
1998年11月19日に、PlayStation向けにトンキンハウス(東京書籍)から『ジャガーノート 戦慄の扉』が発売されました。
本作は、悪魔に憑依されたガールフレンドを救うため、彼女の精神世界を探索し謎を解いていくサイコホラー・アドベンチャーゲームです。

名作『MYST』の流れを汲む、3DレンダリングCGを駆使した本格的かつ「鬼畜」とも言える高難易度の謎解きシステムが特徴で、CD-ROM3枚組という大ボリュームで構成されています。
本稿では、本作のオカルトをテーマにした不気味な世界観や、脳みそを焼かれるような濃密な謎解きの魅力を改めて探っていきたいと思います。
◆「心の闇」を描く、複雑怪奇なオカルト的世界観

本作の舞台は、現実の場所ではなく「悪魔に寄生された人間の精神世界(心の中)」という唯一無二の世界観が特徴です。
主人公のガールフレンドである「サラ」が、ある日突然、邪悪な悪魔「エビル」に肉体と精神を乗っ取られてしまいます。プレイヤーは、彼女の精神世界を探索して、心の奥底に潜むエビルを打ち倒し、サラを救い出すことになります。


ゲームは「島」「館」「迷宮」の3層構造になっており、深部へ進むほど彼女の理性が失われ、悪魔の支配力が強まっていることを視覚的に表現しています。
館の中に隠された「4つの扉」の先には、8つの異なる「精神世界(コスモ)」が存在します。これらは、彼女が人生で抱いてきた恐怖、トラウマ、欲望、孤独といった「負の感情」が悪魔によって増幅され、具体的な風景として具現化したものです。

たとえば、不気味な骸骨や拷問器具が並ぶ「プリズン(監獄)」、時の流れが歪んだ「過去と未来の孤島」など、無機質で静寂な狂気の世界です。動くものといえば、奇妙な機械や悪魔が仕掛けた不気味なギミックのみで、この「圧倒的な孤独感」と「静寂」が、プレイヤーの精神をじわじわと追い詰める世界観を作り出しているのが大きな魅力です。

そして、彼女の心に侵入した主人公は、悪魔が作り出した先述の「8つのコスモ」を探索することになります。
それぞれの世界で難解なパズルを解き明かしていくうちに、主人公は「なぜ彼女が悪魔に魅入られてしまったのか」という、彼女自身が心の奥底に隠していた過去のトラウマや、人間関係の悩み、孤独感といった「心の闇」を追体験していくことになります。
悪魔を倒すことは、彼女のトラウマを一つずつ解消していくプロセスでもあるわけです。

また、その美術デザインやアートワークは、本作の評価を決定づけた最も重要な要素です。1990年代末のプリレンダリングCG技術を極限まで活かし、狂気と美しさが同居する独特の世界観を作り上げています。

「館」などのステージでは、中世ヨーロッパの暗黒時代を思わせる石造りの建築、錆びた鉄格子などが配置され、古典的なオカルト・ホラーの美学が貫かれています。

また歯車、パイプ、メーター、蒸気機関など、19世紀の産業革命期を思わせるスチームパンク然とした意匠で統一されており、どこか退廃的で不条理な美しさを持っており、これが本作にしかない味わいを出していました。


特に、「近未来ネットワーク」をイメージしたコスモ(ステージ)が凄い。当時の最先端だったインターネットやコンピューターの内部世界を視覚化していますが、目の痛くなる派手な色彩や無機質なのにどこか垢抜けない野暮ったさなど、クールというよりレトロフューチャーなビジュアルが、逆に不気味で強烈でした。

このように、90年代後半のサイコホラー作品らしく、過剰なジャンプスケア(脅かし演出)に頼るのではなく、静寂の中に響く足音やどこか狂気を孕んだ環境音が、じわじわと侵食してくるような独特の恐怖感を醸し出していました。
◆『MYST』の系譜を継ぐ、鬼畜難度の謎解きパズルと迷宮探索

本作を他の一般的なアドベンチャーゲームと大きく一線を画すものにしているのが、極めて独創的なゲームシステムと、緻密に練り上げられた高難易度のパズル・ギミックなのは間違いありません。

まず、本作は一人称視点で進行します。基本画面は緻密に描かれた3Dの静止画で、移動したい方向や調べたい場所をクリックすると、滑らかな移動ムービー(プリレンダリング動画)が再生され、次のポイントへと視点が切り替わる、ポイント&クリック形式です。

また、インタラクト可能な場所(調べられる場所、移動できる方向、手に入るアイテムなど)でカーソルが変化するので、そこは調査可能ということです。基本的に、『バイオ』などのホラーゲームとは異なり、操作は非常にシンプルです。

