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Game*Sparkレビュー:『Horizon Forbidden West』―美しく、綿密に描き込まれた世界だからこそ浮かんでしまう暗部

どこを切り取っても美しい世界、尊敬と愛に満ちた世界観の描き込み、旅情すら感じる素晴らしい作品は、良くも悪くも“ウェルメイド”。

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Game*Sparkレビュー:『Horizon Forbidden West』―美しく、綿密に描き込まれた世界だからこそ浮かんでしまう暗部
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筆者は、旅行が好きだ。

知らない名前のスーパーや、小さな書店、北風吹くシャッター通り、アーケード。それらを繋ぐ鉄道や路線バスを眺めるのが好きだ。眺め、その地に住まう人々の暮らしを想像する。この書店はいつできたのか、古めかしいブティックは営業しているのか、この人らはどこへ向かうのか、この子らはどのような人生を歩むのか。明確な答えが欲しいわけではない。ただ、断片的に得た情報から、それらの隙間にある空間を想像で補いたいというだけだ。

Horizon Forbidden West』は、そんな旅情に溢れた作品である。丁寧に描かれた世界と、それらを断片的にプレイヤーへ伝えるデザインは、冒険に説得力を与え、現実のそれと同じような旅を演出することに成功している。しかし、細部へ目を向けると、電車の窓の汚れのようにこびりついて離れない問題も浮かんでくる。

本稿は、PS5版でのプレイをベースに執筆している。また、『Horizon Forbidden West』『Horizon Zero Dawn』のネタバレを含む。ご留意いただきたい。

本作は『Horizon Zero Dawn』(以下、『Zero Dawn』)の正統続編である。全てにおいて、前作よりグレードアップしたものが用意されている。逆に言えば、『Zero Dawn』からの正当進化以上のものは望めないということでもある。

物語は『Zero Dawn』の数カ月後から始まる。一度は世界の危機を救ったアーロイだったが、植物の腐食は続き、世界の破滅は刻一刻と迫っていた。アーロイは、世界再生の要となる高機能AI「ガイア」のバックアップを探すため、そしてその副次機能を取り戻すべく、西部へと繰り出すのだ。

チュートリアルも兼ねた導入の完成度は高い。基本的な攻撃方法や、新たな装備「プルキャスター」を用いたアクション、アーロイの持つ「フォーカス」によって、AR的に表現されるジャーナルで敵の情報などを教えてくれる。その道中には「旅の始まり」を思わせる演出が多く見られ、未知への旅立ちを想わせる遠景が強調されるシーンはもちろん、スペースシャトルを発射台から落とすという『アンチャーテッド』シリーズ顔負けのダイナミックなアクションで、プレイヤーのテンションを一気に高める。

ただ美しいだけでない、創り込まれた世界

兎にも角にも、本作の世界は美しい。広大なオープンワールドは様々な顔を持ち、その一つ一つがフォトジェニックだ。鬱蒼と生い茂る緑に圧倒されつつ歩みを進めれば、荒野の砂漠にはかつてのラスベガスをホログラムで再現した景色が広がり、テナークスの空の一派の拠点ではしんとした雪景色に白息を吐く。物語を進める中で様々なロケーションを味わえるのも本作の魅力のひとつだ。

筆者が最も感銘を受けたのは、この美しい世界に住まう人々に対する尊敬だ。西部では、各所に民族が拠点を築き暮らしている。独特の死生観を持ち、機械を神のように崇めるウタル族、闘いに生き、闘いに死ぬテナークス族、そこから反旗を翻し独立した逆賊などなどだ。それぞれの民族が生き生きと描かれている。

とりわけ、ウタル族の拠点である歌の平原は、彼らが大切にする植物を用いた建造物や衣類、彼らの文化と思わしきゲートや装飾品などが丁寧に描写され、訪れる者の心を奪う。一方、逆賊の野営地では、テナークス族から派生したと思われるオブジェクトや文様が見られるなど、一つ一つのロケーションに意味を感じさせる。

