“ゲーム会社として生き残るために何ができるか” ソーシャルゲームの雄・ドリコムが狙う大胆な方針転換と本質的なものづくりへのチャレンジ【インタビュー】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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“ゲーム会社として生き残るために何ができるか” ソーシャルゲームの雄・ドリコムが狙う大胆な方針転換と本質的なものづくりへのチャレンジ【インタビュー】

近年のソーシャルゲーム業界の状況から、さまざまな企業が事業の方向性を探っています。ドリコムはまさにそのひとつです。当社が今年発表した新事業の背景には、この状況に対する強い危機感がありました。

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“ゲーム会社として生き残るために何ができるか” ソーシャルゲームの雄・ドリコムが狙う大胆な方針転換と本質的なものづくりへのチャレンジ【インタビュー】
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先日8月6日~7日にかけて開催された、国内最大のインディーゲームイベントBitSummit X-Roads。そこへソーシャルゲーム事業を強みとしてきたドリコムが、なんとオリジナルIPとしてPCまたはコンシューマでの買い切り型のADVTokyo Stories -working title-』(以下、Tokyo Stories)などを出展していたことは、同社の方向転換を感じさせる驚きの出来事だったといえるでしょう。

同社で『Tokyo Stories』を開発する池田氏と、新規の対戦格闘タイトル『Project BEAT(仮題)』を手掛ける甲斐氏からお話をうかがったところ、「会社の方針が変わり、新規IPを手掛ける意味」について言及していたこともあり、同社の方針の変化が新たな挑戦へと繋がっているようです。

なぜ今BitSummitに出展し、コアゲーマーをターゲットにした作品を展開するような大胆な方向性を打ち出したのか――。そんな真相に迫るべく、編集部では会場にも訪れていた副社長執行役員の奥村善生氏からより詳しいお話をうかがいました。

奥村氏はドリコムのゲーム事業部門を “ゲームカンパニー”と名称を変え、カンパニー長として大きな変革の采配を振っている人物です。彼の話からうかがえたのは、ソーシャルゲームの市場の問題を背景とした強い危機感からゲームを作る意思でした。

ソーシャルゲーム市場が成熟したゆえに生まれた強烈な危機感

ーー本日はよろしくお願いいたします。

奥村:よろしくお願いいたします。実は、普段ソーシャルゲームを中心に扱うメディアのインタビューはお受けしないことが多いんです。今回、Game*Sparkのようなコアなゲーマーの皆さんが読んでいるメディアだから受けようと思ったんです。

ーーえっ!それは恐縮です……!まずはドリコムがゲーム事業部門をゲームカンパニーと変更するまでの経緯を教えてください。

奥村:もともと僕はゲームプログラマー出身で、そこからずっと技術畑だったんですね。ドリコムに入社したのは10年前になりますが、当時も技術系の管理職で採用されて、10年かけて段々と事業全体を見るようになりました。

いまから2年半ほど前に、単に従来のソーシャルゲームを作るチームというだけではなく、ゲームに特化した集団を作るぞということで、「ゲームカンパニー」に部署の名前も変えてリブートさせることになりました。そこから結構社内のものづくりや、手掛けるタイトルについても戦略から変えてきています。

これまでは他社さんのIPを使ってソーシャルゲームを作るという印象がドリコムにあったと思います。

ーー決してそれが悪いとは思いませんが、確かにユーザーからはそう見えていたかもしれませんね。

奥村:なのでIPそのものにファンがおられて増えることがあっても、、なかなかドリコムという会社に対するファンが育ちにくかったんです。「ドリコムのゲームだから」遊ぶ人ってなかなか増えていかないというジレンマがありました。

この先も10年や20年という目線でゲーム開発に取り組んでいきたいと考えた時、「やっぱりちゃんと会社にファンができる状態じゃないと継続できないだろう」と思っています。なので、今はIPをお借りして運営型のゲームをリリースする既存のビジネスモデルと、自らIPを生み出してゲームを作り上げるビジネスモデルのバランスを見直しています。

