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Game*Sparkレビュー:『トライアングルストラテジー』―正解のないストーリーとキャラバランスに優れたバトルが周回プレイも飽きさせない

スクウェア・エニックスによるスイッチのタクティクスRPG『トライアングルストラテジー』のレビューをお届け。ストーリー・システムが高いレベルでまとまった一作を紐解く。

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倫理利益自由。戦火に包まれた激動の時代を生き抜くうえで、己が貫くべき信念とはなんなのか? 本稿では、2022年3月4日にスイッチで発売されたスクウェア・エニックスのタクティクスRPG『トライアングルストラテジー』のレビューをお届けします。

発売から大分時間も経ちましたが、筆者は難度ノーマルを100時間ほどプレイし、仲間は全員が最大のレベル50、すべてのエンディングを見終えました。フレーバーテキストとコレクション要素を合わせた「手記」はまだコンプリートできていませんが、大方の要素は味わったと認識しています。

また、筆者はかつて『タクティクスオウガ(TO)』と『ファイナルファンタジータクティクス(FFT)』をリアルタイムで遊び、その洗礼を受けた身でもあります。そういう色眼鏡もどこかしらにある、という前提でご覧ください。

レビューはストーリー、演出、バトルなど、要素ごとに項目立ててお届けします。記事の性質上、いくつかの箇所にストーリーのネタバレが含まれますので、未プレイの方はご注意ください。なお、本作のゲームシステムなどを紹介するプレイレポートは既に掲載していますので、そちらもあわせてご覧ください。

忖度なし!Game*Sparkレビューのルールはこちらから

独自用語―背景設定やネーミングに感じたとっつきやすさ

物語の舞台となる「ノゼリア」は、かぎりある資源である塩と鉄の所有権をめぐって30年前に起きた「塩鉄大戦」によるひずみが今もなお残る世界です。

塩は現実の歴史においても極めて貴重なもので、たとえば「三國志」の時代に劉備玄徳が治めていた蜀の国には「塩府校尉」という塩と鉄の管理を司る将校がいました。塩が貴重な時代は長く続き、18世紀のフランス革命も、重いガベル(塩税)が勃発の遠因のひとつであるとする向きもあるようです。

ノゼリアには海がなく、人々は海という概念そのものを知りません。そんな中唯一の塩湖を有するハイサンド大教国が塩を独占しており、厳しい塩税が国家間の軋轢や貧富の差を生み出しています

そうした現実の歴史にヒントを得た背景設定は、スタッフによれば「人間たちの物語にフォーカスするため、モチーフとなるものをより分かりやすくしたかった」からだと語られています。

『トライアングルストラテジー』のシナリオ制作 多様な価値観がもたらすそれぞれの正義

また、氷雪に閉ざされているからエスフロスト公国、砂漠が広がっているからハイサンド大教国、豊かな緑を有するからグリンブルク王国…という国の名前のシンプルなネーミングにも「作品独自の造語の総数や煩雑さを極力おさえよう」という意思が感じられます。個人的には独自用語が飛び交う作品も嫌いではないのですが(むしろ独自の単位などが出てくると喜びます)、本作の「焦点をブレさせないアプローチ」も好ましく感じました。

ストーリー―戦乱の渦中で問われる信念

主人公のセレノアはグリンブルク王国屈指の武家であるウォルホート家の若き当主で、かつての塩鉄大戦を思わせる大きな動乱へと巻き込まれていきます。リスクを負ってでも家名や誇りを守るか、家の存続を第一にして汚れ仕事にも手を染めるか……。「たったひとつの正解」がない状況が次から次へと押し寄せ、貫くべき信念や正義が問われます。

「戦争をするならどんな手を使ってでも勝たなければ(戦争までしておきながら敗北したら失うものが大きすぎる)」と主張するエラドール

セレノアはそんな現実の前に煩悶する姿を見せますが、プレイヤーの選択次第では悪事や反感を招きやすい行為にも手を染めることになるため、「一度決定が下されたものであれば、それがどのような選択であれ誠実に向き合う」人物として描かれています。

