有志翻訳者からプロへ転身した『Stoneshard』くらむ氏『Idol Manager』Yuzchastics氏対談「裏口入学も捨てたものじゃない」【有志日本語化の現場から】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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有志翻訳者からプロへ転身した『Stoneshard』くらむ氏『Idol Manager』Yuzchastics氏対談「裏口入学も捨てたものじゃない」【有志日本語化の現場から】

海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回は有志翻訳者からプロの翻訳者に転身した経歴を持つ、くらむ氏とYuzchastics氏のお二人に対談形式で話を訊きました。

連載・特集 インタビュー
『Stoneshard』
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  • 『Crusader Kings III』
  • 『Freedom Planet』
  • 『戦塵のアシルド ~War of Ashird~』
  • 『Partisans 1941』
  • 『Quantum Suicide』
  • 『Doki Doki Literature Club!』

くらむ氏の代表作(公式翻訳・有志翻訳)『Stoneshard
戦争で荒廃した王国を傭兵として生きるオープンワールド型の高難易度ターン制ローグライクRPG。

海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回は有志翻訳者からプロの翻訳者に転身した経歴を持つくらむ氏とYuzchastics氏のお二人に対談形式で話を訊きました。お二人には以前個別にインタビューしていますので、ぜひこれまでの記事とあわせてお読みください。

有志翻訳者からプロを目指す『Stoneshard』くらむ氏インタビュー「プロの翻訳者はまったく違う世界の人だと思っていた」【有志日本語化の現場から】

有志翻訳者からプロへ転身した『Freedom Planet』Yuzchastics氏インタビュー「ゲーム翻訳者は全員マゾです」【有志日本語化の現場から】

日本語化とは海外のゲームを日本語で遊べるようにすることです。その中でも、デベロッパーやパブリッシャーによる公式の日本語化ではない、ユーザーによる非公式な日本語化を有志日本語化(有志翻訳)と呼びます。一般的にボランティアで行われ、成果物は無償で配布されます。

有志日本語化には、デベロッパーやパブリッシャーが許可する範囲内で行われるものと、無許可のものがあります。許可されているものには、Mod(ユーザーによる改造)が公式に認められている場合や、直接許可を得ている場合などがあり、最近はインディーゲームを中心に有志日本語化が公式日本語版として採用される例も出てきています。


連載第12回は有志翻訳者からプロの翻訳者に転身した経歴を持つ、くらむ氏とYuzchastics氏のお二人に対談形式で話を訊きました。

くらむ氏 略歴
フリーランスのゲーム翻訳者(英日)。プロのゲーム翻訳者に転身して半年。
有志翻訳『Stoneshard』『Imperator: Rome』『Crusader Kings III』など。
公式翻訳『Stoneshard』『Partisans 1941』。

Yuzchastics氏 略歴
フリーランスのゲーム翻訳者(英日)。プロのゲーム翻訳者に転身して3年。
得意分野は会話・キャラクター重視のストーリー。複数の有志日本語化に匿名で参加中。
有志翻訳『Shining Song Starnova: Idol Empire』『Doki Doki Literature Club!』など(匿名翻訳者として)。
公式翻訳『Idol Manager』『戦塵のアシルド ~War of Ashird~』『Quantum Suicide』『Freedom Planet』など。

Yuzchastics氏の代表作(公式翻訳)『Idol Manager
エンターテインメント業界の光と闇を体験できるアイドル育成・事務所経営シミュレーション。

プロになるための正攻法と裏技

あのインタビューを読んでプロを目指す人がいるとは思いませんでした

――有志翻訳に携わるようになったきっかけはなんですか?

くらむ氏日本語化Modの説明文に有志翻訳コミュニティのDiscordサーバーが記載されていたのを見て興味を持ち、参加したことです。

Yuzchastics氏気になっていたゲームの有志翻訳プロジェクトを発見して、お祭り感覚で参加したのが始まりです。最初は数行レベルの参加でした。

くらむ氏私も最初は自分で編集するのではなく、翻訳が不自然なところを指摘するだけでした。

Yuzchastics氏最初はそんなものですよね。あまり気張らず、軽いところから恐る恐る。

くらむ氏今でもそういった方がサーバーにいらっしゃるので、すぐに返答するよう心がけています。

――『Stoneshard』の有志翻訳者から公式翻訳者になった経緯を教えてください。

くらむ氏早期アクセスで発売された『Stoneshard』を面白そうだと思って購入したのが始まりです。簡単に日本語が表示できることに気づいたので、個人で翻訳しつつ開発者に翻訳データの配布許可を取りました。ところが、最近のアップデートでファイル構造が変わり、日本語化データが作成できなくなりました。これまで作ったデータを開発者にお渡しして、暫定的にでも日本語に対応してもらえないかとお願いしたところ、先方から公式翻訳者にならないかと打診があったのです。

