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『DEATH STRANDING 2』死者の日はメキシコ的お盆の祭―生と死が繋がり続けるメキシコの死生観【ゲームで世界を観る#105】

死を想うからこそ、今このときを全力で楽しむ。

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『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』でオーストラリア大陸の旅を続けるサムの前には、ニールという謎の男が立ち塞がります。ニールはタールの中にある謎の空間「ニルヴァーナ」に現れ、隊を組んで容赦なく撃ちかけてきます。最初のステージはカラフルな紙の装飾「パペルピカド」がドクロのモチーフであることから、メキシコの祝祭「死者の日」であることが分かります。ニール自身の顔も骸骨になり、既にこの世のものではない亡者であることが示されます。

映画「007 スペクター」「リメンバー・ミー」で取り上げられたことから、広く知られるようになった死者の日。時期が近づくと街中はマリーゴールドの華やかなオレンジ一色に染まります。派手な骸骨の仮装で街に繰り出すハロウィン延長戦のような光景ですが、魔除けの目的があるハロウィンと違って、死者を温かく迎える日本の盆と同じ意味合いの行事です。旧メキシコ領のアメリカ南部でも根付いていて、中米文化を代表する行事になりつつあります。

死者の日で重要なのは、親族死者の魂を出迎えて共に過ごすこと。そのために祭壇の「オフレンダ」を設置し、縁の品や写真、食べ物など多くのお供え物をします。毎年11月1日から2日間行なわれる死者の日ですが、実はこの日付はヨーロッパから持ち込まれたものです。カトリックの諸聖人の祭日(11月1日)の翌日に行なわれる「死者の日」の行事をベースに、中世ヨーロッパで流行した「死の舞踏」の芸術的なモチーフが加わり、さらに中米に古代からある習慣と混ざり合って現在の形態に発展しました。

テオティワカンから出土した「死のディスク」

15世紀頃のアステカ帝国では人身御供の儀式が特に盛んで、それに選ばれることは大いなる名誉でした。太陽神に捧げるアステカの神話では太陽神は既に4度滅び、その都度世界も滅亡と再生を繰り返します。現世では5回目の世界創世となり、太陽神は毎日の日没と共に死に(≠滅び)、日の出と共に生き返ります。アステカの王は太陽神の生死のサイクルを止めないよう、力尽きないように贄を捧げ続けなければならないのです。テオティワカンから出土した「死のディスク」はこの太陽信仰と関係があるとみられています。

中南米は環境が厳しく、干ばつによる不作や地震、火山、猛獣が潜む森など、人間ではどうにもできない死が大きく影響する土地です。その中で醸成されたのが「神を含む全ての存在は他者の犠牲を糧として生きている」という、生命の循環を重視した価値観でした。酒を飲むときには地面にこぼして大地の神パチャママに捧げるように、感謝と共に供物を捧げることで神に活力を与えます。

オフレンダはスペインの習慣であるカタファルコ(棺台)から発展したもので、ルーツは欧州側にありますが、その中でも重要なのがカラベリタという砂糖細工の頭蓋骨です。かつては各家庭で保管している頭蓋骨をオフレンダに飾っていたようで、ここに中南米の文化が受け継がれています。ボリビアでは11月8日の「頭蓋骨(ナティタス)の日」としてその習慣が続いていて、花や帽子で飾った実物の頭蓋骨を教会に持ち寄り、悪霊を祓う御守として祈りを捧げます。

他者の死があるからこそ自分の生があり、自分の死は他者の生に活かされる。魂は彼岸へ向かうもいずれ現世に転生する。中南米では生と死は断絶しているのではなく、魂の在り方が変わるだけとポジティブに捉えられます。死者の日同様、葬式も酒宴と音楽で送り出すので、何かの祭と勘違いしそうなくらい賑やかに弔います。故人との思い出を皆で語りあい、記憶を残し続けることで死者の魂を長らえさせ、現世に生きる魂に繋ぎ止めておくことができるのです。

ヨーロッパの入植と改宗は中南米文化の衰退を招きましたが、衝突で混ざり合った文化の中にその精神を残しつつ、欧州ラテンとも異なる新しい文化に進化しました。恐竜が滅びた先に哺乳類の繁栄があったように、何かの滅亡はそこで終着ではなく、またそこから次の時代を生きる別の存在が芽吹いていくのです。

改めて考えてみると、死者がBTとして現世に帰ってくる『DEATH STRANDING』の世界はお盆のようなもの。前作は成仏できない父の魂を供養する旅だったともいえるでしょう。最初は退治するしかできなかったBTからも、うまく対処する方法が分かれば「いいね」をもらうことができます。弾薬消費を抑えてカイラル物質も大量に出てくるので、実利の面からもBTを恐れず臍帯を切ってあげるのが互いにWIN-WINの関係です。

あらゆる「生」の終わりには必ず「死」があり、今生きている我々も置かれ早かれその時を迎えるでしょう。来る8月は死に向き合う機会が何かと増える時期なので、『DEATH STRANDING 2』をプレイしながら「死を想って」みるのもいいかもしれません。


ライター:Skollfang,編集:宮崎 紘輔


ライター/好奇心と探究心 Skollfang

ゲームの世界をもっと好きになる「おいしい一粒」をお届けします。

編集/タンクトップおじさん 宮崎 紘輔

Game*Spark、インサイドを運営するイードのゲームメディア及びアニメメディアの事業責任者でもあるただのニンゲン。 日本の新卒一括採用システムに反旗を翻すべく、一日18時間くらいゲームをしてアニメを見るというささやかな抵抗を6年続けていたが、親には勘当されそうになるし、バイト先の社長は逮捕されるしでインサイド編集部に無気力バイトとして転がり込む。 偶然も重なって2017年にゲームメディアの統括となり、ポジションが空位になっていたGame*Sparkの編集長的ポジションに就くも、ちょっとしたハプニングもあって2022年7月をもって編集長の席を譲る。 夢はイードのゲームメディア群を日本のゲーム業界で一目置かれる存在にすること、ゲームやアニメを自分達で出すこと(ウィザードリィでちょっと実現)、日本武道館でライブすること、グラストンベリーのヘッドライナーになること……など。

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