昼は人間、夜はヴァンパイア。30日と30夜のうちに家族を救うか、救わないか——。
『ウィッチャー3 ワイルドハント』のゲームディレクターを務めたコンラッド・トマシュキェヴィチ氏が率いるRebel Wolvesのデビュー作『The Blood of Dawnwalker』は、2026年9月3日の発売から約2日で全世界100万本を突破する大ヒットを飾りました。
2022年に何もない状態から立ち上がり、4年間でスタジオとゲームを同時に作り上げたこのスタジオ。今回筆者はビデオゲーム大国ポーランド・ワルシャワに位置するRebel Wolvesのオフィスに訪ねました。
スタジオの案内人はグローバルマーケティング責任者のパヴェウ・パナシュク氏。サイドクエストを持たないゲーム設計から、開発中の映像をそのまま見せる正直なマーケティング、リモートワーク前提の働き方まで、プレゼンテーションとオフィスツアーの内容をお届けします。

RPGへの愛から生まれたスタジオ「Rebel Wolves」
エントランスの壁に掲げられていたのは「A STUDIO BORN OUT OF LOVE FOR RPGs(RPGへの愛から生まれたスタジオ)」という言葉。パナシュク氏はこの言葉を「ありふれたフレーズに聞こえるかもしれないが、実際にはそうではない」と語ります。
Rebel Wolvesの創業メンバーにはCD PROJEKT REDなどで経験を積んだ開発者が多く、『ウィッチャー』シリーズや『サイバーパンク2077』の開発に携わってきました。
「焦ることもなく、株式市場のプレッシャーもなく、時間をかけて取り組めるゲームを作りたかった」というのが創業の動機。FPSやレースゲームには手を出さず、「RPGを知っているのだから本格的なRPGを作ろう」と決めたといいます。

設立は2022年。当時は文字通り何もなかったため、この4年間で「スタジオの設立」と「ゲームの開発」を同時に進めてきたことがチームの努力の証だと胸を張って語ります。最初はわずか20人でコンセプトアートの制作やストーリーの執筆を行い、現在では従業員166人を擁するスタジオに成長しました。
注力するのはシングルプレイヤー向けのストーリー主導型RPG。ゲーム内課金などの追加要素はなく「買えば100%完全なゲームが手に入る」というオールドスクールな姿勢を貫く。ミッションは「ジャンルを形作るRPGを作り、ゲーマーの心に足跡を残すこと」で、そのために独自のひねりを加えたいと話していました。

『The Blood of Dawnwalker』の目的は新規IPをサーガとして育てること
『The Blood of Dawnwalker』は14世紀のヨーロッパを舞台にしたオープンワールドのダークファンタジー・アクションRPG。誰かから買ったIPでも、既存の作品に着想を得たものでもなく、100%Rebel Wolvesのオリジナルだといいます。世界観は中世のルーマニアやポーランドから着想を得つつ、同社のライターが書き上げました。
同氏は、企画の初期から本作を「サーガ」として構想していたと強調します。ゲーマーやメディア、ファンに「最初の作品を出したあとにレースやシューティングへ方向転換するようなことはしない。これから何年もこのサーガに注力する」というコミットメントを伝えたかったそうです。
パブリッシャーはバンダイナムコエンターテインメント。ゲームを世界に発表する数か月前に、開発中のゲームをプレイして感銘を受けた同社が先に契約を結んだと、同氏は誇らしげに語りました。

売上100万本、そしてユーザーに対して正直なコミュニケーション
発売後は批評家から高い評価を得て、Steamのユーザーレビューも「好評」「非常に好評」を獲得したそうです。現在の好評率は87%で「新しいスタジオの最初のゲームとしては本当に良い数字です」と手応えを語りました。
制作予算は4,000万ドル。売上は発売後の最初の週末、1日半から2日で100万本を突破しました。ウィッシュリストの登録数は300万、今この瞬間には400万に達しているかもしれないとのことです。
ただし新しいスタジオと新規IPである以上「人々の信頼を勝ち取る必要がある」とも語ります。そのために選んだのが、非常に正直なコミュニケーションでした。2年前にゲームプレイ映像を公開した際も、あえて見栄えのする一部分だけを磨き上げるのではなく、開発中のゲームをそのまま切り取って映像に。
「これが今のゲームの状態です。戦闘、レベルデザイン、クエストデザインについてフィードバックをください」と、プレイヤーに呼びかける形をとったそうです。

ヴァンパイアが統治する谷で昼と夜の間を生きる
『The Blood of Dawnwalker』で描かれる時代は、黒死病(ペスト)で壊滅状態となった14世紀のヨーロッパ。人類が最も弱った瞬間を、何世紀も人間の隣で隠れて生きてきたヴァンパイアたちが好機と捉え、影から姿を現すところから物語は展開。「ヴェイル・サンゴラ(サンゴラ谷)」という土地がヴァンパイアに支配されることになります。
ただしこのゲームで描かれる物語は「白黒がはっきりしているものはない」とパナシュク氏は言います。ヴァンパイアは自らの血で人間を治癒し、食料や水を与え、税も免除しました。立場によっては、以前の支配者よりも良い統治者だと考える人さえいたそうです。
オフィスには、そんな世界観を感じさせる展示が並んでいました。岩山の上に城がそびえ、城壁に囲まれた街と、その手前に広がる集落を精巧に再現したジオラマが組み込まれた机はなかなかの迫力があります。