実は体制の変更にあわせて社内の開発ラインも一新しました。BitSummitに出展したタイトルは、先ほどもお話した戦略を変えたタイミングから着手し、新たな挑戦を開始して生まれていったものです。方針変更の際に「面白いゲームを作って、それをできる限り多くのユーザーの皆さんに遊んでもらうのが目的だから、モバイル向けの展開に固執する必要もない」と判断したことも、今回の『Tokyo Stories』がPC・コンソール展開を念頭に置いているような柔軟な判断に繋がっていると思います。

ーー奥村さんがドリコムに入社された10年前は、むしろ業界としてはコンソールゲームが厳しく、ネイティブアプリのソーシャルゲームが隆盛を極める直前くらいですよね。もちろんPCでゲームをするゲーマーが日本でここまで増えることも、それこそBitSummitも立ち上がる前で、インディーゲームがここまで日本で広く遊ばれることも、予想していた人は多くなかったように思います。

奥村:そうですね。業界的にいうと10年前はちょうど『パズル&ドラゴンズ』(2012年1月にガンホー・オンライン・エンターテイメントがリリース)が出て、『モンスターストライク』(ミクシィが2013年9月にリリース)が出る前くらいの時期ですね。グリーさんやディー・エヌ・エーさんのプラットフォームも全盛で、人材やお金がコンソールからどんどんソーシャルゲームに移っていった時代だったと思います。

ドリコムの状況はというと、00年代からブラウザのソーシャルゲームは手掛けていましたが、そのタイミングでネイティブアプリ開発にグッと力をいれるタイミング(同社初のネイティブアプリのタイトル『スピリット フォース』は2012年4月にiOS版がリリース)でした。市場が盛り上がって各社の技術力も高まり、リリースされるタイトルのクオリティも開発規模もコンソール並みになっていき、気づいたらもうコンソールとモバイルとの垣根がなくなりつつあるのが現状だと認識しています。

この2~3年の話でいえば、これまで世に出されてきた作品の焼き直しでは勝負できないようなマーケットになってきている、という認識でいます。

ーー確かにいまヒットしているような『原神』、『ウマ娘 プリティーダービー』などを見ても、ゲームの内容そのものが高いレベルで作り上げられているからこそ多くのユーザーを惹きつけているとも言えますし、モバイル向けのゲームに要求される水準が年々上がっている厳しさを感じます。

奥村:おっしゃる通りです。だからこそ、いま作っているものは「売れるか売れないか」から入っちゃだめだと思っています。

当たり前の話ですが、ドリコムは上場企業でもありますし、売上の目標や計画がきっちり定められており、それを達成すべくゲームを開発し、運営しているわけです。それは事業を継続する上でとても大事なことですが、今は「一旦あとでいいから、とにかく作っているゲームが面白いかどうか?」を突き詰めています。

作っているゲームが面白くならなかったら途中でもあきらめていいとまで腹を括って開発を進めていて、面白くないと思っているものを無理やりに出すというのは、作り手にとってもユーザーの皆さんにとっても一番良くないことです。少なくとも開発チームに対しては、「自分自身でこれは絶対面白い」と思えるものまで磨き上げてくれという話を強く伝えています。

ーーゲームカンパニーを興すまでは、どちらかというとユーザーがイメージするようなソーシャルゲーム企業らしい開発・運営がされていたのでしょうか。

奥村:ゲームの面白さにとことんこだわるというよりは、KPI(重要業績評価指標)を細かく定めてデータ分析に重きをおくような雰囲気は強かったですね。もちろんそれも大切なことでしたが、データ分析を中心に据えてしまうともう限界が見える状況になってきました。そもそも前段でもお話したとおり、完全にソーシャルゲーム市場が成熟しているので、ユーザーの皆さんはあえて新しいゲームをインストールする理由がないんですよね。

どんなユーザーにも慣れ親しんでいるゲームがあるでしょうし、それはセールスランキングの上位が長期運営タイトルで占められていることからも明らかです。ユーザーの時間も限られていますから、どこかで見たようなゲームをリリースしたとしても、新たにインストールさせたり、継続してもらったりするほどの力はないと思っています。

