1997年3月14日に発売された『リフレインラブ』、並びに1999年1月28日に発売された『リフレインラブ2』。リアルな空気感が漂うこの美少女ゲームはどういった思想で制作されたゲームだったのか、ディレクターの堀 幸司さんへのインタビューで紐解いていきます。

――本日はよろしくお願いします。
堀:はじめに、今回はこのような場を設けて下さりありがとうございます。『リフレインラブ』シリーズの企画が始まって30年余、当時を懐かしんでプレイなさっている方、そして最近になって初めて『リフレインラブ』との出逢いを楽しんでいらっしゃる方――全ての皆さんに心からの感謝を申し上げます。桜咲町の住人として穏やかな日々をお過ごし下さい。
――まず、堀さんのご経歴をお聞かせください。
堀:『リフレインラブ』シリーズの制作当時である1995年末から1999年初頭は、リバーヒルソフトでディレクター/シナリオライター/イベントスクリプトライター/グラフィックデザイナーを兼務していました。要するに、旧世代の開発者にありがちな器用貧乏マンです。
最初はゲーム業界ではなく、1990年に新卒でNECグループのソフトウェア会社に就職しました。学生時代からゲームクリエイターになる野望を持っていましたが、どんな部署で働くにしてもプログラマーのスキル無しでは、ゲーム開発を俯瞰で見ることが出来ないと考えていました。そこで、ソフトウェアの開発工程を最低5年間学び、ゲーム業界に転進することにしたんです。ところが5年を待たず、1993年頃に状況が変わってきました。32ビット次世代機戦争が近づいてきている――と。
その頃の私は、日常は職業プログラマー、就寝前はアマチュアグラフィッカーをしていたんですが、将来、32ビット次世代機の時代になったら、こんな個人の学習だけでは技術的に付いていくことが難しくなると考えました。そこで課長のもとへ行き「現在の担当プロジェクトが終了する1994年6月末日(現在の1年後)をもって退職したい」という旨を伝えました。5年間学ぶという野望は4年で終わることになりました。
課長は退職者を出すことをよしとせず、(実現出来るかどうかは別にして)ゲームを作りたいなら同じNECグループのゲーム会社に転籍してはどうかと勧められたのですが、私は学生時代から心に決めていた転職先を目指すことにしました。
それがリバーヒルソフトです。リバーヒルソフトはアドベンチャーゲームの大御所のひとつで、J.B.ハロルドや藤堂龍之介のシリーズは、当時から作品世界の完成度や登場人物の描き方が図抜けていました。こんなアドベンチャーゲームを作りたい――結果として1994年7月1日、私は無事、リバーヒルソフトのグラフィックスタッフになっていました。
あ、これ、自己紹介でしたね。好きな映画は「THE IDEON 接触篇/発動篇」と「ストリート・オブ・ファイヤー」。好きな音楽は、戸川純と筋肉少女帯です。よろしくお願いいたします。
――(笑)。当時のリバーヒルソフトはどのような雰囲気でしたか?
堀:50人規模の和気あいあいとしたオフィスでした。真摯に作業に取り組み、決して手を抜くことはなく、休憩時間はきちんと取る……そんなバランス感覚のいい社員たちで占められていたと思います。当時はまだタバコを吸う人間が多く、喫煙コーナーでは、お互いのプロジェクトの技術談義やアイデア交換に華が咲きました。ある日なんか、朝イチから深夜2時までディベートしていましたね。
――経歴によると『リフレインラブ』シリーズを手がける前は『卒業II ~Neo Generation~』や『友情伝説ザ・ドラえもんズ』を手がけられていたんですね。
堀:はい。はじめての作品は、PC-FX用『卒業II FX~Neo Generation~』でした。少人数での制作なので、私はグラフィック作業の他に、ミニゲームの仕様や、追加シナリオ(音声あり)の執筆なども担当することになりました。グラフィックスタッフとして入社したはずなのに、早くも器用貧乏マンになる運命が見え隠れしています(笑)。
次に、すでに制作が修羅場だった『友情伝説ザ・ドラえもんズ』に途中参加しました。担当はサブシナリオ全般とイベントスクリプトライターです。もはやグラフィックスタッフとしてのアイデンティティーが崩壊してます(笑)。本作のメインプログラマーは、現レベルファイブ社長の日野さんで、いつも私に「スクリプトコマンドに新しい機能は欲しくない? あったらどんどんリクエストして!」と言ってましたね。
なので私は「マルチプロセス・マルチタスクを実装して下さい」と言いましたら……すぐに実装されて驚きましたが(笑)。会社に泊まり込みを続け、数日に一度はカプセルホテルに行けたんですが、明け方に日野さんとカプセルホテルの食堂で食べた「白身魚フライ定食」が癒しとパワーの源でしたね。
そして、リバーヒルソフトの看板キャラJ.B.ハロルドの『ブルー・シカゴ・ブルース』のムービー編集とコンバートをメイン担当することになります。この作品は、元々、レーザーアクティブというゲーム機用に作られたもので、レーザーディスクの高画質映像でゲームが進行するという、時代的にかなりすごい《オーパーツ作品》でした。そのため、PlayStationやセガサターンなどではムービーの性能が足りず、移植の出来は悔しい思いをしましたね。後のPlayStation 2やドリームキャストなら、しっかり移植できたと思います。誕生が早過ぎた作品でした。実に惜しいです。
ちなみに、当時のムービー作成は実にヘビーで、D2-VTRのマスターを「320*240ピクセル/15fps」の数分のムービー変換するのでさえ、Power Macintoshで金曜夕方にスタートさせて、週明けの月曜朝に終わっていたらバンザイって感じでした。まあ、Power Macintoshは変換処理の途中で止まってることが多かったですが(笑)。
――『リフレインラブ』はどのような企画ではじまったタイトルなのでしょうか? 高校生が主役のギャルゲーが多かったなか、大学生を主人公にした理由は? 男性キャラクターが多いことからも他社のギャルゲーよりも当時のトレンディドラマのほうを意識して制作されたのでしょうか?

