもしていますし、故障したハードウェアの修理までサポートしてくれるのです。構成を選んでゲーミングPCを注文できるオンラインBTOショップも営業しています。
しかし、そうした「ピュア」な個人商店には“暗黒面”があったりもします。彼らはゲーム機を改造して販売しているのです。小規模なゲーム屋さんのほとんどでそういった製品が買えますし、それらには謎の独自ソフトウェアがインストールされています。この手の「改造ゲーム機」の多くは、ハック済みのゲームがハードドライブにパンパンに詰まった状態で売られています。
イスラエルのネットユーザーの間では中古ゲーム市場が注目されていて、「売ります!」という投稿が掲載されるとだいたい数時間以内に取り引きが完了します。この中古市場でもハードウェアを改造し、“アップグレードした”という体で売るユーザーがいたりします。
イスラエルのゲーマーの間では競技的なタイトルが人気で、スポーツゲームや格ゲー、FPS/TPSのほか、MMORPGを好む傾向があります。スポーツゲームで言うとやはりサッカーが主流。友達とダラダラ話しながら遊んだり、みんなが集まる“たまり場”でプレイすることもしょっちゅうです。シリーズファンは毎年リリースされる新作を購入しますし(ある意味では“信者”とも言えます)、どのフランチャイズが最も面白いのか熱心に議論しています。もちろん、大会やソーシャルメディア上で活動するグループ、クランなども存在しますし、コラボレーションキャンペーン&イベントが開かれることもありますね。
サッカーゲーム以外だと、バスケットボールやレスリング、レーシングゲームなども人気。イスラエルのゲーマーは「勝利」を非常に誇り高いモノだと感じますし、逆に「敗北」したときにはとてつもなく悔しい気持ちを感じます。そんなわけで、ゲーマーがひとつの作品に「オールイン」……つまり集中的にのめり込み、練習に打ち込みまくることは珍しくありません。ちなみに、こういった極端な遊び方のことを“Plowing a game”と呼んだりもします。“Plow”とは“耕す”という意味なのですが、経験値やアイテムを稼ぐ“Farming”と同じく農業由来の言葉ですね。
また、FPS/TPSにおいては『Counter-Strike: Global Offensive』や『Unreal Tournament』時代から続く大規模コミュニティーが今も盛ん。実際のところ多くのプレイヤーが軍隊に所属しているので、ミリタリーモノや特殊部隊モノが人気を集めています。先ほども触れた通り、競技的なゲームが楽しまれていますしね。
特定のRPGシリーズや任天堂作品、はたまたニッチなジャンルのゲームにおいても、イスラエルのゲーマーが集まるコミュニティーが存在します。ブラックフライデーセールの時期には、このような大盛況になることもあるのです。私たちの国は小さくて、誰もが家族のようなもの。コミュニケーションをとり始めたりオフ会のようなイベントを開くまでの敷居は低く、メジャーなゲーム/マイナーなゲームにかかわらず、ゲーマー仲間の集まりはいつも活発です。以上、イスラエルのゲーマー文化とその歴史、販売事情のレポートでした。
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