日本時間2023年4月13日にオープンワールド宇宙SFフライトSTG『X4: Foundations』新DLC「X4: Kingdom End」が発売されます。そこで本記事では30年近くにわたり同『X』シリーズを手掛けてきたドイツのデベロッパー、EGOSOFTの創立者・マネージングディレクターのBernd Lehahn氏に直撃。『X4』だけでなく今後のシリーズについても聞きました。
編集部では過去にも複数回Lehahn氏へのインタビューを実施しています。そちらの記事もあわせてご覧ください。
――まず最初に、EGOSOFT35周年おめでとうございます。宇宙ゲームという一時期は苦境に立たされたジャンルを中心にしながらも歩みを止めず続けてきたことについてはどう考えていますか。
Bernd Lehahn氏(EGOSOFT創立者・マネージングディレクター、以下Lehahn)ありがとうございます。ただ実は我々はそこまで会社自体の周年を重視していなかったりはします。「ただ単に年を重ねた」だけには意味がそこまで感じられないのと、我々自身の立脚点を何処におくかでカウントが変わってしまうからですね。
今年を35周年と考えた場合、それは我々がAmiga向けにEGOSOFTの名でゲームを作った時になります。当時学校を卒業したばかりだった私ともう一人はそのゲームに凄く興奮していたのを覚えています。
2000年代の(海外)ゲーム業界における「宇宙ゲームの暗黒時代」に関しては、いまでは我々を育てた一部であると考えています。我々はニッチなゲームを扱う小さな会社でしたが、暗黒の時代を生き残った結果、よりメインストリームへと登ることができましたから。
編注:大規模なインディーゲーム業界の隆盛の前、2000年代から2010年あたりまでにかけ、海外ゲーム業界では「宇宙船モノは売れない」的な思想に支配される時期がありました。しかも当時は後述の通り、パブリッシャーの判断無しでゲームを大々的に世に送り出すのはまだ難しかったのです。
――ここ10年近くでゲーム業界を取り巻く環境はどのように変わったか、感じたことはありましたでしょうか?
Lehahn10年も前になると、多くの事柄はまだ、見つけたパブリッシャーで決まってしまっていました。
「そもそも市場にゲームを売り込めるのか?どの程度我々のゲームに手をかけてくれるのか?」
一方で、現代に繁栄している巨大なインディーゲームシーンでは、むしろ逆にパブリッシャーが関与させてもらえないケースさえ生まれています。小さな会社がクレイジーなアイディアを試して、消費者自身がその成功や失敗を決める。実にエキサイティングな時代になったと思います。
――『X4』の今回の拡張DLCでボロンが共同体に復帰します。彼らが『X4』の世界に与える影響は、どのようなものになるのでしょうか。
Lehahn今回の拡張の物語は協力に満ちたものになります。このDLCで登場する「ボロン」たちは、種族全体の性質として温和な、皆に対し友好的な存在だからです。
とはいえ、今回の宇宙の拡張が一切の火種を産まないかといえばそうではありません。(メタ的なことを言えば)もちろんこの種の宇宙ゲームにおいて戦闘を考えないという訳にはいかないですしね。それでも、ボロンたちの温和な気質はこの拡張全体の雰囲気を暖かなものにするでしょう。今のような時代にはピッタリかもしれません。
――今回のDLC告知では、既存の唯一のボロンであり、プレイヤーを影に日向にサポートしてきたボソ・タの存在がフィーチャーされていました。彼は今回も大きな役割を果たすことになるのでしょうか?それと、ボロンの人々が船内を歩き回れるようになったことで、ボソ・タもまた、水槽から出ていくようになるのでしょうか。
Lehahnもちろんボソは今回も重要な役割を果たすことでしょう。きっとまた、「助手」の皆様へと何か、大切なことを教えてくれるのだと思いますよ。
彼がいつかあの水槽から出られるのかについては……まだわからないですね(笑)
――今回の拡張DLCで『X4』の世界に既知の種族が揃いました。ただ、物語ではまだ世界の広がりが示唆されています。今後も拡張DLCの開発は続くのでしょうか?それとも次は期間をおいて『X5』を見ることになるのでしょうか。
Lehahnボロンの登場により、確かに、重要な意味合いとして宇宙は完成しました。これは我々が4月13日に「X4: Community of Planets Edition」とした新たなバンドル販売を行う理由のひとつでもあります。
ですが、まだです。主要な種族が揃いこそしましたが、我々は『X4』でのすべてを終えたわけではなく、まだ多くのクールな事柄を計画しています。続報をお楽しみに。
