
2026年5月22日~24日にかけて京都・みやこめっせで開催された「BitSummit PUNCH」。そのアワード授賞式でゲームデザイン最優秀賞を受賞したのが、インディーゲーム開発スタジオ「DDDistortion」が手掛ける『NIGHTMARE OPERATOR』です。
荒廃した近未来日本を舞台に、おぞましい姿をした妖怪を狩るTPSアクションホラーである本作のゲームデザイン的最大の特徴は、シューターに“対戦格闘ゲームのコマンド入力”を組み込んでいること。また下北沢や中野をはじめとする有名スポットが、ローポリホラーらしいダンジョンとして見事にチューニングされている点も見逃せず、今回の受賞を機に、より多くのゲームファンが今後の展開に期待する作品となったことは、疑いの余地がないでしょう。
本稿ではDDDistortionの代表であり、そんな『NIGHTMARE OPERATOR』のディレクターとしてプログラミングや内部デザイン、一部トレイラーの編集まで幅広く手掛けるノーラン・ジョセフ(Nolan Joseph)氏へ、アワードの受賞発表前にインタビューを実施。本作のゲームシステムがどのようにして生まれたのかを語ってもらいました。

eスポーツ業界のエンジニアがゲームスタジオを設立するまで
ーー本日はよろしくお願いします。まずは代表を務めるDDDistortionについて、その設立経緯を含めてご紹介いただけますか?
ノーラン・ジョセフ氏(以下、ノーラン氏):DDDistortionは『NIGHTMARE OPERATOR』が初めての開発タイトルで、大部分が初めてゲーム開発に参加するようなメンバーで構成されている新しいスタジオです。スタジオは東京にあるものの、外注メンバーを含めるとイギリスや南アフリカなど、いろんなところで活動しているクリエイターが協力してくれているので、かなりグローバルな開発体制と言えます。
立ち上げの経緯については結構複雑で、どこまで話せるか……という感じなのですが、もともと私は日本のeスポーツ業界のWeb開発会社に務めていたんです。そこではメイン商品のリードエンジニアを担当していたのですが、それがほぼ完成状態になり、別のプロジェクトへ挑戦したいとCEOに相談したのがDDDistortionの設立に繋がりました。そこから最低限の開発メンバーを組んで、『NIGHTMARE OPERATOR』最初の試遊デモを制作するに至ります。
ノーラン氏:2年前の段階では、そのデモしかないような状況だったのですが、紆余曲折あって開発体制が整い、今回出展している中野ステージ以外の部分もかなり出来上がってきています。ゲームの完成度は50%以上と言ったところでしょうか。
ーー早速脱線するようですが、ノーランさんはアメリカ出身ですよね。日本のeスポーツ業界に飛び込んだ経緯はどういうものだったんでしょうか?
ノーラン氏:日本のeスポーツに参加したいという思いが特別あったわけではありません。大学時代に東京へ留学して、その後にアメリカに帰ったら「もうダメだ…」となったんです。「もうここには居られない」って(笑)。