Yuzchastics氏日本語化Modが適用できなくなったところで開発者にコンタクトを取る熱量がすごいですね。

くらむ氏せっかく数万語の翻訳資産があるのに、もったいないと思いまして。

Yuzchastics氏もったいないがターニングポイントになったわけですね。

くらむ氏実は発売当初に翻訳を任せて欲しいと提案したのですが、その時は袖にされました。どうやら、その後、私のインタビュー記事をGoogle翻訳にかけて読んでくださったようです。

Yuzchastics氏やはり熱量が明暗を分けましたね。私なら一度袖にされたら泣き寝入りしてしまいそうです。

くらむ氏の代表作(有志翻訳)『Crusader Kings III
中世ヨーロッパを舞台に君主としての人生を体験するRPG要素の強いグランドストラテジー。

――なぜ有志翻訳者からプロの翻訳者になったのですか?

くらむ氏生きていくために。というのは半分冗談で、もう半分は私に向いている仕事だと感じたからです。

Yuzchastics氏自分に向いているのは私も感じます。元々がゲーマーですし、英語のゲームが遊べない人のお手伝いができれば自分も嬉しいです。

くらむ氏私は今でも英語でプレイすることにストレスを感じます。できれば日本語でプレイしたい。ですから、時間がかかっても翻訳できるなら翻訳してしまいます。実際に日本語を待っている方はたくさんいますよね。

Yuzchastics氏どちらかを選べと言われたら日本語を選んでしまう。だからこそ、日本語で届けたいという気持ちはありますね。私は最初から決心してプロになったわけではなく、個人でアップロードしていた『Freedom Planet』というゲームの字幕動画の翻訳が公式に採用されたのがきっかけでした。日本語版が出たことで「これでやっと遊べる」という声を頂いたり、日本のプレイヤーが増えてゲームを楽しんでくれるのが嬉しかった思い出があります。

くらむ氏嬉しいですよね。私も先日『Stoneshard』が日本語に公式対応した際はTwitterでたくさんの言葉を頂きました。

Yuzchastics氏そういう声がもらえると翻訳者冥利に尽きますね。プロとして公式翻訳に関わると、あまり個人に向けて感想がもらえることはありません。だからこそ、褒めてもらえたり「ありがとう」と言ってもらえると大変テンションが上がります。

くらむ氏良訳と言われるゲームでも、その翻訳者はあまり知られていませんね。

Yuzchastics氏クレジットに名前が載れば良い方で、翻訳者の名前が表に出ることはまずありませんから。

Yuzchastics氏の代表作(公式翻訳)『Freedom Planet
可愛らしいケモノ系のキャラクターが小気味良いアクションを繰り広げる2Dプラットフォーマー。

くらむ氏私はYuzchasticsさんのインタビュー記事がきっかけで翻訳者を目指しました。

Yuzchastics氏正直、あのインタビューを読んでプロを目指す人がいるとは思いませんでした。さぞかしマゾなのでしょう。

くらむ氏翻訳者はもっとレールに乗った人が就く仕事だと思っていたのです。専門学校や英文科を出た人が就くイメージと言いましょうか。有志翻訳が公式に採用されてプロの翻訳者になったお話を読んで、そんな方法もあるのかと気づかされました。

Yuzchastics氏自分もそう思っていました。実際そういう翻訳者さんも多いですね。我ながら、自分がプロとしてやっていくに至った経緯は相当イレギュラーというか、裏口入学みたいなものだと思っているのですよ。

くらむ氏では、私も裏口組ですね。

Yuzchastics氏まず翻訳者を志して、きちんと勉強して、ローカライズ会社にアプローチするところから始めるのが正道だと思うのですが……。私がそれなりにやれている以上、裏口でも現実的に問題はないかと思います。最初は実力不足で苦労しますけどね。

