ハピネットは、2026年3月3日にアドベンチャーゲーム『Apopia: スイート・ナイトメア』を発売しました。
豊かなアニメーション、そして可愛らしいキャラクターで彩られた世界と、その裏側に潜むちょっぴり怖い精神的モチーフ。この記事では、そんな2つの要素が溶け合った本作について、PC版(Steam)でのプレイレポートをお届けします。
穴の中へ落ちると、そこは可愛いウサギたちの王国
『Apopia: スイート・ナイトメア』の物語は、主人公である少女「マイ」の視点で進んでいきます。ある雪山を母親と歩いていたマイですが、あることをきっかけに穴へと落ちてしまい……。

気が付くと、そこは薄暗い洞窟でした。いったいここはどこなのか?母親はどこへ消えてしまったのか?
落っこちた衝撃のせいか、ほとんどの記憶を失ってしまったマイは洞窟の出口を目指し始め、しばらく道を進んでいくと、ウサギたちが暮らす小さな王国「ヨーグルト」へとたどり着きます。

ヨーグルトは、お菓子で出来た家やとっても大きな遊園地などがある、まるで童話の世界に出てくるような素敵な場所。
しかし、どうやら国の内部事情はかなり不安定なようで、現国王の圧政によりウサギ以外の動物はみな弾圧されているという状況にあります。そんな中、マイは家に帰る方法を探すため、他の動物たちとファンタジーいっぱいの冒険へと旅立ちます。

“穴に落ちた先が不思議な世界で家へ帰る方法を探す”という、童話「不思議の国のアリス」的な世界観が特徴的な本作。全体的なアートワークや奇妙でユーモアあふれる登場人物たちのセリフも、この世界観を強調するものとなっており、プレイヤーはどっぷりと物語の世界へ入っていけます。
また、カートゥーン調で描かれた各キャラクターの手描きアニメーションも、バラエティ豊かで非常にユニーク。
さらにゲーム内音楽も、キャッチーなメロディーや暖かいBGMで溢れており、ゲームとしては非常にミニマルな作りなのに、ただステージ内を移動しているだけでも楽しめるような、高いクオリティに仕上がっています。

シンプルな探索と、豊富なミニゲーム
お次はゲーム内容に移りましょう。
本作のゲームプレイは、先ほども少し述べたように至ってミニマルかつシンプル。基本的にはマイを操作しながら、登場人物たちと会話したり、気になるところに近づいてボタンを押したりすることで進行していきます。

しかし『Apopia: スイート・ナイトメア』のゲームプレイは、それだけでは終わりません。物語の道中には、頻繁にさまざまな種類のミニゲームが挿入され、これこそが本作におけるゲーム部分の醍醐味となっています。
ミニゲームの内容は本当にバラエティ豊かです。リズムに合わせてボタンを押す音ゲーのようなものから、相手の投球に合わせてバットを動かす野球ゲームのようなもの、フックからフックへ勢いをつけて飛び移るプラットフォームアクション、さらには、乙女を口説く恋愛ゲーム(!?)まで。
そのどれもが、とても短いながらも満足感のある体験を提供してくれます。


ファンシーな世界観の裏側にある、精神的恐怖
さて、ここまで眺めてみると『Apopia: スイート・ナイトメア』は、非常に可愛らしくてゲームも簡単な、ともすれば子供向け作品のようにも見えます。
しかし、実はその裏には本作の世界観を基礎づけるもうひとつの側面、「両親との関係を巡る、ダークで少々ホラーな精神世界」が用意されています。

物語を進めていくと、プレイヤーはたびたび、主人公マイの精神世界へと入っていく、ヨーグルトでの冒険とは別のゲームパートを遊ぶことになります。そのアートスタイルは『ゆめにっき』や『ネバーエンディング・ナイトメア』よろしく、心理的な負の側面をそのまま可視化したような不気味なものに。
また、この精神世界には度々マイの母親を名乗る2人の人物が登場するのですが、1人はマイを殺そうと(!)する冷たい人格として、もう一方はマイを危険から遠ざけようとする優しい人格として、マイの前に現れます。この2人の母親とやりとりすることで、マイは自分が失ってしまった記憶を少しずつ取り戻していくことになります。