堀:最初は『卒業II FX』を一緒に作っていた池本さんが、アニメ絵のゲームに将来性を感じ、一世風靡していた“恋愛シミュレーションゲーム”を作ろうとしたのが始まりです。それは完全新作『BEST OF LOVE(仮)』として提案されました。
アニメ絵ゲームと言っても、リバーヒルソフトでは『BURAI』『KIGEN 輝きの覇者』『トップをねらえ! GunBuster』『機動警察パトレイバー ~グリフォン篇』『プリンセス・ミネルバ』などの実績があったので、社内で難色を示されることはありませんでした。このタイミングで私も合流することになり、まずは2人で制作が始まりました。
池本浩司と堀幸司のWコージで企画を進めるにあたり、一番の問題点は「2人とも恋愛シミュレーションゲームをプレイしたことがない」ことでしたが、逆に言うとそれこそが“リフレインラブがリフレインラブであることの出発点”であり、現在にまで至るすべての根幹に通じていると思います。
池本さんが最初に掲げたキーワードは“男女7人恋愛シミュレーション”でした。みなさんが思い浮かべるのは某トレンディドラマだと思いますが、男女7人である意義はそこではなくて、7人の中で恋愛沙汰が起きた場合、男性4人と女性3人だと、プレイ次第では「主人公だけが“ぼっち”になる」というゲーム性のために必要だったのです。


高校生ではなく大学生を主人公にした理由ですが、高校生の恋愛は“瑞々しい青春の1ページ”と描かれがちなのに対して、卒業間近の大学生は、就職や将来の結婚、その後の人生で“清濁併せ飲むこと”を描きやすいという点が挙げられます。だったら社会人設定でも良かったのでは?ということになりますが、そうなると様々な描写が成人指定になるでしょうし、プレイヤーの年齢層も考えると大学生設定がバランスのいい最適解だったと思います。
いわゆる美少女ゲームにしては男性キャラクターが多い理由は、トレンディドラマの要素を取り入れたというより、『リフレインラブ』もリバーヒルソフトの看板作品である『刑事J.B.ハロルドの事件簿』や『藤堂龍之介探偵日記』の系譜であることを意識した結果です。確かに作風はトレンディドラマっぽいのですが、物語を紡ぐなら、登場人物の男女比率はこのくらいが自然だという判断ですね。
――『リフレインラブ』『リフレインラブ2』を制作するにあたって参考にしたゲームや映像作品などがあれば教えてください。
堀:『リフレインラブ』ですが、まず、そもそも論として『卒業II FX』抜きでは語れません。『卒業II FX』の制作後に、グラフィックチーフだった池本さんが新作として企画したのが始まりだからです。
また、ゲームシステムの面では『J.B.ハロルドの事件簿/ブルー・シカゴ・ブルース』と『同級生2』からの影響が大きいと思います。実際のシナリオ制御は異なりますが、「マップで行き先を選んで・登場人物に遭遇して・対話して・時間が経ち・関係性が変わる」という、今となっては当たり前のような仕様は、当時は新鮮で挑戦しがいのあるものでした。
メインヒロイン3人については、佐倉朋美が桜井幸子さん、結城蘭が鈴木蘭々さん、高宮祥子が篠原涼子さんをイメージしている……だと、プロジェクト立ち上げ時に池本さんが言っていましたね。あと、彼女たちのネーミングである朋美、蘭、祥子は“~美/(1文字)/~子”という区別が出来るように考えられています。
『リフレインラブ2』は制作発表当初から、舞台となる緋色館に住む仲間たち――という構成から、まるで「めぞん一刻」だとよく言われてましたが(苦笑)、私がイメージしていたのはドリフターズのコント番組「8時だョ!全員集合」のネタなんです。

