今や一流パブリッシャーの仲間入りを果たしたDeep Silverが今年6月に世に放った秘蔵っ子『Ride to Hell: Retribution』。
当初開発を担当していたのは、英国の老舗スタジオEutechnyxとDeep Silver Vienna。『GTA IV』がリリースされた2008年同年、1960年代のバイカーギャング蠢く無法地帯を描いたオープンワールドゲームとして発表されたものの、後にプロジェクトが難航しDeep Silver Viennaが製作から離脱。残ったEutechnyxがオープンワールド要素を削除して密かにリテイクを続けていたという作品となっています。
数年間の沈黙を打ち破り2013年4月に突如表舞台に舞い戻った『Ride to Hell: Retribution』は、なんと同年6月の発売が決定。つまり2ヶ月後にはもうローンチされることが当時発表され、筆者含む一部ユーザーは「そんな直ぐに出して大丈夫?」と一抹の不安を感じてたことでしょう。結局その予感は的中し、『Ride to Hell』はレビュー集積サイトMetacriticで19/100(Xbox 360版)という最低の平均スコアを記録。“今世代最悪のゲーム”というレッテルを貼られる結果となってしまいました。
しかし海外のゲーム批評家たちが伝えたように、果たして『Ride to Hell: Retribution』は本当にクソゲーなのか?改めて今プレイし直しそのクオリティをチェックしてみました。
『Ride to Hell: Retribution』はチャプタークリア形式のアクションアドベンチャーゲーム。ベトナム戦争帰りのJake Conwayが、弟Mikeyを殺したギャングThe Devil's Handの幹部たちを一人一人と追い詰めていくという復讐の物語が描かれている作品です。プレイヤーは装備の強化やバイクの改造などが行える町を拠点にミッションへと繰り出し、バイクレースや銃撃戦などを繰り広げ、また町に戻るという流れでゲームを進めていきます。
まずメインであるはずのバイクレースは、無数に散らばる事故車両などのオブジェクトをただただ避けていく障害物競走と化しています。ターゲットがニトロを積んでいるのか近づくと猛スピードで離れる、またスピードを落とすと敵バイカーもスピードを落としてくれるというフレンドリーな仕様が実装されており、バイカー達と繰り広げられる筈の熱いカーチェイスは一部ステージを除きただのツーリングです。戦闘面ではスローモーションの銃撃戦はまだ良いとして、無駄に多い格闘戦は横に張り付いてきた敵をワンボタン連打のQTEで倒すだけと恐ろしく単調で、しかも多くの場面では敵は手を下さなくても勝手に自爆していきます。
バイクレースをプレイして真っ先に思い出したのは初代PlayStationにてリリースされた『ペプシマン』でした。『ペプシマン』は登場する障害物をひたすら避けてゴールを目指すというアクションゲームですが、あれをより間延びさせ演出を地味にし締りの悪い操作性にしたのが『Ride to Hell』のバイクレースです。
バイクから降りての戦闘は、オープンワールド作品にありがちなカバーシューター風のライトアクションに、『Batman: Arkham』シリーズの風味を添えたといったところでしょうか。初期武器がヘッドショット以外は殆ど役にたたず、後半はバリエーションが無くなったせいかとにかく大量の敵が出てくるだけというレベルデザインが施された銃撃戦。納豆の糸を引いているような爽快感の無いパンチに、延々とキックボタンを連打すれば倒せてしまう格闘戦。
町中や都市といったエリアの探索も問題を抱えています。最初に登場する歓楽街からしてNPCが数人しか居ない、車が一切走っていない。建物の中に入れないのはもちろん、どう見ても通れそうな道路すら進むと「ここは通れません」とメッセージが表示され、強制退去させられることになります。ゲームを進めるとNPCが何人か見受けられ車も走行する町も登場しますが、NPCは自分が撃たれない限り近くで喧嘩や銃撃戦があっても逃げ出さないし、また走る車はプレイヤーに衝突してもそのまま走り続けるといった有り様で、未完成具合に突っ込みだしたらキリがありません。
ここでついでにサウンド関連にも触れておきましょう。一定のギターリフが繰り返されるだけの単調なBGMはさておき、一部SEが「あれ、オプションでオフにしたっけ?」と思ってしまうほど迫力が無く、バイクレースや町中の探索などゲーム全体に空虚な印象を与えています。もしかしたら静まり返ったハリボテの町は、デジタルの普及によりリアリティを失った現代社会を映し出す鏡という開発者による意図があるのかもしれません。『Ride to Hell』のバイカー達がヤクを所持して現実逃避に走っているのも頷けます。
ここまで様々な問題点を挙げてきましたが、本作最大の問題点はクオリティが低いのにボリュームはフルプライスゲーム並みという点でしょう。例えば数日置きっぱなしで黄色くカチカチに変質した白飯。一口ぐらいなら食べられないでもないですが、それを水道水でふやかして延々と味わうことを想像してみてください。『Ride to Hell』のプレイ感覚はそんな感じです。ヘッドショットする、時折出てくる際どい障害物を避けるなど、考えながらプレイすることを強要する絶妙な難易度が設定されており、死んだ目をして無思考でプレイすることすら完全に拒否している拷問ゲーです。
逆に本作で最も親切なのはゲームのオープニングシーンでおよそ本作の酷い部分を全て試食させてくれるという点です。冒頭パートでプレイヤーは本作の主要なプレイ体験となる銃撃戦やバイクレース、QTE式の格闘戦をチュートリアルとして体験していくことになります。本編という名のフルコースを食べる前にまず「本作はこんな味ですよ」と最後の警告を促してくれているのです。興味本位で料理を注文し金を払ってしまったユーザーも、引き返すなら今の内ということになります。
さて『Ride to Hell: Retribution』はクソゲーなのか?答えはYES。本作は未完成だったオープンワールドゲームの各要素をバラバラに切り離しており、さらにフルプライスの説得性を持たせるためにそれらを水増ししたミニゲーム集です。「せっかく作ったんだから食べなきゃ勿体無い」というプレイヤー以外は生ごみに出してしまうのがベストでしょう。さもなきゃ腹を壊します。
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