――ところで、いままで我々はボロンのことだけに気を取られていましたが、ほかにも重要な人々を思い出す余裕がようやくできました。テラコープやアルビオンの人々ですね。彼らが『X4』で今後、顔を見せる可能性はあるのでしょうか?平たく言えばアラウンをMod以外で使いたい人がいるでしょう。私もですが(笑)
Lehahnいくつもの選択肢の中に可能性はある、とだけは言えます。我々にはまだ『X4』でやりたい未決定のクールなアイディアのリストが山のようにあって、それらを具体的にどうするかについてまだ決まってないからです。
――『X4』6.00に前後して、ModフレームワークやAI改善Modなどを手掛けたkuertee氏と、有名大型Mod「VRO」を手掛けたShuul氏、2名のMod製作者が開発チームに加わったことが明らかにされています。彼らの参加でいままでから大きく進歩した所はあるのでしょうか。
Lehahn我々はMod製作者らの中から素晴らしい新たな才能をチームへと得られたことに興奮しています。彼らはすでに6.00と「Kingdom End」でも作業を行っていて、いくつかは彼らのアイディアにより実現した部分です。例えば、ボロンの多くの大型艦船では艦載機の発着に、船の脇に出るガイドエリアとの間をスライドして行う新たな形式と演出が採用されています。
――ここ数回の大型アップデートで導入された大型艦船の殆どは「現実的な」艦載機の搭載量です。直近で建築船の外見と性能のリワークがあったように、以前の大型艦船の艦載機の搭載量を修正するなどのバランス調整はありえるのでしょうか。また、同様にヴァンガードとセンチネルの外見的な差異などが今後現れる可能性はあるのでしょうか。
Lehahnヴァンガードとセンチネルの外見的な差異の導入は、たとえ将来的に行うとしても優先度の低いものです。5.00で導入された新たなパラニド船や、6.00で導入される種族ごとの建築船の新たな外見のような、無料での艦船(および新たな艦船モデル)の追加は非常にコスト高になるため、それらも今後も行うかについては現時点では未定です。
大型艦船の艦載機の搭載量のバランス調整に関しては別の問題が立ちはだかります。ユーザーの皆様の既存セーブデータとの互換性です。その問題があるため、残念ながら行う予定はありません。
――話は飛びますが、パラ二ドが「大豆」を好んで食しているのに、日本人としてはちょっとした親近感があります。パラ二ドの人々はテランの「納豆」について興味を持ったりはしないのでしょうか。
Lehahnふむ……『X』宇宙の殆どの種族は日本食を好きになると思います。もちろん納豆も。ただまあ……ボロンだけは日本の台所に入れると怖がってしまうかもしれませんね(笑)
――同様に、ジンコーテキナ社の日本的な名前の由来が「ジンコ・テキナ」という人名由来ではなく、「人工」という単語と「テキナ」という人名に分かれているという話を小耳に挟み驚きました。こういうエキゾチックな名前は今後も『X』シリーズで見られそうですか?
Lehahn『X』宇宙の名前には、シナリオ側で手動で付けているものと、自動生成的に作り出すものの2種類があります。シナリオチームの皆は素晴らしい創造性をすでに発揮してくれていると考えていますが、名前の自動生成の機能も今後改善できたら良いなと思っています。
――EGOSOFTが35周年を迎えたように、『X』シリーズも20年以上を数えてきました。ここまでのシリーズを振り返っていかがだったでしょうか?
Lehahnああ、もう30年も近いですね……。初代作『X Beyond the Frontier』は1996年でした。
では、どう思っているか、と言われたら「最高です!」というほかありません。こんなことが現実になるとは思いもよりませんでした。『X』宇宙は次々と成長を続け、より興味深くなり、そして深くなり、ゲームプレイやエンジンもより良くなり、ファンの皆様の数も増えていきます。世界中どこでも、幅広い年齢の『X』シリーズのファンに会えるのは本当に最高のことです!
――『X』の最大の特徴である、ダイナミックな世界シミュレーションについて、『X4』ではどこまで理想を達成できましたか?
Lehahn確かに、ダイナミックな世界シミュレーションは『X』シリーズにおいて最大の特徴のひとつです。全宇宙のすべての船とステーションをシミュレートしているという事実は、特にシングルプレイのゲームとしては非常にユニークでしょう。
『X4』はその点においてシリーズで最も進んだ作品であり、十分に満足していますが、一方で改善の余地もまだあると思っています。(もちろん改善の余地はいつだって考えているものなのですけども)
――現代ではマルチプレイを売りにする宇宙ゲームは多いです。そんな中『X』シリーズが、その基礎としてシングルプレイを保っていることの強みは何であると考えていますか?
