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あなたは全身に刺身が張り付いた状態で、二十一時四十七分発の外房線快速錦糸町行きに乗車した。あなたはとても異様な格好をしていたので、車中のすべての人々があなたに視線をやったが、みんな数秒ほど見て、すぐにスマホに視線を戻した。
あなたは自分の尻に張り付いた刺身の残骸で座席を汚すのが忍びなかったので、窓際のつり革をつかみ、流れていく夜の街を眺めた。
静かだった。
数分ののち、男性の淫夢のなかにのみ存在するセクシーな美女が乗車してきて、あなたに話しかけた。「わ~、読者なんです。サインください!」「どこに?」「お尻に!」それであなたはその女性のお尻にサインペンで「あなた」と名前を書いた。「ありがとうございます!」この心あたたまる光景に車内の視線が一瞬集まったが、みんなすぐに手元のスマホに視線を落とした。
「新宿~、新宿です」と車掌のアナウンスが流れた。
総武線に乗り換えるんじゃなかったのか、とあなたは独語したが、誰も答えなかった。見ると、あなたのほかにもう乗客はいなかった。扉が開いた。新宿駅は無人だった。あなたは慄然とした。
安物のスマホが新着メールを受けて振動した。メールのなかに、グーグルマップの徒歩経路のハイパーリンクが張られていた。本文にはこうあった。
「このルートで行くといいスパよ。オフィスは13階スパ。スパくんより」
23.あなたは13階でエレベーターを降りた。