くらむ氏実際大変です。

Yuzchastics氏そこを補うのが有志翻訳の経験だと思います。ある程度勝手がわかっているから、いきなり現場に飛び出してもなんとかやっていける。語学や翻訳の勉強はもちろん大事ですが、ゲーム翻訳は有志の場で経験を積めるのが大きいかもしれません。経験を積むほどスキルも上がっていきますし。

くらむ氏有志翻訳は間違っていたら指摘してもらえる環境なのも大きいですね。個人で請けた仕事の場合、間違っていても誰もわかりません。発売されてから青ざめるだけです。

Yuzchastics氏有志なら下手な翻訳でも文句を言われる筋合いはないですし、練習の場としてはうってつけだと思います。

くらむ氏他の人の翻訳例をたくさん見られるのもいいですね。自分が扱ったことのない表現にも出会えます。

Yuzchastics氏上手な翻訳に感心したり、逆に悪いところに気づいてそれが自分の身になったり。裏口もそう捨てたものじゃなかったかも。

くらむ氏メインルートになるといいですね。

Yuzchastics氏の代表作(公式翻訳)『戦塵のアシルド ~War of Ashird~
『Doki Doki Literature Club!』のSatchely氏も参加する多国籍チームによる日本風シミュレーションRPG。

プロになって直面した現実

決してお勧めはしません

――実際に有志翻訳者からプロの翻訳者になった感想はいかがですか?

くらむ氏していることは有志翻訳の時と基本的に変わっていません。有志翻訳と一番違うのは、Yuzchasticsさんが前回のインタビューで述べていた通り、実際にゲームをプレイしながら翻訳できないという点です。

Yuzchastics氏正直苦しくないですか。

くらむ氏苦しいなんてものではありません。使用箇所のわからないテキストを翻訳するほど不安なことはないですね。

Yuzchastics氏くらむさんの商業翻訳デビューは『Partisans 1941』で、他の人との共同翻訳ですよね。初めてでいきなりインディー作品の共同作業だとすごく混乱しませんか。

くらむ氏なによりゲームが全然完成していなかったので、そこが大変でした。実際のゲーム画面で確認しようにも、いったいどこで誰が会話しているのかほとんどわかりません。

Yuzchastics氏確認できないケースでは、やはりそこが一番辛いところですよね。それを経験して、プロに対する気持ちは変わりましたか。

くらむ氏いいえ。「先人の皆様がおっしゃっていたのはこういうことか」と理解しました。むしろ、経験したことでプロになった気持ちがあります。

Yuzchastics氏洗礼を終えたのですね。折れなくて良かったです。私は一回折れかけましたから。

くらむ氏私も個人で請けた最初の仕事が発売前のインディー作品だったら折れていたかもしれません。共同作業で経験者の方がリードしてくれたので助かりました。『Stoneshard』でも、中国語版翻訳者の方とやり取りをしています。日中で同じ問題を抱えていることは多いですからね。

Yuzchastics氏翻訳者間でコミュニケーションが取れるのは非常に大きいと思います。この仕事もコミュニケーションは大事で、他の翻訳者や開発者と相談したくなることは多いです。一人で変な方向に走ると後が大変ですから。翻訳のことは翻訳者に丸投げというプロジェクトだと、それはもう苦労します。話者やシチュエーションが不明だったり、実装時に言語関連の不具合が出たり。商業翻訳で最も苦労することの一つです。

くらむ氏の代表作(公式翻訳)『Partisans 1941
第二次世界大戦を舞台にパルチザンを率いてドイツの侵略に抵抗するリアルタイムストラテジー。

――他の有志翻訳者にプロの翻訳者になることを勧めますか?

