Game*Sparkレビュー:『サイバーパンク2077』(PC) 2ページ目 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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Game*Sparkレビュー:『サイバーパンク2077』(PC)

オープンワールドとストーリードリヴンの両立という超高レベルの実現に挑んだCDPRの挑戦をどう評価するのか。TRPGやサイバーパンクやFPSといった本来的に「メジャー」ではない要素が、どのように「メジャー」向けとなったのかを紐解く。

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【注意】このページでは本作のシナリオ・クエストに関するネタバレが含まれます。

オープンワールドである必要性はあったのか

主人公であるVはライフパスの違いこそあれ、基本的には裸一貫でナイトシティの生活を始めるというシナリオです。相棒となるジャッキーと出会い、二人で様々な仕事をこなして少しずつ名を上げ、Vが自分の部屋を手に入れる。ここが本作の一応の出発点と言えるでしょう。

ジャッキーは魅力ある愉快な男ですが、彼と信頼関係を築いていく期間は実のところ、その出発点まで一気に省略して表現されることとなります。意気投合してジャッキーの実家を紹介され、フィクサーとつながり、小さな盗みの仕事に若干失敗しつつ、稼いだ金で武器を手に入れ、危険な撃ち合いも乗り越え、家を手に入れる……ここまでをフラッシュバックのようなオープニングムービー形式で(実際にはムービーではなく、モデルが反映されるカットシーンですが)見ることとなるわけです。

後述しますが、キャラモデルが反映される形のカットシーンは、このオープニング以外ではほとんど活用されません。公開されてきたゲームトレイラーと乖離した感覚を強める遠因ともなっているので、もっと作り込んでほしかったという思いがあります。

相棒と呼ぶにふさわしい男 ジャッキー 彼はジョークが好きなのだ

『サイバーパンク2077』はバディもののアドベンチャーと言えます。バディもののFPSとして筆者が体験した中では『タイタンフォール 2』シングルモードの主人公と巨大AIロボBT(ビーティ)、『バイオショック インフィニット』の主人公ブッカーとエリザベス、がとても強い印象に残っています。

どちらも主人公に強いパーソナリティが与えられており、最初から最後まで互いの関係性が強く描かれ、戦闘中もリアルタイムなアクションが激しく発生して楽しめるのが特徴です。

対して『サイバーパンク2077』はFPSではあるものの、オープンワールドという条件によってバディとしてのやりとりが飛び石のようになってしまいました。

「個人」の思いに敏感で理想を追い続けた男 ジョニー 彼は憎まれ口が多い

ジャッキーが物語の途中で退場することについては、発売前のトレイラーから知れるところではありますが、実のところバディが途中で交代するというのは思い切った内容と言わざるを得ません。

とある事件によりジャッキーが退場したあと、主人公Vの頭の中にキアヌ・リーヴスの演じるジョニー・シルヴァーハンドが住み着くこととなります。ひとことで言えば気持ちのいい人物であったジャッキーに対し、互いに納得のいかない状況からはじまり、個性の尖ったジョニーを受け入れがたいと思ったプレイヤーも多かったのではないでしょうか。

割合としてはジョニーと共に生きる時間の方がプレイヤーとしては長くなってしまうので、ここが合わなければ苦しいものとなるでしょう。それでも、あのキアヌ・リーヴスと行動を共にするゲームというのも、他には存在しません。

ジョニーはメインクエスト・サイドクエストともに、何かと突然現れてはVに突っかかってきます。キアヌファンにとってみれば贅沢のオンパレードといったところでしょうか。発売前の印象に対して思ったよりも登場頻度が多く、むしろ本編の真ん中に存在するレベルです。

それでも対話で互いの距離を縮めていく (バグでひとつの字幕がずっと残ってしまった)

本作はジョニー・シルヴァーハンドに対して、主人公Vがどのように選択していくのかの物語でもあります。とある理由によりプレイヤーである主人公Vには残された時間が少ないという設定もあり、シナリオは前へ前へと進ませるものとなっています。

そのような構成であることから、筆者はオープンワールドである時間的な自由度に対して、常に違和感を持つこととなってしまいました。受け入れがたい二者が時間をかけて理解を深めていく構成は魅力的であったにも関わらず、メインクエストの周辺以外ではそれらしい描写があまり存在しないのです。

ある日突然頭の中にジョニーが住み着きケンカ状態になるところからはじまるわけですが、オープンワールドのナイトシティに放り込まれると、街中のちょっとしたサブクエストに反応したジョニーがいきなり親身な様子で話しかけてきたりします(筆者の例では、道端でギターを演奏する男にジョニーが反応するシーン)。

あれ?そんな態度を取るほど言葉を交わしましたっけ?というのがプレイヤーとしての自然な感想となってしまい、そこで作品の雑さを感じてしまうのはもったいないところでした。

前ページで紹介した圧倒的なディティールを活かして、ジョニーとの物語をアドベンチャーとして描ききるのならば、オープンワールドはかなり相性の悪いものとなってしまっていたと言わざるを得ません。