2階建てアパートのセットの室内が見えるように観客席側の壁を取っ払い、各部屋の生活模様が丸見えで、みんなが面白おかしいことをしているというのがあったんです。当時の私は爆笑しながら観てました(爆笑)。
また、『2』のヒロインのネーミングである陽子、マリー、はるかは“漢字/カタカナ/ひらがな”という区別が出来るように考えられています。薫ちゃんは1文字枠ということで。
――『リフレインラブ』シリーズはリアルな空気感が魅力の作品で、堀さんも過去のCEDEC 2007で"そこに世界がある/空気があるという感覚"を目指したとおっしゃっていましたが、どのようなところでリアリティを生もうと考えていましたか?
堀:ひと言で表すと“自分は他人の人生の断片しか知らない”に尽きます。どんなに親しい関係でも「自分は他人の人生の断片しか知らない」のです。だから人々とのささやかな交流“日常の欠片”をひとつひとつ積み重ねていくことが大切なんです……現実でもゲーム世界でも。これが『リフレインラブ』の核心となるポイントです。
本作ではプレーヤーが“いつ・どこへ行くのか”を選択し、様々な条件やフラグを判断した上で、各所で登場人物に遭遇するわけですが、このイベントで知ることが出来るのは、その登場人物の“日常の欠片”に過ぎません。
プレーヤーは、この行為を何度も重ねて、登場人物たちの“日常の欠片”をいくつも知っていくことになります。この“日常の欠片”は人生の中のちっぽけな“点”に過ぎませんが、“点と点”を“線”で結ぶと、そこにストーリーの流れが生まれます。

でも考えてみてください。実は“線”の部分はシナリオに描かれていません。“線”はプレーヤーの皆さんが心の中で思い描いたものです。そうやってプレーヤーは登場人物たちのドラマを実感するのです。場合によっては、複数の人物の“点と点”を結ぶ“横向きの線”があるかもしれませんね。
ここまで聞けばお分かりかもしれませんが、本作には1本道の「シナリオルート」の概念がありません。どこかの分岐を契機に「陽子ルート」に入り込んだり「マリールート」を猪突猛進したりすることもありません。街中にばらまかれた“点”を、プレーヤーが心の中で思い描いた“線”で結んでいるだけなのです。もう一度言います。どんな人間関係でも“自分は他人の人生の断片しか知らない”。それが『リフレインラブ』の世界がまとっているリアリティという空気感の正体です。
――ゲームならではの体験を描いているのだと思いますが、それでユーザーを感動させるのがすごいなと。
堀:現実世界で街を歩いていると知り合いに会って「おお、久しぶり」「これからレストランに行くんだ」「そうなんだ、じゃあね」といった何気ない会話をすることがあると思います。そこで知り合いがなぜレストランに行きたかったのか、レストランに行ったあとになにが起こったのかは知らないわけです。でも、ひとつの関係性は生まれている。
『リフレインラブ2』ではその人のプレイによって、なぜレストランに行きたかったのか知ることもできるし、なにが起こったのか知ることもあります。逆にそのまま知らないこともありえます。そういう積み重ねで人生が出来ていることをシミュレーションしたかったんですよね。
――プレイしていてすごいなと感じたのは日常会話が退屈しないところです。雨が降っているときに女子大生のチカに会うと「あんた、傘持ってないんだ。貸してあげる、100億円で。嘘だよ」みたいなことを言われる。ひとりひとりのキャラクターがしっかりとそのキャラクターが言いそうなセリフをしゃべるので、生きたセリフになっているんですよね。また、ヒロインが傷心しているときはその人物とエンカウントしないなど、会話や流れに齟齬が起きないのも感動しました。

