次の舞台はジャングルだ!『デイヴ・ザ・ダイバー』の大型拡張DLC「イン・ザ・ジャングル」はいつものブルーホールを飛び出し、密林の中にある湖の謎に挑みます。

湖における障害となるのは、水中に滞留する高濃度の硫化水素です。吸入し続けると気絶して溺死する危険があるため、呼吸用フィルターを新たに装備しなければなりません。本作では冒頭から古代生物の死骸が転がるような特異現象が起きているものの、硫化水素の湖自体は決して珍しいものではなく、日本国内では福井県の水月湖などの汽水湖で似たような環境が形成されています。

硫化水素というと「腐った卵のような異臭」が特徴的。火山性ガスのイメージが強く山中のガス溜まりの事故をまず思い出しますね。しかし実際には日常的な環境でも発生するとても身近な危険です。硫化水素は嫌気性の微生物の活動によって発生するので、「低酸素」「充分な有機物」があれば場所を問わず存在します。主に循環が悪い地下空間で条件が揃いやすく、特に下水管では一呼吸で命を落とす致死量の滞留がどこにでもあるため、作業員の事故が毎年のように報じられていますね。
昨年の事例では、倒れた1人を救出しようとした仲間が連鎖的に巻き込まれて4人が死亡する事例が発生しました。酸素に反応すると硫酸に変化して金属系へ深刻なダメージを与えるため、近年頻発する道路の陥没も硫化水素による管の腐食が一因と言われています。

水中の環境で硫化水素が発生しやすいのは、主に淡水と海水が隣接する汽水湖です。閉ざされた環境の湖では温度差による対流で上下がかき混ぜられ、それに伴って酸素が深層へと供給されるのですが、比重の重い海水が下層にあると、対流が酸素を含む湖面の水が淡水のある深さまでに限られ、深部の酸欠が解消されません。そこに生物の死骸や泥などの有機物と嫌気微生物があると、硫化水素の発生と滞留が進んでいくのです。ウタラ村でも直近で急激な汚染が進んでいるというので、それを引き起こす海水がどこから来るのかを探るのが本作の主な目的になります。
硫化水素は海水よりも軽いので、淡水と海水の境界にヴェールのような層を作り、メキシコの汽水洞窟「セノーテ」ではこの硫化水素のヴェールが絶景スポットとしてダイバーに人気になっています。しかし硫化水素は呼吸器だけでなく皮膚に対しても影響があるため、長時間潜曝露していると凍傷のような症状を起こします。さらに硫酸化で皮膚がただれる可能性があるため、高濃度の環境は短時間に抑え、潜水後は入念な洗浄が推奨されています。油断すれば大事故に繋がりかねない危険を孕みつつも、ここをくぐり抜ける体験は忘れ難い神秘的なもの。その向こう側は光が入らない暗闇というから驚きです。

硫化水素を生み出す微生物の活性は気温上昇に伴って高まるため、地球温暖化が進んでいる今日ではより発生しやすくなっています。世界最長の年縞で知られる福井県の水月湖はかつては淡水湖でしたが、江戸時代の治水工事によって海水が流れ込み、現在は水深10メートル遺構は酸欠と硫化水素で生物が住めない環境に変化しました。昨年10月にはこの硫化水素が上層に昇り、湖水の白濁や魚の大量死、悪臭の充満などの被害が出ています。アメリカ・カリフォルニアにあるソルトン湖では健康被害が懸念されるほどの深刻な大気汚染が発生しており、日本でも今後こうした現象が増えていく可能性があるでしょう。


「イン・ザ・ジャングル」は打ち上げられた海竜の死骸が大爆発する衝撃的な場面から始まりました。新登場のムーナはその直撃を受けても平然としていたのですが、実際にやると非常に危険なので無防備に死骸に近づくことは絶対に止めましょう。腐敗ガスや汚泥はもちろん、キロ単位の内臓やら骨やらが一緒に文字通り噴き出してくるので、その直撃を喰らえば良くて重傷、当たり所が悪ければ即死です。そうでなくても寄生虫や地上にない病原に感染する恐れもあります。かつては海の恵みとして肉を食用に分けていて、1980年代までその記録が残っていました(案の定食中毒が多発)。現在ではほぼ標本用の保存に利用されるので、防護服の専門家に任せ、一般人はむやみに見物しに行かない方が良さそうです。












