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「フェイクニュースに踊らされず、勝手な想像に留めない」ジャーナリストが見た生のウクライナ情勢―藤原亮司氏インタビュー

いちゲーマーにとっても対岸の火事とは言えない今回の侵攻について、3時間のロングインタビュー。

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「フェイクニュースに踊らされず、勝手な想像に留めない」ジャーナリストが見た生のウクライナ情勢―藤原亮司氏インタビュー
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2月24日のロシア軍の侵攻で始まり、現在も続いているウクライナでの戦争。そのウクライナを含めポーランド、チェコといった東欧諸国は、2000年代以降ゲーム開発事業に力を入れています。世界的なヒットタイトルも多々出ているだけに、ゲーム愛好家にとっても決して他人事ではなく、この戦争のために事業の中断を余儀なくされたゲームデベロッパーは数々あります。東欧諸国で多く開発されてきたミリタリーFPSで描かれるような事態、さらにそれを上回る破壊と殺戮がウクライナで起きてしまっていることにいたっては、まさに悪夢のような出来事であり、悲劇としか言いようがありません。

そんなウクライナに赴き、現地の状況をつぶさに見てきたジャーナリスト・藤原亮司氏にインタビューする機会を得ました。2016年、ロシア側からのドンバス戦争取材に続き、今回は3月初旬からウクライナに入り、主としてリヴィウ(ルヴォフ)およびキーウ(キエフ)とその周辺地域の人々の様子を見てきたとのこと。

ゲームを通じてウクライナや周辺諸国に関心を抱き、また今回の戦争に関連して伝えられるさまざまな情報や見解に接しているであろう読者のみなさんが、それら情報や見解をどう見、どう理解すべきなのか。そのためのヒントを、現地と、現にそこに生きる人々を見てきたジャーナリストの生の言葉から受け取ることができれば、と思います。

藤原亮司氏 略歴
1967年大阪生まれ。ジャパンプレス所属。1998年より継続的にパレスチナ・イスラエルおよび周辺国においてパレスチナ問題の取材を続ける。ほかに、シリア、ウクライナ、レバノン、イラク、アフガニスタン、バルカン半島ほか、主にイスラーム圏諸国における紛争や抑圧下で生きる人々を取材。国内では在日コリアン、原発事故及び震災に関わる人々の生活風景を記録している。
著書に「ガザの空の下 それでも明日は来るし人は生きる」、安田純平氏との共著「戦争取材と自己責任」(ともにdZERO刊)

5月20日には東京・武蔵野公会堂で現地取材の報告会も開催される。


【編集部より】
これまでGame*Sparkでは、ゲーム業界とも古くから縁が深いロシアとウクライナのデベロッパーのメールインタビューをまとめた連載「戦時下のゲームデベロッパーたち」や、戦争に直接起因するニュースなどを多数お伝えしてきています。そうした発信を続ける中で、現地を取材してきたジャーナリストをインタビューするという貴重な縁に恵まれ、編集部でも熟議の上、無理にゲームと絡められなくてもぜひ掲載しようという判断をしました。

インタビューでは当初の想定通り、直接的にゲームと関連する内容はそこまでありませんが、虐殺の情報などセンシティブな内容を含め現地の状況がつぶさにまとめられており、一般のウクライナ人がどう思っているのかも藤原氏の取材を通じた経験が語られています。わざわざゲームメディアで載せる必要はないという指摘もあるかもしれませんが、戦争によって何がどうなっているのか、現地の取材を通じて知ることはゲーマーにとっても決して無駄なことではないと思います。

3時間にわたるインタビューをまとめているため、長大なボリュームとなっていますが、ぜひ興味のある方はご覧いただければ幸いです。


ロシアとウクライナ:続けられてきたロシアの戦争

――本日はよろしくお願いします。ロシアとウクライナの間で今起きていることを聞くにつけ、ウクライナを代表するゲームメーカーGSC Game Worldの出世作である『S.T.A.L.K.E.R. Shadow of Chernobyl』(2007年)の設定やストーリーラインを思い出さざるを得ません。そこで敵として描かれたのは過去の、いわば“旧ソ連的な何か”だとは思いますが「いい加減ウクライナを放っておいてくれ」という、叫びにも似た強いメッセージ性が印象に残っています。

藤原亮司氏(以下、藤原):そのゲームのことは全然知りませんが、ウクライナは2004年にオレンジ革命(※)があり、そこからソ連、ロシアの軛(くびき)から離れたいという意識が高まっていったので、2007年に開発されたのであれば、そういう時代背景があったんじゃないかという気がします。

