京都で2026年5月24日まで開催されたインディーゲームの祭典「BitSummit PUNCH」。そこではインドネシア発のインディーデベロッパー/パブリッシャーであるToge Productionsも出展を行っていました。
日本では『コーヒートーク』シリーズや『A Space for the Unbound』など数々のADVゲームで知られる同社ですが、現在早期アクセス中のサバイバルホラー『Whisper Mountain Outbreak』や開発中の『Kriegsfront Tactics』など、多彩なジャンルに挑み続けています。
本稿では同社のCEO兼創設者、Kris Antoni氏にインタビューを実施。デベロッパーとパブリッシャー、二つの顔を持つKris氏に、インディーゲーム業界の今とこれからについてお話を伺いました。

「Toge」の由来は"もやし"――身内ネタから生まれた社名
――まずはToge Productionsという社名の由来を教えてください。「Toge」とはどういう意味なのでしょうか?
Kris Antoni氏(以下、Kris氏):「Toge」はインドネシア語で「もやし」という意味です。会社を立ち上げた当時、私は大学を卒業したばかりで、この名前は仲間内でのちょっとした内輪ネタでもありました。それと同時に、日本語ではそのまま「トゲ」という意味ですよね。日本語のように聞こえるし、インドネシア語としても通じる――複数の意味を持つ名前だったことも、選んだ理由のひとつです。
ADVゲームが愛される理由――共感が生んだヒット
――日本ではやはり『コーヒートーク』シリーズの印象が強いですが、ADVゲームの成功の要因はどこにあるとお考えですか?
Kris氏:正直なところ、明確な答えがあるわけではありません。ただ『コーヒートーク』に関して言えば、パンデミックの時期に生まれた作品だったことが大きかったのではないかと思います。誰もが孤立を感じ、誰かとつながりたいと思っていた時代に、このゲームが多くの人にとって共感できるものだったのだと考えています。
『A Space for the Unbound』についても同様で、学校でのいじめや家庭の問題といった、誰もが一度は経験したことのあるような普遍的なテーマを扱っています。そうした普遍性が、世界中のプレイヤーの共感を呼んだのではないでしょうか。

『コーヒートーク トーキョー』――故・ファーミ氏のビジョンを守り続ける
――『コーヒートーク トーキョー』のリリース後の反響はいかがですか?
Kris氏:レビューやプレイヤーからのコメントは非常にポジティブで、大変嬉しく思っています。本作の開発を担当したコーラス・ワールドワイドさんには本当に感謝しています。Toge ProductionsはIPホルダーとして監修を行う立場でしたが、コーラスさんが『コーヒートーク』の魂をしっかりと受け継ぎ、それを東京という新たな舞台に落とし込んでくれました。

――IPホルダーとして、どのような点を特に重視して監修されたのですか?
Kris氏:『コーヒートーク』には独特の"雰囲気"があります。自然で、居心地が良くて、すべての会話がリアルに感じられる――あの空気感です。オリジナルのディレクターであるモハメド・ファーミさんが築き上げたビジョンを大切にし、『コーヒートーク』を『コーヒートーク』たらしめているものが損なわれないよう、そこを最も注意深く監修しました。
――シリーズの今後の展開について教えてください。
Kris氏:現時点でお伝えできることはありませんが、『コーヒートーク』のユニバースを将来的にさらに広げていけたらという思いはあります。まずは『コーヒートーク トーキョー』が無事リリースされたことを嬉しく思っており、今後のことについてはこれから考えていきたいと思います。
名前の通り『アウトブレイク』的なもののリメイクを作りたかった――『Whisper Mountain Outbreak』誕生の経緯
――ゾンビゲームの『Infectonator』シリーズは初期の代表作ですが、現在早期アクセス中の『Whisper Mountain Outbreak』はその流れを汲む作品なのでしょうか?
Kris氏:『Infectonator』の正式な続編というわけではありませんが、ゾンビ・アポカリプスという同じDNAを受け継いでいます。いわゆる"精神的続編"に近い存在ですね。私はゾンビ映画やバイオハザードが大好きなので、ゾンビをテーマにしたゲームは自然と作りたくなるんです。

