「シザーマン」がいない日本舞台のPS1ホラー『クロックタワー ゴーストヘッド』はシリーズの歴史をどう変えたのか?【特集】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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「シザーマン」がいない日本舞台のPS1ホラー『クロックタワー ゴーストヘッド』はシリーズの歴史をどう変えたのか?【特集】

『クロックタワー』シリーズ屈指の「怪作」の魅力を今こそ紐解いてみよう。

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「シザーマン」がいない日本舞台のPS1ホラー『クロックタワー ゴーストヘッド』はシリーズの歴史をどう変えたのか?【特集】
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1995年にスーパーファミコンで誕生した『クロックタワー』、そして1996年にPlayStationで正統進化を遂げた『クロックタワー2』。大きなハサミを持った謎の殺人鬼「シザーマン」から必死に逃避するサバイバルホラーとして、当時一世を風靡した人気シリーズです。

しかし、その隆盛の渦中にあった1998年、開発元のヒューマンが世に送り出した第3作目『クロックタワー ゴーストヘッド』は、ファンの度肝を抜く変貌を遂げていました。

そこにはシリーズの代名詞であった「シザーマン」は存在せず、舞台も洋館から日本の邸宅や病院、研究施設へと移されていたのです。さらに、無力な少女が逃げ回るだけだったゲームプレイに「二重人格スイッチによる攻撃」という、新たなシステムを導入していたことも特徴的でした。

主人公:御堂島 優(みどうしま ゆう)

発売当時はその急激な路線変更から戸惑いの声も多く上がりましたが、四半世紀以上の時を経た現在、ゲーム史における「重要な過渡期の尖った実験作」として今なおカルト的な人気を得ています。

というわけで本稿では、本作が持つ強烈な世界観とゲームシステムを紐解きながら、なぜ『ゴーストヘッド』がシリーズの中でこれほど異彩を放ち、のちのホラーゲームの歴史にどのような爪痕を残したのかを徹底的に解説していきます

項目

詳細

タイトル

クロックタワー ゴーストヘッド(CLOCK TOWER GHOST HEAD)

発売日

1998年3月12日

開発 / 発売元

ヒューマン

対応機種

PlayStation(後にゲームアーカイブスで配信)

ジャンル

アクションアドベンチャー / サバイバルホラー

◆日常を侵食する「和風ホラー」への大胆な転換

前作までの『クロックタワー』シリーズは、北欧の時計塔や広大な洋館を舞台に、ヨーロッパのゴシックホラーや80年代の西洋スラッシャー映画(「フェノミナ」など)のテイストを色濃く反映していました。どこか異国情緒漂う非日常の空間で追われる恐怖が、作品の大きな魅力であったと言えます。

これに対し、『ゴーストヘッド』のテーマは「日本特有の湿度の高い怨念を描いたJホラー」でした。

物語は1999年の春、東京の高校に通う主人公の少女・御堂島優(みどうじま ゆう)が、叔父である鷹野初(たかの はじめ)の家を訪れるところから幕を開けます。しかし、たどり着いた邸宅はすでに異様な血の匂いに包まれており、刻まれた人体、血塗られた能面、そして金刀で襲いかかってくる狂気の少女「鷹野千夏(たかのちなつ)」が待ち受けていました。

この千夏は、従来のシリーズでいうところの「シザーマン」的な不死身の敵であり、作中でプレイヤーを恐怖に陥れるゲーム序盤の絶対的な存在です。

千夏

1998年という発売年は、映画「リング」が公開され、日本国内で「Jホラー」という概念が浸透し始めた時期です。家系にまつわる祟り、ミイラ、能面、黄泉様の呪いといったオカルト要素を取り入れた世界観は、プレイヤーに「身近な日常がじわじわと惨劇に侵食されていく生々しい恐怖」を突きつけました。

  • 前作(1・2):西洋ゴシック / 巨大ハサミ / 異国の洋館 / 追跡者=シザーマン

  • 本作(GH) :和風オカルト / 能面・日本刀 / 日本の日常 / 追跡者=千夏、感染者(ゾンビ)など

物語の主軸となるのは、主人公・御堂島優自身の出生の秘密と、旧家「才堂家」にまつわる悲痛な因縁です。優は一見するとおとなしく繊細な女子高生ですが、その内面には自身でも制御不能なもう一つの凶暴な人格「翔(しょう)」を宿しています。彼女が抱えるこの「二重人格」は、単なる精神疾患ではなく、かつて忌み子として処理された才堂家の呪いと深く結びついています。