堀:それは私がひとりでセリフを書いていたからでしょうね。いわゆるルート分岐がある作品であれば、ルートごとに分業になると思うのですが、『リフレインラブ』は断片の集合体なんで分業ができないんです。昨今のそのスピードが重視される開発では許されないと思うので、当時だからなんとか許された作り方だと思います。
あと、『リフレインラブ2』のシナリオは大まかなプロットは書いていますが、詳細な流れは考えずに書いているんです。“ここでこういうことが起こる”とか“そのときにはこうなるな”というのを脳内のキャッシュメモリに置いてぜんぶ書いているので、たぶんひとりじゃないと書けないんじゃないかなと思います。
――声優陣のリアルな芝居もよかったです。
堀:当時の美少女ゲームのヒロインはキャピキャピしがちで。『リフレインラブ』の声優収録でも、例えば「おはよう」が「おっはよぉ~ぅん」だったので、美少女ゲームに対する世間の目を思い知らされました。そのため「リアルな芝居でお願いします」と伝えると、今度は本当にリアルすぎる激しい息づかいで台詞が聞き取りづらくて。声優さんの芝居の幅って広いな、と、数十秒ほど途方に暮れました(笑)。
そんなとき「リアルではなくリアリティでお願いします」という便利ワードが生まれました。イメージとしては「少しアク抜きした米国映画の吹き替え」です。これをお伝えすると、一発で『リフレインラブ』シリーズの芝居になります。
――なるほど。リアルではなく、リアリティなんですね。
堀:完全に余談ですが、プロデューサーの池本さんと私は『リフレインラブ』で声優デビューを果たしました。池本さんは、朋美のエンディングで彼女が女優になった場合に「はい、カーット!」と声を上げている映画監督。私は、物語の初めに男女7人が集まる居酒屋で、蘭と祥子が来店したときに「いらっしゃい!」と声をかける店員です。声優vs素人の芝居の説得力がどれほど違うのか、想像以上に格差があって面白いですよ(笑)。
――プレイし直して聴いてみます(笑)。リアリティとフィクションの境い目に関してはいかがでしょう? 陽子が洗濯物が乾いてなくて体操着とブルマでアパートのなかを過ごしているシーンや、はるかの荒い運転にビビッて「おかーさーん!」と叫んでしまうシーンなどフィクションだと思うのですが、こういうシーンの線引きはどう考えていますか?


堀:バカなところは笑えるシーンになればいいと思って振り切って書いています(笑)。
――なるほど(笑)。『リフレインラブ』はシミュレーションでしたが、『リフレインラブ2』はアドベンチャーゲームになりました。なぜシステムを変更することになったのでしょうか?
堀:よりカジュアルに桜咲町での暮らしを満喫してもらうためです。ヒロインが4人だった『1』では、プレーヤーの自己鍛錬によってドラマ展開が変わるのも面白さのひとつでしたが、ヒロインが13人に増えた『2』でそれを要求すると、全ヒロインをクリアするのが“苦行”になるのは火を見るよりも明らかです。アドベンチャーゲーム化して簡単にヒロインを攻略できるようにしても、コンプリートのためには13周プレイする必要があるわけです。それだけ遊んでもらえれば十分だろう、と。
――『リフレインラブ』はイベントの少なさに対して“大学のモラトリアム期間が表現されている”と評価するユーザーもいますが、これは意図されたものだったのでしょうか?
堀:いや、違いますね(笑)。本当はいろいろなイベントを仕込みたかったのですが、開発規模と構想がかみ合っていませんでした。マップの行き先も多すぎたのかなと思います。
――確かに『1』は行き場所が多かったですね。工事現場とか、「行ってなにをするんだろう」みたいな(笑)。

