※本稿には『HORSES』の世界観や演出に触れる記述があります。性的な表現や、生理的な不快感を誘う描写が苦手な方はご注意ください。

昨年11月、SteamおよびEpic Games Storeでの販売が認められず、パブリッシャーSanta Ragioneが経緯と窮状について声明を発表したため、一人称ホラーADV『HORSES』は注目を集めました。その経緯ゆえに、「いったいどれほど刺激の強いゲームなのか」と気になっている方も少なくないことでしょう。
本稿では、6月16日のアップデートで対応された日本語版を実際にプレイし、その中身を紹介していきます。
本作の舞台は、馬のマスクをかぶった裸の馬人間が飼育される農場です。主人公は14日間、郊外の農場で働くことになり、農場主の指示のもと、畑に水をやり、道具を運び、馬の世話をし、雑用をこなしていきます。

モノクロで描かれる不条理な農場
まず印象に残るのは、白黒かつ4:3画面で統一されたサイレント映画風の演出です。登場人物のセリフは無言で口を動かす描写のあと、発言内容が文章で表示されます。これはサイレント映画で一般に用いられるインタータイトルという手法です。


他にも、ゲーム冒頭では映写機のカットが挿入され、プレイ中はフィルムを回す音が鳴ります。加えて、インタラクトのたびに実写映像が挿入され、インタータイトルとともに緩慢なリズムを生み、不穏な気配を盛り上げます。


ホラーとして見たとき、本作は流血や欠損といった暴力表現を前面に出すタイプではありません。もちろん、去勢や殺人といった描写もあります。しかしながら、容赦なく人体欠損などが描かれるホラー映画はもちろん、ホラーゲームとしても度を超した残酷表現というほどのものでもありません。

むしろ目立つのは、日常を生きることの不気味さです。人間を家畜として扱う都合上、放水による洗浄、排泄物の始末といった描写もあります。得体の知れないものを食べさせられ、執拗に咀嚼音が鳴り、農場主は妙になれなれしく、こちらをあやすように扱ってきます。

また、性描写も多くあり、性器にはモザイク処理が施されているものの、性行為そのものを扱う場面も含まれています。こうした生物として当然に備わっている食欲と性欲は、通常フィクションでは敢えて描かれないものです。本作は農業シムのようなミニゲームを挟みながら、これらを懇切丁寧に描写しており、しかも雰囲気を盛り上げる単なる小道具ではなく、物語の軸として成立させています。

総じて本作のホラー性は、激しい残酷描写といった一種のエンターテインメントではなく、見てはいけない暮らしの一部を見せられているような不気味さにあると言えます。
深遠な寓話というより悪趣味な冗談
郊外の農場という閉鎖的な舞台には、田舎、宗教、労働、教育、親子、資本主義、全体主義といった暗喩がいくつも重ねられています。人を動物として扱うこと。上の者の命令に従うこと。異常な労働を日常として受け入れること。異様な状況を疑いながらも、次の作業へ向かわなければならないこと。たまに訪れる外部の人々も、この状況を受け入れていること。


ただし、本作がこうした題材を掘り下げ、鋭い結論へ導くかといえば、そうではありません。約3時間というコンパクトな尺の中で描かれる暗喩は、意図がわかりやすいぶん、既視感も強いものです。人間の家畜化という不条理劇ではありますが、物語自体に意外性はなく、穏当な筋書きと言えます。感情や常識を揺さぶるような物語を期待すると、肩透かしを受けるかもしれません。
他にも、馬は映画史上においても重要な意味を持ちます。「動く馬」という、農場で走る競走馬を映した作品があり、静止画の連続により動画を生み出した初期の例として名高いためです。このように映画史をつまびらかにして考察を打つこともできますが、別段そういったことをしなくとも楽しめる作品です。

一方で、『HORSES』には奇妙なおかしさがあります。
真面目な顔で突きつけられる、あまりにもバカバカしい光景。不快になるはずの場面であっても、唐突な演出や緩慢な調子によって、悪趣味な笑いがあります。そう、ブラックユーモアこそ、本作の魅力と言えます。

ホラーとは、感情を揺さぶることを主旨とするジャンルであり、コメディとは表裏一体です。本作は、悪夢じみた光景で延々と続くコントと言えます。深読みするよりも、次はどんな悪辣な冗談を見せられるのかと身構えながら進めるほうが、楽しみやすいでしょう。そして、脚本および状況に意外性はなくとも、時折グロテスクな美をたたえた情景を見せてくれます。ただ、大半にモザイクが含まれるため、この場での紹介は難しいものとなっています。

生硬な日本語訳
日本語訳は意味は通じるものの、やたらと直訳調で硬い表現が散見されます。とりわけ農場主は、無邪気さと横暴さ、幼児性と支配性が同居する人物であり、英語では文法の破綻や子供じみた言葉遣いが見受けられるものの、日本語訳ではわかりづらくなっています。とはいえ、このあたりは筋書き全体としてわかりやすく表現されているため、大きな欠点ではないでしょう。

また、インタータイトルを使ったサイレント映画風の演出では、その瞬間の絵がなく台詞だけでキャラクターを描くことになるため、なおさら惜しく感じられます。
もっとも、内容を追ううえで支障が出るほどではありません。インディーホラーの日本語ローカライズとして見れば標準的な品質に収まっており、充分に機能していると言えるでしょう。

問題作の看板よりも変な映画を観るつもりで
『HORSES』は、ショッキングな残酷描写を求める人のためのホラーではありません。また、心に残る寓話として受け取るには素直すぎるきらいがあります。

それでも、白黒サイレント映画の文法をゲームへ持ち込み、実写映像とローポリゴンの美術を繋ぎ、食事や身体、労働と服従を不穏な笑いに変えていく手腕は希有なものです。一晩で遊び切れる短さも、悪夢にはちょうどいいでしょう。『HORSES』は、そんな後味を楽しめる人に向いた作品です。「Steamで販売禁止となったゲーム」という前評判だけで構えるより、悪趣味な映画を観るつもりで手に取ってみてはいかがでしょうか。
『HORSES』は、PC(GOG.com/Itch.io/Humble Store)向けに配信中です。