主人公のコーエンは、十代の頃から銀山で働き、大量の銀の粉塵を吸い込んでいました。人間の反乱の最中にヴァンパイアに襲われますが、肺に蓄積した銀のせいで完全な変異を遂げられず、昼と夜の間の薄い境界線を歩く「デイウォーカー」となります。そこへ、宿敵ブレンシスがコーエンの家族を誘拐します。ブレンシスがヴェイル・サンゴラの支配者として戴冠するまでの「30日と30夜」が、家族を救うための期限です。
ただし、これは単なるタイムリミットのゲームではありません。同氏が繰り返し強調したのが「サイドクエストは存在せず、あるのはメインクエストだけ」という設計です。敵の血液輸送を妨害する、敵の将軍を暗殺して戦力を削ぐといったあらゆる行動は、すべてメインクエストと絡み合っています。

家族を救わない選択も可能で、途中で敵と取引することもできます。30日と30夜が過ぎてもゲームは終わらず、家族が死ねば目標が「救出」から「復讐」へと変わります。この設計について「完全に非線形なゲームを作りたかった」ものだと話していました。
もっとも、30日と30夜という期間が設定されていても、常に時間に追われるわけではありません。時間が進むのはクエストの遂行など、特定の行動を取ったとき。オープンワールドを自由に探索しているだけでは時間は経過せず、どの行動に時間を費やすかをプレイヤー自身が決められる仕組みになっています。
夜のヴァンパイアとして過ごす間は、血への飢えにも注意が必要です。飢えを放置すると会話中の相手の血を吸ってしまい、クエストが失敗したり別の解決策を探す必要が出てきたりします。「正しいプレイ方法も、正史もありません」と語るように、何度遊んでも異なる結末を迎えられる設計になっています。
昼と夜では、使える能力も大きく異なります。昼の人間としては、ヴァンパイアの状態では使えない古く強力な闇の魔法にアクセスでき人々も話しかけてくれます。夜のヴァンパイアとしては、壁や天井を歩いて人間では入れない建物へ侵入でき、戦闘では剣に加えて爪も使い、敵や動物の血を吸うことも可能です。さらにゲーム内のほとんどのクエストは、人間とヴァンパイア、2通りの方法でクリアでき、2周目への動機付けにもなっているそうです。
オープンワールドには、都市や村、森、洞窟、中世の居住地のほか、古代の遺跡も点在します。古い書物を読むことで世界観が明らかになり、「サーガの次回作をプレイするとき、この世界が単なる“ヴァンパイア対人間”以上のものだと知っていれば、より深く楽しめる」と語りました。

いざスタジオの中へ!音楽へのこだわりも抜群のRebel Wolves
Rebel Wolvesと『The Blood of Dawnwalker』のプレゼンが終わったら次はスタジオツアーに。オフィスの入り口近くの壁には、「週刊ファミ通」をはじめ、世界各国のゲーム誌が『The Blood of Dawnwalker』を表紙に掲げた号が、額装されて並んでいました。

開発フロアでは、100人以上のスタッフがゲーム制作に取り組んでいます。アニメーションのチームが作業する部屋の隣には、小さなモーションキャプチャースタジオがあり、「物を掴む」などの基本的な動きを収録できるそうです。大規模な設備ではありませんが、基本的なモーションはここから生まれているといいます。
短いセリフやオーディオテストを収録するレコーディングスタジオ、QA、クエストデザイン、キャラクターアート、レベルデザイン、カットシーン、戦闘などの各チームも、一般的なゲーム開発スタジオと同じ構成で並びます。
作業環境にも触れられました。デュアルモニターは標準で、3画面の人もいます。特にレベルデザイナーは大画面での見え方を確認する必要があるためです。

フロアには空席が目立ちました。しかし同氏は「空席があちこちにあっても驚かないでください。働き方は好みに任せています。それでも、ご覧の通りゲームは発表した日程通りにローンチできました」と語ります。
実際、オフィスに来ているのは1割ほどで多くのスタッフはリモートで働いているそうです。会議は基本的にオンラインで、全員が参加。50~60人が参加する大規模な会議では、基本的にカメラなしになるそう。「家で座っている60人の顔が画面に並ぶのは、ちょっと多すぎますからね」と笑顔を浮かべながら話していました。
作曲室には、社内のコンポーザーが実際に作業を行っていました。パナシュク氏によれば、彼らはポーランドで最も権威ある音楽賞の一つ「フレデリク賞(Fryderyk)」を4度受賞しているそうです。同賞は、ポーランドのレコード産業協会(ZPAV)が主催し、作曲家ショパンの名にちなんで毎年授与されるもので、ポーランドのグラミー賞とも称されます。

ゼロからの4年で、スタジオと新規IPを同時に立ち上げ、発売から約2日で100万本を突破する。Rebel Wolvesの歩みは『ウィッチャー』シリーズを生んだポーランドのゲーム産業の厚みを象徴するような物語に彩られていました。
「メインとサイドクエストの区分なし」というストイックな物語設計、開発中の姿をそのまま見せる誠実なコミュニケーション、そしてリモートワークを前提とした柔軟な働き方。ポーランド発のAAAタイトルDNAを受け継ぎながらも、独自の流儀で歩みを進めるこの“反逆の狼たち”が、どんなサーガを描いていくのか。次の展開からも目が離せません。