堀:現場のおいちゃんの人生を聞くっていう(笑)。「ギャルゲーなのか?」と思いますが、それも『リフレインラブ』の個性なのかなと。
――そういう意味では堀さんのなかでは『リフレインラブ』は完成品に心残りもあったのではないでしょうか?
堀:心残りは『1』にも『2』にもありますね。『1』はもっとボリュームアップしたものにしたいですし、『2』はヒロインとのエンディングムービーを没にしてしまいましたし。
――『2』はゲーム内のデータにメインヒロイン3人のムービーが収録されていますよね。ゲームでは観れないけどPCで中のデータを覗くとムービーが観れたので驚きました。そのなかにはマリーとの結婚式のシーンもあったのでぜひゲーム内で観たかったです。
堀:本当はヒロイン13人分のムービーを作っていたんです。
――えぇ!? 本当ですか!? めちゃくちゃ観たい……。
堀:容量的に入らなかったのでカットしたんです。エンディングをスタッフクレジットが流れる簡素なものにすれば、ヒロインとのエンディングムービーも入ったのですが、エンディングがしょぼくなるので嫌だなと。
――確かに製品版のあのエンディングは最高ですからね。正解だと思います。ただ、全員のムービーがあったと聞くと観てみたくなってしまう……。
堀:容量で削ったものはほかにもありますね。道子のストーリーでラストに主人公が奮闘するものや、OLのちづるが長期出張に行かないパターンなどの構想もありました。
――み、観たすぎる。……と、インタビュー中に私がへこんでも仕方がないので話を戻します(笑)。桜咲町は福岡がモデルであるそうですが、どれぐらい忠実なのでしょうか? 実際にあるお店や逆に存在しない建物など教えてください。
堀:これはちょっと経緯が複雑で。企画当初の1995年はまだ“聖地巡礼”の概念が一般的ではありませんでした。私たちが福岡の街をロケハンしたのは、あくまで「存在感のある街並み」を描くためです。だから例えば「砂緒さんの喫茶店」として外観が登場する建物であっても、実物は「一般のマンションの入り口」だったり、あるいは「公園」があっても実物は全く違う名前だったりします。
さらに言うと、桜咲町があるのは千葉県という設定です。これは『2』の劇中で地震のテレビニュースを見ているシーンで“千葉県沖が震源地”になっていることから推察できます。ですから、福岡県でロケして千葉県の街を創った、というのが実際のところです。もしも今作るとなったら、バリバリのゴリゴリに福岡県設定にしたかもしれませんね。エンターグラムさんの『制服カノジョ』に先を越されてしまいましたが(笑)。
実際に存在するのは「大衆焼鳥・日吉丸」くらいですね。私はこの店のカウンター席でひとり、様々な設定やプロットを毎晩考えていました。逆に、外観すら全く実在しないのが、『1』の「なおさんの喫茶店」と『2』の「緋色館」です。なぜならこの2つは男女7人が集う心の故郷であり、本作がファンタジーであることの象徴だからです。

――『リフレインラブ』と『リフレインラブ2』について、舞台設定について詳しく教えてください。『リフレインラブ』は合コンでヒロインたちと知り合うという設定が新しいと感じました。純愛ものが主流となっていたギャルゲーへのアンチテーゼでもあったのでしょうか? また、続編『リフレインラブ2』を共同アパートものにした理由、街全体を舞台にした理由はなんだったのでしょうか?
堀:男女7人の出会いが合コンからはじまる理由は、先ほども触れましたが、本作が“美少女ゲーム”というよりも、従来のリバーヒルソフト作品の『刑事J.B.ハロルドの事件簿』や『藤堂龍之介探偵日記』の系譜であろうとしたからですね。そう考えると合コンは、男女7人が無理なく一堂に会して、酔いの勢いもあって7人それぞれの個性を示すことが出来る絶好のイベントだと言えます。

『リフレインラブ2』が緋色館という共同アパートを舞台にしたのは、実は、最初の構想では「緋色館の中だけで繰り広げられる物語」にするつもりだったからです。『1』が街中を散策する点で『刑事J.B.ハロルドの事件簿』の子孫だとすれば、『2』は館の中でのみ展開する『藤堂龍之介探偵日記/琥珀色の遺言』と同じだという野望です。
ドラマは緋色館の中でのみ進行し、そこにサブキャラたちが訪れる――そういうワン・シチュエーション作品はどうだろうと考えていました……ですが、私もすでに気付いていたんですよね。『リフレインラブ』シリーズの真の主人公は「桜咲という町そのもの」だということに。だから結局は『1』と同様に『2』も桜咲町の散策がメインの構成にしました。

――『1』と『2』のメインとなるキャラクターたちはどのように作られたのでしょうか?
堀:第1作目の男女7人は、完全に白紙の企画から生まれたので、まずは分かりやすい“定番の型”にはめ込んで、そこから“ちょっとずらす”ようにしながら、バランスと関係性を調整しました。声優陣は、この6人以外に考えられませんし、そうでなければ作る意味もないと言えるほどに、盤石で鉄壁の布陣を組むことが出来ました。今はただ、田中敦子さんに感謝の気持ちをお届けしたいです。
佐倉朋美は純真無垢な女神。自分自身の清廉さにさえ疑問を抱くという、ある意味で狂気ともいえる美しさを心身にまとった女性です。結城蘭はボーイッシュな幼なじみで、彼の行きつけの喫茶店でアルバイトをしています。男女7人が出逢っていなければ、主人公と穏やかに結ばれたであろう存在です。高宮祥子は気位の高い社長令嬢です。オーッホホホ!と高笑いして庶民を見下すようなことは一切せず、自分よりも友人を大切にし、人の輪を守る努力を惜しまない誠実な女性です。

