中国の有志翻訳事情に迫る“ParaTranz”管理人Bruce氏インタビュー「ParaTranz以前の翻訳作業は驚くほど原始的でした」【有志日本語化の現場から】 2ページ目 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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中国の有志翻訳事情に迫る“ParaTranz”管理人Bruce氏インタビュー「ParaTranz以前の翻訳作業は驚くほど原始的でした」【有志日本語化の現場から】

海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回は視点を変え、中国の有志翻訳事情に迫ります。日本の有志翻訳にも使われる翻訳プラットフォームParaTranzの管理人であり、公式翻訳も手がけた経験を持つBruce氏に話を訊きました。

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翻訳プラットフォームParaTranz


インターネットは本来みんなのものですよね
――ParaTranzを簡単に紹介してください。

Bruce氏ParaTranzは協同翻訳プラットフォームです。ユーザーは翻訳プロジェクトを作成し、テキストをアップロードしてサイト上で翻訳できます。ParaTranzではユーザー間の協調と自動化を重視しています。これまで述べたように、従来のやり方には協調と技術の両面で困難が伴いますが、ParaTranzはそれを肩代わりします。技術スタッフがいなくても、チームは翻訳作業に集中できるのです。

――仕組みを簡単に説明してください。

Bruce氏ユーザーがゲームのテキストをParaTranzのサーバーにアップロードすると、サーバーはそれを解析して標準フォーマットに変換し、データベースに保存します。翻訳したテキストをダウンロードする際は、データベースから元のフォーマットが復元されます。

――開発した経緯を教えてください。

Bruce氏冒頭でお答えした通り、開発の動機は中国にこのような協同翻訳プラットフォームが存在しなかったことです。開発は空き時間に行い、最初に開発計画を立てて、難易度と需要から開発の順序を決めました。時にはユーザーの要望で開発を優先させることもありました。実際、これは大半のインターネット・アプリケーションと同じ開発プロセスです。私はフルスタックエンジニアなので、このプロセスを熟知していました。

――運用する上で苦労したエピソードを教えてください。

Bruce氏翻訳メモリの同期に関して問題が起きたことがあります。データベース間の同期なので、時々データの一貫性が十分に保証されなかったのです。私はこの問題を解決するために多くの資料を調べました。おそらくこれが今までで一番複雑な問題ですね。

翻訳メモリ
原文と訳文を対にしてデータベース化する翻訳支援ツールの総称。ParaTranzにも翻訳メモリ機能がある。

Bruce氏の代表作(有志翻訳)『Europa Universalis IV』

――無償で公開しているのはなぜですか?

Bruce氏中国で有料サイトを作るには企業が主体でなければならず、個人ではあまり便利な方法がないというのが主な理由ですね(笑)。それに加えて、諸経費がそれほど高くないのも理由です。もちろん私もいつかチャンスがあれば、このサイトを商業プロジェクトにしたいと思っています。

――日本人を含む誰にでも公開しているのはなぜですか?

Bruce氏インターネットは本来みんなのものですよね。

――ユーザーから多く寄せられる要望を教えてください。

Bruce氏ファイルの移動機能、サポートするファイル形式の追加、様々なバグ修正など、非常に多くの要望があります。

――逆に、ユーザーに対する要望はありますか?

Bruce氏ユーザーには特になにも求めていません。サイトを悪用して無駄なプロジェクトを大量に作ったりしなければそれで十分です。

――将来の目標を教えてください。

Bruce氏このサイトが10年後に企業になることを願っています。

Bruce氏の代表作(公式翻訳)『Imperator: Rome』

『Imperator: Rome』の公式翻訳を手掛けて


なにも変わっていません みんな本質的には同じ翻訳者ですから
――『Imperator: Rome』の公式翻訳を手掛けた経緯を教えてください。

Bruce氏『Imperator: Rome』の中国語翻訳は、Paradox Interactiveがロシアの翻訳会社The Most Gamesに、さらにThe Most Gamesが中国の翻訳会社に委託して行っています。52 TeamはParadox Interactive作品の翻訳に関する中国での知名度が高いので、翻訳会社の方から私たちを見つけてくれました。

――実際の翻訳作業はどのように行われているのですか?

Bruce氏デベロッパーと直接やり取りすることはできず、翻訳支援ツールmemoQを介してThe Most Gamesとやり取りしています。最初にmemoQからテキストをParaTranzに取り込み、納品日に翻訳したテキストをmemoQに書き戻します。非常に複雑なプロセスですが、なんとかなっています。

――公式翻訳を手掛ける上で問題になったことはありますか?

Bruce氏主な問題はコミュニケーションの壁です。デベロッパーと直接やり取りできないので、翻訳したテキストがすでに古くなっていることが多々ありました。また、公式翻訳を行う時点ではまだゲームが完成していません。そのため、デベロッパーがテキストの完全な文脈を提供するのでなければ、どの場面に表示されるテキストかわからず、翻訳ミスが発生します。この問題はゲームが実際のテキストを読み込むまで発見できません。

――公式翻訳と有志翻訳にはどんな違いがありますか?

Bruce氏商業翻訳と有志翻訳の最も本質的な違いは納期の有無です。一般的に有志翻訳には締め切りがなく、進捗管理には無頓着です。他の点では両者に大きな違いはありません。大部分のメンバーは翻訳だけに専念し、他の作業は数人の管理者が行います。

――公式翻訳を経験して見方が変わったことはありますか?

Bruce氏なにも変わっていません。みんな本質的には同じ翻訳者ですから。

――有志翻訳と公式翻訳はどのような関係を築くのが理想だと考えますか?

Bruce氏プロの翻訳者と有志翻訳者がより良い協力関係を築けるのが理想でしょう。プロの翻訳者には洗練されたツール、標準化された作業工程、優れたバージョン管理、専門用語の知識があります。しかし、プロの翻訳者は必ずしもゲームの愛好家ではありませんし、普通は内部試験に十分な時間を割くことができません。それが不適切な翻訳を生み出します。一方、有志翻訳者は元のゲームの概念が正確に変換されているかどうかを品質チェックすることができます。残念ながら、プロの翻訳者と有志翻訳者の協力関係はまだ一般的ではありません。

日本の有志へのメッセージ


――日本の有志翻訳コミュニティに一言お願いします。

Bruce氏今後ともParaTranzのご利用とご支援をよろしくお願いします!

――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。
《FUN》

遊ぶより創る時間の方が長いかも FUN

元ゲームプログラマー。得意分野はストラテジーゲーム。ゲームライターとして活動する傍ら、Modの制作や有志日本語化に携わっています。代表作は『Crusader Kings III』の戦国Mod「Shogunate」。

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