――『Whisper Mountain Outbreak』はどのようなゲーム体験を目指しているのですか?
Kris氏:このゲームでは、サバイバルホラーの協力プレイ体験を実現したいと考えました。最大のインスピレーション源は、PlayStation 2時代の『バイオハザード アウトブレイク』です。あのゲームが大好きだったのですが、リメイクされる気配がなかったので、「それなら自分たちで作ろう」と決めたんです。
ただし、単に『バイオハザード アウトブレイク』を再現するだけではありません。協力プレイの要素に加えて、『Left 4 Dead』のようなアクション性も取り入れています。ゾンビの波が押し寄せてくる中、誰かがドアを開けている間に別のプレイヤーがゾンビを撃退する――そうしたシチュエーションが生まれるようにしています。さらに、ローグライクの要素も加えており、マップが自動生成されるため、毎回異なる戦略や挑戦を楽しめます。何度でもリプレイしたくなるゲームを目指しています。
――早期アクセス開始後のプレイヤーからの反応はいかがですか?
Kris氏:フィードバックは非常にポジティブです。多くのプレイヤーに楽しんでいただいており、「もっとレベルを追加してほしい」「もっとコンテンツがほしい」という要望をたくさんいただいています。現在はそうした声に応えるべく、コンテンツの追加に注力しているところです。
当初は約1年間の早期アクセスを予定していましたが、プレイヤーからのフィードバックを受けて調整を重ねた結果、フルリリースは来年初頭以降になる見込みです。早期アクセスの目的はまさにプレイヤーの声を聞いてゲームを改善していくことですので、もう少しお待ちいただければと思います。
日本の配信者への感謝――「フィードバックのひとつとして参考にしています」
――日本でも多くの配信者がTogeのゲームをプレイしていますが、どのようにご覧になっていますか?
Kris氏:日本の配信者の皆さんに遊んでいただけて、本当に嬉しく思っています。中には視聴者数の多い大きな配信者の方もいらっしゃって、そのリアクションやコメントは私たちにとって貴重なフィードバックのひとつになっています。
なお、配信の収益化についてですが、私たちに許可を取る必要はありません。配信も収益化も大歓迎です。日本では事前に確認を取る文化があると聞きましたが、Toge Productionsとしては、プレイして配信していただけること自体がありがたいことですので、どうぞご自由に楽しんでください。
日本とインドネシアのインディーゲーム――似て非なる文化的ルーツ
――事前に頂いた資料では、日本とインドネシアのインディーゲームには共通点があるとおっしゃっていましたが、それはどういった点でしょうか?
Kris氏:インドネシアでは、1980年代からアニメを観たりマンガを読んだりして育った人が多く、東洋と西洋の両方から影響を受けて育ちました。そのため、近年インドネシアで開発されるインディーゲームの多くは、子供の頃にプレイした日本のゲームから大きなインスピレーションを受けています。似たようなものに影響を受けて育っているからこそ、作るゲームにも自然と共通点が生まれるのだと思います。
――逆に、決定的に異なる点はありますか?
Kris氏:文化的な要素ですね。わかりやすい例を挙げると、『A Space for the Unbound』は新海誠監督の映画にインスパイアされた作品ですが、登場する高校生の制服をよく見ると、日本のものではなくインドネシアの制服なんです。インスピレーションの源は同じでも、表現される文化的なディテールには違いが表れます。