そしてこの(マイの視点における)母親の二面性という設定は、筆者の見たところによると、どうやら単なる善と悪の対立という訳ではないようです。
というのも、マイの精神に存在する「悪い母親」の像も、そして「善き母親」の像も、プレイヤーにとってはどちらもそれぞれがある種の欠点を抱えており、善き母親の発するセリフもプレイヤーにとってはどこか不穏な響きがあるように感じられるのです。
こうした複雑な心理描写の先に、一体どんな結末(マイの過去)が待っているのか?マイの母親の「本当の姿」は一体どちらなのか? こうしたスリリングな謎が、プレイヤーのモチベーションを高める強力な推進力となっています。

加えて、プレイヤーが冒険するのはマイの精神世界だけではありません。冒険の中で手に入れる能力を使うことで、マイは物語の中に登場する、様々なキャラクターの精神世界を冒険していくことが可能となります。
精神世界は各キャラクターの生い立ちや性格、そして時には強烈なトラウマによって構成されており、これらはメルヘンな登場人物たちに深みを与える役割も担っています。
おとぎ話のような綺麗で可愛らしい世界と、プレイヤーの感情を刺激するちょっぴりダークな世界。この対照的な世界が混じり合うコントラストが、本作の最大の魅力と言えるでしょう。

ディベロッパーダイアリーを読むべし
最後に、本作の体験を少しだけ豊かにするかもしれないヒントを紹介しましょう。
ハピネットが運営する本作の公式サイトに進めば、『Apopia: スイート・ナイトメア』のディレクターを務めるゲームクリエイター・Onon氏によるディベロッパーダイアリーを読めます。
ディベロッパーダイアリーでは本作が生まれた経緯、約8年をかけた開発の苦労、そして本作がなぜこのような世界観、ゲーム性を有することになったのかの解説など、様々なゲームの裏側情報を楽しむことができます。
中でも注目したいのは、本作が生まれた経緯。Onon氏は本作のアイデアについて、それが「自身の個人的なトラウマ」に基づいたものであると語っています。ここに少し引用しましょう。
このゲームのルーツは、私自身の個人的なトラウマ ――― 母親からの拒絶です。
当時、何か言いたいことがあってもうまく言葉にできず、母親も決して応えてくれない、そんな日々を過ごしていました。私にとって悪夢そのものでした。
こんな過去を抱えているのは、きっと私だけじゃないはずで、誰もが何等かの形で、親との関係に傷を抱えていたり、トラウマがあったりするものだ―――そう考えると、私の物語をみなさまに伝え、分かち合いたくなりました。
(『Apopia: スイート・ナイトメア』公式サイト「ディベロッパーダイアリーその1:あれから8年、伝えたいこと」より引用)
この一文を読めば、本作に登場する2つの側面を持った母親の描写が、そのままOnon氏の個人的な親子関係を投影したものであることが分かります。
もちろんそれだけがテーマの作品ではないのですが、こういった経緯を考えると、この作品は非常に愉快なエンタメ作品であると同時に、Onon氏という1人のクリエイターが自らの内面を赤裸々に表現した、非常に作家性の強いアドベンチャーゲームであるとも解釈できます。
そういった意味では、本作をより理解し楽しむために、ぜひディベロッパーダイアリーを一読してみるのをおススメします。
カートゥーンアニメを眺める子供向けゲームでもなく、かと言ってホラーゲームでもない。
可愛くてファンシーな世界と、暗く陰鬱な精神世界の間で揺れ動く不思議な『Apopia: スイート・ナイトメア』の物語には、Onon氏からプレイヤーへの、優しくて手触りのいい、それでいて心に響くメッセージが込められているのです。
ゲームを終えたとき、それはきっとあなたの心に残るものになるでしょう。
『Apopia: スイート・ナイトメア』は、PC(Steam)向けに発売中。体験版も無料配信中です。