※2004年の大統領選挙で親ロシア派のヤヌコーヴィチの当選がアナウンスされたことに対し、親EU派のユシチェンコの支持者たちを中心に選挙の不正を訴える声が高まって、最終的に選挙がやり直しに。あらためて親EU派のユシチェンコが大統領となる。なお、オレンジはユシチェンコ派のシンボルカラー。


――今回のロシアによる侵攻も、ある意味この文脈に乗った出来事なのかな、という気がします。ロシアというよりプーチンの意思に、またも飲み込まれようとしているウクライナ、という意味でですが。

藤原:一つ違うなと思うのは、そのゲームでは、ロシアの考え方と思われるものに、自身の意志で攻撃を加える選択肢があったことになると思うのですが、今回の場合、あくまでロシアの側が一方的に侵攻して、ウクライナには選択肢すら与えられず、戦争に巻き込まれていったという点です。そこは、単純に比較していいものかなという疑問はあります。

――そこはその通りですね。とはいえ、今回の侵攻の前段に当たる話として、2014年のクリミア併合があって、西側諸国がこのときのロシアの動きを看過したというところがあると思います。その意味で、ずっと続いている関係性の問題はあるだろう、と。

藤原:もっと言えば2011年から始まったシリア内戦ですね。内戦とは言われていますが、あれもカッコをつけないといけない「内戦」で、シリアの独裁者が自分たちの権力維持のために、民衆を抑え込んだことから始まっています。

それにイランとかロシアが介入していった。ロシアが市民を銃撃したり空爆したり、さんざんやったにもかかわらず、西側諸国はそれに対して何もできなかった。

もっとさかのぼればロシアのチェチェン侵攻のときにも、そうした物事の兆し的なことがありました。シリア内戦のときに自分たちは徹底的にやったけど、国際社会から関与されなかったことで、「あ、これはやってもいいんだ。欧米は何も言えないんだ」という手ごたえを、ロシアに感じさせてしまった。

――良くない意味での学習をしてしまった、と。

藤原:その流れと並行であったのが、クリミア半島であったり、ドネツク、ルハンスク(ルガンスク)――ドンバス地方で、勝手に人民共和国を作り、ロシア軍が兵力を送って一方的な独立をさせたことですね。

――いわゆるドンバス戦争のタイミングでのお話ですね。

藤原:そうです。2012年にロシア軍の大量リストラがありまして、そこで余った人員が民間軍事組織なんかに雇われて、主にお金が欲しい人たちはシリアに行ったといわれています。ワグナーグループとか、その手の人たちですね。旧ソ連の復興というか、大ロシア主義を目指す思想的なものを持っていた人たちは、ドネツクやルハンスクに行ってそこの軍と合流したといわれていますね。

――ドネツク、ルハンスクそのものは、もともとロシア系住民が多いわけですが、内発的に分離独立が起きるかというと、どうもそうではなさそうだと伝えられていますよね。むしろロシアの意向を受けた人々が入っていって起こした騒ぎではないのかと。

藤原:2016年にドネツクに取材に行きましたが、そのときはロシア側からの取材でした。ロシア系住民や、ロシアから合流してきた軍人たちの取材や、現地で被害を受けているという人の取材もしました。もちろん、民族間の軋轢だとか行政に対する不満だとか、あることはあるけれども、大規模な抑圧や虐殺が行われているという証言には、たどり着けなかったですね。

ロシア系住民が暮らす集合住宅にも散発的に攻撃があって、その跡に行って住民の話を聞いたんですが、その攻撃がロシア系住民のドネツク部隊やロシア軍によるものなのか、あるいはウクライナ側によるものなのか、確証を取りようがないのが現実でした。

そこに住んでいる人にインタビューして証言を取ろうにも、ロシア側支配地域に住んでいる人が、「ドネツク人民共和国」やロシアに対して批判めいたことを言えるわけがない。証言としては曖昧なものしか取れないわけです。

ロシアが今回の侵攻の理由付けとしているロシア系住民の虐殺とか、そんな大規模なものに繋がるような確証は、まったく得られないままでしたね。

――それは差し当たり、2016年のドネツク取材の結論と考えてよいですか?

藤原:そう感じています。今回はキーウまでしか行っていないですが、そのドネツク取材のときの感触がありましたので、去年の年末くらいからロシアがウクライナ侵攻を画策しているような動きがあったときも、ロシアが言っている、ロシア系ウクライナ人に対する虐殺や抑圧という話は、眉唾ものだなと考えざるを得なかったわけです。

真っ暗な市街地、意外に落ち着いた戦時体制

――今回はリヴィウとキーウに行かれたそうですね。帰国の途に就く頃までには、キーウはだいぶ日常を取り戻せていたのでしょうか?

