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あなたは本当に他になにもすることがなかったので、このゲームブックをプレイすることにした。あなたはかつて、幼いころに、紙媒体のゲームブックをプレイしたことがあった。その当時からそもそもゲームブックという表現形式自体に疑問を抱いていた。いくらゲームブックのなかに自分の運命を投影してみても、ページを確認してめくっていく作業のあいだに、没入感が削がれてしまうのだ。「おれはいままさに巨大な岩に追われながら坂道を駆け下りているが、しかしそれと同時に、87ページを探してもいる」この矛盾があなたには耐えられなかった。
そのあたりのシステムの自動化はビデオゲームがコンピューティングで行うべき仕事だった。しかしビデオゲームは、すでに当時から、ゲームブックのはるか彼方のおもしろさを獲得してしまっていた。そもそも文章などという退屈で鈍重なメディア形式に演算の時間をかけるくらいなら、マリオをジャンプさせていたほうが数倍は楽しいことは明らかだ。だからゲームブックという表現形式自体が消えたのも、じつに自然なことなのだ。
このゲームブックはハイパーテキストのシステムを利用しているため、ページをめくる手間が省かれている。しかしあなたはテキストを読んだあと、自分の右手を動かしてマウスポインタを操作し、選択肢のところへ持っていくことさえ面倒くさいと感じる。そうしたいと思うような文章が、このゲームブックに書かれていないからだ。
だからあなたは、
3.コンビニに出かけてストロングゼロを購入し、一杯やることに決めた
4.ミシェル・ウェルベックのデビュー作『H.P.ラヴクラフト 世界と人生に抗って』を再読することにした