矢茂哲哉はロン毛のイケメン。その容姿で恋人を取っ替え引っ替えし、キザでいけ好かない奴というありがちなレッテルに一切当てはまらない、聖人君子のような男性です。佐藤昂介は憎めない善人だが脳筋でKY。今までの人生で、曲がったことは一切してこなかったし、他人もそうするものだと信じて疑わない、ある種のザ・脳天気男です。榊泰蔵はひたすらにおっちょこちょい。なにかと面倒な事件を引き寄せるトラブルメイカーですが、足掻いているうちに何とかなってしまう為、本人は懲りる気配がありません。

第2作目の男女7人は、社会的な立ち位置がバラバラのアパート同居人であり、お互いの生活圏が被らない者たちが、緋色館で集い意気投合するという関係性に調整しました。声優陣は、第1作目と同様にパーフェクトなキャスティングが実現しました。裏話としては、マリー役の選考が難航していたときに、別件オーディションでスタジオにいらっしゃった大塚瑞恵さんの声を聞き、満場一致で決定したという経緯があります。

矢加部陽子は未来に生きる女性。健やかな家庭のもとで育ったため、全てを性善説で考えがち。様々な出自や生き様を持つ緋色館住人たちとの触れあいから、無自覚に生きてきた自分に気付き、漠然過ぎた自分の進路を棄てます。マリー=ケンジットは現在に生きる女性。帰化名・大善寺万里子です。金髪碧眼だが日本人の養祖母に育てられたため、英語は話せません。気まぐれに生きているようでいて、実は一番地に足が付いています。三沢はるかは過去に生きる女性。高校教師という立場上、普段から大人の振るまいを見せていますが、精神的な成熟度は一番低く、もろい存在。昔から逃避癖があります。
秋吉倫太郎は24時間戦えなかったサラリーマンです。バブルがはじける直前に高宮グループに入社したサラリーマンで、昭和由来のモーレツ勤務事情に馴染めず、若くして窓際族の候補です。緋色館の家庭菜園は彼によるもので、別居中の妻と子がいます。宮之陣は24時間をフリーに生きる男性。緋色館で一番の自由人で、フリーターとして職を転々としていますが、本気を出せば優秀な人材で、転職も自分に刺激を与えるためです。
翁薫は不純物ゼロのイノセント女子中学生。ずいぶん以前から緋色館に入居していましたが、卓越したステルス能力により誰にも気付かれていませんでした(笑)。
――中学生の翁薫やマダムの伊達美里など、幅広い層のヒロインが登場しますが、攻略ヒロインはどのように作られていったのでしょうか?
『リフレインラブ2』を表す象徴的なヒロイン2人ですね。最年少14歳と最年長30歳。当初は『リフレインラブ』の新作を名乗る以上、もっと幅の広いヒロイン像を模索していました。年齢にしろ、社会的立場(職業など)にしろ……しかし、2歩3歩先を行きすぎるとユーザー離れを引き起こすので、半歩先の14歳と30歳を落としどころにしました。それでも当時30歳のヒロインというのは、なかなか攻めていたと思いますが……まあ、半歩先ということで許容範囲内って感じですね。

13人のヒロイン全体に関して、元々は「市民のるつぼ」にしたかったのですが、同じく半歩先の発想ということで、社会的立場(職業など)を聞いた時点で“人となり”が予想出来るように心掛けました。その先入観やレッテルからズレている部分が個性であり魅力として描けると考えたのです。仮に「裏社会の殺し屋・1000人殺しヒロイン」なんかを出してしまうと、その稼業の説明に終始することになり「緋色館で共同生活する男女7人の物語」が吹き飛んでしまうことでしょう……いや、やってみたら面白かったかもしれませんが。
ただし、ヒロインではありませんが、大橋竜一郎と炒木俊作のように「コングロマリットを率いる社長vs探偵業を営む元傭兵」などと、普通に考えたら知り合いにならないような存在とも繋がりを持つことを、作劇上は意識しています。実は『リフレインラブ2』の企画が動き出す少し前に、外人部隊で傭兵を生業にしている日本人のドキュメンタリーを見る機会があったんです。その人は、ひとつの契約を終えたら日本に帰って平穏な暮らしをしていました。もしかすると自分の隣人がそういう人かも知れないというリアル。生き様のひとつとして「それも誰かにとっての《普通》なんだよ」と伝えておきたかった。プレーヤーの皆さんは、夜の静かな公園にいきなりヘリコプターが飛んできたので、ゲーム画面にツッコミを入れたでしょうけど(笑)。
――個人的にお聞きしたいのは道子です。主人公に好かれているわけでもないのにグイグイ来るのが不思議だなと思うのですが、どのように生まれたキャラクターなのでしょうか? 正直、自分は道子だけがどうもニガテでして(笑)。
堀:(笑)。当時、インタビューでもお答えしたことがあるのですが(※「リフレインラブ2設定資料集」収録)、道子は逆視点で見たプレイヤーキャラクターなんです。プレイヤーキャラクターはいろいろなヒロインの生活に質問したり干渉したりしてプライベートにズカズカと入り込んでくるじゃないですか。そういうのをプレイヤーがやられたらどうなるんだろうという疑問が生まれたんですよね。