Lehahn実のところ『X4』はMMOのような遊び方をされていると考えています。ユーザーは何百時間、ときには何千時間も1つのセーブデータで遊び続け、世界の移り変わりなどを楽しんでいるからです。これは前述した、ダイナミックな世界シミュレーションがゲームの基礎を形作っていることも影響していて、そのおかげでプレイヤーたちはシングルプレイのゲームでありながらにしてMMOのような信憑性を持った体験ができています。
では、シングルプレイの大きな利点と言えばなんでしょう?それは、MMOに比べ非常に早く、そして大規模なゲームの進捗を提供できることです。
例えば『X4』ではやろうと思えば、小型船の操縦士からはじめ、数日で一大勢力圏の長にまで成り上がることができますが、MMOではそうはいきません。1プレイヤーにそれだけの権力を持たせることは難しいですし、物事の進捗速度自体も大きく下げる必要があるでしょう。
――『X5』か『X4』の今後のアップデートかはおいておいて、プレイヤーが介入せずとも4Xゲームのようなダイナミックな外交や、大きな領域争いが発生するようになることはあるのでしょうか?
Lehahn正直なんとも言えません。よりダイナミックな勢力関係や外交・戦争要素は将来に向けて興味深い要素ですが、他にも同様に興味深い要素が多くの事柄で考えられるからです。
――現実のAI技術についてはどう考えていますか?『X』シリーズにそれらが影響する可能性はあるのでしょうか?
Lehahn現実のAI技術は、実はすでに『X』シリーズへと影響を及ぼしはじめています。我々は今、毎日GPT4を使って、音声生成や画像生成などの実験をしているからです。凄く興奮する時代ですが、一方で心配もしています。
――宇宙船が活躍する作品は古今東西数多いです。例えばそれらの船がゲスト的にプレイアブルで使えるようなコラボレーション施策などを検討したことはありますか?
Lehahnそうした計画は今のところ無いですね。『X4』においては船データの製作難度が大きく上がってしまったのもあります。『X3』の時代はもっとシンプルで、いくつかのプロパティと位置が定義されただけの3Dモデルでしたが、『X4』では船は内装を持ち、サブシステムのアニメーションやゲーム内モジュールへの対応など、多くを必要としています。コラボレーションのような施策を行うことは非常に難しく大きなコストを伴う「実験」となるでしょう。
そのうえ、我々は自分たち自身の宇宙と種族、派閥でやりたい多くのアイディアを持っています。だから、その「実験」の必要性を感じていないのも大きいです。
――ところで、今回『X4』の数年を振り返ってみて、日本からの『X4』への反響で印象的だったことはありますか?
Lehahn多くの素晴らしい紹介を受けたことでしょうか。様々なプラットフォームの配信者やコンテンツ制作者、あなたのような記者だけでなく、コミュニティの「一般参加者」の皆様も我々に多くのことを届けてくださいました。
様々な人々がどのようにこのゲームを楽しんでいるのか、文化によってどのように捉え方が異なっているのかを見るのはとても興奮することですね。
――日本のユーザーやコミュニティからのフィードバックをどう受け止めていますか?日本では度々「日本人はゲームの評価が厳しすぎるので開発者らに迷惑を掛けている」といった言説がまことしやかにささやかれるときがあります。
Lehahn我々は感想を楽しみにしていますよ、本当に。興味深かったり批判的であったり、様々な感想を全世界から受け取り参考にしています。例えば(我々の所在地である)ドイツの人からも、ときに非常に厳しく批判的な評価が届きますね。異なる文化をもつ多様なコミュニティであることは素晴らしいことです。
――ところで、今後の『X』シリーズにおいてもなるべく早い時点から日本語の収録が行われていくことを期待して良いのでしょうか。
Lehahn最も重要な言語のひとつとして、今後も可能な限り発売日から対応できるように頑張っていきます。
――最後に日本のユーザーの皆様に一言いただければ幸いです。
LehahnGPT4が私からのメッセージをきちんと翻訳できていれば良いのですが……(笑)
以下ほぼ原文まま:
親愛なる日本のプレイヤーの皆様へ、『X4: Foundations』をプレイしていただき、心から感謝申し上げます。新作『X4: Kingdom End』をお楽しみいただけることを願っています。新たに登場するボロン種族と共に、盛り上がっていただけることを楽しみにしております。近いうちに素晴らしい日本を再び訪れ、日本の『X』ファンの皆さんとお会いできることを楽しみにしています。どうもありがとうございます!
「X4: Kingdom End」は日本時間2023年4月13日に、Steam/GOG.comにて発売予定。本体とDLC4本をセットにしたバンドル「X4: Community of Planets Edition」も新たに登場予定です。