もうひとつの人格「翔」

本作のシナリオはマルチエンディングを採用しており(全13種類:A~M)、ハッピーエンドと呼べるものは極めて限られています。努力が報われず後味の悪い結末を迎える「胸糞エンド」や悲劇的な幕切れが多く存在しますが、その救いのなさこそが、90年代サイコサスペンス特有の退廃的な魅力としてプレイヤーの心に強く焼き付きました。

また、シナリオを引き立てる音響とヴィジュアル演出も実に秀逸です。 探索中の不気味な静寂、「才香」と遭遇した瞬間に鳴り響く狂気的な旋律、そしてボイス演出の導入によって、プレイヤーの恐怖を煽る臨場感が至るところで感じられました。

恐怖と爽快感が交錯する「二重人格システム」─独自のゲームシステムの魅力

本作最大のアイデンティティであり、他のシリーズと一線を画す要素が「二重人格の交代システム」です。プレイヤーが極度の恐怖や身に危険に晒された時に、もうひとつの男性人格の「翔」が自動的に出現します。

分かりやすく、「優」と「翔」の役割やゲームプレイにおける違いをまとめると、以下のようになります。

人格

特徴

探索・戦闘能力

御堂島 優(みどうじま ゆう)

心優しく大人しい性格の少女。

銃器は扱えません。敵に襲われた場合、逃げるか、または特定のアイテムで撃退するかしかできません。細かな探索や特定のイベント対話が可能です。

翔(しょう)

冷酷で攻撃的な男性人格。

身体能力が高く、拳銃やライフルなどの銃火器を扱えます。敵を直接撃ち倒すことができますが、一部の人間関係やイベントが進まなくなります。

この人格交代をコントロールするのが、優が幼い頃から肌身離さず持っているお守り「ミコシサマ」です。つまり、ミコシサマは優と翔の人格変化の鍵であり、プレイヤーは二つの人格を操作することでシナリオを進行させていくことになります。

たとえば、優の状態でミコシサマを所持している場合は、どんなに恐怖を感じても「翔」は現れません。一方、ミコシサマを特定の場所(棚や机など)に置いた状態の場合は敵と遭遇して危機的状況に陥ると、紫のオーラとともに人格が「翔」へ変化します。

シリーズ初の銃器での攻撃

従来の『クロックタワー』は、襲い来る敵から隠れるか、周りのオブジェクトを使って一時的に追い払う(回避ポイント)しか対抗策がありませんでした。 しかし本作において、人格が「翔」に切り替わるとゲーム性は一変します。

プレイヤーは、マップ上で手に入れたや拳銃やショットガン、さらには超自然的な必殺技である「イノリサマ」などを駆使し、襲い来る千夏や「HU599菌」に感染し、ゾンビ化した怪物たちを撃ち倒すことができます。それまで逃げ惑うしかなかった恐怖の対象に対し、銃弾を叩き込んで物理的に排除する体験は、圧倒的なカタルシスをもたらしました

ただし、弾薬には限りがあり、無闇に撃つことはできません。また、翔の状態では進められないフラグ(会話やフラグアイテムの回収)も多く存在するため、「いつ翔になって敵を排除し、いつ優に戻って探索を進めるか」というリソース管理と判断力が試されるゲームデザインになっていました

新たなシステムを導入し、従来のシリーズと差別化を図ろうとした「攻めた姿勢」は大いに評価されるべきですが、一方でプレイヤーを困惑させたのが、数々の欠点と調整の粗さです。

最大の難点は、前述した理不尽な「遅効性の詰み」と非常にシビアなフラグ管理です。序盤や中盤で特定のアイテム(特定のキーアイテムや会話フラグ)を取り逃がすと、ゲーム終盤まで進めた段階で「詰み」が確定し、強制的にバッドエンドへ直行します。しかも、どこで何を失敗したのかがゲーム内で提示されないため、初見かつ攻略情報なしでのクリアは極めて困難でした。

また、ゲームテンポと操作性の悪さも大きなストレス要素でした。本作は、ポイント&クリック形式での移動方式なのですが、ポイントの速度が遅く、キャラクターの歩行速度も緩慢なため、広いマップを何度も往復するのが非常に苦痛です。