先述したように、ゲームはさまざまな「コスモ(精神世界)」で構成されているのですが、最初に訪れる「館」ステージでは、主人公な霊魂だけの抜け殻状態からスタートします。

霊魂は、基本的に「移動のみ」が可能で、ドアも開くことはできないし、アイテムを調べたりすることもできない状態です。ただし、小さな穴などからはすり抜けることはできます。

そして、ステージ内にある特殊な「肉体交換機」と呼ばれる気味の悪い機械を使用することで、「大人の肉体」または「子供の肉体」のどちらかに定着させることができます。

大人の肉体は、力があるため、重いレバーを引いたり、物を動かせたりできますが、狭い場所には入れません。一方で、子供の肉体では、力が弱く機械を動かせませんが、体が小さいため、壁の通気口や狭い隙間、ダクトを這って進むことができ、どちらも一長一短あります。
このように3つの能力をうまく使い分けて探索するという、非常に特徴的なシステムを備えています。

そして本作最大の魅力である、理不尽なまでに難しい謎解きパズルを見ていきましょう。筆者はその難しさに、当時早々にコントローラーを投げてしまった記憶があります。
本作に登場する謎解きは、単に「落ちている鍵を拾ってドアに使う」といった単純なものではありません。音楽、色彩、言葉遊び、暗号読解、機械装置の操作など、多岐にわたる知的なギミックがプレイヤーの前に立ちはだかります。

例えば、特定の部屋で流れるオルゴールや機械の「音の順番・高さ」を耳で聴き取り、別の部屋にあるピアノやレバーでその通りに再現する「音階パズル」は、絶対音感がないプレイヤーは当時はメモが必須でした。

また、紋章や図形の回転パズル壁画や台座に刻まれたマークを正しい向きや組み合わせに合わせることで、隠し扉が開いたり新たなアイテムを入手できます。
床のパネル踏み分け特定の部屋の床にあるタイルを、壁のヒント(絵画やメモ)に従って特定の順番で踏んでいくような、比較的オーソドックスなパズルもあります。間違えるとスタート地点に戻されたりダメージを受けることもあります。

暗号を読み解いて、対応するパスワードを機械や扉のロックに入力して解除する王道的パズルも存在しており、たとえば一定の数列から推理して、正解となる数値を導いていくといった感じです。

さらには文字の並びを反転させることで新たな意味を見出すアナグラムを使用した謎解き(「GOD」と「DOG」、「LIVE」と「EVIL」の対比など)に至るまで、プレイヤーの洞察力が試される仕掛けが満載です。

90年代のゲームらしく、親切なチュートリアルやログ機能の排除ゲーム側から「次にここへ行け」「これがヒントだ」といったテキストの指示は一切ありません。
手書きメモに部屋の隅々に置かれた絵画やレリーフを書いたり、文章を注意深く読んだりしないと到底解き明かせないほど、絶妙な難易度設定となっています。

とはいえ、攻略のヒントは背景の模様、一見無意味なレリーフ、書物の文脈など、実は視界のあらゆる場所に隠されています。
一見「理不尽な難問」に見える仕掛けも、散らばった情報をメモし、論理のパズルとして組み立て直した瞬間、完璧な必然性をもって解法が浮かび上がるように設計されています。つまり、ステージ空間全体が巨大なパズルボックスになっているのです。

このポイント&クリック型の一人称3D視点、主人公以外の生きた人間がいない圧倒的な孤独感、プレイヤーのリアルな知能を試すハードコアな謎解きといった本作の特徴から、不朽の名作パズルADV『MYST』との共通点も多く見いだすことができ、正当なるフォロワー(後継者)であると言えるかもしれません。
◆再評価されるべき、謎解きアドベンチャーの金字塔

本作は、90年代後半というプレステ初期~中期の「表現の実験場」であった時代だからこそ誕生し得た、異色の傑作アドベンチャーゲームです。
悪魔祓いという古典的なオカルトホラーをベースにしながらも、「心の闇」を具現化した精神世界を舞台にした探索と謎解きは、唯一無二のプレイ体験を作り出していました。

親切なマーカーや進行誘導が存在しないため、その難易度はかなり高いものですが、だからこそプレイヤー自身が思考し、試行錯誤を繰り返して、ようやく進めた時の達成感は凄まじく、圧倒的な没入感をもたらしてくれます。


今なお多くのレトロゲームファンやサイコホラー好きの間で「隠れた名作」として語り継がれる本作。CGグラフィックの質感や静寂に包まれたBGMが醸し出すダークな雰囲気は、現代のインディーホラーゲームや脱出ゲームファンにも強く響くポテンシャルを秘めています。もしもプレイする機会があれば、ぜひ一度「戦慄の扉」の世界を開いてみてはいかがでしょうか。