残念ながら魅力あるジャッキーでさえ、クエスト以外ではあまり絡む機会がありません。いわゆるフォロワーという機能はないので、日常のほとんどがソロ過ぎるゲーム体験だったのではないでしょうか。クエストの中では共闘できていたので、やはりシナリオを進めることを中心に設計されたのだろうと思います。

『ウィッチャー3』のシナリオが長すぎたという反省を活かすという名目で、『サイバーパンク2077』のメインクエストはたしかに短めのものとなっています。本作にはシナリオに絡むサブキャラクターが何名か登場し、その後の絡みをサブクエストで進行することもできます。

本作は主人公Vがどのような生き様を貫くのかという点もテーマとなっており、人々とのつながりがどのように返ってくるのかという視点は外せません。詳細は伏せますが、エンディングを真に味わいたければ彼らともしっかり最後まで関わり続け……つまりサブクエストをしっかり追い込んだ上でクリアに臨むべきでしょう。

冗談のような軽いサブクエストならばともかく、ナイトシティで生きていく彼らとのクエストはメインの中にもっと組み込んでも良かったのではないかと思います。筆者としては、反省を活かして短くしたというよりは、ジョニー以外を脇にどかして短いプレイも可能としたという風に感じました。

しかしながら、マップ上にこれでもかと表示されるサブクエストアイコンの中に埋もれてしまう彼らは、メインクエストを進めてしまいたいという欲求にプレイヤーが折れたとき、ほとんど存在しないに等しいものとなります。

エンディングを迎えたとき「これならもう少し関わっていけばよかった」と感じたプレイヤーは多いのではないかと危惧します。二周目以降でやればいいという意見もあるかとは思うのですが、思いがけず報われたというカタルシスは初回だからこそ味わえるものではないでしょうか。

そうした点も踏まえて本作はストーリードリヴンなアドベンチャー的作風であり、オープンワールドとの相性が噛み合わなかった作品であると、敢えて厳しく評したいと思います。記事冒頭で述べたように、「物語に乗って楽しんでいく」というメジャー的なゲームとしては確かに狙いとして正しく、ふんだんに登場するジョニー・シルヴァーハンドはエンターテインメントとして豪華な価値をもたらしたことは間違いありません。

オープンワールドだからこそ良かったことは?

怪しい路地裏に歩みを進めるワクワクはやはり他では得られない

まさに「ナイトシティを体験できる」という点において、本作がオープンワールドである以上の理由はありません。この試みは最先端であり、CDPR以外には難しいことであり、極めて野心的なプロジェクトであったことは間違いないのです。

冒頭で筆者が望んでいた「ハードコアゲーマー」的な楽しみ方をしようとするならば、オープンワールドのナイトシティの中で、極めて怪しい生き方をし続ける……だからこその自由なシステムなのだと評していたことでしょう。

しかしながら、本作はそこに力点が置かれませんでした。オープンワールドだからこそ考えられる楽しみは実装されていないのです(もちろんナイトシティの景観は実現されています!)。

考えれば考えるほどもったいなさが募ってしまうのは、筆者がわがままだからなのは確かです。発売前から、いわゆる『Skyrim』的な生活要素を含んだゲームではないと確かにアナウンスされていました。

MilitechやMaxTacやTraumaTeamは強烈で強大だが 深く関わることはほとんどない
(写真の男はTraumaTeamじゃないです)

ならばなぜオープンワールドだったのか。なぜあれほどまでに高精度の読み物が(極めて高いレベルのローカライズで)散りばめられているのか。なぜあんなにNPCが配置されているのか。なぜVの住むビルという魅力的な近隣を作り上げたのか。なぜ個性的で恐ろしい組織をあれほど登場させたのか。

ナイトシティを体験するというオープンワールドの魅力が、バディものというメインシナリオがもたらす「なぜオープンワールドである必要があったのか」という理由と衝突してしまったのは残念でなりません。

筆者はそれでも現時点で3周目(ようやく全てのライフパスを体験できる)に突入しようとするレベルで『サイバーパンク2077』を気に入っていますし、楽しめています。しかしながら、ゲームプレイの中でオープンワールドらしさとアドベンチャーらしさをスイッチのように頭の中で切り替えながら遊んでいることも自覚させられます。

発売前のトレイラームービーで表現されていたクエストは確かにゲーム内に存在していますが、そのほとんどが通常のFPS視点で過ぎ去っていくことは良くも悪くも驚きでした。

車の上を滑って移動して乗り込み、脱出の喜びにVが腕を突き上げ、重症を負ったジャッキーが命を落とし、フィクサーであるデクスが裏切り、ゴミ置き場の中で目を覚ます……多くの人に何度も観られたであろうこのトレイラームービーは、ゲームの中では全て通常のプレイとして通ることになります。

いわゆるキャラモデルを反映させたカットシーンすら登場しません(殴られて気絶するために一瞬だけ操作を奪われる程度です)。戦闘も含めて自分で歩んでいくことになるので、おそらくほとんどのプレイヤーは頑張って敵を全滅させたあと、クエストアイコンの光った車へゆっくりと乗り込むことになります。