特に強く印象に残ったのは、エスフロストに奪われたグリンブルクの首都・ホワイトホルム城の奪還作戦として、大河を生かした堀を無力化すべく上流で洪水を起こす(=城下町の多くの民を巻き込む)か、という選択でした。

セレノアの忠臣の一人エラドールは作中で「戦争は、する以上は絶対に負けてはいけない」と固い信念を見せます。しかしそれにしても、この作戦は失うものがあまりに大きいのでは……でもやっぱりやるべきか……と、いったんプレイの手を止めて1日ほど考えこんでしまいました(もちろん仕事の合間にふと考える、という程度ですが)。

領土と領地を守るために他国の不正(ハイサンドの塩の密売)に手を貸すか……という選択肢もやるせなくて実によかったです。まぁこちらは、(プレイヤーとしては)嬉々として手を染めてしまったのですが。

また、本作ではキャラをバトルで出撃させ続けると、そのキャラのサイドストーリーである「挿話」が順次開放されます。メインストーリーからは少し離れて、各キャラたちの出自や信念、戦乱の最中(さなか)のホッとできるやり取りや、キャラ同士の意外なつながりなどが描かれています。話はどれも楽しめたのですが、これを後から見直す手段がないのは残念でした。回想ギャラリーがほしかったです。

重いストーリーが展開するゆえに一層目を引く、フレデリカ(とセレノア)の心温まる挿話。新規プレイや周回プレイで、直前のセーブデータを取っておかないと見直せません

信念の天秤―ストーリー分岐にままならなさをひとつまみ

ウォルホート家は「いかなる時も独断で行動せず、臣下や民の声によく耳を傾けろ」という家訓があり、重大な決断は「信念の天秤」による多数決で決定されます。セレノアには投票権がありませんが仲間たちに自分の意見を主張する自由はあり、うまく説得できれば望む結果を得られます。

セレノアに設定された3つの信念「Moral」、「Benefit」、「Freedom」の値は1周目ではマスクステータスとなっており、数値が低いと仲間を説得できず、プレイヤーの望む展開にならないこともあります。

それがいい意味での歯がゆさ―現実のままならなさ―を演出できていたと思います。筆者は「Freedom」の値が低かったようで、1周目では仲間たちを説得できずフレデリカルートに進めませんでした。後述しますが、2周目以降では好きな分岐をほぼ確実に選べるという柔軟さがあるのもよかったです。

3つの信念の値が1600程度に達するとあらゆる選択肢が「話せば分かってくれそうだ」になり、仲間たちを説得できます

絵作り・演出―プレイヤーはあくまで「読者」

本作の絵作り(グラフィック)においてもっとも特徴的なのは、ドット絵のキャラクターに3DCGの背景を合わせる手法「HD-2D」です。筆者は、ドット絵の魅力のひとつは想像力を刺激させることにあると考えています。

どれだけ丁寧に描き込もうとも、ドット絵でキャラクターたちの表情までを常にもうかがい知ることはできません。そこはプレイヤーが各自の想像力で補って楽しむもので、いうなれば小説を読む際の楽しみ方と同じです。

もしかしたらセレノアたちより表情の描写が豊かなのでは? と驚かされたランドロイ

また、本作は「箱庭(orジオラマ)風の各ステージが世界地図の上に置かれている」という演出がされており、プレイヤー≒セレノアというより、プレイヤーはあくまで「ノゼリアの歴史を俯瞰している存在」なのだと感じさせてくれます。プレイヤーに一歩引いた視点を持たせるこのような演出が、ドット絵の楽しみ方の手助けになっていると感じました。

箱庭状のステージが、地名の記入された地図の上に置かれているのがお分かりでしょうか

ただ、ドット絵になじみや思い入れがない方の中には「なぜ、わざわざ想像で補わなければならないのか?」ともどかしさを感じる方もいるかもしれません。筆者は魅力的であると感じましたが、そもそもドット絵に思い入れを持っている人間ですのでフラットな物の見方ではないということも付記しておきます。

