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「ああっ、僕の報酬死んだ」ロシアにおけるペイパルのサービス停止がゲーム翻訳者・くらむ氏を直撃【緊急インタビュー】

ペイパルがロシアでのサービスを停止した影響はロシア産のゲームを翻訳する翻訳者にも及んでいます。有志翻訳者からプロのゲーム翻訳者になった異色の経歴の持ち主くらむ氏に緊急インタビューしました。

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Photo by Justin Sullivan/Getty Images
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ペイパルがロシアでのサービスを停止した影響はロシア産のゲームを翻訳する翻訳者にも及んでいます。『Stoneshard』、『Breathedge』、『SuchArt: Artist Simulator』などの翻訳者として知られるくらむ氏は、影響を受けたことをTwitterで明かしました。

くらむ氏は有志翻訳者からプロのゲーム翻訳者になった異色の経歴の持ち主です。Game*Sparkでは過去に二度のロングインタビューを行っていますが、今回も緊急インタビューを試みました。

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――現在はロシアのデベロッパーから仕事を請けているのでしょうか?またロシアのウクライナ侵攻による影響はありますか?

くらむ氏(以下、敬称略)ユーザーに要らぬ心配をかけてはいけないので、タイトル名は公表しませんが、現在もとあるタイトルで翻訳に携わっています。ロシアによる侵攻の開始後、全般的に開発からの反応が遅くなったり、少なくなったりしているのが現状です。現在関わっている作品も翻訳作業は少しずつ進んでいるものの、前より明らかにペースダウンしています。

――Twitterでは狼狽していましたが、報酬に関する連絡も難しいのですか?

くらむまだ払える払えないの連絡はしていません。確認して良いものやら……という感じですね。

――それはメーカーへの配慮ですか?

くらむそうです。おそらく想定外の状況でてんやわんやしているはずなので、今問題を増やしても仕方がないと思っています。もともと銀行振り込みの予定だったのですが、情勢がきな臭くなり始めた2月20日ごろに「ペイパルに変更できないか」と言われ、状況を察して変更したのが経緯です。

――メーカーにとっては銀行振り込みよりペイパルの方が都合が良かったのでしょうか?

くらむ当初は「銀行振り込みの方が都合が良いから」という話でした。それが「やっぱりペイパルで」となったので、ちょっと不安だったのですが……。

――ペイパルを指定された理由に心当たりはありますか?

くらむ当時すでに経済制裁の話が出ていたので、先んじてペイパルにしたのかなと思いました。

――報酬の入金に関して手続き上の問題は経験しましたか?

くらむこちらは受け取るだけですのでそういった問題は分かりませんが、2月20日の少し前に同じパブリッシャーから1件入金があって、その時は問題なく受け取れましたね。

――その後は入金そのものがないのですね。もとから予定がなかったのでしょうか?

くらむペイパル支払いに変更になった1件を除いては、入金の予定はありませんでした。ただし、その件についてはパブリッシャーではなくデベロッパーから直接報酬をいただく形になっていたので、もしかすると状況が異なるのかもしれません。

――今後、メーカーとの連絡が一層困難になった場合はどうするつもりですか?

くらむ現場のプロジェクトマネージャーが動けるうちは仕事を続けるつもりです。こちらからどうなるのか聞くつもりはありません。

――入金が途絶えてもでしょうか?

くらむもともと入金の間隔はそれほど短くないので、気長に待つつもりです。

これは念を押しておきたいのですが、決して先方から「払わない」と言われたわけではありません。単にペイパルで支払われる予定だったものが、ペイパルが止まったことによって支払い不能になっただけです。私個人としても、ロシアのゲーム会社やゲーム開発者、プロジェクトマネージャーに対して個人的な嫌悪感はまったく抱いていません。ただ、不運だったなと。

――メーカーと契約する際に戦争で入金が不可能になる事態は想定していましたか?

くらむ戦争が起こって入金が止まるとは思ってもみませんでした。確認はしていませんが、相手方も想定外だろうと思います。契約相手方のカントリーリスクに関して言えば、以前中国の翻訳会社から支払い遅延があったので、個人的にはそれ以降中国企業とのやりとりは避けてはいます。しかし、中国企業が全般的にそうだという話も聞きませんし、今後もカントリーリスクを考慮して相手方を選ぶことはないと思います。

――身近に同じような問題を抱えているゲーム翻訳者を知っていますか?

くらむ知りません。別のゲームで一緒に作業をした翻訳者はいますが、その翻訳者は今回のパブリッシャーからレギュラーの仕事を請け負っていませんし、一緒に作業をした時も交渉は私が行っていました。

――他にも戦争の影響は出ていますか?

くらむ不幸中の幸いではありますが、ウクライナのハリコフとリヴィウに開発スタジオのあるメーカーとの取引はまだできています。本社がスウェーデンなので、開発業務が完全にストップしない限りは大丈夫なようです。スタッフの国外脱出に全力を尽くしているという話は聞きましたが、その後ウクライナが「国家総動員令」を発令し、18歳~60歳の男性の出国を禁じてしまったので、間に合ったのかは分かりません。

――最後に伝えたいことはありますか?

くらむ入金がないからといって仕事をしないわけではないので、担当作に関しては責任をもって翻訳したいと思います。

――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。


ロシアとウクライナの戦争は、こうした形で日本のゲーム業界にも確実に影響を及ぼしています。


《FUN》

遊ぶより創る時間の方が長いかも FUN

元ゲームプログラマー。得意分野はストラテジーゲーム。ゲームライターとして活動する傍ら、Modの制作や有志日本語化に携わっています。代表作は『Crusader Kings III』の戦国Mod「Shogunate」。

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