アドビ製品の更新すらできずにどうしていいか分からない―ロシア人開発者に訊く国内の現状【特別連載】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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アドビ製品の更新すらできずにどうしていいか分からない―ロシア人開発者に訊く国内の現状【特別連載】

『Fearmonium』『Catmaze』を手掛ける個人開発者・Slava Gris氏にお答えいただきました。

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Photo by Oleg Nikishin/Getty Images
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  • Stringer/Anadolu Agency/ゲッティイメージズ
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ロシアによるウクライナ侵攻は、ゲーム業界にも大きな影響を及ぼしています。Game*Sparkではその実情を読者の皆様に多少でもよりお届けすべく、ウクライナやロシア、さらには影響が直接的にもあるであろう周辺国を拠点に活動するインディーゲーム開発者に連絡を取り、その生の声を緊急連載としてお伝えすることにしました。第一回は、過去に『Catmaze』(インタビュー)と『Fearmonium』(インタビュー)でお話を聞いた、個人開発者・Slava Gris氏へのミニインタビューをお届けします。

インタビューは全てメールで行われており、下記の質問に対して任意で回答を求めました。今後の連載についても同様の形式で既にメールインタビューを開始しています。

  • ロシア国内の現状は?

  • 経済制裁も進んでいるが開発へはどのような影響があるか

  • Steamでの売上は現状ロシア国内で受け取れるのか?

  • ゲーム開発者コミュニティの反応は?

  • ロシア国内のユーザーはどのように反応しているのか?

  • 自身が今回のロシアの侵攻に対してどのように受け止めているか。

なお、本インタビューの返事を受け取ったのは日本時間3月7日23時24分です。状況が時々刻々と変化していますが、回答には極力手を加えず、一部誤解を招きそうな部分は編集の注釈をつける形で補足しています。各回答はインタビュイー個人の見解であることをご理解のうえご覧ください。


Slava Gris氏(以下Slava)一番予期していなかったことは、多くの人のロシア人への見方が変わってしまったことです。西側企業で働く私の友達の多くがロシア人だからという理由で解雇されてしまいました。何年もそこで働いてきたのにです。

私も西ヨーロッパの方々と一緒に仕事をしていますが、彼らの友人たちは私がロシア人だからすぐに一緒に仕事をするのをやめるべきだと言ってくるそうです。彼らとは長い付き合いですし、賢い人たちなので、私に対して差別をしてこないのは嬉しいですね。

――ロシア国内の現状はどうなっているのでしょうか?

Slava暮らしが大きく変わってしまいました。スウェーデンの家具量販店・イケア、フィンランドの巨大スーパーチェーン・PRISMA、そしてNetflixなど、たくさんの企業がすでにロシアを離れています。そして何よりひどいのは、ペイパルが使えなくなったり、H&Mで服を買えなくなったりしたということではなく、多くの人が職を失ってしまったということです。とても多くの人がPull&Bear(スペインのファッションブランドで、ZARAの姉妹ブランドでもある)、アディダスと言った場所で働いていましたが、そのすべての人が失業者になってしまいました!今後犯罪や貧困の増加など、様々な問題を引き起こしてしまうことでしょう。

Photo by Oleg Nikishin/Getty Images

――ロシアへの経済制裁も進んでいますが開発へはどのような影響がありますか?

Slavaインディー開発者である私が今直面している一番の問題は、Adobe製品です。私はAdobe製品をよく使っているのですが、同社がロシアを離れてしまったため、どうやってライセンスを更新すればいいのかわかりません。将来的には海賊版を使用しなくてはならないような状況になってしまうのではないかと心配しています。

――Steamの売上は現状ロシア国内で受け取れているのでしょうか?

Slavaはい、受け取れています。ロシアにはたくさんの銀行があり、その中のいくつかだけがブラックリスト入りしているようです。もし開発者の使っている銀行がブラックリスト入りしてしまえば、他の銀行で口座を作らなくてはいけなくなるでしょう。しかしこのリストはどんどん長くなっていっていますので、来月受け取ることができるかも正直わかりません。

――ロシア国内のゲーム開発者コミュニティではどのような反応がありましたか?

Slava今後私たちが継続して売り上げを受け取れるか誰にもわかりませんので、一部の開発者はパニックになっています。また、ウクライナの企業を含め、多くの開発者がすでに解雇されています。

――ユーザーはどのように反応しているのか?

Slavaよくわかりません。しかし95%のロシアのゲーマーがショックを受けているようです。彼らの多くはロシア人開発者たちをサポートしようとしてくれており、すでにSteamでゲームを購入することができなくなっていることから、私たちのプロジェクトにどうやってお金を出せばいいか、方法を探ってくれています。しかし、CD PROJEKT REDやベセスダ・ソフトワークスを始め、多くの企業がロシア国内でのゲームの販売をストップしてしまいました。これにはもちろん、ロシアのゲーマーコミュニティは怒っています。その根幹にあるのが「ゲーム会社は政治と切り離されているべきだ」という考えです。現状、大手企業だとRemedy Entertainment(『Max Payne』『CONTROL』の開発)だけがロシアへのサポートを表明してくれており、ロシア国内での販売も続けてくれています。
※編注:Remedy Entertainmentはウクライナへの人道支援も行っているほか、ロシア人を含めて当事国の関係者の雇用を保障する旨の声明を発表している。

――今回のロシアの侵攻に対してどのように受け止めていますか。

Slavaこの質問に答えて良いのか、わかりません。ロシアではたくさんの新しい法律ができ、これらがどうなっているか、私にはまだわからないのです。ご理解いただけると嬉しいです。


今後もロシア・ウクライナ両国や周辺国のデベロッパーから返信があり次第、生の声をお届けします。

【編集部より】

かつてGame*Sparkでもインタビューしたデベロッパーがどう思っているかを、そのままの状態で記すことには意味があるものと判断し、1デベロッパー1記事という形で今後も掲載を続ける予定です。内容の濃淡や、返答の内容は既に回答を得ているものだけでも大きく異なります。過去のインタビュー対象がロシアのデベロッパーが多かったこと、被害の状況から勘案してもインタビュイーの比率は同数にならないかもしれませんが、今は数多くの生の声を聞くことにフォーカスしてお伝えしていくつもりです。なるべく偏りが少なくなるよう努力はしますが、そうならない可能性もあること、それが即ちロシア側の声を意図的に多く拾うといった、特定の政治的な意図を込めているわけではないことはご理解いただけると幸いです。あくまで本企画は、突然の戦火に巻き込まれてしまった両国のデベロッパーがどのような状況に置かれてしまったかを、彼・彼女らの視座から語ってもらいそのまま伝えることを目的としており、ゲームとも関係の深い両国あるいはその周辺国で作られた海外ゲームを嗜む読者の皆様が現状を把握する一助になればと思っています。

編集部が常日頃からチェックしている海外メディアもロシア関連の情報が多く、何を記事にするべきかは編集部でも大きく頭を悩ませています。平穏なゲームニュースがかき消されるような、この最悪な状況が一日でも早く終わることを編集部一同願っています。同時に、突然戦火に見舞われ、日常を奪われた多くのウクライナの市井の人々やゲーム業界関係者を思うとかける言葉もなく、一日も早く平穏が取り戻せることを祈るばかりです。そうした被害に遭われた人々を支援するゲーム業界の動きについても随時お伝えしていきますが、これまで通り日常の記事のボリュームを減らすことなく、ゲーム業界に関連する話題については記事の本数を増やしながら対応してまいります。


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