RPGパート―操作性や視認性にやや難アリ

RPGのようにセレノアを自由に移動させて会話や探索を行えるRPGパートは、仲間たちばかりでなくそこに住む民たちの心情を知ることができます。ただ、アイテムが落ちていることを示すエフェクトの視認性が低いのは気になりました。

もう一つ気になったのは操作性です。ツルツルした平面を転がっていく玉のように「引っかかりがなさすぎる」操作感で、逆に動かしづらいというか、キャラを動かしていると感じられない挙動に感じました。

エリア内を自由に移動・探索できるRPGパート

また「ある程度以上(バトル時のセレノアの移動力に準拠)の段差の登り降りができない」のはバトルの下見という意味では有用ですが、単独のパートとして見ると移動にまだるっこしさもありました。

一部のRPGパートで入手できるフレーバーテキストの「手記」は周回プレイで引継ぎでき、落ちているアクセサリーは一度取ればその後の周回では入手できない一品モノなので、一度きちんとプレイすれば周回プレイ時はパートごとスキップしてもほとんど問題ない仕様になっていますが、どうせなら周回プレイ時はそのマップでのアイテム取得状況などが表示されるともっとよかったと思います。

バトル―チャレンジ精神を刺激する導線が〇

難易度はベリーイージー、イージー、ノーマル、ハードの4段階が用意されており、ノーマルはシミュレーションRPGに不慣れな人、不得意な人も「ほどよく苦戦しながら楽しめる」いい塩梅となっています。

ハードは筆者にとってはかなり歯ごたえがありました。ただ、敗北条件は大半のステージで「セレノアの死亡」ではなく「味方の全滅」なので、ハードだからといってすぐ負けてしまうわけでもないのは優しさも感じます。

バトル中に特定のキャラ同士が接近するとかけ合いが発生することも。お互いが信念をぶつけ合う様は『TO』や『FFT』好きの筆者にはうれしい演出でした

バトルで特筆すべきはチャレンジのしやすさです。本作は詰所の酒場で「想定バトル」を行うよりもストーリーでのバトルの方が経験値を稼ぎやすいうえ、敗北時も「取得した経験値や戦功ポイントはそのままで、使用したアイテムはきちんと返却される」親切仕様です。

つまり「勝てるか分からないけれど、とりあえずやってみるか」というチャレンジ精神を抱きやすくなっています。シミュレーションRPGそのものが若干ハードル高めのジャンルだと思っていますので、これはよい調整だと感じました。

ただ、詰所での「想定バトル」を周回してレベル上げをしたプレイヤーもいるだろうと思いますので、この辺の導線はもう少しハッキリしていてもよかったかもしれません。

難点に感じたのは、たまにCPUが数秒レベルの長考をすること。それと、カメラを細かく回転できるのはいいものの、カメラの角度によってはキャラの向きが分かりづらくなることでしょうか。キャラのグラフィックは前後左右に斜めを加えた8アングルが用意されていますが、キャラによっては体を斜めに開くのが正面向きだったりと、プレイ序盤では判別しづらく感じたこともありました。

キャラクターバランス―非常に良好で誰もが「戦える」

各キャラは条件を満たすと上級職、最上級職へクラスアップできますが、戦士系のクラス→魔法系のクラスというような、横方向へのクラスチェンジはありません。また、汎用キャラを新たに雇うシステムもなく仲間は固定キャラのみなので、「妨害職ばかり」、「魔法職ばかり」というような「特定のシチュエーションに合わせ、敢えて偏らせた」構成は作れません。

しかし、それを補ってあまりあるほどにキャラ間のバランスが高いレベルで取られており、明確な「弱キャラ」がほぼいません。商人のライオネル、元サーカス団所属のピコレッタ、鍛冶屋のイェンスなど、俗にいう「絡め手」特化キャラもそれぞれ独自の強みを持ち、きちんと活躍できます。「今度の周回ではこのキャラを使ってみようかな」というのが大きなモチベーションになるので、周回プレイ時もダレませんでした。しかし、ロランはもうちょっと強くてもいいのでは……とも感じました。武器で攻撃する前衛にしては命中率が低めなのが気になったのと、騎馬ユニットならではの移動力をより生かすため、移動→攻撃後にさらに移動できる「再移動」のようなスキルがほしかったなと思います。