――なるほど。
堀:あと、初期は陽子と対比させるというコンセプトもありました。はじめて知り合う陽子と昔から知っている道子という形で、道子の名前は最初は陽子と対となる月子になる設定でした。
――道子に対するユーザーさんからの反応はいかがでしたか?
堀:いやぁ、怒られました(苦笑)。先ほども話しましたが、本当は最後に主人公が道子を説教する展開も考えていたのですが、没になってしまったんですよ。その展開を収録していたらもしかしたら評価も変わっていたかもしれません。
――ほかに『リフレインラブ』『リフレインラブ2』について、今だから明かせる裏話などはありますか?
堀:『リフレインラブ2』の完成直後、桜咲町を舞台にした恋愛アドベンチャーの短編集『リフレインラブプラス』を出したいと考えていました。俗に言うファンディスクですね。残念ながら実現には至りませんでしたが、もし出ていたら、コナミさんの超傑作美少女ゲームとタイトル被りしていたので、出なくて良かったのかもしれません(笑)。
――ヒロインがどちらも皆口裕子さんですね(笑)。
堀:そうですね(笑)。今まで公言したことはありませんが、私の中では『リフレインラブ3』の構想が半熟玉子程度には煮詰まっていました。『リフレインラブ』と『リフレインラブ2』をプレイして下さった皆さんには最高の贈り物になったと思います。ぎゅーーっと胸を締め付けられ、だけど晴れやかな気持ちになったことでしょう。現状では私の脳内にしかないので、好き勝手に言いたい放題ですが。でも、それが与太話でないことを証明するために実現したいですね。
もっとも、現状の『リフレインラブ』『リフレインラブ2』のみが存在するこの世界線も「桜咲町は皆さんの心の中で永遠に続いていく」ことを示唆していて「それもリフラブらしいな」と思ったり。この幕引きも、ひとつの形として良いのかも知れないな、と。
――堀さんはXで「私が生きてるうちに『リフレインラブ』シリーズのフォロワー作品だと認められる新作ゲームに誕生して欲しい。」と仰っていましたが、改めて『リフレインラブ』らしさとはなんだと思いますか?
堀:いくつも繰り広げられるイベントシーンで恋愛行動を直接的に描くのではなく、あくまで日常生活の1シーンを切り取って描写し続けたことが“リフレインラブらしさ”なのだと思います。
美少女ゲームでは、主人公とヒロインの甘く萌えたやりとりを積み重ねていくことを“攻略”と呼びますが、『リフレインラブ』にはそれがほぼありません。なぜなら「恋愛感情はゲーム中の主人公が主張するものではなく、現実のプレーヤーの心の中で芽生え育まれていくもの」だと思うからです。是非ともプレーヤーの皆さんに恋をして欲しいのです。そのためにはヒロインたちとの何気ない日常とそのリフレインを描き続けることが大切でした。