そんな状況下だからこそ、新規タイトルの立ち上げ時は、ユーザーが新たにこのゲームをプレイしてくれるのだろうか?ということを初期段階で徹底的に考えますし、プロデューサーやディレクターにもとにかくそこを問いかけます。そうやって練り上げられたフックがないと、普通のゲームと同じように数多くリリースされるゲームの一つとして埋もれてしまうでしょう。

もちろん、世の中で誰も見たことがない新奇性と魅力溢れるIPをベースにしたゲームをポンポン生み出せれば、それだけで手に取る(インストールする)理由になるかもしれませんが、はっきりいってそんな新奇性も数多くは残されてもいませんし、魅力のあるIPを簡単に作れるわけでもありません。ですから、このレッドオーシャンで戦っていくには、やはりこれまでのやり方を変えないといけないと考えました。

ーーそれが、今回の発表のような形で世に出たわけですね。このタイミングというのは、“もう今やらないと間に合わない”という思いからなのか、そもそも“以前からやらなきゃいけないと思っていた”のかどちらなのでしょう?

ドリコムの池田氏や甲斐氏らが、ドリコムにて力強い新規IPを開発していることを発表している。

奥村:両方が一気に到来したというのが正しいですかね。もともと自分たちが新規IPを生み出す側になりたいという思いがありましたし、先述したソーシャルゲーム市場の変化も肌で感じて、「このままだと僕らって、ゲームを作る集団として生き残れないんじゃないか?」と思ったんです。

ーーここまでのお話からも、相当な危機感を感じます。

奥村:組織に対しても直接的に「このままじゃ生き残れないぞ」と言ってますしね。やっぱりそこのマインドセットから変わっていかないといけないという危機感は非常に強いです。

もちろん、今はゲームがメインの事業にはなっていますが、ドリコムのルーツはゲーム会社ではありません。正直なところ、「別にゲームじゃなくていい」というメンバーも2年半前のゲームカンパニー立ち上げ時にはは結構いたんですよ。そこで「ゲームを好きで作りたくないなら無理にやらなくていい。本当にやりたいメンバーで良いゲームを作ろう」と大幅に組織の考え方も変えたんです。

ーーそこまで大きく方針を変えると、「それならゲームはいいや」ということで、メンバーの入れ替わりも大きくありませんでしたか。

奥村:入れ替わりがあったのは事実です。幸いにもゲーム以外にも複数事業を展開している会社なので、そういったメンバーについては、他部署でやりたいことをできるポジションを用意するなど配置換えをし、ゲームカンパニーにはゲームが好きで、ゲームを作りたいメンバーの密度を濃くしていきました。

ーーここまでのお話を聞くと、ゲーム開発そのものへの意気込みの大きさを感じます。

奥村:やっぱり、ユーザーの目が10年前より遥かに肥えているので、作っている側がゲームを好きじゃないと、情熱を持った集団が作っていないことがユーザーにバレちゃうんですよね。とにかくそこから変えないとダメだなと。別に元々ゲームが好きな人間が少なかったわけではないのですが、やりたいことと、やっていることが少しズレていたのかもしれません。

まずは自分たちが誇りを持って世の中に送り出せるゲームなのかどうか。そしてそれが、自分たちが届けたいユーザーの皆さんの心を動かすものになるかを最重要視しています。

インディーゲーム市場の発達が、新規IPを生み出す選択肢になった

ーーそのやり方を変えた結果が、今回BitSummitの『Tokyo Stories』のような新規IP出展になるのでしょうか。

奥村:そうですね。今回出展したタイトルも同時並行で開発を進めている作品の内のひとつなんですけど……そもそも単純に僕がインディーゲームが好きなんですよね(笑)。

ーーなるほど(笑)

奥村:リモートワークになり、家でPCを触る時間が増えて、必然的にPCのゲームに触れる時間も増えたから、ぶっちゃけ今はソーシャルゲームよりインディーゲームやコンソールゲームをやる時間が増えてしまっています