筆者のお気に入りはイェンス。踏んだ敵を任意の方向に弾き飛ばせる「ばねトラップ」で、射程ギリギリからの後方から攻撃してくる敵の魔法ユニットを前に引きずりだすプレイは心底楽しめました

また、各キャラの武器の強化(スキルの習得)は「詰所で商人から素材を購入し、鍛冶屋に鍛えてもらう」という流れで行いますが、少ないお金をやりくりするうちは「鍛冶屋で必要な素材をチェックし、商人から購入し、また鍛冶屋に話しかけ…」という往復作業が発生してしまいます。素材の購入と武器の強化は、もう少し手順を減らしてほしかったなと思います。


「唯一の正解」がなく選択の重みを味わえるストーリーと、キャラバランスの取れたバトルが楽しめる『トライアングルストラテジー』。ルートの中にはセレノアとウォルホート家をとりまく物語がかなり丸く収まるものもあり、ネット上では「真ルート」などとも呼ばれていますが、開発スタッフは「目標になればうれしいという思いで用意したが、何かを得る一方で失うものもある、3つのビターな結末から何かを感じてほしいというのが本分」という発言をしており、筆者もその発言を知る前から「どちらかというとおまけルートのようなものかな」という印象を抱きました。

「ネタバレ制限なし!『トライアングルストラテジー』あらゆる質問に回答!」。こちらの動画はネタバレ全開ですのでご注意ください

バトルも、難易度/キャラクター間のバランスという2つの意味で高い水準でまとまっており、前述しましたがハードの手ごたえはかなりのものです。ただ、戦乱による目まぐるしい状況の変化や、3つのルートに対応する各キャラ(ロラン、ベネディクト、フレデリカ)の心情が丁寧に描かれるので、物語を読む(だけの)時間もそれなりにあり、「デキのいいシミュレーション(≒バトル)を楽しみたい」プレイヤーにとっては、そこは少し引っかかるかもしれません。もっとも、場面転換のタイミングで逐一ワールドマップに戻るので、(ストーリーが長すぎて)辞めどきがよく分からない、区切りが悪いということはありませんでした。

また、個人の嗜好が大きく出るので本稿では触れませんでしたが、千住明氏によるサウンドやキャスト陣の熱演も好感触でした。SRPGというジャンルやドット絵などに忌避感がないならオススメできる作品です。

筆者としてはぜひ続編もほしいところで、ノゼリアが作中世界でどの程度を占める地域なのかなどがうかがえるストーリーや、「信念の天秤」に変わる新たな分岐システム(信念の天秤は作中でウォルホート家の家訓と紐づいているので、流用は難しそうという判断です)、バトル向けに汎用キャラを雇える(≒特定のクラスの人数を自由に増やせる)システムなどに期待したいです。

総評:★★★
良い点
・SRPGの取っつきづらさを緩和する、理解しやすい設定や演出
・ままならぬ戦乱で貫くべき信念を描くストーリーと「信念の天秤」システム
・「まずはやってみよう」とポジティブに向き合えるバトルへの導線
・高いレベルでまとまったキャラクターバランス

悪い点
・HD-2Dによる絵作りは、ドット絵に思い入れがない人には響きづらい
・各キャラのサブストーリー「挿話」を後から見直せない
・RPGパートの操作性と、落ちているアイテムの視認性の悪さ
・詰所で武器強化を行う際のUI

Game*Sparkレビューのお約束


《蚩尤》

汎用性あるザク系ライター(が目標) 蚩尤

1979年生まれのファミコン直撃世代。スマホゲームもインディーズも大型タイトルも遊びますが、自分と組ませてしまって申し訳ないという気持ちやエイミングのドヘタさなどからチーム制のPvPやFPS、バトロワが不得手です。寄る年波…! ゲームの紹介記事に企画記事・ビジネス寄りの記事のほか、アニメなど他業種の記事もやれそうだと判断した案件はなんでも請けています。任天堂『ガールズモード』シリーズの新作待機勢。

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