とは言え、ゲームは総合芸術。シナリオだけでプレーヤーの感情を動かすことは出来ません。声優さんの芝居、岩崎大輔さんと今給黎博美さんのBGM、俯瞰の移動マップから感じられる桜咲町の実在感、秒間10フレームのキャラアニメ、エンディング曲「Blue Moon」が醸し出す余韻……全てが同じ方向を目指していたから成し遂げた、という見方もあるでしょう。
ちなみに、それらを踏まえた上で、あえて華色尚子(ナッキー)だけは、既存の美少女ゲームヒロインとして振る舞うように描きました。結果、社内デバッガーの一部の人間が華色尚子に萌え苦しんで、オフィスの床をゴロゴロと転がっていたので狙い通りだったと言えましょう。萌えも、たくさんある生き様のひとつということですね。
――堀さんの考えるアドベンチャーゲームの魅力を教えてください。堀さんご自身が作ってみたい次のアドベンチャーゲームはありますか?
堀:アドベンチャーゲームという言葉は主語として大きすぎるので、例えば1980年代後半のエニックスさんの『軽井沢誘拐案内』や『ジーザス』、スクウェアさんの『WILL』や『ALPHA』、ヴィークル・ソフト&コムパックさんの『ラグランジュ L-2』と『D-SIDE』、忘れちゃいけないコナミさんの『スナッチャー』、システムサコムさんのノベルウェア等々から、1990年代に入ってからのチュンソフトさんのサウンドノベルあたりまでが、アドベンチャーゲーム界の“カンブリア大爆発”だと考えて……。
物語を孕んだ全てのゲームに共通すると思いますが、登場人物たちの“人となり”が立っているのが大前提であり、最大の魅力ですね。彼ら彼女らに会いたいからゲームを起動して作品世界に没入するわけです。
もちろん今どきの生成AIを使った莫大な台詞数には遠く及びません。しかし平均化された生成AIのテキストと比べても、スタッフが脳汁と一緒に捻り出したキャラクターたちの言葉は、間違いなく作品世界の中で生きている彼ら彼女らが紡ぎ出したものです。プレーヤー自身が人間だからこそ感じる、人間の手によって書かれた人間の情念を浴びることができる……それが一番の醍醐味だと思います。
魅力あるアドベンチャーゲームをリリースしてきたリバーヒルソフトが1990年代後半に成し遂げた「3本の矢」にも触れておきたいです。それは『オーバーブラッド』『ワールド・ネバーランド』『リフレインラブ』の3作を同時期にリリースしたことです。広義のアドベンチャーゲームの未来像を三者三様に表現した意欲作たちだったと思います。
『オーバーブラッド』は当時の最新技法だった、リアルタイムの3D空間を構築し、そこに放り込まれたキャラクターたちの成長と絆を描き「作品世界」を生み出しました。
『ワールド・ネバーランド』はソフトウェア上で「社会の営み」を実現し、デジタル処理で描かれた世界なのに明らかにアナログの肌触りで、自分が一国民となって没入できる替えがたい体験を生みました。
『リフレインラブ』は従来のリバーヒルソフトのアドベンチャーゲームに似通った画面構成ながら、“日常の欠片”を積み重ねて登場人物たちの生き様を浮かび上がらせる構成でした。
もちろんこれらは30年以上前の設計思想で産み出されたもので「そんなの今どきのオープンワールドに全て包含されるよ」と言われれば、半分はそのとおりかも知れません。ですがこの3作品を当時プレイしたことがある方なら、これらの作品からしか得られない心の養分があった――と、うなずいていただけると思います。
作ってみたいアドベンチャーは色々あります。業界の片隅で仕事を続けてきた人間として、一度くらいはAAAアドベンチャーゲームに携わってみたいですし、ここ10年は女性向けのシナリオを女性プロデューサーのもとで書くことが多く、それはそれで面白かったのですが、そろそろ男性の男性による男性視点で「そうそうそれそれ!」という作品を、インディー的な掌編でいいから作りたいですね。もちろん『リフレインラブ3(仮)』は別腹です。
また、1980年代にネコジャラ氏さんが制作なさった『タイムシークレット/第1話 ファラス星の危機』と『タイムシークレット/第2話 タイムトンネル』の続編にあたる『タイムシークレット3(仮)』を作りたいですね。当時発売予定だったはずなんですが。ネコジャラ氏さんと発売元のBOND SOFTさんは、今、何をなさっているのでしょう……。
――インタビューを読んでいたらご連絡ください(笑)。それでは最後にファンに一言お願いします。
堀:『リフレインラブ』の企画開始から30年以上。当時のPS1もすでにPS5になり、そろそろPS6の声が聞こえてきそうな時代になりました。今もなお『リフレインラブ』シリーズを愛して下さり、桜咲町で暮らしている皆さんがいらっしゃることに、感謝と大感謝と超感謝と、少しばかりの誇りで心が満たされています。本当にありがとうございます。
最近は、レトロゲームも復刻配信によってプレイ出来るハードルが低くなってきました。PS1のゲームをプレイ出来る最後の機種だったPS3が引退する時代になった今、安心して桜咲町に行ける環境は欲しいですね。
ところで『リフレインラブ3(仮)』が誕生する一番現実的なシナリオはどんなものでしょう。石油王に『リフレインラブ1&2』をプレイしていただき、ハマってしまった石油王が、『リフレインラブ』シリーズの権利管理をしていただいているアルティ社さんにコンタクトを取る――これしかないでしょう。冗談に見せかけた本気はさておき、エンディングに「Blue Moon」を聴きながら『3』の思い出を語り合える日が来るといいですね。
――ありがとうございました!














