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『ベヨネッタ3』活版印刷が一因?現在まで続く壮絶な「魔女狩り」の歴史【ゲームで世界を観る#32】

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『ベヨネッタ3』活版印刷が一因?現在まで続く壮絶な「魔女狩り」の歴史【ゲームで世界を観る#32】
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アンブラの魔女最後の生き残りベヨネッタは、戦いの中で様々な拷問器具を使った「トーチャーアタック」を繰り出します。現在では人間相手に使うなどもってのほかですが、かつては魔女であるという自白を引き出す手段として推奨されていたのですから、時代の「正義」が実に信用ならないかを示す悪例となっています。ゲームオーバーの時も「THE WITCH HUNTS ARE OVER」と表示され、人類の黒歴史である「魔女狩り」が下敷きになっています。

悪魔と契約して黒魔術を扱うというイメージで描かれる魔女ですが、その元になっているのは各地の農村で薬草や出産を扱う人物だったと言われています。女性は命を産むことから古代から神秘性と結びつけられ、医療の経験を持って大事な出産を取り仕切る産婆は尊崇の対象だったのです。

彼女たちの使う薬草術は精霊の力を借りる自然崇拝であることから、キリスト教布教の障害になります。ですが最初から強硬に排除したのではなく、ルネサンスより前の時代は呪術が疑われる事件で裁判にかけられるくらいで、先述のいわゆる「魔女」のようなイメージはありませんでした。

呪術と一口に言っても良いものも悪いものもあるので、「呪術師=悪」と短絡的に決めつけてはおらず、ゲームでは『ウィッチャー』のような、恐れられつつも頼られる存在です。教会の方は魔術を「罪」として認めることはせず、あくまでも迷信として扱っていました。

それを一変させたのは「活版印刷」の技術でした。欧州でグーテンベルクが活版印刷を開発したのは1445年頃で、かの有名な「魔女に与える鉄槌」が出版されたのは1486年。開発から僅か30年ほどで出されたので、最新技術として普及した初期中の初期の本と言えるでしょう。

この「魔女に与える鉄槌」は今で言うところの「ヘイト本」に近い内容で、如何に女性が信用ならないか、魔女が恐ろしい存在かを綴っています。著者のハインリヒ・クラーマーはマレフィキウム、つまり事件になる黒魔術を撲滅することに執心しており、拷問で自白させることも辞しませんでした。あまりに強引なため教区内でも問題となり、最終的に追放の処分が下されました。

「魔女に与える鉄槌」はこの処分の後に執筆され、彼の強引な手法や異端者の危険視がそのまま書かれています。さらにクラーマーはこの本を神学者や教皇のお墨付きを得たかのように装います。活版印刷が出る前であれば、写本の手間がかかるため一気に広がることはなかったのですが、本の大量生産によって「大ベストセラー」となってしまったのです。

ピーテル・ブリューゲル「死の勝利」

当時はペストの流行などの政情不安があり、かつては何か不思議なことがあると「呪術師」に相談していたのが、この本によって「悪い魔女の仕業」にして吊し上げを求めるように変化しました。その名残は「ぎっくり腰」をドイツで「魔女の一撃」と表現することなどに見られます。

異端審問の手引き書として「魔女に与える鉄槌」が広まると、疑われた者は自白するまで拷問を受ける「魔女狩り」が始まります。集団ヒステリーでやるときもあれば、審問官が手柄欲しさに、または略奪のために難癖を付けて処刑することも横行していたようです。

特に有名なのが「魔女狩り将軍」を自称して300人近くを処刑に追い込んだ、イギリスのマシュー・ホプキンスです。彼が好んで用いたのは「針刺し」で、魔女には血が出ない点があるとして、それが当たるまでひたすら刺し続けるという方法でした。鍼灸でもそうであるように、血管をうまく避ければ誰でも血が出ない場合は有り得ます。ホプキンスはそれだけではなく、針が刺さらない仕掛けまで作ってでっち上げを行っていました。当時は魔女を告発すると報奨金が出ていたため、それ目当てに荒稼ぎをしていたのです。

ホプキンスがよく使ったもうひとつの手法は「水責め」です。魔女は体重が軽いので水に浮き、普通の人間なら沈むという判別なのですが…死ぬまで沈んでいないと魔女とされました。このように、一度嫌疑がかかると魔女であると「暴かれる」か、耐えかねて自白する、あるいは死に至るのみ。

魔女だと自白した場合、処刑を免れる方法もありました。それは、他の魔女を告発するという取引です。これが原因で多数の冤罪を生んだのが1692年にアメリカで起きた「セイラム魔女裁判」です。少女達に魔術をかけたとして最初に3人が告発されましたが、自白と他の魔女の告発によって100人以上に連鎖する事態に。このうち実際に処刑されたのは19人で、自白をせず魔女であることを否定し続けた人たちでした。疑いの段階で有罪にすれば魔女裁判である、アメリカ司法における「推定無罪の原則」の対極としてセーレムの事件はよく引き合いに出されます。

日本に於いても自白するまで責め苦を負わせる尋問は当たり前に行われていたので、単純に魔女裁判は恐ろしい!では済まないでしょう。「大岡越前」などの時代劇でもよく出てきますよね。「石抱責」「駿河問い」など、現在から見ればなかなか非道なことを当たり前の手段として使っていました。国内で唯一拷問の展示を行っている明治大学博物館では、江戸時代の責め苦や処刑の説明に加えて、ギロチンと鉄の処女のレプリカも置いてあります。

今でこそ拷問で吐かせるようなことはほとんど無くなりましたが、「疑わしきを罰せよ」という風潮はいつの時代でも見られます。活版印刷が魔女狩りを加速させたように、SNSで集団吊し上げが加速したとも見られていて、自分が「魔女狩り」に参加していないか、投稿をするときには気を付けましょう。


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