くらむ氏決してお勧めはしません。翻訳で食べていこうという気持ちが強くある方なら、ぜひチャレンジして欲しいです。

Yuzchastics氏意外ですね。お勧めしませんか。

くらむ氏これから翻訳者になろうという学生の方ならまだしも、すでにお仕事がある方にはお勧めしがたいです。私もこの仕事で本当に食べていけるのかまだ自信がありませんし。

Yuzchastics氏実際、仕事とするのは個人的にもお勧めしづらいものがあります。まず儲かりません。

くらむ氏専業翻訳で稼ぐのは思っていた通り大変です。

Yuzchastics氏前回のインタビューでマゾだと言ったのは本心で、好きでなければ務まらない仕事だと思います。

くらむ氏年間20本請けられる信用と実力のある人なら稼げるかもしれませんが、とにかく最初は仕事がなかなかありません。

Yuzchastics氏どの業界でも同じだと思いますが、実績がないうちは仕事がなかなかもらえません。しかし、大変なだけあってこの業界は常に人手不足です。良い翻訳者さんは引く手あまたで、なかなか捕まらないと聞きますから、チャンスはあります。

くらむ氏コネクションを作るのも大事かもしれません。

Yuzchastics氏コネクションは大事です。特に裏口組はそうです。私も過去に担当したゲームのデベロッパーから継続して仕事をもらっていますし、そういうコネクションはフリーランスにとって生命線ですね。ですから、本気でゲーム翻訳者を目指すなら、最初はどこかのローカライズ会社に関わって実績を積みつつコネクションを広げるのが良いと思います。熱意のある方は大歓迎ですので、我こそはと思う方は覚悟を決めた上で参入してください。

くらむ氏同感です。やりがいは確実にあるお仕事です。

Yuzchastics氏やりがいは大きいですね。自分の翻訳したゲームがコンシューマー機で動いているところを見ると、やっぱりこの仕事をして良かったと思います。

くらむ氏コンシューマー機は嬉しいだろうなあ。

Yuzchastics氏有志翻訳だとなかなかコンシューマー機には届きませんからね。プロの特権と言えるかもしれません。運が良いと声優にボイスをあててもらえることもありますよ。

くらむ氏絶対感動しますね。

Yuzchastics氏の代表作(公式翻訳)『Quantum Suicide
宇宙船の管理AIによるデスゲームに巻き込まれた人々を描くSFサスペンスビジュアルノベル。

プロによる翻訳スタイル談義

その沼は深すぎて生きて帰れる気がしません

――ゲーム翻訳に一番必要な能力はなんだと思いますか?

Yuzchastics氏ジャンルにもよりますが、やはり日本語力が大事だと思います。

くらむ氏私も一番大事な部分はそこだと思います。翻訳者の能力のアウトプットが日本語である以上、日本語力が一番大きな要素になります。

Yuzchastics氏私の場合はストーリーや台詞の翻訳が多いので、口に出して違和感を覚えない“自然な日本語”を第一に考えて訳しています。お手本としているのが漫画ですね。

くらむ氏確かに漫画は口語の短い台詞がたくさんありますね。

Yuzchastics氏漫画もゲーム翻訳も普通は文字数制限があって、そこが共通するんです。重厚な雰囲気のゲームなら小説の方が近かったり、映像に合わせた翻訳なら映画に近い場合もあるのですが、キャラクターの台詞という点では漫画が一番参考になります。

くらむ氏私は『Stoneshard』の台詞をファンタジー映画のイメージで翻訳しました。

Yuzchastics氏トールキン系統でしょうか。

J・R・R・トールキン
現代ファンタジーに大きな影響を与えた作家、言語学者。著書に「指輪物語」「ホビットの冒険」がある。

くらむ氏エルフなども登場する「指輪物語」の影響がある世界が舞台ですので、そこは意識しています。

Yuzchastics氏『Stoneshard』は西洋ファンタジー色が強いのでぴったりですね。いかにも洋ゲーという感じのゲームでしたら、むしろ少し翻訳調を出した方が雰囲気が出ますし。

くらむ氏日本人が馴染んでいるファンタジーはいくぶん翻訳調で語られたものだと思います。ですから、ゲーム内に登場する文章も映画の字幕を読む気分で読んでもらえたらいいなと思って訳しました。

Yuzchastics氏どういう方向性で訳していくかも翻訳者の腕の見せ所ですね。開発者にビジョンがあって、それを元にゲームが演出されている。そこを読み解くのが大事です。ゲームには他にも色々なジャンルがあるので、そこをどう判断するかはゲーム文化への理解が求められるところです。

くらむ氏ビジュアルノベルだったら漫画風の文体で統一されていないと変ですものね。

Yuzchastics氏日本を意識したゲームは漫画やアニメやライトノベルが参考になります。

くらむ氏映画風、漫画風、あるいは昔話風と、地の文のスタイルも作品によって変えるのは基本ですね。

Yuzchastics氏共同の翻訳作業で難しいのはそこで、ビジョンの統一を図らないといけません。一人は漫画風、違う人は昔話風とチグハグになってしまうと大惨事です。

