『METAL GEAR SOLID』もはやSFではない!始まった「遺伝子治療」時代とその問題点【ゲームで世界を観る#61】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

ハードコアゲーマーのためのWebメディア

『METAL GEAR SOLID』もはやSFではない!始まった「遺伝子治療」時代とその問題点【ゲームで世界を観る#61】

個人の遺伝子を操る時代は間近に迫っています。

連載・特集 特集
『METAL GEAR SOLID』もはやSFではない!始まった「遺伝子治療」時代とその問題点【ゲームで世界を観る#61】
  • 『METAL GEAR SOLID』もはやSFではない!始まった「遺伝子治療」時代とその問題点【ゲームで世界を観る#61】
  • 『METAL GEAR SOLID』もはやSFではない!始まった「遺伝子治療」時代とその問題点【ゲームで世界を観る#61】
  • 『METAL GEAR SOLID』もはやSFではない!始まった「遺伝子治療」時代とその問題点【ゲームで世界を観る#61】
  • 『METAL GEAR SOLID』もはやSFではない!始まった「遺伝子治療」時代とその問題点【ゲームで世界を観る#61】
  • 『METAL GEAR SOLID』もはやSFではない!始まった「遺伝子治療」時代とその問題点【ゲームで世界を観る#61】
  • 『METAL GEAR SOLID』もはやSFではない!始まった「遺伝子治療」時代とその問題点【ゲームで世界を観る#61】
  • 『METAL GEAR SOLID』もはやSFではない!始まった「遺伝子治療」時代とその問題点【ゲームで世界を観る#61】

1998年に発売された『METAL GEAR SOLID』は、急速に発展していた遺伝子工学のテーマをシナリオに盛り込み、ゲノム解析が進んだ先にある可能性の一端を垣間見せてくれました。それから25年、人間の遺伝子の解明はますます進み、SFであった遺伝子治療の普及がとうとう現実のものに。一般市民の遺伝子情報を解析し、様々なことに利用する時代が始まろうとしています。《GENE》の問題はどうなっているのか、21世紀の地点から見てみましょう。

遺伝子治療(ジーンセラピー)とは、生体の遺伝子を後から書き換えることで、先天的な遺伝子疾患を根治する事を目的とした手法です。

難病に多い遺伝子疾患の他、誰にでも起きうる「がん」も遺伝情報のエラーによって生じた異常で起きます。それに対してベクターと呼ばれる目的の遺伝子を乗せたもの、主にウイルスを投与し、エラーを起こしている遺伝子に正常な遺伝子を組み込みます。そうすることで「正しい働き」をする細胞を増やし、投薬による対処ではなく根本的な身体の機能を治します。技術的な難しさを除けば、やることは生きている人間のゲノム編集を直接行う極めてシンプルなものです。

似た用語として「ゲノム医療」がありますが、これは解読した個人の遺伝情報に基づいて最適な治療法を選択するもので「テーラーメイド医療」とも呼びます。遺伝情報を使うという点では共通していますが、ジーンセラピーはゲノム治療の一種という位置づけになるでしょう。用語としては異なるものであることに注意してください。

遺伝子治療は2つのタイプが想定されていて、ひとつは「体細胞遺伝子治療」、もうひとつは「生殖細胞遺伝子治療」です。普通の身体に行う「体細胞」であれば対象者個人だけを治し、「生殖細胞」に対して行えば、これから生まれてくる子供の遺伝子疾患を予防します。生殖細胞への実施はデザイナーズベビーに繋がる可能性や、遺伝子の働きが完全に解明されていないなどの理由から、今のところ倫理的に禁じられています。

国内初の遺伝子治療薬承認(2019年)

世界で初めて実施されたのは1990年で、『MGS』発売の1998年当時は臨床段階に進んだばかりの、まだまだ未来的な技術でした。1990年に始まったヒトゲノム計画によって、人間の遺伝子の働きが解明されれば、人体の特性を自在に操れるようになるのではないか。『MGS』はそんな可能性を反映していたのです。『MGS』からほどなく、2003年に解読完了の宣言が出る頃には研究が一気に進み、2002年には既に遺伝子治療薬が中国で承認されています。

今年6月、国内でのゲノム医療を促進する「ゲノム医療法」が参議院で可決されました。当面はがんに対するテーラーメイド医療の普及を進める中、遺伝子治療薬が日本でも承認されていて、公的な保険診療の範囲に含まれるようになりました。約60万円の何とか手が届く範囲のものもあれば、1億円越えの薬もあり(ゾルゲンスマ:脊髄性筋萎縮症用)、一般的とはまだ行かないものの、普及の端緒は開いたと言って良いでしょう。

一方で、解読した個人の遺伝子をどう管理するか、解読した情報で不利益を被ることはないか、様々な課題点も浮かんできました。例えば、遺伝子解読が一般的になったときに、特定の遺伝子を保持していることで、保険におけるリスクと見做されたり、就労や結婚出産などで差別を受ける可能性があります。SFで描かれてきたような遺伝情報による選別が、現実的な問題になるかもしれません。

もうひとつ懸念されている問題が「遺伝子ドーピング」です。今の遺伝子治療は疾患の根治を目的にしていますが、当然ながら身体機能強化の遺伝子書き換えもやろうと思えばできてしまいます。実際にそれが可能な遺伝子は複数見つかっています。世界ドーピング防止機構でも禁止しているものの、従来の薬物ドーピングと違って判別が困難になり、対策はまだ未知数の段階です。

アスリートの育成に遺伝子情報が使われるようになれば、それこそ「ソルジャー遺伝子」のようなものを持つ人間を選別し、先天性で差別される時代、あるいは自在に遺伝子強化を施した「ゲノムアスリート」が幅を利かせる時代が訪れるかもしれません。

「いつ」ではなく、誰がやってしまうか。ゲノム強化はもうその段階に来ています。遺伝子が全てを決めるのではありませんが、遺伝子を把握して適切な環境を用意することも簡単です。そうなったとき、先天の才を個人の努力で覆せると果たして言い切れるのか。『MGS』が発した《GENE》への問いは、まさに今、私たちの目の前に突きつけられているのです。


METAL GEAR SOLID: MASTER COLLECTION Vol. 1|オンラインコード版
¥7,480
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
《Skollfang》

好奇心と探究心 Skollfang

ゲームの世界をもっと好きになる「おいしい一粒」をお届けします。

+ 続きを読む
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめの記事

特集

連載・特集 アクセスランキング

アクセスランキングをもっと見る

page top