オープンワールド的ハードコアなゲームとして、全て「自分の足」で進めていく泥臭さを楽しむのもアリでしょう。しかしながら、ジャッキーと出会った後の馴れ初めがカットシーンとして手際よく表現されていたことからも、そうしたアプローチは可能だったと思えるだけに、本編のほとんどが「自分の足」方式となったことは、ちぐはぐなものを感じざるを得ませんでした。

それでも光るクエストの作り込み

終始厳しいレビューを続けてきてしまいましたが、本作が持つ強みのひとつにクエストの作り込みがあります。街中で起こっているちょっとした暴動を鎮めるといった小さなクエストも数多くあるのですが、そこに置かれた読み物などから事件発生に至る様子を想像できたり、プレイヤーの選択がきちんと後の結果に反映されたりといった幅広さは、ナイトシティを作り上げたという偉業に並ぶほどのコンテンツ量だと言って良いでしょう。

「プレイヤーの選択が後に影響していく」という点は特に素晴らしいものがあります。もちろんメインシナリオそのものが大きく変わってしまうようなことはないものの、おそらく1週や2週した程度では気づけないクエストも存在していると考えられます。その意味では、筆者は本作を把握しきれずにレビューしていると言われても仕方がありません。

選んだライフパス専用の選択肢が出てくるのも面白いのですが、作中全般を通してそれだけではない……というだけでも凄さが伝わるのではないでしょうか。まさかこのときの選択がこう影響してしまうなんて……というものが多く、予想を裏切られる面白さがあります。

それこそ、ひとつのギャングと思い切り敵対して銃撃戦になるかと思えば、ひとつ準備をしていたおかげで味方にすらなってしまうというくらいに変化していきます。オープンワールドの強みを活かしたものとしては、常に誰かに対して電話を掛けられるという点があり、それほど例は多くないながらも「電話をかけたこと」が先の展開を変えてしまう例もあって、会話の選択肢だけに任せていられないという、プレイヤーの発想の余地があることは特筆に値するでしょう。

『サイバーパンク2077』の世界に関わるほどプレイヤーは報われると感じます。同じことを繰り返しますが、サブクエストにしておくにはもったいない要素があるため、それらを自分の足で見つけ出さねばなりません。

先の評価と逆説的なようではありますが、オープンワールドの中で自分の足でそれらを見つけ出し、キャラクター達と関わるからこそ味わえる深みが存在しています。それこそ、オープンワールドだからこそできることです。

わがままなのは承知で、できることならば……
「ジャッキーとの馴れ初めをもっと細かく体験したかった」
「ジョニーとの距離を埋めていく感覚をもっと丁寧に整備してほしかった」
「できればやっておいたほうがいいサブクエストに気づきやすくしてほしかった」
「ナイトシティで生きていると思える小さな要素を作り込んでほしかった」

このあたりが充実すれば、オープンワールドへの違和感をなくし、高い満足感を更に得られたであろうと感じる次第です。ここまで述べてきた「オープンワールド制と噛み合わなかった」という評価は、実のところ組み合わせが悪かったのではなく、もう一歩……という紙一重の勝負によるものであり、CDPRが高いレベルに挑んだことの証左であると言えるでしょう。

バディとしてのジョニー・シルヴァーハンドに違和感を持つ瞬間はたしかに存在してしまっていますが、それらは決して失敗なのではなく、難しい表現を模索したチャレンジの結果なのだと受け止めたいと思います。

本作が持つオープンワールドの強みとしてはその他に、『レッド・デッド・リデンプション2』のようにして、ナイトシティ内を歩いていると次々とクエストが飛び込んでくるという点が挙げられます。

しかしながら、ナイトシティにはほとんどランダムイベントは配置されていません。それどころか、プレイヤーの暇を突くようにして舞い込むクエストも、実際のところは案外シンプルな形で実現しているのです。

その方法こそ「ナイトシティ内へ圧倒的な数のクエストを詰め込む」というもの。フィクサーから定期的に舞い込んでくるように見える依頼も、実のところは配置されているクエストの付近を通過することでトリガーされているパターンがほとんどですし、ランダムに見える暴行イベントも実際は予め配置されたものです。

フィクサーから挨拶が飛んでくるのもVが担当エリアに入るというシンプルな条件ですし、NCPD(ナイトシティ警察)の事件クエストも同様の形式となっています。初期の頃から車両に乗って高速移動が可能なので、プレイヤーが次々とトリガーにひっかかることで「ランダムに事件が起こっている感覚」に浸れる……という構造になっています。

あまりランダム発生しないということは、クエストをやり尽くしてしまうと平和なナイトシティがやってきてしまうことを意味するのですが、その点については繰り返し述べているように、生活するといった方向に力点が置かれた作品ではないと受け止めざるを得ないでしょう。

総評


《Trasque》

一般会社員 Trasque

会社員兼業ライターだけどもうすぐ無職になりそう

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