――え!?それはどうしてですか?
ノーラン氏:私が育った町は田舎というわけではないのですが小さな町で、色んなところへアクセスしづらければ、物価も高くて、健康保険もなく……。それと日本の食べ物をはじめ、アニメやゲームといったカルチャーが大好きなので、一度そういう環境を経験してしまったらアメリカでの生活がつまらなくて耐えられませんでした。そして日本へ移住をして、どんな仕事に就くかはその後に考えたんです。
結果的にeスポーツ業界にジョインする形になったのは、もともと格闘ゲームが大好きでしたし、面接で出会ったCEOがとても良い人だったからですね。今でもとても仲良くしてもらっています。
――そうだったんですね(笑)。では『NIGHTMARE OPERATOR』の話に移りますが、本作が開発初期からずっと大切にされているコンセプトは何でしょうか?
ノーラン氏:さっきも話したように私は格闘ゲームが大好きなので、そのファン人口を増やしたいとずっと考えていました。格闘ゲームの配信や大会を観るのは好きだけど、実際にプレイするまではいかないといったユーザーも少なくないなかで、手軽にシステムを体験できる機会を提供したい……それが「クラッチシステム」といった本作のゲームデザインに繋がっています。
――現在は主に『ストリートファイター6』の登場で、プレイヤーの間口がぐっと広がっていますよね。とはいえ、それは「モダン操作」というシステムの存在が大きいので、コマンド入力の有無という面では理想とするファンの広がり方と違っていたりするのでしょうか?
ノーラン氏:いえ、「モダン操作」は素晴らしいと思っています。ただ、それは『スト6』に実装されているシステムなので、そもそも同作に興味があって、手に取ってゲームをプレイするまでに至った人へ、対戦格闘の間口を広げるものです。格闘ゲームの操作に対するハードルを下げたというイメージでしょうか。
『NIGHTMARE OPERATOR』がアプローチしたいのは、そもそもモダン操作にアクセスしようともしないほど、格闘ゲームに対して「難しすぎる」という認識を持っている人たちです。そのような形で普段はシューターなどをプレイする方に、本作を通じて「なんとなくやれそうかも」という気持ちになってもらいたいなと思っています。

――『スト6』は格闘ゲーム畑の内部から直接的にシステムの敷居を低くすることで。本作はまったく違うジャンルからシステムの面白さに触れてもらうことで、格闘ゲームのコアを知るきっかけ作りを目指しているという意味では、異なるアプローチながら同じ思想なのかもしれませんね。
ノーラン氏:その通りです。導線を広げたいですね。
――そういった考えでTPSアクションと格闘ゲームが融合した本作ですが、システム面ではどんな作品に影響を受けているのでしょうか?
ノーラン氏:「クラッチシステム」は独特と言われることが多いのですが、リロードや武器の切り替えに失敗があるシステムというのは、実は『Half-Life: Alyx』というVRゲームが備えています。弾薬を詰めているときにマガジンを落としてしまうことがあるのですが、それをVRではないゲームで再現できたら面白いのでは?と思いました。
あとはもちろん『デビルメイクライ』や『バイオハザード』『Dead Space』といったシリーズ作品など、色んなものから影響を受けています。
――格闘ゲームではどうでしょう?ノーランさんが同ジャンルで最も熱を入れていたタイトルを教えてください。
ノーラン氏:『ギルティギア』シリーズですね。同作の「ロマンキャンセル」をモデルに、『NIGHTMARE OPERATOR』では「ディスチャージキャンセル」というシステムを取り入れています。個人的には全てのゲームに組み込んでほしい天才的なシステムだと思っています。
――先ほどお話された「クラッチシステム」を導入するうえで大変だった点はありますか?
ノーラン氏:クラッチシステム導入は意外と簡単でしたが、あえて挙げるならば、コード側でどうやって入力されたコマンドを判断するか……という点でしょうか。例えば、波動拳コマンド(↓ ↘ → + P)や昇竜拳コマンド(→ ↓ ↘ + P)はすごく似ていますよね。一点だけ、もしくは微妙に順番が違うだけのコマンドを、どう別のものとして処理させるかというのは簡単ではありませんでしたが、それでも一日二日くらいで実装対応できています。
ゲーム制作のうえで導入が難しかったのは「アート」ですね。最初にグレーボックスを作って、そこからホワイトボックスを作り、モデリングをして、テクスチャを追加して、 プロップ(小道具)を追加して、アニメーションを追加して……と色んな段階を踏む必要があります。各段階でトリガーが壊れてしまうなどが起こるので、小さな開発チームが故に苦労していますね。
――とはいえアートに関わるメンバーには緒賀岳志*氏が参加されていたりと、一流の開発メンバーが揃っているかと思いますが、どのようにチームを構築していったのでしょうか?
ノーラン氏:最初はアニメーターにアート担当、3Dモデラーと3名を雇いました。うち2名はそれぞれXに作品を挙げられていたので、それを見て連絡をした形になります。それ以降は、知り合いの紹介だったり応募だったりですね。緒賀岳志さんに関しては「どうやって加わってもらえたの?」と聞かれるのですが、メールで正面からご相談をしたら意外にも返事をいただけたんです(笑)
*日本のイラストレーター、コンセプトアーティスト。『SIREN』シリーズや『GRAVITY DAZE』シリーズなどのコンセプトアートを担当