藤原:3月5日に西部のリヴィウに入ってまる二週間、その後キーウに移動して二週間半ほど現地にいました。キーウを出たのは4月6日ですね。ブチャが解放されたのが4月1日あたり、4月4日から開戦以降は販売が禁止されていた酒が売れるようになったんですけど、それまで飲食店や商店はほとんど開いていなくて車も少なかったんですね。イルピン、ブチャが解放された頃から、ちょっと人通りが増えたな、という印象がありました。

キーウの中心部には会社とかが多いので、戦闘が最も激しかった3月後半あたりはどこを見ても店が閉まっていたわけですが、もっと周辺部、5~7km離れた郊外の住宅地になると昼間でもわりと人が歩いていて、小売店なんかも開いていたりしましたね。

――ちなみに電気は普通に使えるのでしょうか?

藤原:攻撃されていない場所では普通に使えました。ただ、キーウの市街中心部は灯火管制をやっていて、3月中はどこにも灯りがなくて真っ暗でした。ホテルの部屋も、夜になったらカーテンを閉めるように言われていましたので。オフィス街だから真っ暗ということもあるんでしょうけど、4月2日か3日になったとき、いつものように寝る前にホテルの屋上でタバコを喫っていると、ポツポツ灯りが点き出したことに気付きました。その数がだんだん多くなっていって、帰る直前にはまあまあ灯りが見えるようになったという感じです。

――食料が不足しているといった状況でもないのでしょうか?日本人からすると、戦争といえば例えば「火垂るの墓」のような、食べるものだけでなく何もかも欠乏するイメージを抱いてしまいますが……。

藤原:スーパーにはそれなりに食料がありました。ただ、道がスムースではなくなって流通が滞っていたのか、生野菜や牛乳は一時少ないときがありましたね。ハムとかの加工食品は輸入品も含めて、やたらとありました。加工品はいくらでも遠くから持ってこられるからだと思いますけど。

物価がバカ高くもならなかったですし、非常に秩序のある中で戦時体制が敷かれていましたね。チェックポイント(検問所)はものすごい渋滞になるんですけど、そこで割り込んでトラブルが起こることもなく、冷静に秩序立った暮らしが続いていた印象です。

――侵攻そのものの質問に戻りますが、ロシア側が主張する「在留邦人の保護」という名目は、非常にポピュラーな開戦の理由付けだけに、今回もなんというか通り一遍な印象もあり、そもそもどう受け取ったものかという話ですよね。

さきほどのお話のとおり、ジョージ・ブッシュ・Jrがやってしまったイラク戦争に関わる嘘に関連して、アメリカが非常に動きづらいタイミングでロシアが次々に行った武力侵攻が、国際社会で看過されてきた。それが悪い意味での学習として積み上げられてしまった結果なんだろうというか。

藤原:シリアで政府軍が反対派の支配地域の住民に対して化学兵器を使ったとき、アメリカとイギリスが軍事介入しようかという状況に一瞬なったのですが、結局、世論の反対に遭って軍事介入しなかったわけです。

――実際、当時のオバマ大統領が(化学兵器の使用に対する)レッドライン発言をしているんですよね。

藤原:はい。オバマ大統領はもちろん自身の発言どおり、シリアへの軍事介入について議会に諮ったわけですが、そこで反対に遭って。それによってシリアの人たちは「俺たちは国際社会に見捨てられたんだ」という絶望感を抱いたことは間違いありません。シリア内戦時の反体制派側には穏健派からアルカイダ系までいろんな部隊、さまざまな外国人がいたわけですが、反体制派側の人たちが自分たちの身を守る方法を探したときに、強い部隊はアルカイダ系やイスラム国の前身組織だから、シリア人の反体制派が合流したことでそれらの組織は急速に勢力を伸ばした。シリア人たちが思想的にアルカイダやISに傾倒していったからではないんです。

――アサド政権のほうが怖かったと。

藤原:シリア政府軍側が化学兵器を使ったり、空爆を繰り返したりしたとき、現地の反体制派側で救出活動をしている人たちを中心に、SNSで映像がいっぱい上がったわけです。それらについて、ロシアがわざと信頼性を落とすようなフェイクニュースを作って流す。「スプートニク」や「RT」といったロシアの国営系メディアでもそうですし、欧米やカナダなどをはじめ、各国でおおぜいのインフルエンサーを使ってSNSでフェイクニュースを流させて、実際にあった救出劇を、すっかりフェイクニュースとして浸透させてしまうわけです。のちにAFP通信などが検証して、ようやくその一部は疑いが晴れるといった具合ですね。

同じようなことを、ロシアはシリアであの手この手を使ってやり、それに騙される人が多いという手応えを得ている。だから今回のウクライナ侵攻でも、同じようなことをやってきています。

――なるほど、そういう意味でもシリアから営々と続くロシアの手口なんだと。

隠された真実…それは本当に真実?
《Guevarista》
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