さらに、二重人格システム(お守りの着脱)の手間も評価を分けるポイントでした。人格を入れ替えるために「ミコシサマ」を置きに行く往復作業が発生し、恐怖の演出というよりは単純なテンポ阻害に感じられる場面も少なくありません。

これらの「理不尽さ」「テンポの悪さ」は当時のプレイヤーを大いに苦しめ、本作が賛否両論となった大きな要因と言えます。

◆シザーマンのいない『クロックタワー』─異色の怪作は、シリーズの歴史をどう変えたのか

『クロックタワー ゴーストヘッド』がシリーズの中で極めて特異な、外伝的な立ち位置にある理由は、制作体制の大きな変化にあります。

初代『クロックタワー』および『クロックタワー2』を手掛け、シリーズの生みの親である河野一二三氏(現・ヌードメーカー取締役)が本作の制作に関わっていません。開発元のヒューマンは、河野氏の手から離れた状態で「クロックタワー」という看板をどう継続・進化させるかという課題に直面していました。

そして当時、ゲーム業界は『バイオハザード』(1996年)の大ヒットにより「サバイバルホラー」ブームの真っ只中にありました。静的でクラシカルなクリックアドベンチャーから、より動的でアクション性の高いサバイバルホラーへのシフトが求められていた時代です。

そうした時代背景の中で生み出された『ゴーストヘッド』は、単なる『2』の焼き増しではなく、シリーズ象徴の敵である「シザーマン」をあえて廃し、和風の怪異やサイコホラーへ全面刷新したのです

他にも、「追われるだけのヒロイン」から「人格交代により自ら銃を撃ち戦う主人公」への転換や、海外の洋館という遠い世界の出来事から、日本国内の身近な恐怖への移行などです。スピンオフ的な位置づけでありながら、これほどまでに大胆な再構築を行ったことは、当時のゲームシーンにおいてきわめて野心的な試みでした。

本作が残した歴史的功績は、「逃げるホラー」と「戦うホラー」の融合を試みた実験性にあります。この『ゴーストヘッド』で培われた「普段は無力で逃げるしかないが、特定の条件やゲージ・アイテムによって反撃・撃退が可能になる」というコンセプトは、その後のホラーゲームの系譜に大きな影響を与えました

たとえばそれは、開発元であるヒューマンの倒産後、IP(知的財産)の権利を引き継いだカプコンによって制作された『クロックタワー3』(2002年・PS2)や、その実質的後継作である『DEMENTO(デメント)』(2005年・PS2)の構造を見てみると、その影響がよく分かります。

発売当時、『ゴーストヘッド』は「シザーマンが出ない」「難易度が高すぎる」「主人公が銃を撃つのはクロックタワーではない」といった、旧来のファンの戸惑いや批判に晒されることも少なくありませんでした。

とはいえ、単なる『バイオハザード』の追随に終わらず、二重人格という精神的要素をゲームシステムや導入した斬新さ、一度プレイしたら忘れられない強烈なトラウマキャラ、陰鬱なストーリー展開は、今なお「シリーズ史上最も尖ったカルト的名作」として語り継がれています。

クロックタワーゴーストヘッド
¥2,200
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
ライター:DOOMKID,編集:みお


ライター/心霊系雑食ゲーマー DOOMKID

1986年1月、広島県生まれ。「怖いもの」の原体験は小学生の時に見ていた「あなたの知らない世界」や当時盛んに放映されていた心霊系番組。小学生時に「バイオハザード」「Dの食卓」、中学生時に「サイレントヒル」でホラーゲームの洗礼を受け、以後このジャンルの虜となる。京都の某大学に入学後、坂口安吾や中島らもにどっぷり影響を受け、無頼派作家を志し退廃的生活(ゲーム三昧)を送る。その後紆余曲折を経て地元にて就職し、積みゲーを崩したり映像制作、ビートメイクなど様々な活動を展開中。HIPHOPとローポリをこよなく愛する。

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編集/Game*Spark共同編集長 みお

ゲーム文化と70年代の日本語の音楽大好き。人生ベストは『街 ~運命の交差点~』。2025年ベストは『Earthion』。 2021年3月からフリーライターを始め、2025年4月にGame*Spark編集部入り。2026年1月に共同編集長になりました。

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