もちろん元々も好きでプレイしていましたが、その中で改めてインディーゲームの作り手の熱量だったりレベルの高さだったりを再認識していました。AAAタイトルは相変わらず圧倒的にパワーもクオリティもありながら手堅い印象があり、一方ソーシャルゲームは顔ぶれが代り映えがしない状況になっているなか、インディーゲームはクリエイターのやりたい表現や伝えたいことをダイレクトに生み出していると思っています。

ーーちなみに、最近遊んだインディーゲームで印象深いタイトルはありましたか。

奥村:最近では『Eastward』をかなりプレイしましたね。僕自身JRPGで育って、一番好きなジャンルということもありますが、とにかく面白かったです。グラフィックも「ディティールまで全部個別に描いているんだ!」っていう驚きもあり、使いまわしもほとんどない徹底ぶりに感動しました。日本のゲームやアニメへのオマージュも愛に溢れていましたね。

『Eastward』

そうしたこだわりや愛がプレイしていてすごく伝わってくるし、神は細部に宿るではないですが、細かいところにこだわっているのに憧れるというか……。「今の時代、こうやってゲームを作らないと、ユーザーの心って動かないよな」とプレイしながら強く感じました。

あと、BitSummitで見かけたなかで気になったのはスイッチ版も発売予定の『UNDYING』ですね。ゾンビになっていくお母さんが息子を守るというゲームで既に設定から面白そうでした。

ーー個人的にですが、ソーシャルゲームを中心に展開しているメーカーの方からインディーゲームへのそうした意見を伺えることはあまりないので、大変興味深いです。

奥村:僕はあまりソーシャルゲームにこだわっていません。どちらかといえば “ゲーム”にこだわってやっていくべきだと思っています。こだわってやっていく手段としてのモバイルかもしれないし、PCかもしれないしコンソールかもしれないという風に、舵を切りなおしているのが現状ですね。

端的にいえば、作品を届ける手段としてのデバイスの違いでありプラットフォームでしかないかなと。『Tokyo Stories』も決して最初からSteamでやろうと決めて開発に着手したわけではありません。

池田のチームで新しいゲームの種を何個も作っていくなかで、ちょうど『Tokyo Stories』が目にパッと止まって「これ絶対にインディーのマーケットで勝負したほうがいいよ!」と。それが半年前ですかね。そこで一旦インディー向けに舵を切って、モバイルは無視していいからって話をして、開発を進めてきたものがようやくお披露目できたという。

ーー思い切った判断ですよね。

奥村:なぜそうしたかというと、プレイヤー視点でみた時に、とてもビジュアルがフックになると思ったんですね。このビジュアルの方向性は、今のインディーゲームユーザーの皆さんに受け入れられるのではないかということで、思い切ってSteamで勝負しようよという話になりました。

一方の『Project BEAT(仮題)』については、格ゲーはコンソールやPCがメインのプラットフォームになっており、スマートフォンでは決定版がないというところがスタートになっています。正直なところ、本当にユーザーがそれを求めているかの手ごたえは完全につかみ切れていないのですが、(担当プロデューサーの)甲斐とタッグを組むエンジニアが格ゲーのファンであり、「滅茶苦茶格ゲーが好きな人でもやっぱりモバイルでやりたくなる時があるはず」で、どうしてもそうしたニーズに応えるえるチャレンジしたいと、強い情熱を持っていたので、それならモバイル前提でやろうという話になったんです。

他にも様々なプロジェクトが進行していますが、届けたい作品のテーマだったり、想定するターゲットユーザーだったりによって、柔軟にコンソール・PC・モバイル、あるいは同時に展開するかを判断しています。そもそもプラットフォームの垣根もかなりなくなっているように感じています。

ーー10年前からのゲーム業界の変化でいうと、ソーシャルゲーム市場は予想通りの成長と成熟を迎え、一方盛り上がりに欠けていたコンソール市場は数字的な市場規模はさておき、再び盛り上がっています。10年前では相手にされなかったPCにも普通にゲームがリリースされるようになり、インディーゲーム市場の発展も大きな変化だったように思います。そうした10年の変化がプラットフォームの垣根をなくしたようになったということでしょうか。

