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あなたは近所のポプラにてサントリーの「-196°Cストロングゼロ〈ダブルレモン〉」の500ml缶を三本購入し、どうにも我慢できなくなって、帰り道でそのうちの一本を空けた。すこしでも早く酔いたかったのだ。
すぐに効いてきた。あなたは上機嫌に『Team Fortress 2』のメインテーマを口ずさみながら帰路を歩いた。
歌っているうち、かつて若いころに熱中したガチFPSの記憶が蘇ってきて、あなたは悲しい気分になった。家に帰って久々にゲームを起動しようかと考えるが、自分が酔っていることを思い出し、無残に負けてしまうのがいやなので、やめた。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。過去にプレイしていたあのゲームで、おれはかなりの腕前だったし、みんなから尊敬されていた。にもかかわらずおれは就職し、いまでは人権を剥奪され、日に十二時間働いて手取りは16万だ。薄汚い下町の四畳半に押し込まれ、持っているものといえば数年前に買った型落ちのゲーミングPCのみ。家に帰ってPUBGの有名配信者のストリームでも見ようか。いや。だめだ。数秒ごとにあらわれる何十ドルという寄付のマークが悔しくて見ていられない。海外は金があっていいよなあ。あれくらいのスキルならいまのおれでもやれるのに、どうしておれは英語が話せないんだろう。シュラウドはいいよなあ。金持ちの国に生まれて、e-Sportsがある国に生まれて、よかったなあ。みんな死ねばいいのに。
薄汚い下町の夜闇から恐怖の触手がしゅるしゅると伸びてきてあなたの顔に触れ、あなたは思った。死のう。あなたは近くの交通量の多い国道まで歩いてゆき、そこでザ・スミスのモリッシーのように10tトラックが走ってくるのを待った。待っているあいだ、ゼロ年代の美少女ゲームに登場した無数の美少女のイデアのような美少女があらわれてあなたの背中に抱きつき、「世界があなたを必要としているのよ!」という台詞を叫ぶ瞬間(CV.一色ヒカル)を妄想したが、それは妄想に過ぎなかった。
あなたと同じく、それどころかあなた以上に人権を剥奪されている10tトラックの運転手は、その日に運転をはじめてからすでに16時間が経過していた。運転手は半分居眠りをしながらハンドルを握っていたので、朝になってから発見した、バンパーにべっとりとついたあなたの血を、漁港でついた鮮魚の血だと勘違いできた。だから彼は罪の意識に悩むことなくこれからも生きていけるだろう。
その国道に監視カメラはなかった。だからあなたは静かに死ぬことができた。それはあなたの人生に許された最後の幸福だった。よかったなあ。めでたしめでたし。
ゲームオーバー