くらむ氏有志翻訳がたびたび陥る問題ですね。文末の“です・ます調”と“だ・である調”を統一することすら大変です。本当は最初に権威ある人がルールを決めてしまうと良いのですが、有志翻訳では強いリーダーは反感を買いがちです。

Yuzchastics氏リーダーがいると考えることが少なくて楽なのですけどね。有志翻訳を取りまとめる人は本当に尊敬します。

くらむ氏有志翻訳で一番損な役回りがリーダーですね。有志翻訳でも個々の翻訳者にはエゴがありますから、それをまとめるのはすごいことです。

Yuzchastics氏その分、リーダーをすると実力はつきますよ。ローカライズプロジェクトの苦労もわかっているわけですし。自分が雇うならリーダー経験者を優遇します。

Yuzchastics氏の代表作(有志翻訳)『Doki Doki Literature Club!
文芸部を舞台に個性豊かな少女たちとの交流を描くビジュアルノベル。Steamで無料配信中。

――辞書に載っていない単語や表現に遭遇したらどのように解決しますか?

くらむ氏用例を調べます。

Yuzchastics氏用例はどこを参照していますか?

くらむ氏基本的にはGoogle検索ですが、造語の場合はゲーム内の他の箇所で言及があるかを調べます。スラングなどはUrban Dictionaryに意味が書かれている場合もあります。

Yuzchastics氏自分の場合はスラングに遭遇することが多く、疑問に思ったらとりあえずググります。どうしても見つからない場合はまず前後の文脈から判断し、それでも疑問が残るときはネイティブの友人に尋ねたり、可能な場合は開発者に直接質問します。経験上、検索で見つかった結果と文脈を照らし合わせればなんとかなります。また、辞書に載っていないと思っても、大きな英英辞書には載っていることがあるので要注意です。

くらむ氏全然見つからない場合はたいていゲーム側の造語ですね。ごくまれに開発側のタイプミスもあります。

――お二人ともGoogle検索は訳を直接知るためではなく、調べたい単語や表現が含まれる英文を探すために使うのですね。

Yuzchastics氏そうです。自分の場合、機械翻訳はまず使いません。

くらむ氏私も実務で機械翻訳にかけることはほとんどありません。有志翻訳でも機械翻訳のテキストを大量に流し込む方がいますが、正直お勧めできません。翻訳率を上げる目的でチームの意思が統一されている場合は別として、出来上がるものの品質を考えると避けた方が良いと思います。

Yuzchastics氏有志翻訳に限って言えば、“日本語がないよりずっと良い”というユーザーも確かにいるので、そこは個人の判断ですね。有志翻訳は好きにやれば良いと思います。

くらむ氏その辺はポリシーの違いでしょうか。あまり有志翻訳のハードルを上げない方が良いのかな。

Yuzchastics氏クオリティ第一の有志翻訳も良いと思いますよ。そのへんの方針も含めて有志には本当に自由にやって欲しいです。

くらむ氏でも、翻訳者になろうという方や英語力を磨きたい方は、ご自身のためにも機械翻訳を重用しない方が良いと思います。

Yuzchastics氏そこは同意します。苦労した方が身につくとは言いませんが、自分で調べた方が記憶に残りやすいですから。

くらむ氏の代表作(有志翻訳)『Imperator: Rome
アレクサンドロス大王亡き後の覇権を巡る古代国家間の争いを描くグランドストラテジー。

――意訳はどのようなときに用いるべきだと思いますか?