奥村:一口にインディーといっても、もうインディーゲームと思えないクオリティのものもありますし、「何をもってインディーなのか?」とも感じますね。ご指摘の通り、ユーザー層も変化していると思います。

また、インディーゲームやPCのマーケットが身近になったのは逆に僕らにとってありがたいんです。以前、日本でゲームをリリースするとなれば、コンソールかモバイルかの二択だったんですが、コンソールの参入障壁はみなさんの想像よりも遥かに高かったんですよね。そもそも任天堂さんやソニーさんといったプラットフォーマーとのリレーションがなければ開発もリリースもできなかったわけですし。

しかし、今やコンソールのプラットフォーマーもかなり開かれた存在ですし、さらにSteam(PC)が身近なプラットフォームになってきたことで、サードパーティーとしてはビジネスチャンスがかなり拡大しています。そうした帰結として、今回のBitSummitでもこういうチャレンジができたわけです。

グローバルなマーケットで戦うために必要なコト

ーーもう少しビジネス的なお話も伺わせてください。現在ドリコムのゲーム事業における国内と海外の売り上げ比率はどのような割合になっているのでしょうか。

奥村:まだ海外は少なく、基本的には国内売上がほとんどを占めています。

ーー奥村さんの目標として海外を増やしたい思いはありますか。

奥村:ありますね。やっぱり日本だけでみるとソーシャルゲームのマーケットは横這いですし、コロナ禍の特需が落ち着いた2022年はややシュリンクしているように感じます。そう考えると、世界全体でゲームユーザーを見ていかないと、シュリンクするマーケットに身を置き続けることになりかねません。世界中のゲーマーに受け入れられるタイトルを作っていき、売り上げ比率を上げていきたいと思っています。

ーー有り体に言ってしまうと、日本国内で人気のIPをゲーム化するだけでは実現しえないのではないかと思います。

奥村:やはり現状だとIPのパワーに引っ張られますね。今はオリジナルである程度グローバルで戦えるものを仕掛けたり、他社さんのIPをお借りしたりするときも、グローバルで戦えるIPなのかを考慮するようにしています。日本だけに閉じないように考えています。

ーーこれまでもオリジナルIPをやられていないわけじゃないすよね。アニメ放映と同時に展開する試みなどありましたし。……ただ、率直に申し上げると、そうした試みで爆発的にヒットしたタイトルはなかったですよね。

奥村:なかったですよね(笑)

ーーでは、どうすれば今後オリジナルIPが上手くいくと考えていますか。

奥村:これも率直に申し上げますと、いままで取り組んできたアニメ放映と同時リリースするといったプロジェクトの課題は、製作上の事情が先行しがちということが大きかったと思います。

そもそもアニメ・ゲームをミックスするとなると、アニメを作るのが目的の人やゲームを作ることが目的の人などステークホルダーが一気に増え、それぞれに利害対立したり、開発と製作のタイミングも調整したりしなければなりません。そうやって時間を使って何が起きるかというと、ユーザーが後回しなりがちなんです。さらに言うと、ゲームを意識してアニメを作ろうとか、お互いを意識して上手いことやろうとする結果、作品が丸くなっちゃうという問題もでてきます。

さらに表面上で「アニメにゲームっぽい要素を入れよう」とかやってしまうと、ユーザーに「ああ、またいつもの(メディアミックス系の)パターンか」って見透かされちゃうように感じています。もちろん上手くいくケースもありますが、かなりハードルは高いと思います。

もし、今そのような取り組みをやるとしたら、ドリコム社内の出版事業部に「一旦ゲームなんて無視していいから、めちゃくちゃ面白い原作を作って!」というお願いをして、とにかくIPを育てるという方向でやりたいですね。

それこそ「SPY×FAMILY」みたいな原作ができたら最高じゃないですか。それくらい気合いを入れてやらないと結局両方に気を使い合って中途半端になってしまうことを懸念しています。