文脈的にも構造的にも“中野ブロードウェイ”はゲーム向き
――本作がホラーゲームとして、恐怖感を演出するうえで意識されている点はありますか?
ノーラン氏:ホラーをジャンルとしていますけど、正直に言えばそこまで怖さを盛り込みたいと思っていません。ホラーはあくまで本作が持つ要素のひとつで、作品のテーマを強めるためのものという意味合いが強いです。主人公「ミーシャ」自身も強いので、サバイバルホラーのような恐ろしさはあまり感じられないかもしれません。
――という意味では『バイオハザード』よりも『デビルメイクライ』寄り……?
ノーラン氏:むしろ『バイオハザード2』よりも『バイオハザード4』という感じです(笑)。直近の『バイオハザード レクイエム』で言うなら、主人公がグレースではなくレオンのパートに近い。私自身も『バイオハザード』シリーズは、クリスよりもレオンが主人公の作品のほうが好きなんです(笑)
――「ミーシャ」はレオンのようなイメージなんですね(笑)。前回のビルドの舞台だった「下北沢」は、開発会社の近所で参考にしやすかったという選出理由がありましたが、今回の「中野」は何故ステージに選ばれたのでしょうか?

ノーラン氏:中野に関しては、格闘ゲームの歴史を語るうえで欠かせない場所だからです。2025年5月に閉店してしまいましたが「中野TRF」というゲームセンターがありましたし、私自身も『鉄拳』や『ギルティギア』のイベントへ参加をしに毎週のように通っていました。
そして中野ブロードウェイは、4フロアに分かれた迷いやすい構造をしていて、さらに各階で雰囲気も違うのでゲームに向いていると思ったんです。加えて、4階にあるエイリアンの像や、3階にあるまんだらけ本店の看板。どこか怖い雰囲気を持った昭和時代のアイテムが飾られて……と、それらがSFと伝統的なホラーを要素として備えている本作とマッチしていると考えました。

――切り口が優れていますよね。これはプレイレポートにも書いたのですが、実在する建造物がモデルのダンジョンを探索していると「こんなに複雑なわけないじゃん!」となりがちなのですが、本作の中野に関してはかなり納得感がありました。
ノーラン氏:そうですね。実際に訪れたときにゲームの思い出だけで道が分かるなど、そういった体験が大事だと思っています。下北沢はフィクションを入れている部分も少々ありますが、中野ブロードウェイはゲーム内に再現しやすかったですね。他のステージもモデル地を感じられるように作っていますので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。
――まだ他のステージに関してはお話できないと思いますが、どんな着眼点をもとに選出をされていますか?
ノーラン氏:本作では東京は廃墟と化してしまっているのですが、電車は走っています。ただ全ての路線が健在というわけではなく、主人公が属する公安局が管轄しているものしか稼働していないのです。それが総武線なんです。

――あぁ、なるほど!ゲームの舞台設定として、人類が新たに“千葉”を拠点としているから「総武線」なんですね。
ノーラン氏:そうそう(笑)。なので、ステージに選ばれるのは総武線を起点にアクセスしやすい場所と考えてください。ちなみに私もよく利用しているのですが、記事を読んでいる皆さんにはぜひ予想をしてもらいたいですね(笑)。