レトロゲームへの愛――PS1時代が原点
――Toge Productionsのタイトルにはレトロな雰囲気をビジュアルにまとったゲームが多い印象ですが、意識されているのでしょうか?
Kris氏:それは私たちの"シグネチャー"と言えるかもしれません。レトロゲームが大好きなので、自然とそうしたビジュアルのゲームに引き寄せられるんです。個人的にはPlayStation 1時代のゲームが特に好きで、『ロックマンDASH』、『メタルギアソリッド』、初代『バイオハザード』などに強い思い入れがあります。
――『ロックマンDASH』のようなアクションアドベンチャーを自社で開発する予定は?
Kris氏:……肯定も否定もできません(笑)。『ロックマンDASH』は本当に大好きなので、いつか何かそういったものを作れたらいいなとは思っています。
『Kriegsfront Tactics』――「好きなゲームがなければ自分で作る」
――開発中の『Kriegsfront Tactics』についてもお聞かせください。
Kris氏:『Kriegsfront Tactics』は『フロントミッション』にインスパイアされた作品です。子供の頃から『フロントミッション』が大好きだったのですが、最近の市場でメカもののタクティクスゲームを探しても、なかなか見つからなくて……それなら自分たちで作ろう、ということになりました。
開発は現在も進行中です。ゲーム開発には時間がかかるものですので、具体的なリリース日はまだお伝えできませんが、もう少しお待ちいただければと思います。

パブリッシャーとしてのToge Productions――求めるのは「ユニークさ」
――パブリッシャーとしての視点から、日本のインディーゲームシーンについてどうお考えですか?
Kris氏:日本には非常に面白いゲームがたくさんありますが、海外向けにローカライズされていないものも多いと感じています。最もメインストリームな英語にローカライズするだけでも、プレイヤー層やマーケットは大きく広がるはずです。
もちろん、Toge Productionsのようなパブリッシャーに相談していただければ、英語だけでなく、中国語、ブラジルポルトガル語、フランス語、ドイツ語など、多言語へのローカライズをサポートすることもできます。
――パブリッシャーとして、どのようなゲームを探しているのですか?
Kris氏:特定のジャンルには絞っていません。私たちのポートフォリオを見ていただければわかるとおり、ゾンビゲームからナラティブゲームまで幅広いジャンルのタイトルを手がけています。求めているのは、ユニークで際立ったゲームであること。そして、私たち自身が遊んで面白いと感じるゲームであることです。
――近年インディーパブリッシャーが増えていますが、Toge Productionsならではの強みは?
Kris氏:パブリッシャー探しは、パートナーを見つけるようなものです。自分に合った相手を見つけることが大切ですよね。Toge Productionsでは、開発者との関係性を非常に重視しています。単なるビジネスパートナーではなく、友人として密接に協力し合い、一緒にゲームを作り上げていく関係を築きたいと考えています。
もうひとつの大きな特徴として、マーケティング予算はTogeが全額負担し、ソフトウェアの売上からその分を差し引いていません。多くのパブリッシャーではマーケティング費用を売上から差し引くケースがありますが、私たちはそうした方式を取っていません。また、開発への資金提供や、プロジェクトに必要な人材を見つけるサポートも行えます。ただし、そのあたりの開発サポートに関しての最終的な判断は常に開発者チームに委ねています。
日本のゲーマーと開発者へのメッセージ
――最後に、日本のゲーマーと開発者の皆さんに向けてメッセージをお願いします。
Kris氏:デベロッパーとしては、これまで私たちのゲームをプレイしてくださった日本のプレイヤーの皆さんに心から感謝しています。長年にわたるサポートが私たちの力になっています。今後もより面白く、魅力的なゲームをお届けできるよう頑張りますので、引き続き応援していただけると嬉しいです。
パブリッシャーとしては、自分のゲームをグローバル市場に届けたいと考えている日本のインディー開発者の皆さん、ぜひToge Productionsにご連絡ください。皆さんからのお声がけをお待ちしていますし、将来的にコラボレーションできることを楽しみにしています。
「もやし」の名の通り、小さな種から大きく成長し続けているToge Productions。ジャンルの垣根を越えて「面白い」を追求し続ける姿勢と、開発者を支えるパブリッシャーとしての哲学からは、今後も多くのタイトルが送り出されるのでしょう。『Whisper Mountain Outbreak』の正式版や『Kriegsfront Tactics』の続報にも期待が高まります。