ーー今回BitSummitに出展された新規IPも、まずはゲームとしていいものにしようということでしょうか。

奥村:やはりゲーム発で、ゲーム好きな人に受け入れられるタイトルを目指していますし、さらにIPとして育てていきたいと思います。たとえばまだ発表していないもので、アニメにもチャレンジもしていく想定のものもあるのですが、あくまでも自分たちの手でIPを育てていくことが第一目標です。メディアミックスのために何かを作るのではなく、ファンのために、自分たちの意思でアニメも作るし、本を出したりもしたいんです。

必要に応じてパートナーシップを組んでコンテンツを作っていきますが、お互いの思惑の中で妥協してしまうとよくないので、やるからには自分たちがオーナーとして責任を持ってやっていくという形に振り切ったほうがいいと思っています。

ーーやはりいまのユーザーには小手先では通じない厳しさを感じますか。

奥村:どんどん本質的になっていってると思いますし、そもそもBitSummitに来ているユーザーってめちゃくちゃ目が肥えていると思います。作り手よりゲームをプレイしているということを忘れちゃいけないなと痛感しました

こっちがプロだからユーザーさんにうまく遊んでもらおうなんて思うと絶対だめで、ゲームについてはある意味でユーザーさんのほうがプロだと思うんですよ。そう考えて、同じ目線で物を作らないと勝負できないんです。

もちろん僕らもプロだから、ユーザーさんの想像を超えてあっと言わせたいけど、まずユーザーさんをプロだと思って、真剣にゲームを作らない限り出し抜けるわけがないんですよ。

ーー当のGame*Sparkの読者さんでもコメント欄で鋭い指摘をされることがありますし、わかるところがあります。

奥村:僕自身もコアゲーマーなので「絶対これ適当に作ったでしょ」ってわかるし、自分の会社でそんな恥ずかしいことはしたくはないなと。

ーーちなみに、10年間の変化として中国デベロッパーやパブリッシャーの存在感がかなり高まっていることもあげられると思います。中国のゲームクリエイターやデベロッパーなどはどう見ていますか。

奥村:単純に人口だけでも圧倒的なパワーですよね。資金力を含めて総合力が高いと感じています。

一方で今のところはまだ「中国でしか作れない何か」を生み出すクリエイターはそこまで多くない気がしているんですよね。どっちかっていうと韓国や台湾などのクリエイターのほうが個としては立っている印象です。

他には、後発でもまくり上げる圧倒的なスピードと信念があることにも注目しており、競合としてみれば手強く、逆にタッグを組む時には頼りになります。ライバルというよりは、どうやって一緒に手を組んで、グローバルで戦っていける道があるかというふうに考えています。

“自分たち独自のゲームを作る会社”へとイメージを変えていく

ーーここ1,2年は奥村さんの感じる危機感というのがソーシャルゲーム業界でも強くなってきているのかソーシャルゲームで大きくなった企業も、VRに注力していたり、コンソールの開発部署を大きくしていたり、インディー的な価格設定や見せ方で新しいゲームをリリースしたり、モバイル版のリリースから間を空けずにSteamでも展開したりと、各社の方針も変わってきているように思います。奥村さんとしてはドリコムはどのような道を進むべきだとお考えでしょうか。

奥村:やっぱり「ただのソーシャルゲームの会社だと思われると先はない」と思っているので、自分たちならではのゲームを作る会社だと思ってもらえるかが生き残れるカギだと思います。僕はそのための戦略推進と、さらにその理念を実現するための組織づくりに多くの時間を割いています。

我々以外にも「他社IPをゲーム化することに長けたソーシャルゲーム会社」と見られている企業はいくつかあると思うんですが、我々はそことは差別化していって、ドリコムならではの見どころあるゲームを作る集団だと、ユーザーの皆さんに思ってもらいたいと考えています。

ーーもう根本からイメージを変えていかなければならないと。

奥村:やはり印象は大事ですし、たとえば参加するイベントもそういった考え方に基づいて厳選しています。

ーー今回の出展もそうした意図が反映されたものだということですね。

奥村:会社の印象を変えるという点ではその通りですね。ですが、正直いま話していることも小手先の話です。本質的にはユーザーさんがそう思ってくれるタイトルを提供できるかということに尽きるんですよね。