クラッチシステム×ヒートシステムの化学反応
――前回のビルドから消費アイテムが使用できるようになったり、敵の攻撃演出が調整されていたりしましたが、ゲームシステム面で大きくアップデートを遂げた点についても教えてください。
ノーラン氏:一番大きな変更は「ヒートシステム」の実装です。実はプロトタイプ版には、残弾数という概念があったのですが、クラッチを成功させても弾数が無くてメリットがないという事態が起きていました。とはいえ弾を無限にしてもゲーム性として微妙なので、リロードは必要でも弾数が復活するようにしたのが前回のビルドです。それもベストとは言えなかったので、イチから作り直しました。
連続して撃てば撃つほど熱ゲージが溜まり、オーバーヒートしたらクールダウンを待たなければならないのがヒートシステムなのですが、これはクラッチシステムとすごく合っていると思います。クラッチが成功すればクールタイム時間が短縮されるので、連続で成功させる限り、弾を撃ち続けることができます。
――そちらについてはシステムにマッチするだけでなく、近未来な世界観にもピッタリだなと感じました。ゲームシステム以外で変化を遂げたものはありますか?
ノーラン氏:フィールドでNPCと会話できるようになったのも今回のビルドからになります。前回の下北沢ではストーリーをあまり感じられなかったと思うのですが、「公安局」「臨時政府」や「黄昏ノ刃」といった色んな組織も登場しているので、そちらも注目してほしいポイントですね。
――今回のビルドで「黄昏ノ刃」が演説をしているのが、実際の中野駅でも街頭演説によく使われる場所だったのでクスッとさせられました。

ノーラン氏:その場面については緒賀さんにイメージボードをいただいたんです。その後に中野へ取材に行ったら、実際にその場所に街宣車が停められていて……(笑)。これはちょっと生々しすぎるかもしれないと心配になったくらいです。
――(笑)。今回の「BitSummit PUNCH」での反響についてはいかがですか?
ノーラン氏:今日がイベント初日なのでまだ半日しか見られていませんが、良い評価をいただけています。皆さんが最初に褒めてくださるのがビジュアルですね。開発に着手したばかりの頃こそあまりなかったものの、今ではローポリ風のゲームがたくさんリリースされているなか、評価してくださるのはとても嬉しいですね。
システム面に関してもそうですね。開発チームは、プレイヤーが本当にクラッチシステムを楽しんでもらえるのか心配しているのですが、「EVO Japan」や「TGS2024」の時と同じく、多くの方々に評価してもらえて嬉しく思っています。格闘ゲームにあまり触れてこられなかったユーザーも、すぐにシステムに適応している姿を見てホッとしています。

――僕は格闘ゲームをやり込んでこなかった人間なので、何度もコマンド入力に失敗して武器をカシャカシャしてしまっていたのですが、ノーランさんから見て試遊された方々は問題なく使いこなされていましたか?
ノーラン氏:意外と使いこなされていましたね。ちなみにクラッチシステムが上手く使えるようになればなるほど、色んな特別な技へ応用できるようになります。例えばレールガンは発射がすごく遅いのですが、クラッチに成功するとすぐに撃つことができます。コマンド入力に慣れていなくとも、下がって待ちさえすれば再度攻撃できるのでご安心ください。
――リリース予定日など、スケジュールに関する目標はありますか?
ノーラン氏:ありはするのですが、リリース予定日については「近々発表できるように頑張りたい」と回答とさせてください。皆さんが待っていることは承知していますので……!
――ありがとうございます。最後にそんな続報を心待ちにされているゲームファンに向けてメッセージをお願いします。
ノーラン氏:格闘ゲームの人口を増やしたいと思っています。発売後の『NIGHTMARE OPERATOR』を楽しんでいただけたなら、ぜひ格闘ゲームをチャレンジしていただきたい。中野の『ギルティギア』のイベントまで足を運んで、僕と対戦しましょう。
最後の最後で『ギルティギア』の布教をしてしまう、ある意味でお茶目なノーラン・ジョセフ氏を筆頭に、日本のカルチャーを愛するメンバーが集まったDDDistortionが手掛けるTPSアクションホラー『NIGHTMARE OPERATOR』は鋭意開発中です。
格闘ゲーマーはもちろん、そうでないゲームファンもカジュアルに楽しめる本作の続報を楽しみにお待ちください。
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