くらむ氏意訳の定義によりますね。Twitterである翻訳者の方がおっしゃっていましたが、“意”味がわからないから適当に翻“訳”するのは良くありません。原文の言わんとするところを理解して、日本語として自然になるように訳語を柔軟に選択するという意味であれば、むしろどんどん行うべきです。

Yuzchastics氏私も意訳はガンガンやります。いついかなる時でも。ぎこちない日本語は極力避けるべきだと思っています。

くらむ氏英語では代名詞が多用されますが、日本語ではそうでもありません。そういう時は適宜名詞を挿入します。

Yuzchastics氏例外はあって、チュートリアルやユーザーインターフェイスで原文の正確な意味を伝える必要があるときは気をつけます。文章としての翻訳をするときは、原文にない単語を足したり削ったりします。くらむさんが言うように、主語や代名詞は基本的に削りますね。

くらむ氏翻訳してしまうと変になる主語もあります。一般的な常識を語る際に用いるYouは典型ですね。

Yuzchastics氏そこをあえて訳出すると一気に翻訳調になる効果があります。場合によっては逆に有用です。

くらむ氏狙ってそのような文体にしない限りは、主語の訳出を避けるべき場合が多いですね。特にゲーム内効果の説明文などは元の英文が説明調なので、日本語にする時に気をつけるとこなれた感じになります。

Yuzchastics氏ただ、意訳は考えることが増えて時間がかかります。原文から離れすぎると後で齟齬が出てきて、慌てて前の文章を修正する羽目になることもあります。日本語に上手く合わないからと別の単語を使ったら、後でその単語を前提とした会話が繰り広げられるという場合です。ジョークや言葉遊びでそれに引っかかることが多いですね。

くらむ氏言葉遊びで使われるのはよくあるパターンですね。

Yuzchastics氏言葉遊びは遭遇するたびに英語が嫌いになりますよ。簡単な例をあげると“Good luck”です。直訳すると「幸運なんて要らない」となる返しがよくあって、“Good luck”の訳で「幸運を祈る」を避けた場合、考えることが増えてしまいます。英語的には定型文を小洒落た感じで避けた形ですが、それをされると日本人が困ります。

くらむ氏日本語なら「おはよう」に「早くなんて無いさ」と返すようなものですね。定型的な挨拶は口語調になるよう工夫して翻訳することが多いですが、逆を取られた感じです。

Yuzchastics氏まさにそんな感じですね。英語と日本語では遠すぎて、そういうどうしようもない箇所が出てくるので、意訳は必須です。

くらむ氏あとはことわざですね。ことわざも直訳するのか、同じ意味の日本語のことわざを探すのか、いつも迷います。

Yuzchastics氏自分の場合はまず日本語のことわざを探して、ずれる場合は諦めます。

くらむ氏例えば、四面楚歌を用いたいけど、楚という国名が舞台的におかしい場合もあります。そうなると直訳するしかないのかなと思います。

Yuzchastics氏そっちは沼ですよ。これはどちらかというと小説を書いたりする時の悩みですね。こだわった方が雰囲気は出るけれど、どこまでこだわるかという悩み。

くらむ氏「指輪物語」では英語由来の訳語を使用してはいけない縛りがあったという話が私に強い影響を与えていて、『Stoneshard』では出来る限り英語からの音訳を避けようと試みていた時期もありました。文化的背景がある言葉を使うか、使わないかはまさに沼ですね。

Yuzchastics氏その縛りは重いですよ。タイトルにもよりますが、私はそっちには行かないようにしています。その沼は深すぎて生きて帰れる気がしません。

くらむ氏やってみて、それがどれだけ辛いかよくわかりました。

Yuzchastics氏の代表作(有志翻訳)『Shining Song Starnova: Idol Empire
オフィス運営からアイドルプロデュースまでを行うアイドル事務所経営シミュレーション。

プロから未来のゲーム翻訳者へ

――最後に、これからゲーム翻訳者を志す方へ一言お願いします。

くらむ氏まだまだ駆け出しですし、“裏口”から翻訳の道に入ったものですが、熱意と、努力と、積み重ねてきたものが実績に結びつく仕事だと思います。有志翻訳で翻訳の魅力に気づかれた方、決して簡単な生き方ではないかもしれませんが、プロになるにはこういう方法もあるんだという実例の一人として参考にしてください。

Yuzchastics氏結局、有志とプロの違いは責任の有無だと思います。プロとして仕事を受けたなら、開発側の一員として責任を持って日本語をお届けしなければなりません。私の場合は『戦塵のアシルド』でシナリオや開発に一部関わらせてもらっていますが、そこまでいかなくとも、開発者は“日本語のプロフェッショナル”として頼ってくれるわけです。ですから、有志とプロには明確な線引きがあると思っています。大変ですが、その分やりがいはあります。その覚悟を持って、熱意のある方はゲーム翻訳に挑戦して欲しいです。

――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。

《FUN》

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