
オンラインマルチプレイ全盛期とも言える昨今、ボイスチャットをつないで、遠方の友達と話しながらゲームを遊ぶ体験は、今や当たり前のものとなりました。
『It Takes Two』や『PEAK』といった協力ゲームは特に人気があり、仲の良い友達とさらに仲を深めたり、新しいフレンドを作ったりするのに最適なツールとして機能しています。
そんななかで、マルチプレイの歴史を根底から覆すような大傑作中の大傑作が現れました。
その名は『Big Walk』。
筆者はそれなりにゲームライターを続けてきましたが、こんなに素晴らしいゲームはそう現れないのではと思うほど、心を掴まれました。本稿では、そんな『Big Walk』の魅力を極力ネタバレなしでお伝えします。
誰でも遊べる低いハードル――物を掴み、投げ、腕を振り回せ
本作は、2~12人で遊べるマルチプレイゲーム。Steam以外では2026年9月時点でPlayStation Plusにも入っており、加入者はいつでも遊ぶことができます。クロスプレイにも対応している点が嬉しいですね。
プレイヤーは鳥とも人ともつかない奇妙な存在を操作して、世界を探索していくことに。最初のエリアはチュートリアルで、基本操作を教えてくれます。
といっても(PSコントローラーで)×でジャンプ、L1で物を掴んで操作、R1で投げ、物を持っていない状態でL1やR2をガチャガチャすれば腕を振り回すといった程度で、長らくゲームから離れていた人でもすぐに遊べる程度の操作しか要求されません。
これはゲーム中どのパートにおいても同じで、シビアな操作や難しいアクションが必要なパートは一切ありませんでした。

本作はオープンワールドゲームです。何の説明もありませんが、ウロウロしているとちょっとした小屋や、明らかに異質な色の建物が見えてきて、そこにパズルが用意されています。基本的にはこれらのパズルを解き、そこでひょうたん型のキーアイテムを受け取り、近くにある台座に安置していく……この流れで進行します。
パズルの内容はどれもこれも秀逸で、「仕組みはすぐに理解できるほど単純だが、大人数で解くとなると工夫が必要」なものばかりです。
たとえば、片方の部屋にある印がどんな形なのか、もう片方の部屋にいる人に伝えるパズルであるとか、目の見えないプレイヤーを口で誘導して橋を渡らせるアスレチックなど、そんな具合です。

「自分が2人いれば一瞬で解けるのに!」と思わせるような、コミュニケーションの不完全性を強く感じるパズルが置かれていますが、ギスギスする前にサクッと終わるくらいのほどよい難易度に調節されています。解き方はわかるけれど、操作が面倒なものはほとんどありませんでした。
むしろ、どれも良い感じの共同作業ができたという思い出になることでしょう。
また、これらのパズルはロジックでガチガチに固められたものではなく、最後の答えさえ合っていれば解法はなんでもOKです。
ゴリ押し、身内ノリ、テレパシー、身振り手振り、おふざけ、素直に解く……すべてはフレンドとのやりとりで決まっていきます。

プレイヤーの好奇心を邪魔しない――視線誘導で構築された多くを語らないゲームデザイン
本作はチュートリアルこそテキストがありますが、それ以降はテキストが一切ありません。僕らやこの世界は何なのか、どうしたらパズルが解けるか、何から始めたらいいか――そんな無粋なことは一文字たりとも語らないのです。
すべては、オープンワールド上の「地形」によってデザインされています。
本作を“マルチプレイ版『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』”と称する声を聞きましたが、たしかに視線誘導という点では似ているところもあるでしょう。
マップの中央には大きな山があり、プレイヤーが何かのパズルを解いた地点から、必ず別の何かを見つけられます。「あれはなんだろう」「行ってみよう」という会話が、自然に生まれる作りになっています。

その道中で見つけたランドマークや、山の上にある何かを記憶しておいて、「次のプレイではあそこも行こう」「もしかしてこれを解いたらあれに作用するのでは」といった楽しいTo-Doが溜まっていくのも素敵です。
クエストラインやミッションで縛られたお仕事感のあるゲームに疲れている人にこそ、ぶっ刺さる内容と言えるでしょう。

また、そこに関連しての話になりますが、ある特定の移動手段やパズルにおいて、ゲーム的な「忙しなさ」の逆を行く思想が盛り込まれています。
「今度は次の〇〇をやらなきゃ」と思わせることで、続きのプレイを誘発するゲームメカニズムでありながらも、同時に「今ここに集まった僕ら」という関係性を大事にし、チルくてユルい体験ができるポイントがいくつも用意されています。
しかもそれが退屈なものではなく「ちょっと疲れたからついでにアレしよう」と自然に思えるところが素晴らしく、ドーパミンドリブンな現代への警鐘にすら思えました。

近接ボイスチャットの最高傑作――僕らは何があっても協力できるのだ
本作は、昨今流行りの近接ボイスチャットを採用しています。ゲーム内でキャラクターが遠ざかれば、その人の声は遠くなり、次第に聞こえなくなります。
この世界は(パズルゲームなのに)昼夜の概念があり、山肌に生える木々のせいで遭難しがちで、大声を出しながら夜の山をフレンド探しに出る体験もなかなか楽しいものでしたが、別の人気作でやったことのある体験ではありました。
一方で、ゲーム中に手にするいくつかのアイテムが、近接ボイスチャットの奥深さを見せてくれました。
たとえば、各地で手に入るトランシーバー。L1を押しながら話すとどんなに離れていても別のトランシーバーに声が送られます。これにより、2班に分かれての行動が可能で、探検隊のロールプレイをしている気分になりました。

そして、何と言っても、本作はこの「ボイスチャット」を始め、マルチプレイゲームにおけるコミュニケーションについて、時計を進めたといってもいい仕掛けが盛り込まれています。
詳しくはネタバレになるので語りませんが、この仕掛けには大変驚かされました。
皆で楽しく協力してパズルを解くことで、お互いがどんな人なのかわかってきたあたりで、あれを見せつけられたら、流石に脱帽するほかありません。

そこからエンディングに至るまでの流れは、きっと一生忘れることはないでしょう。
強い言葉が横行し、恐ろしい悪意が四方から飛んでくる現代社会に生きていると、他者とのわかりあえなさに絶望することがありますが、このゲームをプレイしたことで、もうちょっと人を信じてみようかと思えるほど、強烈な体験が待っていました。
10時間弱の旅を通じて、ゲームデザインにはまだまだ可能性があるのだと思わされたと同時に、どうやらまだ人は人と協力できるようだというメッセージすらもらえた気さえする、まごうことなき大傑作でした。
クリア後のパズルもビッグです! ぜひとも遊んでみてください。