結局は作るタイトルが受け入れられていかないかぎり会社って変わっていかないと思うので、それを補強するためのブランディングにも気を配っているというのが正しい表現だと思います。

ーーここまでのお話をうかがっていて、特に「ゲームそのものを作っていきたい」ということを現状の打開策に考えられているのが印象深いです。そこで奥村さん自身が作りたいゲームがあるのもうかがえると、より本気さが伝わると思うのですがいかがでしょうか。

奥村:なんだかんだRPGで育てられたので、やっぱりRPGを作りたいですね。……体制が整ったら、誰かにカンパニー長を任せて、いちプロデューサーとしてやりたいなとも思っています(笑)。

ーーそれは見てみたいですね! 個人的にもそうした意思が見えるほうがファンも追っていきやすいイメージがあります。

奥村:いまお見せできるものとは別でも企画書を作っていたり、自分でもプロデューサーを務めるタイトルがあったり、いくつも驚いてもらえるようなプロジェクトを進めているので近いうちにお披露目できればと思います。

今日お話したような新しいドリコムのゲーム事業の方向性を体現するようなタイトルを自分も一個は持っていないといけないなと思っています。ゲーム事業のトップである顔と、プロデューサーとしての顔を使い分けたいですね。

ーーなるほど。事業のトップとしてはどれくらい各タイトルに関与しているのでしょうか?

奥村:他のタイトルにはあまり口を出さないんですよ。特に企画の中身など、ディテールについては一任していて、ほぼこちらから何かを言うことはありません。その分、自分がプロデューサーのタイトルは好きなようにやっています(笑)。プロデューサーに対して求めていることは、なぜそれをドリコムがやるのか、なぜそれをユーザーさんが手に取り楽しむのか、本当にそれをやりたいのか、その3点です。

ーー池田さんの『Tokyo Stories』のように、ディレクターの裁量が生かされるようにしているんですね。

奥村:今日お話してきた通り、一番タイトルのことを考えている人間が「これがいい!」というものを生み出さないと、ユーザーにもう届かない時代だと思うんですよ。僕が上から眺めて思ったことを言って反映させてもきっと良い結果には繋がらないでしょう。

ユーザーさんのことを考えている時間が長い人間が判断するというのを徹底するようにしていますね。なのでプロデューサーやディレクターには「本当にこれで自信をもって出せるんだよね?」ということしか言いません。「これで行けます」と言ってくれたらそれでいいんです。

ーー事業のポートフォリオとして、今はモバイルの売上が大きな比重を占めていると思いますが、将来的にはPCやコンソールの売上も増やしていくという理解でいいでしょうか。

奥村:それぞれの売上のバランスが取れているのが理想ですね。プラットフォームごとに目標を定めて意識的にモバイルを減らそうとか、PC・コンソールの売上をこの数字まで引き上げようということではなく、ビジネス的には今のガチャ偏重のマネタイズへの依存度を減らしたいなと。今はモバイルの売上が9割でさらにその9割がガチャによって生み出されています。

なぜそう考えるかというと、やっぱり本質的なゲームの面白さと遠い部分で疲れるんですよ。イベントを何かやって売上がいくらいったか、コストと売上の比率はどうだったかという、数値の分析に追われるというソーシャルゲーム的な精神的な疲労が大きくて、ゲームを本質的にどう面白くしていくのかというところまで手が回りづらくなったりします。それよりも、中長期的にユーザーさんに楽しんでもらうためのアップデートをどうするかに、もっと開発メンバーの時間を割いていかねばならないと強く思っています。

さっきもお話しましたが、ユーザーさんの目もどんどん肥えてきているし、本気でゲームを吟味しているので、彼らを楽しませたり驚かせたりというところにもっと時間を使わなければなりません。その難易度はどんどん高くなっているように思います。

ーーIPの考え方についてですが、先日ドリコムさんでは『ウィザードリィ』のIPを取得されましたよね。今Game*Sparkでリリースしている『ウィザードリィ外伝 五つの試練』でも色々とお世話になっていますが、そもそもどういう狙いで取得に動いたのでしょうか。