それらはただ見て楽しむだけではなく、サイドクエストでは密接に関わってくることもある。メインクエストの合間に丁寧に敷き詰められたサイドクエストは、任意でありながら、それぞれの民族の人物にフォーカスし、リッチなカットシーンで紡がれている。もちろんアスレチックや狩りを楽しむことを主軸とするものもあるが、基本的には民族の中で生きる人々の苦悩や困りごとを解決していく。中には、どちらかの生き死にを選択するようなものも用意されている。そして生き残った人物が、物語の終盤で僅かではあるがボイス付きで現れるなど、細やかな配慮が、サイドクエストへのプレイに報いるものもある。

これらのサイドクエストは、一貫して彼らの文化や生活を知ることができるようにデザインされている点も印象的だ。例えば、ウタル族は、誕生と同時に植物の種子を与えられ、死亡するとその種を植えるという風習がある。集落の人から依頼を受けて向かっても既に事切れていた。そんなときはその種子入れを持ち帰るのだ。このような文化を直接感じるものもあれば、あるクエストでは不当に牛耳る権力者の企てを暴き、富の再分配を目指して活躍したりと、そこに住まう人々の暮らしに根ざしたサイドクエストが見られる。

また、アクティビティとして『Horizon』の世界では「ストライク」と呼ばれるボードゲームや、オーバーライドした機械獣に乗って殴り合いながらレースするといったものまである。

これらを通じて、ビジュアル的に美しく描かれた人々の暮らしを、より感情移入できるようになる。旅を続けていると、人と出会い、暮らしを知り、助け合い、仲間になり、楽しみ、この世界のことをプレイヤーが自然に好きになっていく。手助けした人々が、後半になって別の場所で登場し、そこで特別なセリフが用意されているなど、細かやな対応も、それを後押ししているだろう。

旅先に行って、やたらその地が好きになることがあると思う。「第二の故郷」と呼ばれたりするそれと、同じような感覚だ。それはクリエイターがこの世界と、そこに住む人々への愛と尊敬を持って創られたものであることを随所に感じるだけでなく、プレイヤーがこの世界を愛し、尊敬に値するものと思えるものになっているからだ。

また、本作が尊敬しているのは作品の時代に生きる人々だけでなく、「古」へも同じだ。『Horizon』は現代が滅び去ったあと、約1000年後の世界を舞台としたいわゆるポストアポカリプスである。古はつまり今、我々が生きている現代のことを指す。随所にはコレクタブルアイテムとして、古のデータがドキュメントや音声、或いはホログラムとして残されている。地球からの避難を試みる家族の話だったり、ラスベガスの美しさを後世に残すため暗躍した男の話などさまざまだ。これらを読んでいるだけでも時間があっという間に経ってしまう。

これはアーロイの物語を辿るだけではなく、かつてここにあった別の物語を辿るという要素を組み込むことを意味する。この環境ストーリーテリングによって、プレイヤーが自ら物語を見出し、この世界を奥深く感じ、地に足ついた世界観になっているわけだ。

世界を極めて丁寧に描くことは同時に、メインクエストのリニアさを打ち消す効果も感じられた。というのも、本作のメインクエストは直線的な体験が多く、これだけ辿っているとさほど本作の満足感は低いように思える。しかし、本作のメインクエストの数自体は少なく、世界を満遍なく回るような設計だ。その隙間に埋められたサイドクエストによって、各地方の体験に重みが生まれ、クリアまで内容がぎっしりした作品に感じられるようになっている。

述べてきた通り、ビジュアル的にも世界観設定的にも丁寧に作り込まれた世界は、歩いているだけで楽しい。メインクエストそっちのけでサイドクエストや探索をするだけでなく、フォトモードにも多くの時間を費やした。『Zero Dawn』と同じく充実したフォトモードは楽しく、どこを切り取ってもコンセプトアートに見え、どれだけ寄っても粗が目立たないグラフィックの美しさは、新しい場所やモノと出会う度に見惚れてしまう。


《Okano》

「最高の妥協点で会おう」 Okano

東京在住ゲームメディアライター。プレイレポート・レビュー・コラム・イベント取材・インタビューなどを中心に、コンソールゲーム・PCゲーム・eスポーツについて書きます。好きなモノは『MGS2』と『BF3』と「Official髭男dism」。嫌いなものは湿気とマッチングアプリ。

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