奥村:元々IPそのものを取得しようという考えはありませんでした。今『Wizardry VA』を開発しているディレクターに、次に何をやりたいか聞いたら『ウィザードリィ』の新作がやりたいということで、じゃあちょっと話を聞いてみようと行ってみた中で、、ライセンスをお借りするよりも我々が権利を獲得するという、より突っ込んだ取り組みにした方が、結果としていいモノづくりになるんじゃないかなと考えたからです。

とはいえ、今後も色々なIPを取得する戦略があるというわけじゃなくて、現場の熱意とビジネス面を勘案して、最適な方法で新しいゲームを作っていきたいと考えています。

ーーそこも現場の希望やモチベーションが重要なわけですね。

奥村:当たり前の話ですが、なんとなくIPを取得したりお借りしたりしても本当に熱意をもってやりたいメンバーがいないならゲームは作れません。今のスタイルでゲーム開発を続けていると、ありがたいことに「このIPでゲーム開発はどうですか?」というお話をいただくことも多々あります。ですが、ディレクターやプロデューサーの手が上がらなかったら、どれだけビジネス的にうまみのありそうななお話でも受けないようにしています。「やりたいです!」と率先して手を上げるリーダーがいないと絶対に良いゲームは完成しません。

自分たちでIPを作り上げる熱量と同じくらいの熱量を、既存のIPを使ったゲームにも注がなければファンの心を動かすゲームは作り上げられないと思いますし、端的には開発者がそのIPのファンじゃないと絶対無理ですね。ユーザーさんの気持ちがわからない人間が無理矢理作っても良い結果にならないことは明白なので、現場からの意思を大事にしています。

ーーそこも開発者のゲームを作りたい意思を大事にしているんですね。

奥村:いくつか今もIP獲得に動いていますが、それもすべてそのIPでゲームを作りたい人間がいるからです。たとえば僕がやりたかったりとか(笑)。作り手の意思を尊重して動いています。

ーーこれまでは他社のIPを使ってゲームを開発することが多かったかと思いますが、『ウィザードリィ』の権利を取得して開発的には何か変わりましたか?

奥村:先日発表したブロックチェーンゲームもそうですし、それに関わる展開も含めて、オーナーシップが自分たちにあるのは大きいですね。たとえば自社のIPであれば権利元からの監修がないわけです。だけど、好きな人間が作っているからちゃんと『ウィザードリィ』になっているんですよ。するとやっぱり開発スピードも早いですし、開発以外に発生するコミュニケーションも少ないので、自ら権利を獲得したメリットは大きいなと思っています。

ーー今回のBitSummitの出展でもその片鱗が垣間見られましたが、ゆくゆくは自分たちで新規IPを作り出す予定だと。

奥村:それがベストですね。これまでのようにお借りしてきたIPの世界観を拡張していくことはもちろん、一方で自分たちで作り上げる方向ももう一つの軸として強く意識しています。ゆくゆくは自分たちが作り上げたIPをお貸しして、多くの人たちと一緒に世界へと拡げていきながら、長くやっていける会社でありたいなと思っています。


今回の奥村氏のお話からは「いまこそゲームそのものを作るようにするんだ」というシンプルな意思と、複雑な業界の背景を感じさせるものでした。

かつて好調を続けたソーシャルゲーム業界の現在地について考えてしまうお話でしたし、また現状のインディーゲーム市場がドリコムのような企業が「リスクのある新規IPを試せる場」として機能している部分もあるとわかりました。ドリコムのゲーム事業の変化は、そうした業界の状況変化が大きく反映されたものであるともいえるでしょう。今後我々コアゲーマーを唸らせるタイトルがリリースされるのかにも注目が集まります。

《葛西 祝》

ジャンル複合ライティング 葛西 祝

ビデオゲームを中核に、映画やアニメーション、現代美術や格闘技などなどを横断したテキストをさまざまなメディアで企画・執筆。Game*SparkやInsideでは、シリアスなインタビューからIQを捨てたようなバカ企画まで横断した記事を制作している。

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